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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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イベント――13

 戦況は『RSS騎士団』、『モホーク』、『不落の砦』と『聖喪女修道院』の同盟軍による完全な三つ巴に、そして睨みあいへ……変化しなかった。

 『不落』は『聖喪』と合流し、陣形も拡張したようだ。少し陣形が奇妙にも思えたが、とりあえずは守りの選択に見える。秋桜とリリーにしては大人しすぎるが、解らないでもない。

 しかし、『モホーク』は相変わらずに、中央付近で散開したままだ。

 それに俺達と『不落』『聖喪』同盟、その双方へ攻撃を続けている。

 どういうつもりなんだ?

 この局面であれば『モホーク』も自軍を集結させ、どちらから攻められても良いように備えるべきだ。

 なんとか集結を図ろうとしているようでもあるし……漫然と戦闘を継続しているようにも見える。

 『モホーク』の総大将であるモヒカンは、俺の想定より賢い。それは認めるべきだ。敵を過小評価するべきじゃない。

 指揮官としての器量もあるのだろう。ここまで持たせているだけで、驚嘆に値する。

 だが、ほとんど同数になった三勢力が争うこの場で、無駄な消耗は最も避けるべきだ。

 その判断が出来ないとは思えないが……もしかして、現状で精一杯なのか?

 指揮官の才能に、味方がついてこれない。その可能性はありそうだ。


 とにかく戦況は漫然と消耗を続ける『モホーク』と、お互いの出方を伺う『不落』『聖喪』同盟と俺達の図式になった。

 『不落』『聖喪』同盟でも、俺達でも――どちらでも単独で『モホーク』を打ち破れるだろう。

 陣形がどうのだとか、難しいことを考えずとも……もう少し待って、単純に突撃すれば倒せる。それぐらいの消耗を、『モホーク』は始めてしまっていた。

 問題なのは『モホーク』を攻めた場合、その背後を突かれることの方だ。

 俺達が潰しに掛かれば、その隙は見逃されないだろうし……『不落』『聖喪』同盟が先に動いても、俺達が背後を討つ。

 これではどちらも『モホーク』へ仕掛けられない。見方を変えれば『モホーク』は、無軌道な消耗戦をすることで延命を図っていた。


 ベストは、このまま『モホーク』の自滅を待つことか?

 制御不能となっている奴らは攻撃を続けているし、守りの陣形は攻めてくる相手を消耗させるのに適している。

 守りの陣形相手なら、攻めないのが最上の策だが……それが実行できない方が悪い。なんでこんな戦争を始めたのか判らないが、それこそ自業自得と言うものだろう。

 だが、その後は?

 戦力差の少なくなった『不落』『聖喪』同盟と一騎討ちか?

 均衡した戦力との正面衝突は、作戦立案担当として最も避けるべきだ。

 合理的に考えれば、最上の策は『モホーク』との共闘かもしれない。

 もう『不落』『聖喪』同盟との共闘にメリットはなくなった。自分と同格の相手と組むのはナンセンスだし、自分より強い相手なら論外ですらある。そんなことをすれば一時的に勝利しても、ただ窮地へ追い込まれるだけだ。そもそも共闘などしなくても、傍観していれば同じ結果が得られる。

 いま磨り減っていく『モホーク』なら理想的な取引相手であるし……『不落』『聖喪』同盟と組まれるぐらいなら、俺達で取り込んだほうがいい。

 だが、『モホーク』と共闘?

 それこそ、最も馬鹿げている。約束を守らない相手に、自分から取引を持ちかけるなど愚の骨頂だ。

 しかし、『不落』『聖喪』同盟と『モホーク』が再び手を組んだら?

 その場合の戦力比は一対二に近くなる。『モホーク』が消耗していても、『聖喪』が加わった分だけ開戦当初より悪いだろう。

 ……ないか。理由を上手く言葉には出来なかったが、その可能性は薄いと思う。

 なんと言えばいいのか……最初から『らしくない』とは感じていた。

 秋桜やリリーにしては乱暴だから……そんな馬鹿なことはいわない。あいつらは腹が立ったと感じたときには、すでに噛み付き終わっている狂犬だ。

 だから、武力行使そのものは不思議じゃなかったが……『モホーク』と共謀してというのが納得しにくかった。それは『不落』の――秋桜とリリーの流儀じゃない。

 同様に、これから再び――なのかは神のみぞ知るだが――『モホーク』と組みなおすというのもだ。

 まあ、そんな感想に全てを委ねるのも危険だから……こちらで『モホーク』の壊滅を早めるのも手か。組まれるのが嫌なら、その価値を無くしてしまえばいい。

 戦線復帰予定の副団長の隊に……俺やグーカの隊、それに同じく復帰する第一小隊までは、その任に充てられる。いわば大きな遊撃部隊の編成だ。

 そして、その後『不落』『聖喪』同盟と雌雄を決すればいい。

 ベストとはいえないだろうが、ベターに思えたし……なによりも俺達に相応しい選択だ。勝利が至上命題とはいえ、妥協し過ぎたら意味がない。


 問題は直接対決で勝てるか? それに尽きるだろう。

 確かに『聖喪』の突撃陣形は脅威だ。俺達の陣形で受けきれるか判らない。

 だが、その点では勝負は簡単といえる。

 突撃されて打ち破られたら負け。受け止めて前進を止めてしまえば勝ち。

 防御陣形が破られれば弱いのと同じように、突撃陣形は止められてしまうと一気に不利となる。相手だって同じような人数なのだから、失敗すれば即敗北だ。そう気軽に選択はしてこない。

 つまり、相手が突撃してくるのは勝利が確定する瞬間か、一か八かの博打のときだけ。盲目的に恐れなくてもいい。


 それに俺達が突撃陣形を使えないといっても、二つほど取れる選択肢はあった。

 一つは陣形を維持したままの前進だ。

 ゆっくりと歩くような速度になるだろうが、陣形を維持したままの移動も出来なくはない。そうやってジリジリと間合いを詰め、相手の本陣を目指す。

 相手が何も手を打たないのであれば、そのまま陣形ごと衝突する。

 やることは先ほどの『モホーク』と同じだ。ただし、その正解例の一つだが。

 お互いに本陣同士を隣接させ、足を止めての大砲の撃ち合いにしてしまえばいい。

 大消耗戦にして我慢比べの殴り合いとなるだろうが、俺達向きであるし……僅かでも戦力の多いほうが確実に勝つ。

 さらには戦争用区画から押し出すように圧力を掛ければ、相手が持つ地の利を逆手にも取れるだろう。


 問題は詰め寄るときに、乾坤一擲の突撃をされた場合か?

 間合いが遠い――『不落』『聖喪』同盟の本陣から距離がある時点なら、突撃部隊の『聖喪』へ全力対応すればいい。不安感は残るが……一時的な二対一で、数の上で有利となる。

 間合いが近かったら、遊撃部隊を捨石にしてでも突撃を止めるしかない。文字通りに身を盾にしてでも。その代わり止めるのは一瞬、僅かな時間が作れれば十分だ。

 そのチャンスに、もう一つの選択肢――全戦力による突撃をすればいい。

 いくら俺達が突撃陣形を体得していなくとも、一回限りの突撃は仕掛けられる。

 突撃が成功しようが、失敗しようが、その後は大混乱に陥るだろうが……一回だけなら可能だ。

 そして『聖喪』が突撃してきた瞬間、相手側に残っているのは『不落』だけ。つまり相手は兵力を二分している。その時点で突撃を掛けるのなら、勝機は十分にあると思う。

 『不落』を壊滅させ、混乱からも立ち直ったときに……戦力の半分以上を保持していればいい。残る『聖喪』に、数の上で優位に立てるからだ。

 俺に考えられて、俺達に実行可能なのはこれぐらいか?

 稚拙で泥臭く、上策ともいえないだろうが……これで十分だ。とにかく勝ってしまえばいい。勝てば後でなんとでもなる。


「隊長、ちょっと良いですか? 隊長の裁決が要るんですけど……」

 考えをまとめ終わったところで、カイが話しかけてきた。……見計らっていたのか?

 そのカイのそばには二、三人の……第一小隊のメンバーがいる。

「……うん? 第一小隊も合流できたの?」

「いえ、その……独断で?本陣に帰還することにしたようで」

「そういうのは困るぜ? 各部隊のリーダーの指示に従ってもらわないと――」

 言いながら第一小隊のメンバーを見ると……ばつが悪いような、困ったような複雑な顔をしていた。どうしたのだろう?

「それが隊長は――うちのハンバルテウス隊長は、各種メッセージを全部閉じてて……」

 ……なるほど。戦いが始まった最初の頃に脱落。死亡してしまったものの待機時間も終わり、いざリスタート。その時点で復帰すべき部隊のリーダーと連絡が取れない。そんなところか?

「あー……なんというか……ごめん」

 謝るしかなかった。

 幹部メンバーの不手際は、同じ幹部メンバーである俺の不手際でもある。

 ギルドメッセージが禁止されて腹が立ったハンバルテウスは、報復のつもりで全メッセージを閉じた。そんなところか? ……子供か!

「あ、いえっ! 大尉の責任じゃないのは判ってますから!」

 逆に誤られる始末だ。第一小隊のメンバーも苦労しているんだなぁ。

 しかし、本当の軍隊だったら軍法会議ものだ!

 誰よりも隊のメンバーに責任があるだろうに……あいつは何やってんだ?

「と、とりあえず……スペルキャスターの人はカイかハチの指揮下に入って。えっと、そっちは『戦士』? 長物は使える?」

「あ、自分は元々が壁のサポートだったんで――」

「あ、それじゃシドウさんの指揮下へ。それで……」

 最後に残ったのは、装備からみて『盗賊』だ。お互いに苦笑いが出る。

「あの……何か飛び道具を貸してもらえれば、弓の部隊にでも……近接型タイプでも撃つだけなら……」

「あー……それじゃ、リンクスのところへ行って……いや、待って。他にも迷子になっている隊員いるよね? むしろそっちとの連絡を……いま区画の外で副団長が部隊再編しているから、そっちへの合流指示を代わりに――」

 などと、お互いを察しあう、真に日本人的な会話が続く。

 いや、これはこれで良いけど……戦場には相応しくないというか、締まらないというか。

 そんな微妙な空気の中、もっと戦場に相応しい『大声』が響き渡った。

「タケル! 出て来い! 正々堂々と勝負、一騎討ちだ!」

 ……秋桜の奴だ。

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