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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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イベント――23

「おっ? おっ? 『1』はあっちみたいだお」

「『1』がいるぞ、殺せ!」

 『あの掲示板』住人の一部が、そう叫びながらモヒカンに殺到する。

 ……『1』?

 それはインターネット掲示板などで、話題の提案者を指す言葉だ。『あの掲示板』でモヒカンか息の掛かった誰かが、工作をしていた。そういうことか?

 その方が納得できる。この災厄が『隕石の命中』と考えるより――いや、当たったのが『隕石』だったとしても――誰かが狙って投げつけたとみる方が……説得力があった。

「ちょっ! まっ! 俺から狙うのかよ! もう少しパーティを楽しませろよ!」

「野郎ども! お頭を守れ!」

 『モホーク』は受けて立つようだが……まあ、その内に壊滅するだろう。俺達より長く戦場に残ってられまい。

 だが、べつにそれで構わないのだと思う。


 まず『モホーク』にとって、この戦いは……勝とうが負けようが、全く問題ない。

 それどころか勝敗には、これっぽっちも関心が無かっただろう。

 これは読みだとか推理だとかではなく前提、それも単なる事実に過ぎない。あいつらはそういうギルドだし、見合ったプレイヤーが集まっている。

 自由気ままに世紀末を楽しむ。それが奴らの目的だ。

 戦争に勝てる戦力、最強の称号、ギルドレベルでの権勢……そういったものには全く頓着しないだろう。

 そりゃ、勝てば嬉しいだろうが、それだけのこと。負けたところで大して悔しいとも思わないだろうし、ギルドとして失う何かも無いはずだ。

 俺達『RSS騎士団』や『不落の砦』にとって、戦争や抗争は必勝が義務だが……奴らにとっては違う。そうじゃない。

 同じ戦場にいるから、こちらと同じ様に奴らも考える。そう思った時点で……最初から舵を切り間違えていたのだ。


 その勝敗に価値を見出さない奴らが、一生懸命に『戦争』を粘り強く頑張った。

 本来ならそれだけでも、怪しさを察知するべきだ。

 いや、戦争用区画に俺達がいたから、襲撃してみた。

 そういった……もっと単純なニュアンスだったら納得できる。気まぐれに襲い掛かり、飽きたら放り投げてしまう。いかにもやりそうなことだ。

 しかし、『戦争』はおかしい。

 それも丹念に準備をして『戦争』を仕掛けるのは、奴らのスタイルから外れている。それは俺達のような……真剣に勝ちにいっている人間の手法だ。

 事前に色々と仕込んだのも間違いない。まだ残っているいくつもの疑問点が、計画性を暗示している。つまり――

 これは綿密に企てられていて……それでいながら、勝利以外の目的があった。

 としか考えようがない。


 それは今になれば一目瞭然で、戦争を――この馬鹿騒ぎを起こすことか。

 違う価値観で見ればモヒカンのやったこと――『モホーク』の成し遂げたことは、凄いの一言だ。

 この世界の全住人を巻き込んだ……は言い過ぎとしても、『RSS騎士団』に『不落の砦』、『聖喪女修道院』を巻き込んでの大戦争を引き起こした。これだけでも驚異的な行動力だ。

 それに華を添えるようにGMまで光臨し……あろうことかイベントとして相乗りまでさせた。こうなると、主要なギルドやプレイヤーの参戦すら考えられる。

 もう伝説レベルの偉大な戦果だ。俺も当事者でなければ、惜しみない賞賛を送ったことだろう。


 また、モヒカンの意外な統率力にも裏をかかれたが……『モホーク』のメンバーにも騙されていた。

 奴らは一見すると、脳みそまで世紀末だ。

 そう見えるように頑張った外見をしているのだから、その感想はべつにいい。だが、中身は俺たちと同じで、どこにでもいる現代日本人だ。

 「ヒャハァーッ!」と叫ぶことに全てを捧げているかのようだが……知能は普通にある。脳みそまで世紀末じゃない。それどころか、俺より賢い者も多いくらいだろう。

 それがモヒカンの指揮の元、目的に向かって一致団結。

 ……侮る理由がどこにあったんだ?

 いまになれば『モホーク』が漫然と続けていた消耗戦だって、全て筋が通っていたのが判る。

 まず率先して戦い続けることで、戦争の熱を冷まさない。

 そして自殺行為にも似た消耗戦と見せかけて、こちらの動きをコントロールしていた。早期決着の選択肢から遠ざけつつ、貴重な時間を稼ぎ続けられる。

 狙いは戦争状態のまま主賓――『あの掲示板』住人の到着まで粘るなのだから……練りきられていた。

 ……奴らの方がよっぽど、目的意識が高かったんじゃないか?


 空を見上げる。

 この世界ではまだ昼下がり、夕暮れまでは少し時間があるか?

 青い空……誰もがその言葉で思い浮かぶような、それでいて現実では見たこともない綺麗な青が広がっている。

 ……負けた。

 この戦いは負けだ。染みるように、そう思った。

 『RSS騎士団』は勝てたはずだ。最初に読みきって……相手をせずに撤退すれば、それだけで勝利だった。

 負けたのは俺。そして『RSS騎士団』の負けは、俺の責任だろう。


「撤退する。準備を始めるぞ。いまから説明する」

「……よろしいので? まだグーカを補給に充てれば――」

「いや、無理は止そう。すぐに次の戦いになる。その為に、リソースは可能な限り残してやりたい」

 ここでの負けは認めよう。

 しかし、すぐに次の戦いが始まるのだ。

 その総指揮官が誰なのか判らないが……残せる限りの戦力と優勢を引き継ぐ必要がある。

「切り詰めればなんとかなりますよ! あいつらは……どうせ飽きっぽいんです! 少し耐えていれば、勝手に居なくなります!」

 そうカイは反対するが……正しい見解でもある。

 いまある消耗品を切り詰めれば、『あの掲示板』住民を退けるところまではいける。それで犠牲もでるだろうが……できなくはない。

 すでに『あの掲示板』住人にも壁へ取り付かれていたが、それほどの強さではなかった。戦闘力では劣っていた『モホーク』よりも、さらに一段階は弱い。

 ……消耗品(たま)さえあれば、こんな奴らに負けないものを!

 いや、補給も含めてが戦いと言うものか。補給を最優先にしなかった俺が甘い。

「それは駄目だな。戦況はさらに悪化する。あいつらを凌ぐだけじゃ終わらない。境界線の外へ出て全兵力を再集結、そこで補給もする」

 無理に『あの掲示板』住人を追い払っても、それこそ性も根も尽き果てるだろう。その時に補給の当てが無ければ……最悪の結末、戦場での本陣壊滅をすることになる。

「でも、撤退では……」

 撤退では負けと同意義と言いたいのだろう。

 ……ギルドを負けに導いた無能指揮官に、気遣わなくても良いものを。

「残念だが、いまは議論している時間も惜しい。急がないと――」


「おおっと! また新勢力です! えっーと……五番目ですか? 新たな勢力が参戦してきました!」

「これは……どこのギルドっすかね? どこかは判りませんが……きちんと陣形を組んで、タケルさんの――『RSS』の本陣に突撃、かな?」


 実況と解説の『大声』で、俺の言葉は中断された。

 ……間に合わなかったか。

「あ、新手? ど、どうして?」

 カイは驚いているが、これは予想の範疇だ。

 戦いはGM公認のイベントと化している。もう、どこかのギルドや戦争チームが参加してきてもおかしくなかった。さらに戦場は激化していく。

 カイから『長視界』スキル入りの眼鏡を、奪い取るようにして受け取る。

 アクセサリー装備の変更をするのも、じれったく感じた。あれが影響力のあるギルドだったら、外交的手段でなんとかするのだ。とにかく、本陣壊滅だけは阻止せねば。

 新手は速度こそ無いものの、なかなかの突進力はあった。しかし、この分なら俺達には届かないか、届いても対処できるか?

 そんな感想を持ちながら観察を続けていたら……色々なことが理解できてしまった。

 どこの勢力なのか、なんで遅いのかもだ。全く、この戦争は予想外のことしか起きない。

「場合によっては……このゲームから引退もあるな」

 思わず、そんな言葉が漏れた。

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