6話
「さて、何から話して行こうか・・・そうじゃな、儂が自国に疑問を抱き始めたのは数年前に遡る。確か皇子が16歳の頃に王が病にかかり伏せられた。そしてその頃から病気の父君に代わりある男が表舞台へと上がってきた。度々病で伏せる父君の後を継ぐのはもちろん貴方様であったが、実際の実権を握っていたのは、ふむ、その顔色だと解っているのであろうな、そう御主の婚約者どのの父であり、宰相のザフィールじゃ。
最初の1、2年はなるほど表向きは民に良いアピールをしてきた。それも始祖の時代より極めて稀な2種の加護を抱いた御主が全面に立ち不正を犯した貴族の土地を没収した上に爵位剥奪、または国境に現れた魔鬼の討伐などじゃ・・。
だがある時を境に貴族への処罰が甘くなってきた。丁度貴方様とナタリア嬢の婚姻が決まった時期ぐらいからか・・。
神殿には日々民からの苦情が増えだし、儂は王への謁見を望んだが病気を理由に幾度も退けられた。魔鬼の仕業なのか、我が国でもちらほらと毒の廻る地区が増えだし、民と神殿は一体となり、女神へ慈悲を乞うた。
その結果、与えられたのが清奈殿じゃ。だがまだ御子は覚醒しておらんかった。異世界でよっぽどの事があったのだろう、なかなか儂ら神官にも真の底から心を開いては居らず、だがそれ故にゆっくりと御子がこの世界の事、そして己の何たるかを知る為に時間をかけようとしていた矢先、王宮からの呼び出しを受け出かけ、2度と神殿に返してもらう事は叶わなかった。」
続けてコンサイス王が喋りだした。
「まあ、うちからも最近やけにキナ臭いお前の国に幾人か密偵を放っていたからな。御子が神殿によって保護された事は直ぐに解った。何も無ければそのままでも良かったんだが・・・ちょうどお前の国を訪問して、久しぶりに体調が良いとの事で王と会見した際、面白い事に気がついた。お前、これが何か知っているか?」
そう言ってコンサイス王が懐から取り出したのは鈍い銀色をした不思議な植物だった。
ルキウスは問いかける様にゆっくりとかぶりを振る。
「まあ、そうだろうな。これは北の大地のしかも魔獣がうようよ住んでいる危ない一帯に生えている貴重な薬草だ。正しい使い方をすればこれは妙薬だが、だが一歩使い方を間違えると、とんでもない代物になる。そしてこれは僅かだが煮詰めると独特の香を出す・・・。たまたま近くまで寄ったからこそ分かったが・・・これはな、使い方次第では人間を意のままに操ることの出来る薬となる。あの時、だからこそ俺は王に清奈の身柄をこちらに渡してもらえる様、俺の正妃とするという理由付けで提示した。」
「父上が薬で操られていると言うのかっ?!」
「ああ、ほぼ間違いないだろうな。多分数年前に病で倒れた時から少しずつ薬に混ぜられていたんじゃないか?無味だしな。だがお前も知っての通り、俺の提案は、すでにお前の正妃になる事が決まっているとの理由で断られた。最後にお前に会った時、俺が彼女を自分の妃とする旨を伝えていた事を知って驚いていたよな・・・?お前は一体あいつらから何を聞かされていた・・・・?!」
「っつ!」顔面蒼白になりながらもルキウスは話しだした。
「・・・確かにお前の言う通り俺の目は大した節穴だったようだ。ある日、俺は父と宰相に呼び出された。
曰く、あろうことか己を女神の御子と偽り神殿と民を唆している娘がいると・・そしてその影響力は計り知れず、すでに諸国にその存在が知られ、大神殿からその御子を俺の正妃とするよう要請があったと。ナタリアとの婚姻を控えて渋る俺に宰相が言った。一時、内々に借りの結婚式を行い、神殿やその娘が何を企んでいるかさえ知る事ができれば直ぐに処刑に臥し、改めて自分の娘と本当の婚姻を結べば良いと・・・。」
「かーっ!てかお前、それを何の不思議も思わずに納得したのか?馬鹿か、お前は!」
「・・・・。」
「神殿が清奈様を貴方様の花嫁に押したなどとは何とも片腹痛い・・・それどころか我々は王宮に拉致された清奈様をお返し願うよう再三の書状を送り申したが先ほども言った通り、一通の返事も帰ってきませんでした。それどころか苦肉の策でせめて清奈様の身の回りのお世話をして頂くよう、馴染みの侍女だけでもと王宮に送りましたが、何だかんだと理由を付けて王宮より追い出されました。それ以降は清奈様がどう王宮内でお過ごしになっていたのかも一切解らずどれほど我々が苦悩したか・・」
またもや引き続いてコンサイス王が咎める様な眼差しを向ける。
「王妃として何不自由の無い暮らしをさせているとお前は言ったが、本当にそうだったのか?密偵から上がって来た内容はお前の考えとはほど遠い内容だったぞ?王宮の端で毎日貴族らにあざ笑われながら、幼稚な嫌がらせで最初の頃はよく怪我をしていたそうだし、着るものも町娘が着る服を宛てがわれ、食事に至っては残飯に近い物を1日2回だったか・・?」
「そんな馬鹿な!私に上がってきた報告では・・・・毎日湯水の様に金を使い、一日に何人もの仕立て屋や宝飾屋を呼び寄せ贅沢三昧していたとっ」
「だから・・・良い様に改ざんされていたんだろうよ。お前の耳に届く情報は。結局は目障りだったんだろうな、お前の存在が・・・御子がからんだのは偶然かもしれんが遅かれ早かれお前は切り捨てられる存在だったのだろうと思うぞ。お前の馬鹿な弟の方がよっぽど宰相に取っては使いやすい駒だろうからな・・・。」