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イベント――4

 奇跡的に受けることができた。

 申し合わせたように二方向から斬りつけてきたところへ、なんとか武器を間に入れた……そんな感じだ。

 どちらかでも食らっていれば、その勢いのまま死ぬまで追撃されていただろう。

「し、死ね! 死ね! 死ねぇ!」

 そう言いながらデクは武器を押し込もうとしてくる。

 戦闘で興奮しすぎるタイプか? 何か狂的なものを感じた。

 リリーのほうも俺の隙を伺っていたが……やや、焦りっているのか?

「リリー! てめえ見損なったぞ! こいつらと組んでまで勝ちたいのか!」

 思わず文句が出る。いつの間にかリリー達を信用していたことに、気づかされた。

「それはこちらの台詞ですわ! 宣戦布告もなしに、この様な輩と!」

 ……なんだか変だな。話が噛み合っていない気がする。

 なおも言葉を繋ごうとしたところで、リリーの背後を守る『不落』のメンバーに割り込まれる。

「サブマス、急いでください! もう持ちません!」

「もう少し堪えてくださいまし……タケル様さえ倒してしまえば……あとは……」

 とにかくリリーは本気だ。いまは戦うしかない。

「隊長、いま行きやす! もう少し耐えてくだせえ!」

「タケル君、その大男は引き受けた!」

 グーカとサトウさんが救援に駆けつけてきてくれた。……少し情けない気分にもなるが、これはありがたい。ひとまずリリーに専念するべく、身体の向きを変えようとしたところで――

 デクが無理やりに俺を攻撃してきた!

 なんとか鎧で受けて、バランスを崩さないように踏ん張る。

 こいつ……完全に捨て身で俺を殺しに?

 代償にサトウさんの攻撃をもろに食らい、転倒してしまっている。それでもひたすら俺を狙おうと足掻き叫んでいる様子には、軽く恐怖すら覚えた。

 指揮系統を狙うのは定石だ。例え自分が死んでも、敵勢力を混乱に落とし込めばお釣りはくる。しかし、そこまで滅私的な作戦を?

 ……甘く考えていたら、やられるかもしれない。

 リリーが抜け目なく隙を狙ってきたところを、なんとか斬り返すが……見事な体裁きで避けられた。直接対決は初めてだが……体術重視のスタイルか?

 俺の苦手なタイプだ。こんなところまで相性が悪くなくても良いだろうに。

 しかし、幹部であるリリーが、いわば特攻……『不落』も『モホーク』も本気で()りにきている。どういうことなんだ?

「……なんでだ!」

「聞きたいのはこちらの方です!」

 ジリジリと間合いを詰めながら問い質す。だが、やはり、なにか話が噛み合わない。

 そのリリーの背後を守っていた『不落』の一人が、グーカ達に斬り伏せられて崩れ落ちる。

「サブマス! ベティが殺られました! もう持ちません!」

「くっ……あと一歩のところで……」

 とにかく、自陣の真っ只中に敵を置いておく訳にはいかない。攻守は入れ替わり、リリー達を包囲する。

「この勝負、お預けですわね――引きますよ!」

 リリーはそう言い捨てて、『翼の護符』を使って脱出してしまった。

 失策だ! ()るなら、『護符』を封じておくべきだった! いや、見事な引き際というべきか? ……さすがに見極めが上手い。

 この手の完璧なヒットアンドアウェーが使えるからこそ、わざわざ陣頭指揮までして特攻してきたのか。現実なら死亡確定の片道切符だが、MMOでは違う。それに遭遇戦ともセオリーは変わる。頭の切り替えができてなかった!

 だが、とにかく一息はつける。

「す、すいやせん、隊長。おい、隊長に回復! それと誰か、隊長の直衛に――」

「それは僕がやろうか? あと、ごめんね。まさか捨て身で狙ってくるとは――」

 話しかけてきたサトウさんとグーカを、「待って」のジェスチャーで止める。状況の確認が先だ。

 シドウさんが指揮する壁の部隊は、歪だが陣形を完成させつつあった。

 その手に持っているのは大きな盾――ゲーム的には『ツーハンドシールド』と呼ばれる両手用の盾だ。戦争用に支給したもので、警官が持つような盾に似ている。あれを一回りか二回り大きくした感じだ。

 あまり一般的じゃない装備ではある。普通のプレイヤーは存在すら知らないんじゃないだろうか?

 大きいから攻撃を受け止め易いし、片手用の盾よりダメージの軽減率は高いが……使用者には攻撃方法が無くなってしまう。冒険の場では使いにくいことこの上ない。

 だが、このような集団戦では重宝する。ただ何人かで並んで持つだけで簡易バリケードの完成だ。攻撃は他の仲間に任せればいい。

 この盾の壁で味方全てを囲うように守るのが、基本の陣形となる。

 歪な急ごしらえの陣形ではあるが、後衛を壁の内側へ入れることができた。まだ壁の内側に敵はいるものの、その排除も順調だ。運悪く壁の外になってしまった味方も、合流しはじめている。

 これでしばらくは耐えれるはずだ。

 そのまま、ざっと手勢の確認に入る。

 シドウさん率いる第二小隊――これはいま言ったように、壁を作ってくれている。

 サトウさんが代理で率いている団長直属部隊――こちらは手が空きそうだ。壁の中の掃除は終わりつつある。

 これはヤマモトさん率いる副団長直属部隊、グーカが率いる情報部の前衛部隊も同様だ。

 カイが指揮を取る『魔法使い』部隊――こちらは壁のフォローとして援護射撃に回っている。それはリンクスの率いる『山猫部隊』も同じだが……援護射撃に使うのは勿体無いか?

 ハチがビビりながらも、『僧侶』のローテーションを取り仕切っていた。MP回復に専念する『僧侶』達が窮屈そうに身を寄せ合いながら、じっと我慢しているのが見える。

 ……せっかく作ってもらった陣形だが、狭すぎる。かたまり過ぎていたら範囲型の魔法で一網打尽になるし、色々なことをする余裕がない。

 まずは陣形の拡張からか?

 いや、陣形を広げると言うことは、ここで守るということだ。逆に積極的に攻める手もある。しかし、その場合はどこを?

 それに移動しながら陣形を維持する――後衛を守る技術が無い。その方法を学ぶ為に、今日の演習を企画したのだ。

 攻めるべきか、守るべきか?

 それを考えながら、こんどは陣形の外――戦場の方に注意を向ける。

 第一小隊は独立遊軍のような形で孤軍奮闘していた。

 粘っているようだが、そう長くは持たないはずだ。『不落』と『モホーク』の両方から攻め立てられてしまっている。機動することで誤魔化しているが、逆を言えば逃げ惑っているだけだ。

 本陣の近くまで何とか戻らせるか、迎えに行かなければならない。……もしくは、もう一つの選択か。

 『不落』はざっと数えて……多くても俺達の半分くらいか? 少なく思えるが、腑に落ちる規模ではある。数をそろえるのは大変だ。そうそう全メンバー動員なんてできない。

 納得のいかないのは『モホーク』の方だった。

 明らかに人数が多い。俺達と同数ぐらいだ。そんなに大規模なギルドだったか? 情報に間違いがあったのだろうか?

 これだと『モホーク』は全メンバーを招集した計算になる。……そんなことができるのか?

 何か見落としている気がする。

 とにかく、戦力比は二対三で分が悪い。確か戦力差が倍で、即時撤退の検討だったか?

 ……付け焼刃の知識で心許ない。不安ばかりが大きくなる。

 そして観察している内に、さらに奇妙な事実が浮かび上がってきた!

 なぜか『不落』と『モホーク』も、お互いに攻撃しあっている!

 どちらかというと積極的なのは『不落』の方で、『モホーク』は迎撃の構えのようだった。しかし、交戦状態なのは間違いない。

 どういうことだ? 仲間割れでもしたのか?

 とにかく……これは付け入る隙だ!

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