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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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綻び――2

 『RSS騎士団』と『モホーク』が共謀して、先に攻撃してきた。一貫して秋桜とリリーは主張している。

 それを裏付ける証拠として、一つの動画――スクリーンムービーが提示されていた。

 これでは疑いよう無い事実。そう考えるしかない。きちんとした手順のSMやSS――スクリーンショットの場合、偽造は不可能だからだ。


 旧世代のMMO……まだVR技術が導入される前の時代、SSの類に信用はなかった。

 偽造や加工が容易だったからだ。SSを証拠などに提出されても、運営ですら全く認めなかったらしい。

 例えばプレイヤーが一枚のSSを撮影したとする。

 普通は本人のパソコンへ移動させ、あとは好きなように使う。これで記念写真や日常の記録程度なら用は足りる。

 しかし、何かの告発などの場では問題があった。

 マスターデーターが個人の手元にしかないのでは、信憑性は灰色になってしまう。

 インターネット上では、このような問題が常について回る。

 いまですらSSの改変は容易だ。俺のような素人でも、思うがままに手を加えられる。写真の修正と大差はない。それが動画の形であっても、少し難しくなるだけだ。

 それに意外とMMOでは、告発の機会も多い。他プレイヤーの不正行為、バグレポート、耳を疑うような情報、プレイヤー間での争い……色々な場面でSSやSMが証拠として使われた。

 しかし、その証拠に信頼性が欠けていたら?

 「それは加工・偽造されたものである」と否定できてしまう。そこからは水掛け論だ。誰かしら不利益を被る者がいるのだから、ある意味で定番の言い争いだろう。

 そこで抜本的な解決策が導入された。

 全てのSSやSMを、公式の保管サーバー経由でやり取り可能にするシステムだ。

 マスターデーターを公式の保管サーバーに入れた場合――正式な手順を踏んだ場合は、証拠として完全なものになる。それを改変するには、数段上の技術力――公式をクラッキングする技術力が必要だ。

 告発者は証拠を疑われても、「保管サーバーにマスターデーターがある」と言えば済むようになった。それで疑っている相手は、教えられた番号のSSなりSMを確認する。

 ずいぶん前に確立したシステムらしい。なんでも技術革新で、情報の保管が容易くなったのが理由だとか。

 ……そういえば曾じいさんの若い頃は、記憶媒体の標準単位が(ギガ)だったらしい。ちょっと信じられない話だ。その時代なら動画の保管どころか、静止画の保管でも相当な負担になっただろう。

 とにかく、提示された証拠は信用のできる、正式な手順を踏んでいた。


 そのSMは偶然撮影されたものだ。

 ほとんど説明はされなかったので、最初は番号を間違えたかと思ったぐらい無関係に思えた。

 しかし、そんなはずがない。パスワードが偶々一致するなんて、ほぼあり得ないことだ。そう思い直して見続けたが、それぐらい日常的なSMだった。

 一人の女性がバストアップで映っている。

 緊張しているのか、僅かに紅潮していた。ちょっと恥ずかしい気持ちと興奮、それと少しの緊張。そんな感じだろうか?

 その女性が自己紹介を始める。背景はどこかの森――色々な事実関係から推理すると、おそらく『ゴブリンの森』――だ。

 ……意味が判らない。

 女性は一生懸命に自己紹介をしている。プロフィールだとかも開示して、自分を理解してもらおうと頑張っていた。

 しかし、思わずいつもの様に、リモコンで早送りしようとしてしまったぐらい馴染みのある感じ。リア充の生態調査に利用した、ちょっとジャンルは言い辛い映像作品の冒頭にそっくりだ。

 ……秋桜とリリーは理解してやってんのか? それとも天然なのか?

 ただ、見続けていたら、撮影の目的も理解できた。

 どうやら女性は新しくギルドに――『不落の砦』に加入したメンバーらしい。

 そして撮影当日は、加入を祝うギルドハントの最中。その休憩中の一コマといったところか?

 そしておそらく、このSMは当日参加しなかったメンバーに向けてのもので、新人が全員に向けて挨拶している。そんな意図なんだろう。

 ……まあ、ギルドごとに色々な方針がある。

 それに背景で映りこむ他のメンバーは、撮影されてる新人を冷やかしたりしているが……なかなかにアットホームな感じだ。楽しそうにしている。

 俺からは狂犬の群れとしか思えない『不落の砦』も、身内だけになればゲームを満喫していたらしい。当たり前か。

 ……少し、男が見てはいけない部類の……女子会とかいうのを覗き見というか……女子校の放課後に潜入というか……その手の背徳的な感じがしたのは内緒にしておこう。たぶん、色々と文句を言われる。それも長期に渡って。


 その和やかな雰囲気をぶち壊すように、襲撃は起きた。

 雄たけびと共に何人もの男達が、突撃を仕掛ける。

 戦争で証明したように、『不落の砦』のメンバーも弱兵ではないが……奇襲されれば後れを取ってしまう。何人かは成す術もなく地に伏せられる。

 ……確かにリリーが言った通りに、宣戦布告はされなかった。

 べつに国際法遵守の義務は無いから、奇襲攻撃だって認められている。

 しかし、戦争――それも長期に渡る大戦争ともなれば、あまりよろしくない。長期化すれば、いずれは世論をも巻き込むことになる。宣戦布告をしなかったのは、勝っても負けても後に引く。

 そして先陣を切っていた奴らが大問題だ。

 『RSS騎士団』の鎧を装備している。その数人が『モホーク』と仲良く、それも先頭に立って突撃していた。

 襲撃を受けた『不落の砦』も、すぐに立ち直って迎撃を始める。さすがだ。

 「皆、固まれ! 後衛を守れ!」だとか「ギルマスに援軍要請!」などと指示も飛び交い、一気に戦闘用へ頭が切り替わっていく。

 ……数分前まで和やかな女の子らしい雰囲気だったのが、嘘みたいだ。

 SMの撮影者の方も、撮影対象を変更する。

 次々と襲撃者が映し出された。もちろん、一人毎にプレイヤーネームと所属ギルドを浮き上がらせている。

 これは確認用だ。

 相手の身元を割る。鉄則にも近い対応といえた。見習いたいくらいに、緊急時の対応が確りと身に着いている。

 もちろん、襲撃に混ざっていた『RSS騎士団』装備の奴も、確認を取られていた。

 撮影者がフレームに入れ、すぐにネームとギルドを浮かび上がらせる。名前には覚えがない。

 しかし、所属ギルドとして『RSS騎士団』の名前が浮かび上がる!

 ……確定だ。言い逃れのしようもない。誤解の余地もなかった。

 『RSS騎士団』と『モホーク』は共謀して、『不落の砦』へ襲撃をかけた。それも宣戦布告もなしに。それが事実ということだ。

 SMの撮影者が死ぬまでに、少なくとも三人の『RSS騎士団』所属が確認された。

 所属ギルドを誤魔化したり、保管サーバーの動画を加工する方法は無い。

 ……いや、あるのか?

 その可能性は高い。しかし、あるとしても、いまは判明していない。

 そしてさらに問題なのが……俺達の中で誰一人として、その三人を知らないことだった。

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