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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第1シリーズ 『俺の彼女は猫系女子』
36/120

第35話:好きな子と一緒にいたら我慢なんてできるかぁ!


 恋人と食後のまったりした時間を過ごす。

 屋上は今日は曇り空と言う事もあり、弘樹達以外に2組しかいない。

 その2組も食事を終えたらいなくなり、久々のふたりっきりとなっていた。

 

「今さらだけど、屋上って人があまり来ない」

「んー。中庭とかの方が人気だよなぁ。お弁当派の子は大抵、あっちの方へ行くぞ」

「……人が少ない方が良い」

 

 彼女は携帯電話を触りながら呟いた。

 綺羅は未だに人が苦手らしい。

 他人との付き合い方が下手なだけなんだろうけども。

 

「この学校で友達は増えたか?」

「……先輩。友達って言うのは、人生でたったひとりでいいんだよ」

「いい事を言ってるようで、普通に寂しい奴だ。友達は作ってね」

「友達はいないけども、話相手は何人か。先輩が余計なお世話をしたせいで、今も話しかけてくる子はいるよ。面倒だけども、話すことくらいはしてる」

「友達になれるかもしれないのに、せっかくの機会を無駄にしないでほしい」

 

――人生にひとりでも、ちゃんとした友達がいればいいけどな。


 綺羅なりに頑張ってると言うことにしておく。

 

「まだ5月の半ばだ。そのうち、友達も増えるさ」

 

 後退ではなく、一歩前進しているだけマシなのかもしれない。

 それは彼女自身がよく分かっていることもである。

 歩みは遅くとも、前へ進むことは大事なのだ。

 

「――私にはヒロ先輩がいればいい」

 

 なんて事を恥ずかしそうに囁く。

 

――そういうことを真顔で言われると照れくさいや。

 

「可愛すぎるわ、うちの恋人は……」

 

 衝動に任せて弘樹は彼女を抱きしめる。

 強く抱きしめられて綺羅は戸惑う。

 

「せ、先輩? 学校で何をするの」

「……いいじゃん。今日は誰もいないし」

「そう言う問題じゃない。ええいっ、懐くなっ」

 

 弘樹から逃げようとする彼女を逃がさない。

 腕の中に閉じ込めてしまうことにする。

 

「綺羅、キスしてもいいか?」

「だ、ダメ。誰かに見られたら恥ずかしくて死ぬ」

「誰もいないって。ほら、周りを見てみろよ」

「……いないけど。誰か来たらどういいわけするの」

 

 きょろきょろと見渡す彼女。

 他の誰かに見られたら、と思うと心配になってしまう。

 

「先輩、ひっつかないで。き、キスしようとするなぁ」

「……俺の事が嫌いか?」

「それとこれは別。私はTime(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)は考えるべきだと思うの。TPOは守りなさい」

「だが、俺の場合は恋の衝動が勝つのだ! 青春とは立ち止まらない事なのさ」

 

――男の欲望、抑えられません。

 

「したい時にしたい事をする。それが若さと言うものです」

「私に合わせてくれるといったあの言葉は嘘か」

「合わせていくけど、時に衝動に負けることもある。許してくれ」

「嫌だ。都合のいい時だけそう言うもん」

 

 欲望全開の弘樹に対して彼女は呆れた顔をして見せる。

 好意を抱く相手だとしても節度は守ってもらいたい。

 

「最近、先輩が妙に馴れ馴れしい。心も身体も許したからと言って、調子に乗らないでくれるかしら? そして、まずは胸を揉みそうな手を離して」

「なんだよ。綺羅はないのか? 無性にキスしたい衝動になるとか?」

「私ちゃんと自制できてる。それに……場所を選ばない時はちゃんと甘える」

 

 今と昔の綺羅が違うと思うのはふたりっきりの場合はホントに甘えてくるのだ。

 素直に甘えてくるのは可愛い。

 その辺、綺羅は自制心があるといえる。

 

「……綺羅。今日もいい匂いがする」

「ひっ。匂いを嗅ごうとしない、この変態っ」

「可愛すぎるお前が悪いんだ。というわけで……」

 

 弘樹が顔を近づけようとすると猫のようにひゅっと避けて逃げる。

 

「無闇にキスはしない」

「どうしても?」

「ダメ。先輩も我慢って言葉を覚えた方が良い」

「我慢なんて、若さの前には成すすべなく倒されてしまうものなんだぜ」

 

――年下の恋人に諭されてる俺、悲しい。

 

 頑な態度に弘樹は悪戯したい気持ちもわいてくる。

 

「綺羅は俺とキスがしたくない、と?」

「……今は」

「キスなんてもうしなくていい?」

「……そ、そこまでは言ってない」

 

 ちょっと心が揺らいでいる様子。

 押し切ってしまえ、と弘樹は悪魔の誘いをする。

 

「いいじゃん、こっちで誰も見てない所でやっちまおうよ」

「……雰囲気がないのは嫌」

 

 あっさりと覆されてしまい、綺羅は再び弘樹から距離を取る。

 

「やっぱり、男の子はさかった動物と同じ。近寄ると危ない」

「……好きな子と一緒にいたら我慢なんてできるかぁ!」

「開きなおったし。もう、先輩は……はぁ」

 

 彼女はため息をひとつついてから弘樹に向き合う。

 

「一回だけだからね?」

 

 綺羅は長い髪をそっと手でかきわける。

 近付けた唇をそのまま、弘樹に重ねてきた。

 

「んっ……」

 

 唇が触れ合う瞬間に綺羅が笑う。

 綺羅が見せる笑顔は珍しい。

 付き合っていても、彼女が笑う事は少ない。

 

「ヒロ先輩、好き」

 

 でも、それゆえに、この笑顔にはとてつもない破壊力がある。

 弘樹の心を奪いとる。

 その笑顔を見せられたら、弘樹は完全に心を奪われてしまうのだ。

 唇を離した彼女は淡々とした表情に戻り、

 

「……これでいい? もうダメだからね。しばらく禁止」

「えーっ」

「文句言わないの。大体、こんなところ、誰かに見られたら……あっ」

 

 綺羅の視線が弘樹の背後に向けられる。


「ま、まさか……誰かに見られたとか?」

 

 弘樹が慌てて振り返ると、そこにいたのは――。

 

「――お、弟達のキスシーンを見てもうた」

 

 ものすごいショックを受けた凛花の姿がそこにあった。

 何度目かのこの展開、間が悪いのにも程がある。

 

「ね、姉ちゃん!?」

「ちょっと弘樹達に会いに来たら、ラブラブカップルぶりを見せつけられるとは……リア充め、一人身には辛いわぁ。嫌ぁ」

 

 苦悩する姉の姿に弘樹は「家族バレもきついっての」と呟く。

 

「姉にバレたのは仕方ない、姉でよかったと思うべきだろう」

「うちは嫌やで。なんでこんな場面に遭遇せんとアカンのや。最悪やで」

 

 姉弟としては恥ずかしいが、咎められたりするわけではない。

 恋人もできずに片思いばかりを続けてきた弟の苦労をよく知っているためだ。

 理解のある姉ではあるが、凛花の中で悔しさが渦巻く。

 

「……アンタら、いつもこんな所でちゅっちゅってしてるん?」

「ちゅっちゅって表現が古いと何度も言わせないでくれ」

 

――アンタはホントに大阪のおばちゃんかい。

 

 凛花は嘆き悲しいとばかりに顔を覆いながら、

  

「弟に恋愛で先を越されたうちの気持ちが分かるか?」

「みじめなものです、ぐふっ!?」

「ふんっ。余計なことを言わんでもいいわ。うちだって、頑張って見せるわ」

「お、おぅ。頑張ってくれ」

「その上から目線がムカつくわぁっ!」

 

 凛花の声が屋上に響き、弘樹と綺羅は顔を見合わせて微苦笑した。

 なお、キスバレの件で綺羅に後でお仕置きされたのは言うまでもない。

 

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