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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第2シリーズ 『猫系女子は俺の嫁になりたがっている』
58/120

第17話:俺たちの娘じゃないよ?



「にーにー♪」


 伊月の部屋で妹の咲綾がベッドの上で跳ねる。


「こーら。あんまり騒ぐな、咲綾。ベッドから落ちるよ」


 そのまま彼女を抱きかかえて膝の上にのせる。

 幼い妹と戯れながら漫画雑誌を読んでいると、


「亜衣か。どうしたんだろ?」


 携帯電話に着信あり、そのまま電話に出るとデートのお誘いだった。


『伊月、週末は私をデートに連れていきなさい』

「さっそく上からの物言いだな。いいけど。どこが所望だ?」

『お互いの家以外ならどこでも。結婚して初めてのデートよ』

「付き合って初めての間違いでは?」


 心情的にはそうなのだが、はっきりと言える立場ではない。

 すぐさま、愛からは不満そうな口調で抗議が入る。


『……今さら何か文句でも?』

「いえ、何でもないです」


 あまり気にしていると亜衣の機嫌を損ねる。

 ただでさえ、気分やなのに怒らせると手におえない。


『伊月は私と結婚してる自覚がまるでなさすぎる』

「……実感がないだけで、亜衣が好きな気持ちに嘘はないよ」

『夫婦の気持ちが足りない。指輪とか自分が痛い出費をしないと自覚しないのね』

「男の気持ちと覚悟を“痛い出費”って言わんといて」


 さり気に指輪を要求されても、無い袖は振れない伊月である。


「にーにー」

『もしかして、咲綾が近くにいるの?』

「今も遊んでる最中だ。子育て奮闘中です」

『……それなら咲綾も一緒にピクニックでも行く?』


 亜衣の提案に伊月は「いいのか?」と尋ね返す。


「一応、初デートのつもりだけど。咲綾も連れてでいいのか」

『いいわよ。私は咲綾も大好きだもの』

「お前がいいのならそれでいいけどさ。咲綾、明日は俺と亜衣と3人でおでかけだ」

「ホントに? やったぁ」


 小さな手で万歳する妹に笑いかけながら、


「咲綾も喜んでるよ」

『そう。こっちでお弁当は作るから』

「それなら、頼んだ。楽しみにしてるからな」


 亜衣は料理がかなり上手なので期待もできる。


「デートか。幼馴染とは違うんだよな。幼馴染ではなく、恋人として……でもなく、夫婦として? ……大人の階段を二段飛ばしで登ると大変だ」


 関係上はもう既に夫婦である。


――慣れていくしかないんだよな。


 だが、心情的には恋人であり、その辺が伊月には微妙なものだった。






 翌朝、伊月は咲綾の着替えを手伝っていた。


「にーにー、見て? これでいい?」

「おぅ。よく似合ってるぞ。母さん、咲綾の帽子は?」

「これやで。この前買った奴やけど、すごい似合っているわぁ」


 咲綾もお気に入りの服を着て、準備完了。


「せっかくのデートやのに、咲綾も一緒でよかったん?」

「いいよ。俺も亜衣も咲綾が好きだから気にしないよ」

「アンタらはええ子やなぁ」


 凛花は「ほな、亜衣ちゃんによろしくな」と子供たちを見送る。

 家を出て近所の亜衣の家へと向かう。


「ピクニックとかいつ以来だっけ? 春頃にしたよな」

「うんっ。ねーねーと3人で楽しかった」


 初夏の日差しから肌を守るように、咲綾はピンクのフリルのついた可愛らしい帽子をかぶっている。


「お祖母ちゃんたちに買ってもらった帽子、よく似合ってるじゃないか」

「うんっ」


 咲綾は満面の笑みで答える。

 すぐに彼女と共に亜衣の家に向かうと、門の前で待ち構えていた。


「おはよう、咲綾。ついでに伊月も」

「……俺がついでか」

「咲綾、可愛いね。可愛い帽子、買ってもらったの?」

「無視っすか、俺? 愛されてるんですよね?」


 隣で嘆く伊月を横目に亜衣は咲綾を可愛がる。


「髪の毛も少し伸びた? ホント、いつみても咲綾は可愛いねぇ」

「ねーねー♪」


 咲綾も嬉しそうに抱きしめられている。

 惜しみない愛情を向ける亜衣。


「……ホント、亜衣は咲綾が好きだな」

「大好き。私の妹みたいなものだもの」

「その感情をもっと俺にも向けてくれ。可愛げのある対応を求む」


 咲綾の頭を撫でる亜衣はふっと鼻で笑う。


「だって、伊月は可愛くないもの」

「男に可愛さ求められても困る。俺と咲綾のどっちが好きなんだよ」

「伊月は伊月で好きだけども、咲綾の方がもっと好き」

「ちくしょー。この際、咲綾と結婚しちゃえ」


 扱いの差に嘆き悲しむ。

 そんな彼に呆れた様子の亜衣は、


「……はぁ、男の嫉妬は見苦しいわ」

「ちげぇよ!?」

「私が伊月を愛してるのは当たり前の事だし。確認しあうまでもないと思うけど。拗ねると面倒だから、こうすれば大人しくなるかしら」


 ふいに亜衣は伊月のキスをする。

 唇をふさがれる突然の行為に伊月は「なぁ!?」と驚きながら、

 

「これでいい?」

「お前はいきなりすぎなんだ!? 咲綾の目の前でなんてことを」


 キスした本人は特に気にする様子もない。


「だって、伊月が拗ねるから」

「そんな面倒くさい子を相手にするような言い方やめれ」

「キスされて嫌だった?」

「……嫌じゃないけどさ。亜衣は突然なんだ」


 彼女は「私はしたいと思ったらする主義よ」としれっと言う。


――そういう子だよな、亜衣って。


 伊月が思ってるよりも、積極的である。

 特に恋愛においては亜衣には敵わない。

 主導権は常に相手に取られてばかりいる。


「……伊月の独占欲が垣間見えて少しうれしい」


 亜衣は伊月に微笑んでみせると、「それ、ずるいや」と呟くしかなかった。

 

「ピクニックに行く公園って山の方の大きい公園だよな」

「咲綾もあそこなら楽しめるでしょ」

「……俺達も子供の頃、何度か遊びに行ったよな」


 幼い頃の記憶を思い出しながら伊月は懐かしむ。

 家族ぐるみの付き合いのあり、両親とそろって公園に遊びに行ったこともあった。


「そうね。いつだったか、伊月が迷子になって、皆で探した記憶があるわ」

「都合よく記憶を改ざんするな。その原因を作ったのはお前だ」

「え? そうだったかしら?」


 わざとらしい口調に伊月は「覚えてるくせに」と呟いた。


「亜衣がお気に入りのハンカチを公園内で無くしたっていうから、俺が探しに行ったんだ。そうしたら、ハンカチは見つかっても、周囲に誰もいなくてさ」


 結局、伊月は母達に見つけられたが、泥だらけでひどく怒られたのである。


「……あの時ほど、解せぬと思ったことはない。褒められてもいいはずなのに」

「ちなみに、せっかく探してくれたハンカチはその日のうちにゴミ箱へ」

「もっと救いようがなかった!?」

「だって泥に汚れてたんだもん。気持ちは受け取ってたから大丈夫」


 必死に自分のハンカチを探してくれたことは亜衣にとっても嬉しかった。

 その結果が迷子にさせてしまったことに幼心に罪悪感も抱いたものだ。

 公園まで3人で歩いてると、クラスメイトと数名遭遇する。


「あれ? 滝口クンたちだ。……え、子供が一緒にいるんだけど?」


 彼女達の視線が幼い咲綾に向けられる。


「もしかして、もしかすると……二人の子供?」

「そんなわけないだろ!? 何歳の時の子供だよ」

「そ、そうだよね。一瞬、マジで? とか疑っちゃった。お似合いすぎる」


 クラスメイト達は興味がある様子で「その子は誰?」と尋ねた。


「俺の妹だよ、妹。年の離れた妹であって、俺たちの娘ではありません」


――気持ち的には妹よりも娘に近い感情はあるけども。


 説明には納得したようだが、彼女達は咲綾の頭を撫でながら、


「すごく可愛いじゃん。3歳くらい?」

「ふたりって関係的には夫婦なんでしょ。すごく自然に見える」

「……だよねぇ。亜衣さんと手を繋いでると親子にも見えたり」


 実際、彼らの3人を遠目に見れば、親子だと勘違いする人もいなくはない。

 近所の人たちからは同じようにからかわれる事もある。


「お似合い夫婦は仲良くデート中? それとも疑似親子プレイ?」

「そんなマニアックなプレイをする気はないっす」


 話題のネタとばかり、散々からかわれて、疲れた顔をする伊月は言った。

 

「女の子って、おしゃべり好きだよな」

「いいじゃない。それに、それだけ私達が自然な関係に見えるってことだもの」


 咲綾の小さな手を握りながら亜衣は優しく微笑む。


「……いつかは私達の本当の子供とこうして歩くかもしれないし」

「亜衣は子供が好きだよな」

「伊月だって好きでしょ。特に小学5年から6年生あたりの成長期の少女とか」

「それは子供好きの意味が違う! 人をロリ扱いしないで」


 亜衣の一言に傷つきながらも、初デートが始まる――。

 


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