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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第1シリーズ 『俺の彼女は猫系女子』
13/120

第12話:……好きだよ、ヒロ先輩



「最悪だ、最悪だ、最悪だ」


 彼女にとってデジャブ感のある叫び。

 綺羅は絶望感を抱きながらうなだれていた。

 

「ゴールデンウィーク中は気をつけて楽しむように」

 

 授業が終わり、担任がそう言ってHRを続けてる様を眺めていた。

 

「早く終わって欲しい。もうさっさとこの教室から消えてしまいたい」

 

 なぜ、綺羅がこんな風に絶望しているかと言うと昼休憩にやってしまったからだ。

 昼休憩、弘樹が教室まで綺羅を呼びに来た。

 告白の答えを求められたんだと思う。

 ……思う、と言うのはそこから先の記憶がないから。


「私、何をやらかした?」


 昨晩はほとんど眠れずにいたせいで、お昼ご飯を食べて急に眠気がやってきた。

 そのせいで、肝心な時には熟睡モード。

 弘樹と何を話したかも覚えてないありさまだ。

 

「何と言う失態、私のバカとしか言えない……はぁ」

 

 問題はそれだけでは終わってくれていない。

 HRが終わり、帰り支度の準備をしているとクラスメイト達から声をかけられる。

 

「綾辻さん、ゴールデンウィークはどこか行くの?」

「やっぱり、彼氏とデートとか?」

「すごく仲よさそうだもんねぇ」

「あんなに優しい年上の彼氏がいるって羨ましいなぁ」

 

 クラスメイトから微笑ましい顔をされて会話されて戸惑う。

 

「え? あ、あの……先輩とデートの予定はまだない」

「そうなの?」

「デートくらい誘いなよ。せっかく、彼氏がいるんだから」

 

 入学してからこれまで話した事がないクラスメイト達。

 綺羅自身も浮いた存在だと自覚していたくらいだ。

 それなのに、いきなり、こうも親しげに会話される展開になるなんて。

 戸惑わない方が無理と言うものだった。

 

「じゃぁね。またゴールデンウィーク明けに」

「彼氏さんとのデートの話を聞かせてよ」

「私も早く彼氏とか欲しいなぁ。バイバイ、綾辻さん」

 

 皆に声を掛けられて、綺羅は挨拶程度に軽く手を挙げることしかできない。

 

「ふふっ。綾辻さんって反応が可愛いよねぇ」

「意外と話してみると普通の子だったね。私達、誤解してかも」

「だよねぇ。見た目に騙されてかも。今度、遊びに誘ってみようか」

 

 そんな会話をしながら立ち去っていく女の子達。

 綺羅はその背を眺めながら大きくため息をついた。

 

「……どうしてこうなったの?」

 

 これまで、こんな風に挨拶すらされたことがないのに。

 あ然とする綺羅、妙に皆が親しげなのには理由がある。

 昼急終了間際、眠ってしまった綺羅を背負い、弘樹がこの教室にやってきた。

 綺羅は寝ぼけていたらしく、すぐに教室に戻っても寝てしまったらしい。

 そこで弘樹が去り際に皆に言ったそうだ。

 

『綺羅は無愛想で口数も少ないから、このクラスでもきっと浮いた存在なんだろうけど、ホントは可愛いやつなんだよ。皆も普通に接してあげてくれないかな。俺としては友達とか作って欲しいんだよね』

『そうなんですか? 私達が会話しても全然反応してくれませんし』

『猫みたいに気分屋なだけさ。挨拶程度でもいいから、声をかけてあげてくれないかな。綺羅は無愛想だけども悪い子じゃない、素直になれないだけなんだ』

『分かりました。私達も、綾辻さんのこと、話してみたいと思ってたんです』

 

 そんな話があったらしくて、皆が綺羅に声をかけるようになったと言うわけだ。

 綺羅が周囲に作り続けてきた壁を、あっさりと弘樹が壊した。

 そもそも、背負われてここに来た時点で恥ずかしいのに。

 綺羅の羞恥心の限界を突破させる行為。

 

「あの人らしいと言えば、そうなのかもしれないけども」

 

 平然とそんなことをやってのけただけじゃなく、クラスメイトの綺羅に対しての印象を変えてしまうなんて想定外だ。

 綺羅が教室を出ると「おーい、綺羅」と呼ぶ声に振り向く。

 

「待っていたぞ」

 

 廊下で綺羅を待っていたのは弘樹だった。

 その爽やかな笑顔が今は何かムカつく。

 

「……先輩、私の教室で何をしたの?」

「ん? あっ、さっそく効果があったのか? どうだ、誰か話かけてきたか?」

「いきなり、話しかけられ過ぎてびっくり。ほとんど話した事ないクラスメイト達に声かけられて、あれこれ言われて戸惑ったわ」

「いいことじゃないか。友達ができたらいいな」

「全然よくない。全部、先輩のせいだ。どうしてくれるの?」

 

 人と接する事が苦手な綺羅にどうしろと言うのか。

 そもそも、弘樹は恋人じゃないのに、彼氏扱いされていた。

 否定しても恥ずかしがってるとしか思ってもらえなかった。

 そんな綺羅を見て、彼は微笑しながら言うのだ。

 

「クラスの子達も、前から綺羅に興味があったらしい」

「そうなの?」

「ただ、綺羅って反応が少ないだろ。だから、どう接したらいいか分からなかっただけって感じみたいだ。これから、少しずつ慣れていけばいいさ」

「別に慣れなくてもいいのに」

「そう言うなって。些細なことでも、会話をする相手がいるって良い事だぜ」

 

 ポンッと軽く綺羅の頭を撫でる。

 そうされるのは嫌いじゃないので素直に受け止める。

 

「……先輩ってさ、やっぱり変だね」

「そうか?」

「その自覚がない所がムカつく。HERO先輩のくせに」

「お前さ、俺をエロとエッチな変態扱いするのだけはホントにやめてくれません?」

 

 綺羅が拗ねながら、校舎を出て雨の降る空を見上げた。

 ふり続ける雨粒が地面に水たまりを作っていく。

 

「朝からずっと雨だなぁ」

「夕方になっても雨はやまず、か」

「明日からは晴れるって言ってた」

 

 水たまりを避けながら、傘をさして歩きだす。

 彼とふたりで一緒の傘で帰ったのはつい先日の事だ。

 今でもあの恥ずかしさは思い返すだけで何とも言えない気持ちになる。

 

「……うぅ」

 

 告白の返答をどう返せばいいのか悩んでると、弘樹の方から切りだしてきた。

 

「昨日の告白の答えを聞かせてくれないかな」

「……私からも聞きたい事がある。何で、私なの?」

「何でって言われてもな。好きになった理由のことか?」

 

 普通に考えらたら綺羅なんか好きになるはずがない。

 好きだと言われても信じられない。

 

「そうだな。どこを好きと言われたら……」

 

 彼はきっかけについて話し始める。

 

「一言で言うと……抱き心地がよかったから」

「この変態め。二度と私に近付くな」

 

 あまりにもストレートすぎるのにドン引きした。

 

「いきなり、何を言い出すのかと思えば。欲望にまみれてると言うか、人の身体目的だったなんて。最悪だ。危うく騙されるところだったわ。HERO先輩は危険」

「ま、待て、誤解だ。変な意味じゃない」

「違うの?」

「ほら、お前が木から降りられなくなった、最初の時に抱きしめたじゃないか」


 二人の最初の出会い。

 あれがなければ接点なんて何もなかった。


「綺羅を抱きとめた時に、女の子の身体って柔らかいなぁと改めて実感したわけだが」

「……変態にもほどがあるわ。あの時、私の身体に欲情してたの?」

 

 思わぬ変態アピールに綺羅は弘樹から離れる。

 

「だから、違うって。綺羅の身体を抱きしめた時、この子をもっと抱きしめたいって思った。そう考えたら、俺って綺羅に一目ぼれしてたのかもな」

「……それ、嬉しくないけど?」

 

 変態的な理由で好きになられても困るだけだ。

 もっと具体的な何かを期待してたのに。

 抱き心地って言われて嬉しいと思うほど綺羅は変わっていない。

 

「あとは、綺羅の笑った顔を見てみたかったから」

「……笑った顔?」

「ほら、綺羅っていつもむすってしてるじゃん。笑顔を見たいって思ってた。綺羅が笑ってくれたら俺はもっと好きになると思う」

「……っ……」

 

 そんな言い方はずるいと思う。

 綺羅は確かに笑う事が少ないけども、笑えないわけじゃない。

 それを見たいと言ってくれる弘樹の気持ちが少し心地よくて。

 

「……ん? 歩いてる間に雨がやんだな」

 

 いつのまにか雨がやんでいた。

 ふたりして、傘を閉じて空を見上げる。

 雨がやんで空には雲の隙間から青空がのぞいている。

 

「……先輩、告白の答えだけど。先輩と付き合ってもいいよ」

「え? ホントに?」

「私みたいなのに興味があるなんて先輩くらいだし。それに」

「それに?」

 

 綺羅の中にある彼を思う気持ち。

 猫のような彼女にだって。

 ほんの少しだけ素直になりたい時もある。

 

「私以外の女の子が先輩の隣にいるのを見たくない」

「綺羅……そういう事を言うと抱きしめたくなるだろ」

「……あっ」

 

 綺羅は弘樹に抱きしめられていた。

 あがったばかりの雨の匂い。

 抱きしめられた綺羅はただそのまま身をゆだねる。

 

「やっぱり、綺羅の身体は抱き心地が良いな」

「そればっかり」

「ホントなんだからしょうがない。俺、嘘はつけないタイプだからさ」

 

 弘樹に抱きしめられているのも嫌ではない。

 綺羅はもう少しだけ素直になって自分の気持ちを口にした。

 

「……好きだよ、ヒロ先輩」

 

 たった一言を絞り出すのに、どれだけの勇気がいることか。

 羞恥心で顔を真っ赤にさせる綺羅を彼は優しく受け止める。

 

「やっと、素直になってくれたな。綺羅のこと、大事にするから」

「当然じゃない。この私が恋人になってあげるんだもん」

「その小生意気な所は変わらずか。まぁ、お前らしくていいや」

 

 二人にとって最初から遠慮などしあう関係ではなかった。

 いつしか当然のように傍にいて。

 たった1か月余りのわずかな時間が愛を育み、今に至るのだ。

 

「もう少しだけこうしていてもいい」

「素直にもっと抱きしめてって言えばいいのに」

「言葉にしなくても空気読んでくれるのが先輩でしょ?」

「確かに。俺の役目か。大変だなぁ」

 

 この少女が素直じゃないって言うのはよく弘樹は分かっている。

 甘えるのが苦手な甘えたがりの女の子の扱いには慣れたものである。

 綺羅と弘樹との恋人関係。

 素直じゃない猫系女子にとっての初めての恋がようやく始まる――。


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