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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第1シリーズ 『俺の彼女は猫系女子』
39/120

第38話:人生経験が活かされて何よりです


 綺羅とデートをする時は結構、気を使ったりする。

 彼女は普通の子と違って、人ごみを嫌うからだ。

 いつもは人通りの少ない場所に行ったりするのだけども、本日は弘樹が自由に選んだデートコースを楽しむことになった。

 午前中は繁華街でウィンドウショッピング。

 綺羅に流行とかの服とか着せてみたけど、あんまり興味がないらしい。

 お気に入りのブランドがあり、他のブランドの服は着ないそうだ。

 そのあとは映画を見て、今はケーキ店で食事をしていた。

 

「どうだ、綺羅?」

「……美味しい。このお店に来るのは久しぶり」

 

 素直じゃない物言いで美味しそうにロールケーキを食べる。

 人気のスイーツが食べられるケーキ屋で休日の今日は女の子が多い。

 店内が賑わうのをまるで無視するかのように黙々と食べ続ける。

 

「ここは先輩が選んだお店なの?」

「姉ちゃんからお勧めのお店を聞いてきたんだ。美味いだろ?」

「……やっぱり、凛花さんを頼ったんだ。先輩チョイスにしてはずいぶんとオシャレなお店だから変だと思った」

「美味しくないお店よりもいいだろ。俺はあんまり自分でこういうお店に行くことなんてないんだからさ。俺ひとりなら、こんな女の子だらけの空間に耐えられん」

 

 これを『うわぁ、女の子がいっぱいだぁ』と、喜べる状況とは違い、超がつくほどのアウェー感を抱くことになるだろう。

 綺羅がいるからこそ、恋人連れとして何とかこの場に耐えられている。

 フルーツがたっぷり入った生クリームのロールケーキ。

 彼女は満足気にフォークで小さく切り分けながら食べている。

 

「このお店のケーキは別のものを食べたけど、味が美味しくて見た目も綺麗だから好き。この新作のロールケーキはかなり美味しいね」

「お嬢様の綺羅に満足してもらえるとよかったよ」

「先輩が思ってるほど、私はお嬢様じゃない」

 

 綺羅に自覚がないだけで庶民から見れば、十分にお嬢様だ。

 弘樹はさっき見てきた映画の感想について話し合う。

 

「映画、面白かったか?」

「見たかったミステリードラマの映画版。先輩が選んだにしては評価する。内容も満足の出来だった。……ひとりだと常にレンタルで家で見るタイプだから」

 

 綺羅は本好きな一面があり、この映画も原作は小説だ。

 それがテレビドラマになり、人気があったので弘樹も知っていた。

 その劇場版を綺羅が見てみたいと言っていたので、今回選んでみたのだ。

 

「気に入ってもらえてよかったよ。でも、いまいち、内容が難しくて分かりにくかったところがあったんだよな。どうして、真犯人の家族は……」

 

 綺羅に見た映画の内容の解説をしてもらうと、適格で分かりやすかった。

 

「だから、犯行動機も彼女の過去が原因なの。幼い頃からの私怨ってわけ」

「なるほど。あれが伏線だったのか。全く気付かなかったぜ」

「……あれくらい気づいてあげてよ。スルーされたら脚本家が泣くよ」

「フラグとは気づきませんでした。もっと分かりやすくてして」

 

 よく内容を理解しているので、なるほどと思わされれる。

 一緒に見てた時はかなり集中してみていたものだ。

 

「綺羅は普段、無口なほうだけども、好きなものを話すときは饒舌になるよな」

「そう?」

「可愛いと思うよ。もっと、そんな綺羅を見てみたい」

「……うっさい」

 

 彼女は照れた顔を隠すように手で顔を覆う。


「顔を隠すなよ。可愛い顔なのに」

「意地悪を言う先輩は嫌いだ」

 

 綺羅をからかいながら、食事を続ける。

 弘樹はコーヒーを飲みながら、チーズスフレを食べる。

 ふわふわした柔らかい食感が特徴のケーキは彼のお気に入りでもあった。

 

「ケーキを食べ終わったら、最後にもう一か所だけ付き合ってくれるか?」

「あーあ……また私を変な場所へ連れていくのね」

「また、ってところに期待があるような気もするが」

「もう先輩に騙されてホイホイとついていかない。この前はひどい目にあった」

「ひどい目って」

「後ろからされるのは何か怖いからヤダ」

 

 まだまだお互いに気恥ずかしさはある。

 

「……綺羅だって嫌がってなかったじゃん」

「い、嫌がってないけど恥ずかしかった。先輩はもっと私の気持ちを配慮すべき」

「今度はもっと、時間をかけろと言うことですか?」

「違うからっ。もういいっ、この変態めっ」

 

 ぷいっと拗ねてしまった。

 可愛いけども、不機嫌にさせるとあとが面倒なのでご機嫌を取る。

 

「今日はそういうんじゃなくて……海、見たくないか?」

「……海?」

 

 不思議そうな顔をする綺羅。

 弘樹は本日最後のデートスポットに向かうことにした。

 

 

 

 

「……海は海でも、魚が見れるって意味だけどさ」

「アクアリウムなんてすごく久しぶり」

 

 繁華街の郊外、バスで向かった先はアクアリウムだった。

 綺麗な水槽の中を泳ぐ魚たち。

 家族連れでにぎわう中をゆっくりと歩いて回る。

 

「最後は落ち着いたところがいいかなって。綺羅が苦手な場所に連れて行ってばかりだと楽しめないだろ? 今日、デートして思ったけど、繁華街は綺羅にとって、あんまりいい場所じゃなさそうだったからな」

 

 ウインドウショッピングしていても、周囲が気になる様子だった。

 心の底から楽しめていたかというとそうではないと思う。

 ここなら、人は少なくないが、うるさくもないので、綺羅も楽しんでくれるはずだと弘樹は思いやってきたのだった。

 

「……先輩とのデートでここに連れてきてもらえるとは思わなかった」

「人生経験が活かされて何よりです」

 

 年上のお姉さま方とのデート経験が無駄ではなかった。

 この水族館も何度かデートで利用したことがあるのだ。

 嫉妬しやすい綺羅には言わないけども。

 

「……綺羅は魚とか好き?」

「可愛いのは何でも好き」

「お前らしいな」

 

 水槽を泳ぐ熱帯魚の小魚を眺める綺羅。

 

「先輩は水族館とかよく行った?」

「俺が大阪に住んでた頃は大きな水族館があってな。親父を連れて行ってくれたんだ。だから、今でもこういう水族館は好きだな」

 

 あの頃の楽しかった思い出がある。

 

「ジンベエザメって知ってる? でっかいサメだよ」

 

 全長10メートル以上にも成長する巨大なサメだが、性格は大人しい。

 長生きをする魚としても有名である。

 

「テレビで見たことがある。サメだけど可愛い感じのお魚だよね」

「子供の時、あれを見たときに海ってすごいなぁって思った。海にはあんな大きな魚が泳いでいるし、種類もたくさんの魚がいる。世界って広いんだなって思ったよ」

 

 水族館にはたくさんの海の生き物がいる。

 綺麗な魚だったり、形の変わった魚だったり。

 多種多様、魚って本当にいろんな種類がいるから見てるだけで面白い。

 

「南国の海のコーナーだ。南国生まれは本当に見た目が派手な魚が多いな」

 

 サンゴ礁とかに住んでる魚は派手なのが多い。

 

「見ていても可愛い。この魚とか、よくサンゴ礁の海の映像とか出てくる子だよ。チョウチョウウオとか、スズメダイとか」

「魚ってすごく種類も豊富だよな」

 

 黄色の体に黒色のストライプが特徴の小さな魚が水槽を泳ぐ。

 

「先輩が好きなのは?」

「意外とアマゾン系の魚だったりする」

「ピラニアとか?」

「そう。ピラルクっていう、育つと2、3メートルになる淡水魚とか。ワニみたいな口が特徴のアリゲーターガーとかも好きだ。迫力あるもんなぁ」

「それ、外来種だからって日本じゃ駆除される奴じゃない」

「野生化したやつのことか」

「外の世界じゃ邪魔者扱い。水族館なら英雄になれる。人って勝手だなぁ」

「……現実的なご意見ありがとう。そうですね」

 

 綺羅と手を繋ぎながら水族館デートを満喫する。

 姿形の違う魚を眺めていると、話も盛り上がる。

 

「そういや、女の子ってクラゲとか好きだけど、綺羅はどうだ?」

「あれが可愛いとかいうセンスが私には理解不能」

「なぬ?」

「見た目的に全然、可愛さを感じない。うねうねした触手がキモイ。あれならまだウニとかの方がトゲトゲで可愛いじゃない」

 

 そっちの方が弘樹としては理解できなかった。

 アクアリウムデートをした子たちはみんな、クラゲが好きだったのに。

 ふわふわとした感じや、透き通った綺麗な体。

 幻想的な雰囲気が好きだという女子は多いが、綺羅のよう苦手意識を持つ子もいる。

 

――やっぱり、綺羅は普通の子と少し感性が違うらしい。

 

 水槽の中をぷかぷかと自由に泳ぐクラゲの姿。

 海水浴に行くときは天敵だが、見てる分には幻想的で可愛いと思う。

 

「これとかどうよ。プリズムの感じがとても綺麗じゃん」

「綺麗なのは認めるけども、それと好きなのは別。この触手とか見てたら気持ち悪い」

「そうかぁ?」

「それに、クラゲはそのものに味がないからそんなに美味しくないし」

「食べたことがあるんかいっ!?」

 

 食用としてもクラゲは消費されてると話には聞いたことがある。

 しかし、恋人が珍味の類を実際に食べたことがあるとは思わなかった。


「こりこり触感が美味しいとパパは言ってたけど、私は普通にまずいと思った」

「マジかよ。俺は食べたことがないや」

「珍味は珍味。好きか嫌いかは分かれるもの」


 アクアリウムの中で綺羅が一番気に入っていたのはハリセンボンやフグだった。

 膨らむフグに視線が釘付けにされている。

 子供のようにキラキラとした顔を見せる。

 

「フグは癒し系だなぁ。ぷにぷにとしたお腹とか触ってみたい」

「大阪人としてはなじみのお魚だな。大阪時代は“てっさ”と“てっちり”とかフグ料理をよく食べてた。東京じゃ高級料理だけど、向こうは庶民料理だからな」

「そういえば、フグ料理は大阪も有名だもんね。でも、こんなに可愛い子を食べるとかありえない。先輩は鬼畜だ……可愛いのは食べちゃダメ」

「クラゲはいいのか、クラゲは……」

「アレは可愛くない子だからいい」

 

 フグの大きい目や丸くて膨らむ姿可愛いと一番長い時間見ていた。

 綺羅の意外な好みも分かり、弘樹もアクアリウムは楽しめた。

 お土産にフグのぬいぐるみを買わされることになったのも悪くない思い出だ。

 帰りのバスの中、綺羅は弘樹に寄り添いながら、

 

「……たまにはこういうのもいいかも。あんまり人が多いところは嫌いだけど」

「今度はまた別のところに行こうぜ。夏休みになったら、もっとデートもしたい」

「うん。楽しみにしてる」

 

 綺羅の事を少しずつ分かってきて、弘樹たちは関係をより濃いものにしていく。

 

「ヒロ先輩と一緒ならどこでも楽しいよ」

 

 恋人とのデートを満喫しながら、「同感だな」と自分の幸せを実感していた。


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