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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第4シリーズ『恋する猫はご機嫌ななめ』
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第24話:主導権なんて握らせるわけないじゃん


 成績表対決。

 それは修斗と優雨が中学の時から長期休みの前に必ず行っている事だ。

 ルールは単純、成績表の合計が総合的に勝っていた方が勝ち。

 負けた方は勝った方の言う事を無条件で聞き入れる事だ。

 なお、中学3年からは修斗の3連敗が続いている。

 これで高校1年の夏まで負けたら泥沼の4連敗に突入する。

 それだけは何とも避けたいが、苦手な国語の成績辺りが気になる。

 優雨も苦手な体育と物理で下げるだろうが、どこまで迫れるか。


「今回もこの時が来たわ。修斗、準備は良いかしら?」

「待て、心の準備がまだできていない」

「さっさとしなさい。10秒だけあげるわ」

「心の準備を10秒なんかで、できるか」


 本日は最終日、明日からは楽しい夏休みが始まる。

 修斗にとっては初バイト初日でもあるわけだが。


「……ついにこの時が来た。決戦の時だ、優雨」

「いきなりやる気になったわね?」

「お前に勝って、すっきりとした気持ちで一学期を終えるんだ」

「はいはい。勝てるものならやってごらん。連敗記録を増やしてあげる」


 先程、教室で担任教師から成績表を渡された。

 クラスメイトも自分の成績に一喜一憂している。

 この中身を見るのは勝負開始と同時だ。


「それじゃ、まずは勝利した時の約束事を言い合おうじゃないか」

「あら、今回は先に?」

「あとでグダグダと文句を言わないように最初に勝利した時の約束をしておこうぜ。俺が勝ったら、恋愛の主導権はもらうからな」

「へぇ、それでいいんだ?」

「……というか、少しは俺に主導させてください」


 情けない話、付き合い始めて二日目だが翻弄されてばかりである。

 イニシアチブ(主導権)を握られた方が恋愛は負ける。

 昨夜など、自分から触れようとしても相手にされず。

 やりたい放題、好き放題にされてしまった。


――俺だって優雨にしたいことくらいあるのに。


 いやらしい意味ではないが、自分ペースでやりたい修斗であった。


「そもそも、それは実力で勝ち取るべきものじゃない?」

「うぐっ」

「どちらが格上か、思い知ってる? 格付けはもう済んでるでしょ」

「その言い方はやめて?」


 格付け済みというのが寂しい。


「まぁ、いいや。私が負けたら好きにしてどうぞ。あぁ、私の大ピンチね? どんな卑劣で卑猥な真似をされちゃうのかしら。ドキドキ」

「そんな変な真似をしたいわけじゃないっ」

「はいはい。エッチな修斗のことだもの、想像したくもないことなんでしょう」


 わざと顔を赤らめさせて身構えられる。


「……ホントにそうだったらどうする」

「主導権を握られたらそれも仕方なし。修斗の好きにしなさい。ただ、私はせめて高校だけは卒業したいので孕ませるのはやめてね? この年でママになるのは早すぎるわ」

「しねぇよ! その状況は俺もやだ」

「エロいことをするのは否定しないのねぇ?」

「違うわっ。俺の評価を変な方向へもっていくのはやめてくれ」


 優雨相手だと男心を弄ばれてばかりである。


「恋愛で最初に主導権を握られなかった自分を悔いる」

「そもそも、主導権なんて握らせるわけないじゃん」

「ですね。せめて告白をお前にさせるべきだった」

「……い、言うなぁ。そこは突っ込まないで」


 優雨としてはその件だけは自分に負い目がある。

 自分が言えないから、相手に言わせたのは認める。


「こほんっ。修斗のお願いは分かった。勝負に負けたら私もしおらしくしてあげる」

「……ホントかよ。そんなお前を想像すらできないのだが?」

「勝負に負けたらね。そんなことはないから、想像しないでいいわ」

「よく言うぜ」

「私が勝利したら、修斗に新しい水着を買ってもらう。それで海に遊びに行きましょう。このセットを約束として希望するわ」

「うわっ、きやがった。物理的に俺の財布を狙ってやがる」


 せっかくの夏休み、海に行きたいと何度も優雨は言っていた。

 修斗としても、恋人になる前ならともかく、今は別に抵抗する気持ちはない。

 だが、勝負は勝負。

 負けたくないという気持ちはある。


「お前、ホントに水着が欲しかったんだな」

「当たり前じゃない。去年までのサイズにはいらないんだから」

「……そうデスね」


――うん、それは目に見えて分かってましたよ?


 胸まわりが一回りくらいは軽くサイズアップしてるのは知ってる。

 あまり場所が場所だけに直視できないので具体的にはよく分からないが。

 女の子には切実な問題なんだろう、と納得もした。


「約束は以上でいいわね。お互いに負けたら文句は言わない。よろしい?」

「これまで何回やってきてるんだよ。分かってるさ」

「ちなみに私の買いたい水着のお値段、8000円くらいの奴を希望」

「ちょい待って? え? 普通に水着ってそれくらいするの?」


 男子の水着など2000円もあれば事足りる。

 思った以上の値段に戸惑いながら、


「そもそも女子の水着の相場を知らないが、それは妥当なのだろうか」

「自分で買うなら5000円くらいかな?」

「なんでワンランクアップした!?」

「上を見ればキリがなく、下を見れば他もあるけど。この前に気にいったのを見つけたの。あの値段だと自分で買うのは無理。でも、彼氏からのプレゼントなら喜ぶわ」

「……マジかよ」

「しっかりとアルバイトで稼いできてよ。頑張って」

 

 その余裕の笑顔に修斗は「まだ負けてないし」と意地を張る。


――ただの布切れに何でそこまでのお金がかかるのやら。


 先日、買わされた優雨の下着の値段もかなりいいお値段がした。

 今回もとなると、修斗のお財布的にはかなりのダメージだ。


――ま、負けられん。いろんな意味で、負けられなくなった。


 緊張感をもって、ここが運命なのだと勝負を賭ける。

 絶対に負けられない熱い戦いが始まる。

 

「――いざ、勝負っ!」


 修斗は成績表を見ながら電卓で計算を始める。

 優雨も同じように計算中だ。

 あとで互いの成績表を交換し合い、確認もするがまずは自分で計算する。

 成績は5段階評価。

 何気に修斗も成績は良い方である。

 

「しくじった。国語は……くっ、やはり、3か。これが響きそうで怖い」

「3もあれば十分じゃない?」

「げっ、家庭科も3だと……調理実習のときに適当にやりすぎたか」

「さすがに食材で遊んで怒られたらそんなものでしょ」

「だって、男の調理実習ってつまらないんだからな。って、人の成績表にいちいち口を出さないで。自分の計算をしてくれ」


 しかし、今回は5の数が思ったよりも多い。

 結果は総合的に上の中、と言ったところだろうか、成績だけを見れば良い方だ。


「おー、総合的には良い方じゃないか」

「アンタにしては頑張ってるじゃん」 

「高校に入って中学時代よりも成績が上がったのは良いことだな」

「それは言えてる。もう少し下がると心配してたけど、いい感じだわ」


 だが、難しくなり落ちてる科目もあるので優雨に勝てるか微妙だ。

 

「いや、条件は優雨も同じはず……。優雨、お前はどうなんだ?」

「私は良いわよ、体育が4。バレーと水泳の授業が多かったからね」

「……ちっ、お前の唯一の得意なものか。何でマラソンとかないんだよ」

「夏場に持久走があったら私は1を取る自信があるわ」

「いつも最下位付近だったよな?」

「持久走とかだけは苦手。体力とかいうよりも、気持ちが萎えるもの」


――苦手分野だから期待していたんだけどな、2とか。


 ひとつでも足を引っ張る科目があることを望む。


「まぁ、物理は2だけどね。理数系は苦手だわ」

「……よしっ」

「喜んでる所悪いけど、他は結構いいわよ?」


 優雨はそう言いながらも内心は焦っているのが目に見えた。

 思ったよりは下がった分の挽回が出来ていないのか?

 この調子ならいける、連敗を止められる。


「さぁて、計算終了。それじゃ、勝負しますか」

「気持ちの整理はついたかしら?」

「負ける気がしないね。俺の実力を思い知れ。そして、俺に従え」

「弱いワンちゃんほどよく吠える。負けた時が余計にみじめになるだけよ」

「こ、恋人になっても辛らつな発言が多すぎるんですが!」


 相変わらずの暴言っぷりである。


「優しくなった方だと思うのだけど?」

「全然、優しさを感じません。その辺も勝負に勝ったら直してもらおう」

「ふふっ、勝負に負けたらね。さぁ、勝負よ」


 自信満々の優雨と向き合う。

 この勝負の結果は――。

 

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