表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/511

見えない戦い――5

「それは通らんやろ? いや……予定より高く落札するから、見逃せ。そう泣きついてるつもりなんか? 全く話にならんで?」

「そんなつもりはないな。これでも限度一杯……いや、限度を超えた譲歩案のつもりだ」

「……戦争になるぞ? それも誰一人として……少なくとも『自由の翼』と『RSS騎士団』には、なんの益もない大戦争に? 詰まらない意地を張って、お互いを滅ぼしあうつもりか?」

 ジンは真顔で諭すように答えたが……完全に標準語だった。

 やはり、関西弁は偽装か。普段は――リアルでは標準語を喋っているのだろう。その理由も推察できるが……キャラを作るというのも、ご苦労なことだ。

 そして奴もいま、瀬戸際一杯ということか? 似非関西弁を忘れるほどに?

「そうは思わないし、これは譲歩案だ」

「……ジョンスミスは納得しない。そちらも痛い思いをする。結局は開戦。それとも……第四回からは不参加ということか? 少なくとも談合はしない?」

 奴の緊張が良く理解できる。俺も同じだからだ。

 俺達二人が喧嘩したり、殴りあったりする程度なら、なんの躊躇いもない。お互いに闇討ちの計画を練るだけだ。

 しかし、武闘派ギルドの俺ですら、戦争には二の足を踏む。

 奴の立場だったら、絶対に容認できない。そもそも介入の理由からにして、戦争回避が目的だろう。

「いや、第四回も現状を維持する。入札価格を三十万とするか、二十五万のままにするかは検討してからだが……俺達の計画に変更は無い」

「……そうか。残念だ」

 諦め、無念、失望……そんなものが混じった返事だった。


「まあ、ケジメとしてジョンスミスには懲戒するけど……もうやらないと思うぜ」

「……べつにジョンドゥでも、ハンスシュミットだろうが、山田太郎なんかでも……それこそ、名無しの権兵衛だって良いんだぞ?」

 乾いた声で馬鹿にするように指摘された。

 なるほど。ジョンスミスは、誰かに作らせた捨てキャラということか。用が無くなればキャラクターの消去だって簡単だし、引退させることに何の意味も無さそうだ。

「ふむ……ジョンスミスじゃない方が都合良いか? まあ、細かいことはどうでもいい。とにかく、ジョンスミス君はもうやらないのさ。なんせ、大きな買い物をしちまったからな。入札妨害をして遊ぶ暇は無くなった」

「……詳しく聞きたいな。もしかしたら、それは俺の……わいの知っとるジョンスミス君かもしれへん」

 ジンは途中で気がついたのか苦笑して、自分の話し言葉を関西弁へ戻した。

 ……まあ、良いけどな。好きなように喋れば良いさ。

「お前の言ってた不動産屋さんだけどな。どうも……どこかのギルドへ物件を売却したらしいんだよ。まあ売却先は、俺達と仲良くできるギルドだったから、なんの文句も無いぜ?」

 『RSS』騎士団は現在、二つの区画を所有している。

 一つは第一回落札分で、そこには仮設の本部を建てた。もう一つは第二回落札分で、そちらは空き地として放置したままだ。

「しかし、悲しいかな……せっかくギルドホールを落札したのに、それが原因で喧嘩。空中分解しちまったらしい。まあ、よく聞く話だ。……おい、お前のところは友好ギルドだったんだろ? なんで仲裁してやらなかったんだ?」

 ジンはしばらく考えた後、面白そうに答える。

「ああ、わいは名前も知らんギルドやけど……前々から懇意にしてもらっとったで。あそこが喧嘩別れをしたのは、残念なことやった。……で、ええのか?」

「それで良いんじゃねえのか? 俺が段取りするギルドでもねえしよ。で、困ったのがギルドホールだ。急いで処分することになった。ギルドホールは分割できないものな?」

「わいも泣きつかれたら助けるやろうな。資金をかき集めて、買い取ってやることもあるやろ」

 そう言いながらも、不思議そうな顔で俺を観察していた。

 無視して世間話を続ける。

「俺達『RSS騎士団』はカンカンだ。しかし、大っぴらにどうこうもな。いわゆる善意の第三者に因縁をつけたら、さすがに世論を味方にできない。政治的判断で不問に処す。そんなところになるな」


 しばらくお互いに無言となった。

 そしてジンが疑わしそうに問い質す。

「ええんか、それで?」

「良いも何も……不動産屋がやっちまったことだしな。それに奴も、考え直すことにしたらしいぜ? 気に入らない相手にも、我慢して売ることにして……凄く気に入らない相手にだけは、いままで通りに売らないらしい。まあ、少し妥協だな」

「なるほど。まあ……『凄く』気に入られへんのは……相手にも問題はあるやろ。はっちゃけ過ぎの奴は、誰でも不愉快に感じるもんや」

 そう、ジンは納得するが……もちろん、こんなのは詭弁でしかない。

 全ては薄汚い誤魔化しだ。これで騙される者もいるだろうが……各ギルドで運営を任されるような奴らなら、簡単に裏の事情まで察するに違いない。

 そして重大な裏切り行為だ。

 仮想敵である『自由の翼』へ、ギルドホールを売却する。どんな理由があろうとも、これが背信にならない訳がない。

 例え世界大戦になろうとも、それで負けようとも……名誉と誇りを胸に、清廉潔白と進む。

 それが正しい選択なのだと思う。結果、滅んだとしても……胸を張っていられる。また、メンバーのみんなには、そうあって欲しい。

 だが、それでもなお、ギルドを滅亡させたくなかった。

 その為に敵と握手することになろうと……それこそジンの野郎と抱き合うことになろうと。この程度でギルドが助かるのなら、何度やったっていい。……いつか俺が、背信者として処分されようともだ。


 やや弛緩した空気の中、陰謀――これは最早、その類だろう――は続いた。

「ところで……ギルドホールは一区画で良いのか? 買い増しするたびに仕掛けられるんじゃ、さすがに対応を変えるぜ?」

 何の気なしに言ったのだが、酷く気分を害したらしい。不機嫌そうな顔をしている。

「あのなぁー……うちとこは、あんさんとことは違うねん。そんな何区画も買う余裕、あるわけないやろ!」

 もの凄い剣幕で怒られた。

 しかし、これは俺が、やや意地悪か?

 普通のギルドは運営予算が厳しすぎる。いわばカンパだけで成り立つ資本主義国家のようなものだ。

 対するに俺達は社会主義か共産主義……いや、もっと極端にいえば、軍国主義にも等しい。

 奴が自由に使える予算など、俺と比べたら可哀そうなほどだろう。

 今回の作戦に金貨二十数万を用意したらしいが……それは半分以上が、奴と奴に親しい者の私財ではなかろうか?

「そうかぁ……それでギルドホール一区画に四十万は大変だろうなぁ」

 俺にしては珍しく、心底同情して言ったのだが――

「ちょ、ちょっと待て! な、なんで四十万なんだ!」

 なぜか狼狽したジンに遮られた。

「なんでって……本来の予定じゃ、今回分は二十万だっただろ? それが二十五万になるんだから……増加分の五万かける三で十五万。同じく、ギルドホール一区画の相場も二十五万に上がる。それを合計すれば四十万だろうが?」

「なっ……それはっ……だ、だいたい、なんでタケルが『不落』の分まで請求するんだ! おかしいだろ!」

「……おかしくもなんともないぜ? この一件は俺がまとめるから、しばらく静かにしてろ。代わりに俺が、差額分の五万を持つと言ったしな。話の流れ的に……そっちで持つのが当然だろ? お前はいくらと考えてたんだよ?」

「い、いまジョンスミス君が二十一万で指しているんだから……二十一万だ!」

 しかし、さすがに強引と感じたのか、そっぽを向いて誤魔化している。

 ……あれ? もしかして……俺は初めて奴に勝っているのか?

「いやいや……その理屈はおかしいだろ。相場を跳ね上げたのはお前自身だぜ? それに『不落』との話を取り下げても良いけど……その場合は、お前自身で交渉を――なんだ?」

 なぜかハチにマントを引っ張られた。

 ……まずいな。『RSS騎士団』団員として、俺の背信行為を看過できない。そういうことだろうか?

 だとしたら……俺には一言も返す言葉がない。

「隊長……値段交渉は俺が。現金四十万は無理でしょうが……それ相応の対価を引き出して見せますよ。代わってください」

 ……糾弾したいわけでも無さそうだ。

 しかし、その表情は艶々している。もの凄く楽しそうだ。値段交渉なんて、そんなに楽しいものか?

 ……まあ、べつに良いか。俺とジンの個別メッセージへ、ハチの奴を招く。

「……だ、誰や、こいつ?」

「お初にお目に掛かります。『RSS騎士団』所属、八郎兵衛と申します。ギルドでは財務担当をさせていただいておりますので、ここからは私がお相手を」

「はあ? いつものメガネやないんか? しかも、八郎兵衛? あの八郎兵衛かいな!」

 なぜかハチの名前に驚いている。

 誰か有名人の名前だったのか? それとも商売方面で……凄腕と噂されている?

「あー……こいつはうちの金庫番だ。こいつが納得するなら、俺に不満はない。べつに良いよな? 同じことなんだし」

「まあまあ、誰が相手でも良いじゃないですか。いわゆる実務者協議ってやつです。……そちらに実務担当がいらっしゃるのなら、そちらの方でも?」

「わ、わいが実務者を兼ねとる。……って、ずるいで! タケルはずるいやろ! いつもメガネがうろちょろしとる上に、他にも同じ様なのがおるんかい!」

 良く判らない文句を言われたが、少しお門違いだと思う。

「いや、手が足りないのなら、お前も人手を増やせば良いだろ? 似たような規模のギルドなんだしよ?」

 そう言いながら「最低ライン金貨二十五万。あとは任せる」と紙に書いて、ハチへ見せておく。

 ハチは微かに肯き、仕事を始めた。

「さあ、ジンさん! 交渉を始めましょう! 私、楽しみにしていたんですよ! ……大丈夫です。現金で四十万をお持ちでなくとも、私共は信用取引も扱っております。ご心配なさらずに――」

「い、嫌や! こいつ、メガネより性質が悪そうやないか! チェンジ! チェンジや!」

 ジンの悲鳴を聞き流しながら、俺は満足しようと頑張っていた。

 この選択はベストじゃない。ベターでもないだろう。

 しかし、最悪ではない。色々な不都合を抱えて進むことになるが……なんとかなるはずだ。そう思うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ