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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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139/511

最初の……――1

 街は騒然としていた。

 何か呪文のような言葉を口にしたり、奇妙なポーズをとっている者も多い。強制終了を試みているのだろう。当たり前の行動にも思えたが……成功する者はいないようだ。

 心配そうに話し合う姿も目立つ。

 誰もが不安なんだろう。話し合ったところで、何かの結論へ辿り着けそうもないが……気持ちは解る。

 その表情も様々だった。半笑いだったり、憮然としていたり……そして意外と目立つのが、怒りを露にしている者たちだ。

 感情的になったり、攻撃的になってしまうのは解らないでもない。しかし、それでも……誰かに当り散らすのは、褒められた態度じゃないとも思うが。


 目敏く俺達二人を発見した団員が、何組か近寄ってきた。

 直前に徹底した指示に従って、ちゃんと二人組以上で行動している。二人組だった方は情報部のメンバー、三人で固まっていたのは第二小隊所属のはずだ。顔に見覚えがある。

「何が起きているのか判る? タケル君?」

「いえ、全くです。俺も動き出したばかりで」

「ギルドメッセージも使えないし……シドウ隊長とも連絡取れないし……ここからは少佐の指揮に入れば良いかな?」

 不安そうな第二小隊のメンバーからは、困る質問をされた。

 その俺の横で情報部のメンバーとカイが、普段通りに情報の共有を始めている。

 とにかく状況を把握するつもりなんだろう。緊急時こそ、連絡を密にするべきだ。その判断に間違いはない。

 ただ、先に……俺は俺の方針を決めたかった。

 いや、この場で決めなければならないのか?

 本当に現状が『デスゲーム』であるとして……その前提で判断をするべき?

 正直、馬鹿馬鹿しい思いがある。

 はっきり言って、信じがたい。何といっても『デスゲーム』だ。あの荒唐無稽な遊戯に?

 頭のおかしくなった者は、自らを狂人と考えないそうだ。

 なら俺は既に狂っていて、なんでもないちょっとした不具合から……自分は『デスゲーム』に巻き込まれたと妄想しているんじゃないのか? そして、その前提で一歩でも動き出して……周囲に気が違っていると認識されるのだ。

 いや、自分が狂っているのかもと心配できるのだから、俺は正常なのか?

 しかし、本当に『デスゲーム』だったのなら、序盤での失策は文字通りの命取りだ。

 万が一にでも、そんな厄介事に遭遇しているのなら……現時点で打っておくべき手は無数にある。まだ誰もが動き出してない、この瞬間にしか出来ないこと。逆に誰かが対応してくることへの備え。他にも……俺では思いつかないような何か。

 それらは重要だからこそ、覚悟を決めて最悪の前提で動くべきか?

 間違いだとしても……俺が早とちりの慌て者なのが判明してお終いだ。面目は失うかもしれないが、それだけの話で済む。

 だが、そうするとしても……色々と決めなければならないことが多すぎる。

「……とりあえず、本部へ戻るべきだと思います。俺もそのつもりでしたし――」

 我ながら歯切れの悪い返事になってしまった。

 情報部の奴らと話しながらも、カイが不思議そうな顔で俺を見ている。……なんでだ?

 ただ、説明している時間も惜しい。

 とにかく、最初に確認したいことがある。その確認が済めば……確認が済む頃には、俺の中で方針も決まっているはずだ。

 しかし、そんな半端な決断をしたせいか、いきなりの問題に直面することとなった。


 まず人目を惹いたのは光だ。

 その光で大興奮することもあるし、心が冷えることもあるし……とにかく、このゲームに馴染んだ者なら、何度も目にする単なる演出の一つ。クリティカルを意味する光だ。

 クリティカルを起こしたプレイヤーは、ビックリして固まってしまっていた。

 手には何も武器を持っていない。ちょっとした口論か何かになっていたのだろう。手の甲で何かを払い除けたようなポーズになっていた。そして――

「わ、悪い……攻撃するつもりは無かったんだ。その……この前、『格闘術』のスキルを新しく覚えて……これ、プレイヤー攻撃になるんだな……」

「い、いや……ビックリしたけど……平気。いや、クリティカルで結構減ったけど――」

 などと、ピントのずれた会話をしている。

 思わず怒鳴りつけた。

「馬鹿! 早く街の外へ逃げろ! 衛兵が来るぞ!」

 声に出してから気がついた。普段ならこんなことに口を挟まない。おそらく傍観していたはずだ。

 ……心の奥底では、すでに最悪の前提だったのか。

「来たぞ! 早く逃げろ!」

 別のプレイヤーの声――同じように『この後に起きること』を連想してしまった者だろう――がした。

「助ける……か? とにかく壁でも作って――」

「手を出したら駄目だ! 手を出したら『共犯』になるぞ! こっちから衛兵に触るな!」

「か、回復魔法……回復魔法は平気なのか?」

「回復魔法はセーフだったか? でも……衛兵のダメージ速度に勝てるのか?」

 騒然としながら、なんとか対応しようとする最中……もの凄い速度で衛兵が駆け込んできている。目指しているのは先ほどクリティカルをだした――街中で他のプレイヤーを攻撃した『犯罪者』だ。

 その標的になった奴は……駄目だ。呆気にとられて呆然としている!

「は、早く逃げろ!」

「あ……う、うん……」

 殴った相手に促され、ようやくに動き出す始末だ。

 ……間に合うか? それに最悪だ。

「そっちじゃねぇ! 逆方向へ逃げろ!」

「えっ? こっちの方が外へは近いはず――」

 そうなんだが、そうじゃない。そちらへ逃げても上手くいかない。

 間抜けな返事へ、別のプレイヤーが答えた。

「いまの『RSS』の言った通りに! こっちからも衛兵が走ってきた!」

「へっ? あっ……」

 そこまでだった。

 衛兵二人に挟まれる形となったそいつは、衛兵の一方的な攻撃に晒される。居合わせた何人かの『僧侶』が必死に回復魔法で支えるが……焼け石に水でしかない。

 すぐに押し負け……そいつは死んだ。


 誰も何も言えなかった。

 ただ、静かにはなっていない。

 言葉にならない呟きのような、ざわめきのような微かな声がしている。かなり先の事態を推測しているのか、それとも空気に押し潰されたのか……泣き出してしまっている女性もいた。

 そして、当の本人の呻きだ。

 たまに聞く笑い話。起きたのはその類の話に過ぎない。良く理解せぬまま『格闘術』のスキルを習得し、リスクを知らないままに暴発させてしまう。

 失敗の代償はいま見た通り、衛兵によるPKだ。

 本人はともかく、見たり聞いたりした者にとっては笑い話でしかない。その本人にしても、教訓を元に『格闘術』のスイッチ設定をするはずだ。

 ……本来ならば。

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