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開幕クソゲー化作戦――2

 『広場』に入った瞬間から、じっーと俺を見続けるカイ――それも凄く忙しそうにしている! ――は気になったが物事には手順がある。まずは団長に挨拶がてら、ギルド加入の手続きをお願いしなければ。

 団長の姿はすぐ見つけられた。

 失礼だけど背が低いから、集団の中いたら目立つ方ではない。それなのに何かが――内に秘めたエネルギーとでも言うべきものが、ジェネラルを埋没させない。

 また、初期装備の粗末な胴鎧姿なのに、いつもの重厚な雰囲気も損なわれてなかった。

 そして男でも聞き惚れてしまう例の声で――

「ふむ……CQBも良いが……私はやはり銃器類の方が馴染みがあって良いな」

 などと隣の副官に言いながら、クロスボウを扱っていた。……深く意味を考えたくない内容だ。

「すいません、遅れました。ログイン戦争に引っ掛かりまして……」

「おお、タケル大尉! 遅かったな! ログイン戦争? ログイン戦争とは何のことだね?」

 団長は熟年と言っても差し支えの無い年齢に思えるのだが……好奇心旺盛でどんなことにでも興味を持つ。いつまでも心が若いとか言われるタイプだろうか? それでいながら一人前の男が持つ円熟味もある不思議な人だ。

「ログイン対応能力がオーバーフローすることかと」

 俺の代わりに答えたのは副官のサトウさんだ。こちらは心得があるのか、見事な姿勢で長弓を扱っていた。

 副団長のヤマモトさんといい、サトウさんといい、悪ふざけでキャラクターネームを付けたかのようだが、実は違う。二人とも――その意味ではジェネラルも同じはずだ――キャラクターネームの意味が解らず、名前をそのまま入力したらしい。……そう考えると団長は普段から「ジェネラル」と呼ばれていることになる。

 ……『RSS騎士団』には母体組織というのがあるはずだが、それについては……俺みたいな一般人は知らない方が身のためかもしれない。

「それで……まずはギルド加入を」

 そう言いながら団長へ『ギルド加入申請』を送った。

「了解だ。まずこれで受け入れて……タケルは大尉だから……これと、これと……」

 確かめるように団長はメニューウィンドウを操作する。すると次々と視界の隅にアナウンスが――

「あなたはギルド『RSS騎士団』に受け入れられました」

「あなたは上位ギルドメンバーに変更されました」

「ギルドマスターにより『ギルドメンバー承認』の権限が許可されました」

 などと次々に流れていく。

 ギルドマスターの権限は意外と多い。解り易いものでギルドの解散、ギルドメンバーの承認や追放など、列挙していくと限がないほどある。

 初期のMMOでは色々な権限はギルドマスターのみに許されていたらしいが、最近では他のギルドメンバーにも開放できるのが普通だ。そういった仕様にしないと、ギルドマスターただ一人に責任と仕事が集中してしまう。

 例えばよくあるトラブルが『迷子』だ。

 何かの都合でギルドを脱退すると、ギルドマスターに会えるまで元のギルドに戻れない。この状態を『迷子』などと呼んだりする。これを避けるには絶対にギルドを脱退しないか、ギルドマスターが可能な限り……できるなら毎日かつ、長時間ログインするしかない。

 それは現実的ではないので、いくつかの権限を他のメンバーにも開放しておくのが一般的だ。『迷子』の例でいえば、誰か『ギルドメンバー承認』の権限を持っているメンバーに会えれば解決する。

 方針にもよるが、ギルドマスターにしか許されない権限は『ギルド解散』くらいだ。なにより『権限を開放する』権限の開放だってできてしまう。

 普通の運営方法なら全ての権限が開放されたメンバーをサブギルドマスター、限定的に開放されたメンバーを幹部などとする。

 俺の好みだとサブギルドマスターを二、三人任命しておけば十分だと思うのだが、なんのかんのと理由をつけて権限を開放されている。普通のギルドなら幹部メンバーといったところか。

 大尉の責任だとか団長は言うが……絶対、ゲーム的な知識が面倒なので俺に押し付けているだけだ。


 用件は済んだし、カイの視線は依然として突き刺さり続けていたが……サトウさんの見事な弓術に見惚れてしまった。

 実のところ、VRゲームでも弓の難易度は高い。

 いくらシステムアシストが助けてくれているとはいえ、最低限の正しい動作は必要だ。正しい手順を修得して、ようやくスタートラインにつける。

 対してクロスボウの方は鉄砲に近く、ただ狙いをつけて引鉄を引けば良いだけだ。

 複雑な仕組みで弦を引くので、史実では製造技術に左右されたり、コスト面で難があったそうだが……VRゲームでその問題は全くない。メリットの簡単さだけが重宝されている。じっくりと狙いをつけれるので、狙撃するときにも便利だ。

 連射性は高いが技術要求の大きい弓、扱いが容易なクロスボウといった違いか。

 大半の団員はクロスボウを扱っている。それもそうだろう。そちらの方が簡単だ。

 その中で背筋をピンと伸ばし、滑らかな動作で次々と矢を射掛けるサトウさんは別格に思えた。

 放った矢は狙いを外さず、次々と『ゴブリン』の急所に突き刺さる。どこに命中してもダメージなどは変化しないのだが、楽々と急所を狙い撃っている姿には驚くほかない。

「あれだね。これだけイメージ通りになると面白いを通り越して、少し不安になるね。現実で弓を持つのが怖くなるよ。ここまで上手くいかないから」

 俺の視線に気がついたのか細い目をさらに細め、笑いながらサトウさんが言った。

 考えてみれば当たり前か。達人――少なくともサトウさんは上級者に違いない――がシステムアシストの恩恵を受けているのだ。外す可能性など全く無いだろう。

「いや……あまりの凄さにビックリしちゃって……サトウさん、弓術の心得もあったんですね」

「まあ、一応ね。弓を相手にするには、自分が弓を覚えておくのが一番簡単だから。手解きぐらいはできるけど……興味あるのかい?」

 道理ではある。古流の人らしい返答をされた。

 まるで漫画やアニメの登場人物のようだが……サトウさんは古武術の実践者だ。

 俺も男の子だから「古武術」などと聞くと興奮してしまったが……内情を聞けば聞くほど……なんというかロマンは無かった。

 ようするに「いかにして合戦を生き残るか」という血生臭い知恵の結晶が古武術だ。そこにロマンなんて入り込む余地は無いし、残念ながら科学的な観点では怪しい。

 しかし、身体操縦術に限れば極めて合理的だ。

 いや、サトウさんに限らず、実際に武術を修めているアドバンテージは大きい。そもそも経験者が悩みもしない段階で、俺などの素人は躓くことがある。

 例えば剣を両手で持つとする。その場合、どちらかの手が鍔側――上になる。

 では、左右どちらの手が上になるべきだろうか?

 色々な理屈はあるが、正解は利き手が上だ。また、鍔元に近い位置を握る。そうしないと鍔で受けただけで握りが滑ってしまう。

 逆の手はどうするべきか?

 これは色々と意見が分かれるが、最低でも握り拳一個分程度は空けて持つのが正解だ。野球のバットのように両の手をくっつけて持つメリットは薄い。

 これでようやく両手の上下が定まった。だが、まだ終わりではない。次は正しい握り方の模索、その次は正しい構え方と際限なく続く。

 VRゲーム全般がシミュレーターの側面を持つ以上、スポーツ科学や人間工学に基づいた方法が最も正しい。システムアシストの恩恵があるゲームでも……合理的な技を補強するのと、出鱈目な動きを取り繕うのでは結果がまるで違う。

 武芸を競うわけではないから差は絶対的ではないが……経験者を侮るのは危険だ。本人が理解してようとしてまいと、その技は合理に満ちている。

 目の前で披露されている神業レベルで狙われたら逃げるしかないが……もっと格下が相手なら、なにか応用できるかもしれない。これは是非とも手解きをお願いせねばと思ったところで――

「次の『引き役』を入れたいので処理を急いでください。『魔法使い』はそれで回復ローテーションに入っても良いので――」

 と、ギルドメッセージ用の通信モニターに映るカイが目の前に出現した。

 ギルドメッセージは双方向通信ではないから、こちらの様子は解らないのだが……口調からイライラが隠せていない。どうやら、だいぶ頭にきているみたいだ。

「と、とりあえずその件は後日に!」

 ギルドメッセージ用の通信モニターの位置と大きさを調節しながらサトウさんに答えると、察したのか苦笑いで返された。

 なんだか雑用係が板についてきちゃった気がするが、とりあえずカイの所へ行って怒られてくるしかなさそうだ。

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