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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第4シリーズ『恋する猫はご機嫌ななめ』
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第19話:我が世の春が来たぁ。うははっ

 昨夜の自らの失態を忘れるほどの衝撃。

 今の修斗の現状。


「――我が世の春が来たぁ。うははっ」


 我が世の春=自分の思い通りになること。

 最低男が青春満喫中である。

 美織には遠見派と呼ばれる女の子グループがある。

 その遠見派の子たちに修斗は囲まれていた。


「月城君って意外に筋肉あるよね」

「触らせて。うわぁ、腹筋割れてる」

「細マッチョ系? カッコいいじゃん」

「スポーツもできるんでしょ。もっとアピールすればいいのに」


 ちやほやとされながら女子に囲まれている。

 照れながらも修斗は彼女たちに、


「いやぁ、俺なんて別に部活をしてるわけじゃないのに」

「でも、いい体をしてるよね」

「ちょっとだけ鍛えてますから」

「もったいないなぁ。運動系部活に入れば絶対に人気でるって」

「いやぁ、そうかなぁ? えへへ」


 女子たちから甘く囁かれ、溶けそうなほどにデレデレとする修斗。


「前から思ってたけど、修斗くんは整った顔をしてるよね」

「そうそう。うちのクラスの中じゃイケメン顔だし」

「いいなって思ってる女子は結構いるんじゃないかしら」


 女子から褒められていい気にならない男子はいない。

 修斗もそうだ。

 

――俺の時代がやってきてしまったのか!


 などと勘違いするありさまである。

 その光景を眺め唖然としているクラスメイトの男子たちは、


「ちくしょう。なぜに、アイツがモテる」

「……残念イケメンのくせに」

「月城め。モテ期到来とかふざけるな」

「昨日は伊瀬さん。今日は遠見派。何でアイツばかりモテやがる」

「死ねばいいのに。神よ、人を呪い殺せる力を僕たちに与えたまえ」

「そもそも、伊瀬さんを襲って返り討ちにあったのに。なんであの展開?」

「女子の考えることって分かんねぇ。女子の気持ちが全然分からん」


 僻みと妬みによる苛立ちからか、修斗に対して痛烈批判を繰り返す。

 何ゆえに、修斗が女子たちに囲まれているのかというと、


『傷ついた修斗クンを励ましてあげたい』


 という美織の提案によるものであり、遠見派の子たちも協力的だった。

 いつのまにか、修斗を囲んで女の子たちと甘いひと時を過ごしていた。


――よくわからないがこの幸せは素晴らしい。


 夢にまで見た、まさにハーレム状態。

 男は女子にモテたい生き物なのだからしょうがない。


「それにしても、いくら好き同士でも、手を出すのはよろしくないわね」


 心配そうに、美織が修斗の傷を見つめて言う。


「痛々しい傷跡だわ」


 軽く腫れた頬。

 痛みこそそれほどないものの、目立つものはしょうがない。

 教師からも何度か指摘されたが、転んだ傷だと誤魔化している。

 さすがに優雨の胸を揉み、その後怒らせてぶん殴られたとは誰にも説明できない。


「それとも、それほどの事をしちゃったとか?」

「……まぁ、俺が悪かったのは否定しないよ」

「優雨さんも拗ねてるし。喧嘩はよくないのに」


 頬を二発ぶたれる程度の事はした。

 そこに怒りはないし、むしろ申し訳なさの方が勝る。


――だからと言って、顔面パンチはないだろ!


 と言いたいのは山々だが、したことの罪を思えば納得もしよう。

 昨夜は激痛に眠れない夜を過ごしたが。


「……あら、優雨さん?」


 美織が声を漏らす。

 いつのまにか、かなりご不満な様子の優雨が近くまで来ていた。

 さすがにこの状況に対して何も言わないわけにもいかない。

 

「どうした、優雨? なんだ、お前も混ざるか。ちこう寄れ」


 冗談っぽく言ったつもりだが、それがよくなかった。

 優雨の猫のような瞳がキッとつりあがり、鋭く睨みつける。


「――調子に乗るな、バカ!」


 悪態をつくと優雨は修斗を怒鳴りつける。


「可愛い女の子に囲まれてずいぶんと楽しそうですね」

「え……あ、いや」

「昨日、無理やり私の胸を揉みしだくったくせに」

「は、はぁ!?」

「その翌日にこれですか。はっ、アンタみたいな変態は死んでしまえ!」


 軽蔑と罵り、怒りに震えた優雨の一撃。


――あっ、やばい。


 と思った時にはすでに遅し。

 振りかぶって、パチンっと頬に再び衝撃が走る。


「んぎゃー!?」


 平手打ちをされてしまい、のけぞる。

 衝撃と痛みに悶絶する。


「修斗のバカ、最低男め」

「さ、最低野郎は言いすぎじゃん?」

「うるさいっ! 死んじゃえ!」


 ふんっと優雨は一瞥して去っていく。

 その後を「優雨ちゃんー」と心配した友人たちが追いかけて行った。


「うわぁ、今のは見事な一撃。修羅場だぜ、修羅場」

「ここまで音が響くのは中々ないぞ」

「ふむ。これは……終わったか?」


 残された修斗は痛みに震えて「ひでぇ」と呟く。


「今のはお前が調子に乗り過ぎた」

「天罰上等。むしろまだ足りてないくらいだ」

「俺たちが追加攻撃してもいいか?」

「むしろ、腹立つから殴らせろ。ぼっこぼこにしてやるぜ」

「やめろぉ!? 許してください、ホントに痛かったんだ!」


 無意味に敵を作って、命を狙われている。

 心も体も痛みを負った修斗に対して、

 

「それにしても、月城君。いきなり伊瀬さんの胸を揉んだの?」

「それで喧嘩になっちゃたんだ?」

「ダメだよ、ちゃんと手順を踏まなきゃ?」

「いや、あれは……そのですね」


 修斗を囲む女子たちからたしなめられる様に、


「いい? 女の子の胸って柔らかく見えて意外と固いの。優しくしなきゃ」

「そうそう。おっぱいをぎゅって握るとかありえないからね?」

「そもそも触る前にはちゃんとキスとして雰囲気も作ってほしいな」

「女の子の扱いに慣れてない修斗君が、勢いでがっついちゃったから喧嘩したのね」

「分かる。私の彼氏もそうだったもん。男の子は野獣だ」

「だよねぇ。雰囲気が欲しいのよ、雰囲気が!」

「……あの皆さん、俺が赤面しそうなのでその辺で勘弁してください」


 女子からのアドバイスに耳を傾けながら、怒った優雨をなだめる方法を考える。

 どう考えても悪化した状況に絶望する。


――俺、やらかしてばかりだ。どうしよ……?


 まさに自業自得。

 こじれまくった事態にどうしようもない修斗であった。

 

 

 

 

 放課後になり、淡雪は美織に声をかける。


「何かしら。それはラブレター?」

「そうみたい。机の上に置いてあったわ」


 彼女の手には一通の封筒が握られていた。

 典型的なラブレターである。


「素敵じゃない? 今時ラブレターを送る男の子がいるなんて」

「面倒だけどねぇ。会うだけは会ってあげないと」

「そういうところは律儀よね。美織はちゃんと一度は会うんだもの」


 美織の性格的なものだろうか。

 無視してもいい状況でもあえて無視しない。

 告白する方からすれば、何ともありがたい話だ。

 だが、それは……死刑宣告と同じ意味を持つと誰も知らないからでもある。

 美織はうっとりとした微笑を浮かべながら、


「ふふふ。男の子の幻想が壊れる瞬間を見たくてさ」


 とんでもない発言をする美織である。


「それ、微笑みながら言うセリフじゃないから」

「くすっ。だって面白いんだもの」

「はぁ。相も変わらず、男の心を弄ぶ悪女だわ」


 友人も引き気味な悪女っぷりだ。


「でも、最近は連続で告白されてるわね? モテまくり?」

「夏休み前だからでしょ。夏休み、素敵な彼女と過ごしたい男子が多いのよ。告白ラッシュで私もお疲れ気味。今日はどんな風に幻想を殺そうかな」

「……普通にしなさい。いつか襲われるわよ」


 恨みを買った男子にひどい目にあわされることもある。

 その可能性を「ないない」と美織は否定した。


「この私に手を出して無事にいられるとでも?」

「……手でも触れようものなら、徹底的に潰しにかかるわよね」

「そういうわけでノープロブレム。さぁ、行ってくるわ」

「くれぐれも気を付けて?」


 淡雪に見送られて美織は教室から出ていく。

 その後ろ姿に淡雪はポツリと呟く。


「大丈夫かしら、あの子? 最近少し、荒っぽいから気を付けてもらいたいな」


 友人としての心配。

 普段の猫かぶりの美織からは想像できない、裏の顔。

 本性を知った男子からいつか仕返しされたりしないだろうか。


「――それに、恨みを買うのって”男の子”からだけじゃないのよ?」


 淡雪にそんな一抹の不安がよぎるのだった――。


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