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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第3シリーズ 『猫系女子のしつけ方』
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第23話:確かめ合う気持ち



 好きだと認め合う事の恥ずかしさ。

 それを幸せだと思えること。

 今の優那の心は、失いかけていた何かを取り戻しつつあった。

 すっかりと真っ暗になり、静まり返った公園。

 優那は千秋に抱き締められながら、


「そうだ、千秋。私が数年前に書いて渡せなかったラブレターがあるんだ。それを受け取ってもらえるだろうか?」

「もちろん」

「はっきり言っておく。昔の私の言葉だ。今の私の言葉ではない」

「恥ずかしさに照れてるな。大丈夫だよ、言葉は違っても想いは一緒だろ?」


 あの頃の想いを取り戻した。

 優那は小さく頷いて、彼を愛することを受け入れる。

 家に帰ると、隠していた一通の手紙を手にする。

 リビングの棚の奥から取り出した手紙。

 少し色褪せてはいるが過去の優那が一生懸命に考えて書いたものだ。

 

「これは千秋に渡すつもりだった。だが、渡す事もできず封印していた」

「……封印っていうか、押し込められて忘れた感が」

「ふ、封印してたんだ! そこに突っ込むな」


 優那自身、書いたことすら、記憶の彼方に消えていたけども。

 両親がいなくなってから優那も家の整理を最低限しかしなくなったせいでもある。


「キャラウェイに感謝しなくちゃいけないぞ」

「なんで?」

「この手紙はあの子が見つけてくれたんだ。頭くらい撫でてやれ」

「……おー、のー。そうですか、キャラ様でしたか。猫は苦手だが、猫缶くらいは買ってやろう。頭を撫でるのはごめんなさい」


 キャラウェイが見つけてくれなければ、優那は踏み出す勇気も持てなかった。

 何がきっかけになるか分からない。

 

「あの時の想いがそこには込められている。千秋には私の今の想いだけでなく、過去の想いも受け取ってもらいたい」


 手渡された手紙を千秋は感傷深く眺める。


「ほぅ、これが……」

「あまりジロジロとみるな」

「いやー、だって、あの優那が書いた初めてのラブレターだぜ。初めてのラブレター。その響きにお兄さんは嬉しさ倍増だぜ」

「う、うるさいなぁ」

「照れてる。さて中身は、と……?」


 手紙の封を開けて過去の優那の想いを知る。

 可愛らしい文字で書かれたその文章は当時の気持ちが鮮明に残されていた。


『私はちーちゃんの幼馴染になれた事が1番の幸せなんだよ』


 最初はそんな幼馴染としての想いから始まっている。

 幼馴染の男の子として人生のほとんどを一緒に過ごしてきた。

 傍にいて、彼に恋をして。

 そして、好きだという気持ちは誰にも負ける気はしなかったあの頃。

 

『だって、この広い世界で大切な人と巡りあえる可能性は限られれているんだから。こういうのを“運命”って呼ぶんだって。運命、私はその相手がちーちゃんだって信じている。ちーちゃんも信じてくれる?』


 昔から優那は千秋に頼り切っていた。

 優しい男の子。

 優那が泣いてばかりいると、すぐに慰めてくれて。

 涙を拭ってくれると涙が自然に止まって、いつも笑顔にさせてくれる。


『遊び半分で初めてのキスをした時からこの気持ちが恋だってことに気づいた。ちーちゃんは恋人ってまだまだ私の事を思ってはくれていないはず。でもね、私は幼馴染より恋人になりたいの。せっかくの運命の相手、ずっと傍にいたいもん』


 よくその事で友達からからかわれたりして。


――それでも、否定できないくらいに千秋が好きだったんだ。


 小学生なんて恋に憧れるだけの時期だ。

 恋人の本当の意味すら知らなかった。

 だけど、幼馴染と言う関係を変えてその先に行きたいと願っていた。


『大好きなちーちゃん。私を恋人にしてくれますか?』


 手紙を読み終えた千秋は優那に視線を戻す。

 見つめ合う瞳。


「今の想いも過去の想いも、受け取った」

「……恥ずかしい台詞を言うな、バカ」

「照れるな、照れるな。懐かしいな。ちーちゃんって呼んでくれた頃の可愛い時代の優那を思い出したよ。確かに優那はこう言う子だった」


 可愛げのある少女時代が懐かしい。

 手紙を大事に仕舞い込むと彼は満面の笑みを浮かべて、

 

「俺の恋人になってくれ」


 彼は微笑と共に、そっと優那の頬を撫でる。


「分かった。恋人にしてあげてもいい」

「……上から目線かい」

「ふ、ふんっ。いいだろう、もうこんな羞恥プレイは……」


 好きだと言う思いを通じ合わせたのだ。

 これ以上の羞恥責めに耐えられない。


「千秋と恋人になれてよかったよ」


 それだけを言い返すのが精いっぱいだった。

 そんな様子を彼は微笑ましく見つめながら、


「なんていうか、優那は変わってるようで変わってないよな」

「ん?」

「面倒くさがりで、素直じゃなくて、可愛げはなくなったけども」

「おい」

「でもさ、照れ屋でも、相手に気持ちを伝える時はちゃんと人の目を見て話す所とか。全然変わってない。昔の優那のままだよ」

「……ぅっ」


 そんなことを言われて、優那は思わず固まってしまった。


「だから、お前は……!」

「ははっ。ホント、今の優那はいい。こんなにも感情をあらわにしてくれるのは久しぶりだな。優那の表情がいきいきとしてるっていうか、俺は今の優那が好きだな」


 恋心を取り戻したことが優那に変化を与えたのか。

 優那は軽く唇を尖らせて拗ねながら、


「……ちーちゃん。またそう呼んでもいいか?」


 千秋の呼び名を昔に戻す。

 それを聞いた彼は「マジで?」と驚いてみせる。


「ダメか?」

「いやいや、全然いいっすよ。うん、それこそ優那だ」

「今さら性格はすぐに戻せない。けれど、変えていける所は変えて行きたい」


 自分に素直になろうと決めた。

 やれることから少しずつ、前へ進んでいきたいから。

 

「大好きだよ、ちーちゃん」


 もう一度、キスを交し合う。

 心と心の繋がりあう感じに満たされていく。


「私の幼馴染でいてくれてありがとう」

「……感謝するのは俺の方だな」


 幼馴染であるという事は、どんな他人より近い存在でい続けたと言う証。

 大好きだよ、その言葉を自分の心に刻みつける。


「優那。俺は今まで言ってみたかった台詞があるんだがいいか?」

「なんだ、ちーちゃん。今の雰囲気に合う言葉なら許可しよう」

「――今すぐ優那を抱きたい」

「ストレートすぎるわ!?」


 真面目な雰囲気を消し飛ばす千秋のバカ発言。


「だって、優那が可愛すぎて……欲望が抑えきれないんだ」

「気持ち悪いから私に近づくな。こ、こら、やめろってば……んっ」


 ちーちゃんに押し倒されるも嫌な気がしないのは優那の恋心ゆえか。

 愛する気持ちと共に優那達の新しい日々が始まった――。

 


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