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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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イベント――14

 『不落』『聖喪』同盟の本陣から、秋桜が進み出てくる。

 ……なぜか『モホーク』の奴らは、「どうぞ、どうぞ」とばかりに道を空けやがった。

 敵の総大将が単独で出てきたんだそ? なんで取り囲んで倒しちまわないんだ?

 それに戦場中――スタンド席の野次馬と実況と解説もだ――が静まり返って、事態の推移に注目している。……何を期待しているんだ?

 いや、『不落』『聖喪』同盟の本陣からは声がしたし、それは静まり返っているから良く聞き取れた。

「おし、いけ! 秋! 勝って女になりな!」

「これは女の……負けられない戦いだよ! 敵が多くても、遠慮しちゃ駄目!」

「当たって砕けても、骨は拾ってあげるから!」

 などと無責任な声援が聞こえる。いつもの『聖喪』の姉さん方だったから……煽ったのはあの人達か!

 しかし……「女になる」? 「敵が多くても」? 「遠慮」?

 いくつか意味が解らないフレーズがあるが、秋桜は文字通りの一騎討ち……個人対個人の勝負を要求しているんだろう。

 ちなみにMMOの戦争に、一騎討ちの風習はない。そんなのは非効率的であるし、その勝敗で何も変わらないからだ。

 人類史上、各地で一騎討ちの風習があるが……あれは何でなんだろう?

 色々な説明を見聞きしたが、どれにも俺は納得できない。敵の有力武将が遊んでいるのは利益になるが……強い味方が一騎討ちなんて始めたら、それだけで大損害と考えなかったんだろうか?

 みなが注目して見守る中、秋桜は剣を抜き払って……最後の口上を言うつもりのようだった。

「タケルっ! 私は今日……貴方を超える!」

 まあ、そこそこ絵になっていたと思う。

 秋桜は残念なところが多いが、美人の範疇ではある。身に纏う真紅の鎧は豪奢な金髪と合っていたし、剣を突きつける姿は凛々しくもあった。

 ただ、やっぱり喋らない方が良い。

 聴いていた観衆には、秋桜の言葉は全く意味が解らなかっただろう。俺からがして、何段階か頭の中で補填してようやくだ。その証拠に――

「えっと……それで良いの? 秋ちゃん?」

 心配そうなリシアさんの言葉が投げかけられた。

 ……リシアさんまで参戦してたのかよ! リシアさんに泣き付くなんて、秋桜とリリーめ……ずるいじゃないか!

「ご立派ですわ、お姉さま! そのご覚悟をもって、タケル様を打ち負かしてさしあげるのです!」

 リリーもリリーで、変な風になっちまっている。秋桜が絡むと、リリーがおかしくなるのは何でだ?

「……妹分が漢女(おんな)になるって言うんだ! 私達は精一杯に応援するよ!」

 姉さん方の一人が誤魔化すように締めて、呼応するように『不落』『聖喪』同盟の本陣から大歓声が上がる。


「おおっと! まさかの一騎討ち! これはどうなるんでしょう、解説のリルフィーさん?」

「熱い! これは熱い展開! ……ですが、ないですね」

「そうなんですか? 私はありだと――」

「でも、申し込まれたのタケルさんっすよね? ないっすわー。タケルさんですよ? 絶対に一騎討ちなんて受けないっすよー」

「わ、私はっ! タ、タケルさんならっ! 受けると思いますよ! め、名誉を重んじる騎士さまなんですから!」

 実況と解説は言いたい放題だ。

 ……リルフィーの奴は後でしめよう。


 まあ、盛り上がっているところで悪いが、リルフィーの言う通りではある。一騎討ちなど受ける義理はない。そんなのは「嫌だ」の一言で済む。なによりも俺は、本陣の運営で忙しすぎる。

 秋桜も秋桜だが、リリーもなんで秋桜の暴走を止め――

 そこで気がつけた。

 奇妙だった『不落』『聖喪』同盟の本陣、秋桜の無謀な行い、それを止めない参謀のリリー……これは罠だ。それも、いますぐに手を打たなければならない類の。

「リンクス! いますぐ秋桜を撃て!」

 声を押し殺した俺の命令に、不思議そうな顔をしている。急いで欲しいのに!

「えっと……いいの? その……一騎討ちを断ってからの方が……」

「いいから! すぐに! 間に合わなくなる!」

 なおも促して、ようやく射掛けようとするが……俺の意図とは違う。

「違う! 山猫全員で! 狙撃で――殺すつもりで!」

「えっ? た、隊長……ほ、本気かい?」

「本気だよ! 急いで! たぶん、それでも殺せないから!」

 急かす俺を見て、ようやく緊急なのだと理解してくれる。

 短めのカウントで、弓部隊全員が射掛けた。十を越える矢が秋桜を目指して飛んでいく。

 しかし、察したのか、秋桜も動いた。……何度も『危険感知』は取れと言っておいたから、その忠告を守ったのだろう。

 何本かは狙いを外してしまっていて、何本かは僅かに動けたことで避けられてしまう。

 さらに命中しそうな矢を、剣と盾で一本ずつ弾くように受け――ほとんど同時に回復魔法が掛けられた。

 残りの捌ききれなかった矢も、可能な限り鎧で受けている。クリーンヒットしたのは一本かそこらだろうか。

 それで発生したダメージも、次々と掛けられる回復魔法で帳消しにされる。

「……ごめん、隊長。なんとか当てたけど……この距離じゃ『急所攻撃』にもできないし――」

「いや、いまので十分。ありがとう、確認できた」

 リンクスを慰める俺に、首を捻りながらカイが問い質してくる。

「……隊長? いまの何か変じゃなかったですか?」

「うん、変だぞ。回復魔法が早すぎる。あれは――」

 だが、そこまでしか言えなかった。

 推移を見守っていた観衆から、大ブーイングが起きたからだ。秋桜も『大声』で噛み付いてくる。

「ひ、卑怯だぞ、タケル! いきなり何をするんだよ!」

 仕方がないので、俺も『大声』で応じる。

「うるせえ! そっちの準備を確認しただけだ! こっちも準備するから、ちょっと待ってろ!」

「何が確認なんだよ――って、待ってろ? それじゃあ、一騎討ちを受けてくれるの? わかった! 待ってる!」

 いまにも怒り狂いだしそうだった秋桜は、俺の返答を聞いた途端に大人しくなった。

 満面の笑みでニコニコしてやがる。……現金というか……秋桜の将来が心配になってしまう。あいつ……そのうち……悪い男にでも、騙されてしまわないだろうか?

 観客もざわざわと騒ぎ出す。

 それは俺と同じように秋桜が心配になったのだろうし……展開に全くついてこれないからでもあるだろう。


「ほ、ほらっ! タケルさん、一騎討ちを受けるって! 私の言った通りだったじゃないですか!」

「その前に弓矢で攻撃してますけどね」

「あれは……何か調べるためって……」

「『不落』側が回復要員を付けているか……それを調べたかったんでしょうけど……」

「そ、それですよ! だから、卑怯とかじゃないんですよ、きっと!」

「そうなんすかねぇ……タケルさんも、タケルさんですが……しれっと回復要員を付けている『不落』の方も……もう、狐と狸の化かし合いというか……。これ……いまから始めるの……本当に一騎討ちなんすかね?」

 実況と解説は、意外と観衆の気持ちを代弁しているのか?

 ……とにかく、リルフィーの奴は後で説教だ。

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