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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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イベント――22

「あの真ん中の人! 少し背の低い……あのGMさん、ゲームデザイナーさんなんですよ! この前、たまたま遭遇して、少し話してくれたんっす!」

「えっ! 本当ですか? そ、それは凄い……」

 リルフィーは亜梨子を相手に自慢話を始めていた。

 ……あいつ、自分が解説に呼ばれた自覚あるのか?

 しかし、GMとの遭遇を自慢、それも世間話しただけで手柄顔だが……それほどズレた感覚でもない。

 βテストの頃は珍しくも無かったが、正式サービスが開始してからはレアといえる。大問題発生時でもなければ、目撃すら出来ない。初めてGMを見たプレイヤーもいるだろう。ゲームシステムによっては、ちょっとした芸能人のような扱いも珍しくない。


 この目撃例すら稀なのは、おそろしく単純な理由で……プレイヤーに対してGMの数が足りないからだ。それも圧倒的に。

 軌道に乗ったMMOのプレイヤー人口は、十万人単位となる。この『セクロスのできるVRMMO』でも、いずれは届きそうな成長ペースだ。

 その十万人のプレイヤーに対して、常駐しているGMは一人しかいない。

 これは解析チームの調査、『教授』の読み、実現性からの逆算で、ほぼ判明していた。

 ……GMがどの程度の監視をしているかの情報は、色々と役に立つ瞬間がある。GMの常駐人数まで調べたのは、決して『GM監視パラノイア』に陥ったわけじゃない。

 ちなみに『GM監視パラノイア』とは……自分もしくは自分達が運営に要注意人物としてマークされていると、思い悩んでしまうプレイヤーのことだ。決して笑い話じゃないし、運悪く『GM監視パラノイア』に陥った者は……異常な説得力を持っていることが多い。

 まあ、自分達を狙い撃ちにしたようなシステム変更があったり、規約の追加条項が増えたりすると……タイミングによっては監視を疑うこともある。

 だが、大丈夫だ。

 GMはそんなに暇じゃないと団員の皆も言うし、色々な調査報告も届けてくれた。『教授』だって、そんなことはあり得ないと断言している。だから、俺や『RSS騎士団』が監視されているなんて、根拠の無い妄想に過ぎなかったのだ。

 とにかく、この世界に常駐しているGMは一人だ。複数人いた場合、それは暇な社員がGMとして仕事をしているか、なにか大問題が発生しているときに限る。

 例えば、いま起きている……この戦場での大騒ぎだとか。


「日頃より弊社ゲームをご愛顧いただき、真にありがとうございます。本日はプレイヤー様たちによるイベントを、ご実施されてらっしゃるようですが――」

 リルフィーの発言で注目を集めてしまったと感じたのか、GMの一人が公式メッセージを流し始めた。

 ……野次馬達がざわめいていたのも、リルフィーと同じようにGMを発見していただけか?

 発言もタイミングを見計らっていたのだろう。そうでなければ姿を見せる理由が無い。

 一人は専門的にGMを担当、もう一人はリルフィーが言ったようにゲームデザイナー、話しているGMは……会社の偉い人か? そんな印象を与える三人組だった。


 これでGMの介入は確実だ。

 こんな馬鹿騒ぎをいつまでも続けさせるわけが無かった。一箇所にこれほどまでの人数が集中したら、技術的な不都合だって発生するかもしれない。

 相手は指を鳴らすだけでプレイヤーをログアウトさせられる。プレイヤーに不満があろうと無かろうと……GMが止める気になれば、造作もないことだ。

 まあ、俺達は後で――

「GMの裁定だし……仕方がないよなー。あそこで介入が無ければなー。もう、ほとんど勝ったも同然だったのになー」

 とでも悔しがればいいだけだ。

 いま俺達が敗北の瀬戸際にあることなんて、どさくさに紛れて葬り去ってしまえばいい。GMの介入で、いわば無効試合の(ノーコンテスト)ドロー……それで十分だ。負けたり逃げたりするより、遥かに良い結末だろう。

 思わず笑みがこぼれそうになる。

 駄目だ! まだ笑ったらいけない! 俺はGMの言葉を『苦々しい思い』で聞かなくては!


「ただいまの時刻を持ちまして……復旧費用半額のイベントを開催いたします。ただいまより二十四時間、二十四時間に限定した臨時イベントです! お間違えなきようお願いします! また、プレイヤーイベントでMVPだったギルドもしくは個人に対して、運営より粗品の贈呈を――」


 ……意味が解らない。

 どういうことだ?

 復旧費用半額――つまり死亡ペナルティを金貨で支払うなら、運営が半額を奢る?

 それは……死ぬなら半額だから、遠慮なく死ね?

 MVP――モースト・バリュアブル・プレーヤーのことか?

 なにそれ? 選考基準は?

 いや、いや、いや……ちょっと待て。色々とおかしいだろ!

「何をやっているんだか判らないが、大いに結構。もっとやりたまえ。頑張れ。応援する」

 そういうことか?

 仮にもプロのゲーム会社が、素人のイベントに相乗りするつもりなのか?

 いや、そもそも……この馬鹿騒ぎはプレイヤーイベントなんかじゃなく、ただの喧嘩だぞ!

 眩暈がしてきそうだ。

 開戦からこっち、振り回されっぱなしだったが……基本的に何一つ好転していない。

 GMのアナウンスが終わり、野次馬達は大喜びだったし、実況と解説も大忙しでなにかを喋っている。しかし、それらは全く耳に入らなかった。

 どうしよう?

 事態は悪化の極みと思っていたが、まだまだ底じゃなかったらしい。

 そして俺達はピンチで、いますぐに選択する必要がある。

 今日は厄日なのか?

 真面目にイベント対策で演習しようとしたら、ギルドの屋台骨を揺るがす大事件に遭遇だ。こんなの絶対おかしいぞ!


 唇をかみ締めていた俺を、モヒカンの甲高い『大声』が注意を惹いた。

「ヒャハァーッ! 神さまのお墨付きが出たぜぇ! ヒャハァーッ!」

「ヒャハァーッ!」

 唱和する『モホーク』達の声が……なぜか楽しげなのが不愉快だ。

 戦争用区域のど真ん中、そこにモヒカンは立って叫んでいる。

「パーティ! 今日はパーティなんだぜ! 遅れた主賓もやってきた! 神さまだって光臨だぁ!」

 「神さま」と呼ぶのは、GMのことだろう。GMの役割が世界の運用と維持なことから、神と例える者もいる。

 しかし、主賓? 主賓とは誰だ?

「本番はこれからだぁ! みんな踊れ! この血みどろの馬鹿騒ぎを楽しもうぜぇ! 俺様からのプレゼントだぁ、ヒャハァーッ!」

「ヒャハァーッ!」

 『モホーク』達がいっせいに続く。それは……やり遂げた者の満足感がにじみ出ていた。


 一瞬、ポカンとしてしまったが……すぐに頭の中を色々な言葉が駆け巡る。

 これは奴の……モヒカンの勝利宣言だ!

 ……最悪の読み間違え。屈辱をかみ締める。

 騙された! いや、違う!

 俺は勝手に騙された! 完全に失策、大ボーンヘッドだ!

 最初から何度もおかしいと感じたし、違和感も覚えていた。

 大鉄則……全てのプレイヤーが同じ価値観ではないこと。それを俺は失念していた。

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