表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/511

イベント――20

 頭の中が真っ白になって、何も考えられない。

 呆然としたまま、突入してきた奴らを眺める。

 凄い人数だ。戦場の三勢力を合計した人数より、あきらかに多い。どう見積もっても三桁の大台にのっている。

 装備などはバラバラだったし、何一つ共通点は見い出せない。

 いや、一様に「掲示板からきますた!」と繰り返しているか。もの凄く楽しそうにしているのも、ちょっと不愉快だ。

 暴動に巻き込まれた者は、この様な光景を目にするのか? 悪い夢でも見ている気分だったし、後日、この光景を夢見てうなされそうだ。

 そして、こいつらは戦闘も仕掛けてきている。

 広く散開していた『モホーク』は真っ先に飲み込まれ、大乱戦に突入しているし……運悪く孤立していたヤマモトさんの隊も同様だ。

 境界線近くに陣取っていた『不落』『聖喪』同盟に至っては、すでに本陣を攻撃され始めている。

 俺達の本陣だって、境界線から距離があったに過ぎない。その証拠に奴らの一部は、こちらを目指して突撃の真っ最中だ。

 敵か味方かで言えば、明らかに敵。それも戦場にいる全勢力と戦うつもりらしい。

 どこの勢力だ? こんな無謀な軍事行動をするのは!

 俺の知る限り、この世界の最大勢力は『自由の翼』か『RSS騎士団』だ。しかし、この新手は、その二つを合わせたものより規模が大きい。

 世界最大級の謎な勢力が、ある日突然に攻めてきました?

 そんな馬鹿な!

 それが起きても良いのは、漫画かアニメだけだ。そんな大勢力を、事前に察知すらできないぼんくら揃いの世界。そこでしか発生しない。まだ敵は宇宙人か異世界人と言われた方が納得できる。

 いや、違う!

 この勢力は最初から、自分達が何者なのか名乗っている。謎なんかじゃない。自分達は掲示板からきたと……それはつまり、こいつらは――

 『あの掲示板』の住人と言うことか?


 『あの掲示板』とは、それだけで通じてしまうほど有名ではある。

 しかし、有名とはいえ、よくあるインターネット掲示板――何かのジャンルやテーマについて、好き勝手に意見交換するアレだ――の一つに過ぎない。

 特にジャンルやテーマを定めず、どんな話題でも取り上げるのが、『あの掲示板』の特徴といえば特徴か。

 ここまで聞いただけだと、どこにでもある普通の掲示板に思えるだろうが……それは違う。全くの勘違いをしてしまっている。

 『あの掲示板』を利用する者達――住人に、代々受け継がれる気質が普通じゃない。

 よく言えば、好奇心旺盛で活発。悪く言えば、物見高くて悪乗りが過ぎる。

 なんと説明すればいいのか……一例で紹介してみよう。

 ある日、もやしを買おうとしたら売り切れていた。あの料理に使うもやしだ。

 仕方がないので別の店へ買いに行く。しかし、そこでも品切れになっている。

 不思議なこともあるものだと、三軒目に行くと……やはり売り切れだ。

 そんなことがあったら、それは偶然ではない。高確率で『あの掲示板』が裏で糸を引いている!

 おそらく『あの掲示板』の住人がこう言ったのだ。

「久しぶりに、もやしでも買い占めてやろうぜ」

 何を言っているのか解らないと思う。俺にも理解不能だ。

 なぜ、もやしなのか? もやしを買い占めて何になるのか? そして、その提案に意義があるのか?

 普通なら疑問は尽きないことと思う。だが――

「いいね!」

「やろう、やろう!」

 と賛同するのが『あの掲示板』の住人たちだ。

 もちろん口先だけでなく、実際に買占めを行う。それも全国規模でだ!

 ただ行うだけでなく、決起?の時間を合わせたり、襲撃?する店が被らないように連絡を密にしたり、成果を報告したり……無駄に芸が細かく、行動力がありすぎる!


 そんな『あの掲示板』とその住人達だが、攻めてきたのと話が結びつかない……そう考えるのは早計だ。

 MMOと『あの掲示板』は、ある因縁というか……風習というか……とある関係性を持っている。それもMMOがVR技術を利用し、VRMMOになる前の時代からだ。

 新しいタイトルのMMOが開始されると、『あの掲示板』でお決まりの提案がなされる。

「住人で乗り込んでいって遊ぼうぜ! ギルドも作っちまおう!」

 こんなのは、もう定番過ぎるくらいだ。もちろん、このゲームの時も例に倣った。

 そもそも『セクロスのできるVRMMO』という通称からがして、名付け親は『あの掲示板』の住人だ。当然、この世界にも『あの掲示板』発祥のギルドは設立されたし、規模は小さいが活動も続けている。

 こんな風に、MMOは最初から『あの掲示板』と縁を持つ。

 稀に『あの掲示板』ギルドが、最大手に発展することだってある。……相当に世界観は歪んで、違う意味で面白いゲームに仕上がってしまうらしいが。

 さらに恐ろしいことに……『あの掲示板』の住人が注目するのは、新規タイトル発表とサービス開始時だけではない。

 大規模アップデート時はもちろんのこと、面白そうなイベントなども格好の的となる。

 例えば――

「『セクロスのできるVRMMO』で戦争実装だってよ! 俺らでチームを設立して、あの世界の奴ら泣かしてやろうぜ!」

 なんて呼びかけがあっても、不思議じゃない。むしろ納得だ。

 すでにプレイヤー間で社会が成立しているゲームの場合、この手の『あの掲示板』からの介入が、大騒動へと発展することがあった。……いま目の前で、実際に起きているようにだ。

 この『あの掲示板』住人による大襲撃だって――

「いま『セクロスのできるVRMMO』で大きな祭り! みんな乗り込め!」

 などと煽った奴がいたのだろう。……間違いないはずだ。賭けてもいいぐらいの自信がある。


 ある意味で爆弾のような集団だが、だからといって監視は馬鹿らしい。

 誰だって「道を歩いていたら隕石に当たるかも」と心配しないだろう。その為の対策もだ。

 そのくらい『あの掲示板』の住人は気まぐれすぎて、当てにならない。

 例として示した『もやし買占めの提案』だって――

「お前、馬鹿じゃないの?」

「これだから新参は……」

「まずは半年ロムろうな?」

 などと、冷たくあしらわれることもある。常に同じ反応をしない。まるで読めないし、コントロールも不能だ。

 だが、一旦行動に移ると……異常な熱意で取り組んでくる。

 もう最凶最悪の相手だ。

 しかもターゲットが自分の遊んでいるゲーム、さらに自分が当事者、そのうえ責任者の一人、ダメ押しに最悪のタイミング。

 ……これが『隕石の命中』でなかったら、なにがそう言えるんだ?

 もう何もかもを放り投げて、ふて寝でもしたい気分になった。そうしたところで、俺を責める者はいないはずだ。


 だが、そんな無責任なことは……両手を挙げて降参するようなことはできなかった。

「『魔法使い』部隊! 弓部隊! どちらも射程ギリギリから遠距離攻撃を開始しろ! 火点は合わせなくて良い! ばら撒くんだ! 相手は低レベルの方が多い! ばら撒きゃ()れる! 俺とグーカの隊も、遠距離攻撃に参加しろ!」

 押し寄せる『あの掲示板』住人の半分以上が、普段は一般プレイヤーとして遊んでいる者だろう。そいつらの強さは判らない。しかし、キャラクターを作り終えたばかり程度の奴も混じっているはずだ。

 まずは弱い奴を篩いにかけて、数を減らさねば!

 俺と同じように呆然としていた団員達も、弾かれたように動き出す。

 練度も強さも俺達の方が上だ。さらに防御陣形も敷いている。そう簡単にはやられはしない。

 だが、深刻な表情をしたカイが近寄ってきて、小声で告げる。

「隊長……まずいです。このままだと消耗品が底を尽きます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ