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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第1シリーズ 『俺の彼女は猫系女子』
29/120

第28話:ヒロ先輩は単純で扱いやすい


 綺羅にとって初めて懐いてくれた猫、アレキサンダーと戯れて遊び続ける。

 それは別にいいのだが、弘樹としてはちょっとした問題が発生。

 すでに2時間が経過、猫と戯れ続ける綺羅に放置されまくってます。

 

「あのさ、綺羅。猫と遊ぶのは良いが、俺もかまってくれ。暇なのです」

「……にゃんこと戯れてる方が楽しい」

「今の一言は俺にグサッと来たぞ!?」

 

 子猫の方にしか視線を向けてくれない。

 

「ふふ、アレキ。人懐っこくて素敵な子だわ」

 

 彼女はソファーに座ったまま、猫の背中を撫で続ける。

 アレキサンダーも嫌がることなく受け入れ続けている。

 動物が撫でられると喜ぶのには一説によると、体毛を撫でると言う行為に刺激を感じて快感を得られるからだと言う。

 女の子の髪を撫でると喜ぶのも同じ理由らしい。

 

「一応、聞いておこう。俺とアレキサンダー、どっちが……」

「アレキ」

「……まだ言い終わってません。俺とアレキサンダー、どっちが好きだ?」

「アレキ」

 

――答えを聞くまでもなく俺の惨敗だった!


 せめて、迷って欲しかったのに。

 現実というのは、思った以上に残酷なものであった。

 

「……俺達、付き合ってるんですよね?」


 思わず本音が零れ落ちる。

 綺羅に見捨てられて拗ねるしかない。

 

「人生とは儚いものよ、愛しい恋人を飼い猫に奪われてしまうなんて。よし、俺が綺羅を撫でよう。俺も楽しむぞ」

 

 ここはいつまでも拗ねている場合ではない。

 弘樹は綺羅に近付くと、その長い髪をゆっくりと撫でる。

 すると、彼女はこちらに振り向いて、キッと威嚇するように睨んでくる。

 

「私は猫じゃない。ヒロ先輩ごときが気安く触らないでくれる?」

「……す、すみません」

 

 ものすごく不機嫌で怒られた。

 

――あれ、おかしい……この前は頭を撫でたら喜んでくれたのに。


 何だか仲直りしてから、綺羅が気まぐれな性格に戻ってしまった気がする。

 

――元々、猫っぽい性格の子……忘れてましたよ、綺羅が猫系女子だってことを。


 だが、しかし、この程度でへこたれる弘樹ではないのだ。

 毎回、凹んでばかりの彼は卒業した。

 

「――綺羅の事を抱きしめたいんだっ!」

 

 

――俺はやる時はやる男だ、ヘタレの汚名を返上してやるぜ。


 意気込んで調子に乗る弘樹を彼女は小さく嘆息しながら、

 

「……好きにすれば?」

 

 返ってきたのは意外な反応。

 髪に触るのはNGで抱きしめるのは拒絶しないのか、どういう基準だろうか。

 多分、意味なんて特にない、ただの気分である。

 

「あ、あの、ホントに抱きしてめてもよろしいでしょうか?」

「なんで、きょどってるの?」

 

 逆に不思議そうな顔をされてしまう。

 

「だって、素直なんだか素直じゃないんだか良く分からんのです」

 

 乙女心って奴を弘樹は到底、理解できそうにない。

 許可を得られたので弘樹は綺羅を横から抱きしめてみる。

 ふんわりと柔らかな女の子の感触と温もり。

 いつもの苺の香りのする香水の香りに混じって、異性の匂いがする。

 綺羅の抱き心地は本当に最高だった。

 

「……綺羅は抱きしめてると心地が良いな。何度も言うが、俺は綺羅の抱き心地の良さが好きなんだ。好きな女の子の身体は男にとって、いつだって特別なのさ」

「このど変態め。天誅をくらえ。猫パンチ!」

 

 綺羅がアレキサンダーの手を掴んで弘樹に猫パンチ(右ストレート)をくらわせる。

 爪はまだそれほど鋭くなく、子猫の肉きゅうの感触が頬に当たる。

 弘樹にパンチをくらわせたアレキサンダーはのんきに小さく欠伸をする。

 

――ホントにお前は猫らしくない素直な心を持った猫だな。

 

「何をするんだ、綺羅。痛くないけど、気持ち的に痛いじゃないか」

「ふんっ。人の匂いをクンクン嗅ぐのが趣味な変態は恋人にいらない」

「だから、勝手に人を匂いフェチの変態にするな。そんな事は一言も言ってません」

「同じこと。ヒロ先輩のそう言う所は嫌い」

「えー、褒めたつもりなのに嫌われた!?」

 

 乙女心の機微に疎い弘樹に期待するだけ無駄でもある。

 

「ええいっ。そう言う事を言うのなら、本当にクンクンと匂いをかぐぞ」

「は、はい?」

「いいんだな? やるぞ、やっちまうぞ。クンクンしまくってやるぜ、げへへっ。覚悟しろよ、綺羅。今日から俺は匂いフェチになってやる」

 

 弘樹が悪意を持って彼女にそう言ってやると、

 

「……ごめん、HERO先輩。普通に気持ち悪いし、お願いだからやめてください」

 

 気持ち悪そうに彼女は素直に謝罪しながら頭を下げた。

 ドン引きを通りこして綺羅は涙目になり、恐怖で顔をひきつらせている。

 

「……うぅっ」

 

 今にも泣き出しそうなほどに怯えているのは弘樹のせいなのだろうか。


――やっちまったぜ。俺、変態やん。


 大反省しながら期のご機嫌を伺う。

 

「冗談です、もう言いません。こちらこそ調子に乗ってすみませんでした」

「ホントに変態は嫌だ」

 

 また破局危機は嫌なので弘樹は平に謝罪する。

 口は悪いが打たれ弱い綺羅の取り扱いはガラスよりも要注意なのである。

 

「ヒロ先輩。大人しくしておいて」

 

 しばらく、綺羅は無言で弘樹を無視する。

 弘樹はと言えば、綺羅の身体を抱きしめたり、頭を撫でたりとしてみるのだが。

 

「……」

 

 完全に無反応状態。

 

――は、反応してくれねぇ。俺は幽霊扱いですか、存在無視ですか。


 何をしても何の反応もないのが一番辛い。

 仕方ないのでお腹でもぷにぷにと触ってみる。

 

「……人のお腹に触らないで」

「やっと反応してくれた」

「セクハラ禁止。アレキと遊ぶ邪魔だから」

「せっかく恋人と一緒なんだから触れ合いたいんだ。もっと、こう何て言うのか、甘い雰囲気になったりとかさ。いろいろとあるでしょうが。俺はもっと綺羅と恋人っぽいことがしたいんだよ」

 

 恋人とふたりっきりのシチュならもっと弘樹たちの関係が発展してもいいと思う。


「いろんな妄想溢れる期待しちゃっても全然OKじゃないのか?」

「……ふっ。たかが、キスをした程度で恋人気どりはやめてくれる?」

「めっちゃ大人の女性的発言が来た!? 恋人扱いですらないのか、俺?」

 

――どれだけ大人の恋愛の経験があるんですか、綺羅さん。

 

 突き放す態度に「恋人なんだよね?」と再確認してしまう。


「……冗談だけど、本音に近い」

「本音だったらよけいひどいや」

「もう、先輩うるさい。これ以上私の邪魔をするんだったら……」

 

 綺羅はそっと弘樹の唇を指でなずる仕草をする。

 

「き、キスか。キスなのか。俺、キスされちゃうのか」

「違う。アレキの尻尾を口にくわえさせる」

「やめて!? リアルに口が毛だらけになるからやめて!?」

 

 彼女は小さく「ホント、うるさい」と呆れながら、

 

「……ちゅっ」

 

 弘樹の頬にいきなり唇を触れさせてくる。

 頬に濡れた唇の感触が伝わり、心臓がドキッと高鳴りを告げる。 

 

「き、綺羅……?」

「たまには私からしてみた。これはこれでいいかも?」

 

 何度目かのキスで慣れてきたのか、当初のような恐怖感は見えない。

 

「これで満足でしょしばらく大人しくすること。いい?」

「……はい」

 

 年下の恋人にすっかりと手なづけられている弘樹だった。


「ヒロ先輩は単純で扱いやすい」


 その可愛さと天然っぽさが魅力の綺羅である。

 ホント、綺羅には敵いそうにもない――。

 

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