5話
ルキウスターンその1です。次の回から裏の事情が色々と解って来る予定
俺はその日、全てを失った。
王位継承権も民の信頼も・・永久の愛情だと信じていた美しい恋人、そして女神から始祖に与えられたという同じ属性の風と水の加護も全て無くした俺は差し向けられた追っ手から逃れつつ、隣の大国、スフィルトまでやって来ていた。
何故コンサイス王の忠告をあの時真剣に受け止め無かったのか・・・俺が自分の犯した過ちに気づいたのは既に足下を掬われた後だったのだ。あの日、牢獄から姿を消した一時は己の正妃だった彼女は真実に女神の御子だったのだろう。それを自分は・・・いくら悔やんでも悔やみきれない己の愚かさに嫌悪する。五日の後、首都カーライルの王城までやって来た俺は、コンサイス王に嫁いだ唯一の同実妹であるマリアンヌを頼りに王への謁見を伝えた。
国を追われた自分がいくら同実妹が嫁いでいるとはいえ、会ってもらえるかどうかは一か八かの賭けであったが、実際の所拍子抜けするほど簡単に城の中に招き入れられ、そして客間に通された俺は其処で衝撃の事実を知る事となったーーーーー。
しばらく後、先触れから王の来訪を告げられた俺は様々な事を思い巡らしながら一体何から話すべきかと考えていた。荒々しい足音と共に部屋に入って来た男は、共に入って来た人物の静止も聞かず、一瞬の後にルキウスは激しく頬を殴られ壁に叩き付けられた。
「こんの馬鹿野郎!一体どの面下げて俺の前に現れた!」怒りもあらわに掴み掛かったコンサイス王に抵抗もせず、ルキウスは為すがままにされていた。だが其処に思いも賭けず仲裁が入る事となる。
「コンサイス王、もう其処迄にしておいてあげて下さい。彼もある意味に置いては被害者なのですから・・・」そういって執り成しを買って出たのは、ルキウス自身も良く知る人物だった。
「アシェル大神官・・・どうして貴方が此処に?」其処にはフィンランディールの最高神殿の長を勤めていたアシェル大神官が居た。
初老の神官は少し痛ましそうな瞳をルキウスに向けた後、だがはっきりとした口調で語り始めた。「何度も貴方様宛に手紙を送りましたが、一度も返事が帰って来なかったと言う事はきっと私の書簡は貴方様には届かなかったのでしょうな。今となっては致し方ない事・・・だがもう少し貴方がご自分の周りに気を配られていたならと、正直思わぬ事はありません。我が国はもう女神に見捨てられたも同じ事、これから衰退の一途を辿るでしょう。」
「っそんな、だがもし御子が女神に執り成してくれるなら・・・」
「貴方がその様な事をおっしゃるのですか?」アシェル大神官の厳しい眼差しと共に盛大にルキウスを咎める響きをもって呟いた言葉にルキウスは己のして来た事、そして彼女に対して自分が犯した最大の侮辱を思い出し、真っ青になりながらも一番気になっていた事を聞き出そうとした。
「彼女は今何処に・・?」許されなくても、罵倒されても自分は彼女に誠心誠意謝らなければならない、そしてもし少しでも許されるのであれば・・・
だがそんな淡い期待を砕く様にコンサイス王が口を開いた。
「居ねえよ。此処には居ねえ。というか実際には何処に消えてしまったのかも解らん。清奈が牢に入れられてしかも冤罪で処刑に伏されると聞いた時、救出の為に暗部の者を向かわせたが、着いた時には既に牢から姿を消していたそうだ。」
「一体どうやって?!」自国の堅固な牢から衰弱しきっていた娘が一人で脱出など出来る訳がない。だがいや、彼女が本当の御子であるならば・・・その思考を読み取ったかのようにコンサイス王が続けた。
「あの夜、やけに炎の聖霊達が騒いでいた。多分だが他の聖霊達も同じような状況だっただろうな。お前は感じなかったのか?」それは女神からの加護を失った自分に痛く突き刺さった。
「・・・・私はもう女神様からの加護を失ってしまった。」そう、俺は女神から見放されてしまったのだろう、彼の御子を穢したあの夜に・・・。
「・・・やはり、此処で最初に貴方様を見た時に感じた違和感は間違いでは無かったのですな。何とも・・・私は貴方様がお生まれになった時から期待していたのですが・・始祖と同じ恵みを戴いた貴方なら腐敗したフィンランディールを立て直し、もういちど女神様の意向に添った素晴らしい国を築いて下さるだろうと・・・。ですが貴方様もあの男の醜い野望と卑劣な罠にはまってしまわれた。
私はこの国に神殿全体の保護を願いでてから、コンサイス王と話合い、大体どのような事になってしまったのか知っていますが、貴方様は渦中に居られながら、真実から最も遠く遠ざけられておられた。ですが、今こそ貴方様も真実を知るべきですーーー。それがどんなに貴方様にとって酷な出来事であろうとも・・。」