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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第1シリーズ 『俺の彼女は猫系女子』
9/120

第8話:俺って綺羅の事が好きなのかな


 気がつけば4月も後半になり、新しいクラスにもすっかり馴染んだ。

 クラスの話題と言えば、間近に迫る大型連休、ゴールデンウィークの事だ。

 今年はカレンダー的にも相性がよくて、10日近くも休みがある。

 旅行に行く予定やら遊びの約束など、それぞれの予定を立てている。


「ちなみに俺の予定は暇で適当に休日を過ごすだけさ」

「先輩の予定何てどーでもいい」


 両親がどこかに連れて行ってくれるわけでもなく、友達と遊ぶ予定もなく。

 寂しい連休を過ごすのは確定寸前だ。

 弘樹はいつものように屋上で綺羅と昼食を食べながら話をしていた。

 

「ひどいや。綺羅はGW中にどこかに行ったりするのか?」

「ママとクラシックのオーケストラを聴きに行く予定があるくらい」

「……へぇ、クラシックとか好きなんだ?」

「まぁね。ママが趣味だからチケットを手に入れてきたの」

「ふーん、ああいうのは俺には縁がなさ過ぎて全然分からない世界だな」

「それに、私は小さな頃からピアノを弾いてたから」

「なるほど。姉ちゃんも昔、弾いてたなぁ。今はやってないけどさ」


 堅苦しい音楽など弘樹は聞いてるうちに寝てしまうに違いない。

 

「クラシックとか、先輩には無縁な世界だね」

「言われなくても分かってる。クラシックじゃないが音楽関係なら、たまに好きな歌手のライブとか行ったりするくらいだな」

「……アイドルの追っかけ?」

「そっち系の人達と一緒にしないでくれ」


 個人の趣味をどうこう言うつもりはない。

 アイドルのライブとかによく行く友達はいるが、一緒にされるのはちょっと辛い。


「HERO先輩は地下アイドルのおっかけをしてます」

「勝手に捏造するな。しかも、地下アイドル限定かよ」

「HERO先輩はメイド喫茶の常連客です。お散歩プレイを満喫中」

「さらに俺が危ない人になりそうなので、その辺でやめてくれ」

「私も散歩プレイさせられるかも。ドキドキ」

「しませんってば。俺はどんなやつなんだ」

 

――可愛く素敵なメイドさんは嫌いじゃないけどね。


 応援してるのも地下アイドルでもない、一般の人気の歌手だ。

 ライブの臨場感のある雰囲気は好きで、年に数回ほど楽しみにしているのである。


「俺の事はともかく、綺羅は男性アイドルとか興味ないのか?」

「まったく知らない。流行とかにもついて行けないし。興味がないって言う方が正しいかも。趣味じゃない事には興味なし。分かりやすい性格でしょ」

「綺羅って、本を読むこと以外に趣味とかあるのか?」

 

 黙り込んでしまい、聞いた弘樹の方がちょっと気まずくなる。

 わずかな沈黙でも耐え切れず、申し訳なさを感じながら、

 

「悪い、変な事を聞いちまった。気にしないでくれ」

「同情しないで!?」

「友達も少ない綺羅には趣味とか作った方が友達が増えると進言したい」 

「ふんっ。私の事は放っておいて」

 

 拗ねたのか、食事をさっさと終えてまた携帯をいじり始める。

 いつものようにスマホで本を読んでるようだ。

 この時の綺羅を邪魔すると怒られる。

 誰だって読書中に邪魔されると不愉快になるだろう。

 弘樹も大人しく自分の携帯でアプリをして暇を潰していた。

 


 

 

 数十分後、屋上で携帯をいじっていた弘樹はため息をついた。

 

「くっ、また負けた。課金なしじゃ、この手のゲームは勝てないな。やめよ」

 

 カードゲーム系のアプリで惨敗した弘樹は凹みながらゲームをやめる。

 時計を見たら昼休憩も残り少なくなってきた。

 

「綺羅、そろそろ教室に戻らないか?」

 

 と、隣の彼女に声をかけたのだが。

 

「……すぅ」

 

 よく見てみれば、いつのまにか、綺羅はお昼寝中だった。

 今日みたいな心地の良い天気なら昼寝してしまっても仕方ない。

 ご飯を食べた後はつい眠くなるものである。

 綺羅は無防備に可愛らしい寝顔をさらす。

 

「お昼寝タイムか。気持ちはよく分かるぜ」

 

 弘樹の隣でも寝てしまうのは多少は信頼されてると思えばいいのか。

 そっと覗き込むように綺羅の寝顔を見つめる。

 心地よさそうに静かに寝息をたてている。

 

「前から知っていたけども、この子の可愛さは犯罪レベルだな」


 容姿だけなら彼は惚れこんでいる。

 我が侭な性格と口の悪さはどうにかしたいが。

 イチゴの甘い香水の香りがする髪を撫でながら、少しだけ開いた口元に目が行く。

 

「ホント、見惚れるくらいに可愛いよな……」


 瞑った瞳の長いまつ毛、薄桃色の小さな唇。

 

「……んっ」

 

 彼女が寝返り、ベンチにもたれながら倒れそうになる。

 

「おっと」

 

 弘樹は思わず彼女の肩をつかんで、こちらに引き寄せた。

 思いもよらぬ形で彼女を膝枕する事に。

 

「これ、綺羅が起きたら絶対に怒られるぜ」


 しばらく、そのまま眠っていてもらいたい。

 女の子の寝顔なんてちゃんと見るのは初めての経験である。


「どんな夢を見てるのだろうか?」


 目をつむったままの綺羅に弘樹は悪戯心が芽生える。

 

「少しくらいなら大丈夫か?」

 

 弘樹はそっと彼女の頬を指先でつつく。

 

「んっ……」

「は、反応が超可愛すぎるんだが」


 ついHEROモードに。

 自分でもエッチとエロな奴だと反省した。


「夢見心地の綺羅は普段と違って、触っても怒らないし」


 柔らかな感触、その反応を楽しんでいたのだが。

 

「――お、弟の犯罪行為を見てもうた」

 

 聞きなれた女の子の声に振り返ると、

 

「はっ!? ね、姉ちゃん……!?」

 

 こちらに呆然とした表情を向ける姉の凛花がそこにいた。

 あからさまな白い眼を向けられてしまう。

 

「……なんで、姉ちゃんがここにおるんや」

「いくらモテへんからって、女の子を眠らせてまで犯罪しようなんていう最低野郎に弟が育ってしまったなんて……。あれか、睡眠姦とか言う犯罪やな」

「めっちゃドン引きされてる!?」


 姉の信頼が音を立てて崩れ去っていた。

 思わぬ勘違いから犯罪者の目をされてしまっている。


「お、大きな誤解だ、誤解っ。俺は犯罪者じゃない。ホントなんですっ」

「はいはい。言い訳は警察署の方で聞かせてもらうで」

「これは、その……くっ、言い訳が思いつかん」

 

 無防備な女子に対して、犯罪的行為に似たことはしてしまったかもしれない。

 だが、これを犯罪とされるのはかなり辛い。

 

「男ならこの状況に何の悪戯もしないわけがないじゃないか(開き直り)」

「開き直るな、アホ。……声が大きい。その子が起きるやろ」

「すみませんでした」

 

 弘樹は慌てて口元を押さえて綺羅を見るが、まだ眠ったままだ。

 

――よかった、今ここで起きられたら俺、オワタ。


 悪戯してたと知られたら嫌われてしまうのは確実だ。

 綺羅を起こさないように、互いに小声で話しあうことにする。

 

「で、姉ちゃんがなぜここに?」

「噂の彼女がどんな子か見に来ただけや。この子がそうなん?」

「あぁ、いつも一緒に昼飯を食べてる子。綺羅っていうんだ」

「ふーん。話では聞いてたけど、めっちゃ可愛い子やん」

 

 凛花は綺羅に興味があったようで、その顔をしばらく眺めていた。

 無垢なる子猫のような寝顔。

 

「可愛いなぁ。膝枕で昼寝中の彼女をいたずらしようとしてた、と?」

「ちょっと頬を触っただけで、やましい事はしてません。ホントです」

「それならいいけど。ずいぶんと信頼されてるんやね。これは意外やわ」

 

 この状況になったのは綺羅にとっても想定外だろう。

 いつもなら、人前で無防備な寝顔をさらす子ではない。

 この春の陽気による眠気に負けた結果である。

 

「……アンタ、この子の事が好きなんか?」

「え?」

「気になる子って言ってたけど、ぶっちゃけ好きやろ? そうに違いないわ」

「な、何をいきなり言ってるんだよ」

 

 思わぬ方向から凛花にからかわれて照れくさくなる。

 

「ほんまに好きやったら、早く気持ちを伝えておかなアカンよ」

「……そうかな」

「アンタは肝心な所でヘタレる子やからな。姉としては心配やわ」

「ヘタレ言うな、ヘタレって! 俺なりにいつも頑張ってるし」

 

 彼女は「今度、起きてる時にその子を紹介してな」と立ち去っていく。


「えらい所を見られてしまった」


 姉相手にどっと疲れてしまう。

 弘樹は綺羅の寝顔を眺めながら自分の気持ちと向き合っていた。

 凛花に言われたからか、妙に意識してしまう。

 

「俺って綺羅の事が好きなのかな」

 

 初めて会った時から、弘樹の中にあった彼女を想う気持ち。

 ここ最近になって、急接近したりして。

 

「素直じゃないけど可愛い姿を見せる綺羅に興味があるのは事実だ」

 

 何と言うか放っておけない子である。

 不器用で、孤独好きで、でも、本当は甘えたがりな所もあって。

 今まで好きになった子とは違い、心の底から弘樹が傍にいたいと思えるのは人生で彼女が初めてかもしれない。

 

「……俺って、普通に綺羅の事が好きなんじゃね?」

 

 好きか嫌いか、なんて考えるまでもなくて。

 自分の中に確かな綺羅への気持ちがあるのだ。

 

「そっか。俺は綺羅の事が好きだったんだな」

 

 認めてしまえば、この気持ちが恋心なんだと分かる。

 

「――綺羅の事が好きなんだ」

 

 どうしようもなく愛しい気持ちが彼の中に芽生えていた。

 休憩時間ぎりぎりまで彼女の寝顔を見ていた弘樹はようやく綺羅を起こす。

 弘樹に起こされて戸惑う綺羅は慌てて飛び起きた。

 

「え? な、なんで私が先輩に膝枕されてるの!?」

「一応言っておくが、お前の方から抱きついてきたんだからな? 誤解するなよ?」

「わ、私がヒロ先輩相手にそんなことするはずないじゃん」

「甘えるようにしてきたのです。ほら、起きて、起きて」

 

 膝枕されて寝顔をさらした綺羅は、頬を紅潮させて「HERO先輩の変態っ!」と叫びながら慌てて教室へと逃げていった。

 その後姿を眺めながら弘樹は微笑する。

 

「……あははっ。可愛いやつめ」

 

 彼女への恋心を自覚しながら、弘樹は自分の教室へと戻ることにしたのだった――。


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