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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第3シリーズ 『猫系女子のしつけ方』
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最終話:手に入れた幸せは離さない



 豪華な夕食を食べ終えた後、優那達は再び浜辺へとやってくる。

 昼と違い、また別の景色を見せる海。

 星空の下に暗い海は光を反射させて煌かせる。

 静かな海の音と夜景に魅入られつつ、優那達は浜辺に花火の準備を始めた。


「残念ながら、売店ではロケット花火がありませんでした、隊長」

「さすがに音系花火はないだろう。周囲に迷惑だと分かっているんだ」

「仕方ない。ここは地味だが普通の花火を楽しむとしよう」


 千秋は適当に花火を出すと優那に手渡す。

 久しぶりに手にした花火。

 子供の頃に何度かしたっきりで懐かしい。


「どうやって火をつけるんだったかな」

「ほら、ロウソクの用意をした。しばらく火を当てればすぐにつくよ」


 千秋はまず手本とばかりに2本同時に火をつけた。

 綺麗な蒼い光と緑の光、淡い色をした花火。

 優那も同じように火をつけて、花火を楽しむことにする。


「可愛い花火だな」

「……」

「そういえば、昔、ちーちゃんと一緒にした記憶がある」

「優那の家って、結構厳しくてさせてもらえなかったんだよな?」

「あぁ。私が自分の家族としたことは1度もない」


 だけども、千秋や彼の両親はそんな優那を花火に誘ってくれた。

 色鮮やかな花火の色と光に優那は子供ながらすごく感動を覚えた。


「私にいい思い出を与えてくれた事を感謝している」

「んー、まぁ、うちの親は優那の事を気に入ってるからな。俺は1人っ子で男だから、優那が娘みたいに可愛かったんだろう」

「そうか。そう思ってもらえていたならとても嬉しいよ」


 優那は少しだけ羨ましかったんだ。

 彼女の両親も江梨の事件さえなければ優しい人達だった。

 今さながら、子供時代に家族の形を失ったことに寂しさを抱く。

 

「もっと、家族で思い出を作りたかったな」


 失ってしまったものに、未練を感じる。

 もう手遅れではあるけども。


「優那?」

「何でもないさ。ただの感傷だ。花火はいいな。見てると気持ちが和む」

「……優那、それが終わったら今度はこちらの奴を使ってみろよ」

「うん。そうさせてもらう……もう少しだけそっちによってもいいか?」


 返事を待たずに彼の横に座り込む。

 彼に心を許している。

 それは昔から変わらないことだ。

 千秋は優那を愛してくれる。

 寂しさを感じさせないでいてくれるのは彼が居るからだ。


「優那の花火、綺麗な色をしているな」


 5色の色彩豊かな炎に揺られる花火。

 チチッという火の爆ぜる音。


「私の記憶が合っていれば夏休み後半に地元で花火大会があったはずだ」

「そんないい方しなくても普通にあるよ」

「一緒に花火を見に行こう。私はあちらの大きな花火も好きだ」

「おぅよ、その時はちゃんと優那は浴衣を着てくれるんだよな?」


 何かに期待をする千秋のいやらしい視線を振り払うように、


「……考えておくよ」


 短く答えて、優那は再び手元の花火に目を向けた。

 期待に応えて新しい浴衣を買わなくてはいけないな、と心の中で呟く。

 静かな夜の海に寄り添う二人。


「また来年もちーちゃんと海に来たい。たくさんの思い出を作りたい」

「これから先、そんな機会なんていくらでもあるさ」

「そのうち、私に飽きて他の女の事に手を出すんじゃないかと心配なんだ」


 彼はモテる人間だ、いらない心配までしてしまう。

 独占欲が強い優那にとって、彼の傍に他の女性は近づいて欲しくない。


「そりゃ、余計な心配だ。俺が優那に飽きる事なんて一生ないから心配するな」

「一生なんて軽々しく言わないで欲しいよ」

「俺はそういう意味を含めて言ってるんだけど? 何なら言葉にしようか?」

「い、いい。今は……その気持ちだけで十分だ」


 さすがに言葉にされるのは恥ずかしい。

 今はこれだけ十分、時が経ってまたその先の答えを望みたい。


「花火は休憩。少しだけ海に入ってみないか?」

「……夜の海は危ないから近づくな?」

「ちょっと足をつけるだけだよ、おっ、冷たくていい感じだぞ」


 優那も波が当たらない程度に足をつけて、海に視線を向ける。


「もしも、この世界でちーちゃんに出会わなければどうなっていたんだろう。私は時々、そう考えてしまうんだ。どういう生き方をしていたのか、想像もできない」

「そうか? 優那はずっと可愛い今と同じ女の子に違いない」

「ちーちゃんがいるから可愛くなれる。そう言ったはずだ」


 今、千秋が優那の傍にいる。

 恋人して付き合ってくれる。

 この幸せがあるならもしもは考える必要なんてない。

 余計な不安は抱かないようにしたい。


「ちーちゃん。将来的な意味でもいい。私の事を愛し続けて欲しい」

「当然だ、優那。何なら今からだってOKだぞ? ちょっと、場所を変えて……」

「変なところに連れ込むのはなしだ。そういう意味じゃない」

「ははっ、それじゃ、花火を適当に終えて旅館に戻ってからにするか」

「だから、あぁ~、もういい。ちーちゃんはこういう男だからな」


 どこまでも彼らしさに優那は苦笑する。


「優那。俺はお前を幸せにしたい。約束するぞ」

「調子のいいことばかり言う」

「本気だってば。いつか、優那の口から聞きたいよ。俺と一緒で幸せだってさ」


 彼が彼らしく答えてくれているという事。

 ムードも何もないが、優那を大事にしてくれる気持ちだけが伝わってくる。


「……今も十分に幸せだよ」


 さざ波にかき消せるほどの小声で彼女は言う。

 気恥ずかしさを誤魔化すように、


「お前は浮気性なところがあるからなぁ。他に女は作るなよ?」

「……心配せずとも俺は優那一筋、いつだってお前の事だけを考えてる」

「ちーちゃんの言葉はいまいち信用ならないんだ」

「それなら、信用してもらえるように地道に努力するさ。大好きな優那のためにね」


 優那達は満天の星空に照らされた海をただふたりで見つめ続けていた。

 

「なぁ、優那。俺さ、今だから言えるけど、この二年間のすれ違いは無駄じゃなかった。いろいろとあったけど、お互いにとっていい時間だったと思わないか?」

「回り道したからこそ分かることもある、か」

「俺は優那が好きだ。その気持ちを再確認できたからな」

「……あぁ。私もだよ。好きって気持ちを取り戻せたんだから」


 いつか千秋と優那が恋人以上に家族になっても、こんな風に笑える日々が続けばいい。

 きっと彼なら優那の夢を叶えてくれるはずだ。

 将来、優那が手にする幸せな未来の夢を想像できる。


「大好きだよ、ちーちゃん」


 夏の夜の海辺で優那は千秋に甘えたキスをする。


 “愛にすべてを”。


 優那の心に取り戻せた想いは彼女を強く支えてくれる。

 これからもたくさんの幸せを与えてくれると信じて――。


【THE END】


第4シリーズ:予告編


 美人だが気が強い女の子、優雨。

 異性を意識しないまま、修斗との友人関係を続けていた。

 夏を迎えて過ごすいつもと少し違う日々。

 優雨は修斗のために、恋人のフリをすることになった。

 それが二人にとっての関係を劇的に変化させていく。


『恋する猫はご機嫌ななめ』


――猫系インパクト。素直になれない猫だって、恋をすれば変わる。

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