2話
最終的に3話ではなく5話ぐらいになりそうです。引き続き宜しくお願い致します。
目が覚めた時、一番最初に捕らえた物は見た事も無い装飾を施された天井だった。意識がだんだんとはっきりしてくるに従って気を失う前の事を思い出し、そろりと身を起した。
突如の眩しい光とそして最後に見た鮮やかな蒼。一瞬ゆめだったのかと思ったが、何にしろ自分が何処か知らない場所に連れて来られた事は間違いが無さそうだった。
あれからどのくらい時間が経ったのか広い部屋の中央に置かれた自分が寝ていた寝台から離れた場所にある大きな窓には燦々と日が当たっている。
自分の背丈に比べ随分と大きな寝台から降りると外を確認しようと窓辺に歩いて行く。その時、かちゃりと音がして、扉が開かれ、見た事も無い中年の女性が入って来た。
「まあ、姫様、もうお起きになられて大丈夫なのですか?少し待っていて下さい。神官達に伝えてきます。」女は直ぐにきびすを返し部屋から出て行った。
直ぐに追いかけようかと思ったが自分の置かれている状況が把握できないまま動くのは得策ではないと考え直し、先ほど中断した窓の側へと寄って絶句した。
太陽・・らしき眩しい光線を放つ物体が大小合わせ三つ空に浮いていた。
「何・・・これ?」一瞬にして頭がパニックに陥っていた。
その後侍女らしき女性が連れて来た神官達によって清奈は自分がこの世界の女神の御子として召還された事を知る。神官達は、昔で言う所の中国の宦官に近く、男性としての象徴を無くし、神に仕えるべくした者達であり、それから約3ヶ月の間、清奈は彼らからこの世界オスティリアの事を学んでいた。
曰く、彼らが御子の存在を女神に祈ったのには理由がある。この世界には少数だが「魔鬼」と呼ばれる魔物が住んでおり、それらがまき散らす毒は非常に強く、一度その毒に侵された土地は約100年もの間草木が育つ事も無い有毒の土地になるのだという。唯一その毒を浄化する事ができるのが女神から愛された御子なのだそうだが、ここ500年ほどどの国にも御子の存在は認められず土地の荒廃に為す術もなくひたすら御子の出現を待っていたそうだ。
清奈を召還した国、フィンランディールは国の規模こそさほど大きくは無い物の、歴史は古く、女神の10人の末娘イーシアが初代王と恋に落ち結ばれたという伝説の元、その子孫である王家には度々女神から特別な加護を受けた子が産まれると言う。だがしかし、加護を得てしても、魔鬼に侵された土地を浄化する事は叶わなかった。そんな時、大神官が女神からの神託を授かった。民の苦しみ、そして神官達の祈りを聞き入れ、御子を使わすと。そしてその日、神託のあった場所に現れたのが清奈だったと言う訳だ。
はっきり言って何かの間違いだと何度口にしたか分からない。突然女神様の御子だと言われ、呪われた土地の浄化をと神殿を訪れた民らに乞われた。自分には何の力も無いと必死で説得するが神官達は、焦る必要はない、その内に自分が何であるのかを自ずと知る事になるのだからと言い、まずはこの世界の知識からと学び始めた。自分が本当に御子であるのかどうか解らず、だがそれでも少しずつフィンランディールでの生活に慣れ始め、少しでも自分が必要とされているのだろうかと思い始めた頃、そのゆめは粉々に砕かれる事となる。
「王宮からの使い?」耳慣れない言葉に清奈は自分付きの侍女となっていた初めに出会ったこの世界の女性、ソフィアさんから、この国の王と対面する為に衣装を着付けされながら戸惑いを隠せずにいた。
この世界に来てから約3ヶ月間もの間、王宮とは何の関わりも無しに暮らしてきたのに突如この国の王からの呼び出しを受け王宮にやって来た清奈を待ち受けていたのは余りにも一方的で身勝手な要求だった。神殿からの再三の抗議にも耳を貸さず清奈はフィンランディールの皇太子との政略結婚をする事となる。
慌ただしく略式の婚姻が結ばれ、だが初夜にも一向に姿を見せる事の無い夫に少し安心しつつも次第に自分の置かれた境遇を嫌でも思い知る事となる。
歴史の深い、だが女神の子孫と呼ばれ近隣の国からも一目置かれ有頂天になっていたこの国の貴族らから、清奈は痛烈な批判と悪意に晒された。
曰く:
「本当に女神の御子かどうかも解らぬ素性の知れぬ娘」
「未だに一度も土地の浄化をする事ができない」
「夫である皇太子に見向きもされない貧相な娘」などなど・・・
様々な悪意に晒される清奈を守る者は居らず、本来なら味方であってよいはずのこの結婚を決めた王はそんな噂を知ってか知らずか無視を決め込み、王妃もそれに倣う。略式の婚姻で垣間見たこの国の皇太子はその美しい顔に侮蔑とそして憎しみを隠そうともせず蒼い瞳で清奈を一瞥しただけだった。唯一神殿から付いてきてくれていた侍女のソフィアが自分の娘の出産の為、退室した今となっては誰一人として頼る者も存在せず、毎日が針のむしろだった。自分は何の為に此処に居るのだろう・・・心が折れそうだった。
皇太子には清奈が正妃と成らなければ、もともと幼い頃より懇意にして来た美しい婚約者との結婚を間近に控えて居たらしい。言うなれば、清奈は望んだ事では無いにしろ、フィンランディールの宝玉と呼ばれる大貴族の娘と始祖の生まれ変わりとも呼ばれる女神の加護を頂いた皇太子の仲を割いた悪女とも噂されていた。だがしかし清奈と結婚をしたからと言ってその婚約が解消された訳ではなく、正規に結婚をする事が叶わなくなったとして皇太子や婚約者の親族に恨まれているらしい。これらは仕事らしい仕事をすることも無い、だがお喋りな侍女から半分嘲笑を受けながら知り得た情報だった。
また清奈がなぜ突如皇太子の正妃とされたのかという理由についても、文官の心ない陰口から知る事となった。
それらを聞いた時、清奈の心の奥底で蓋をしていた、だが乾ききっていない傷口からまた膿みが溢れ出す・・・「大丈夫・・・私は何も感じない・・今更何を期待する事があるの・・?大丈夫、だいじょうぶ・・・ダイジョウブ・・・・・」
新たに開いた傷口から目を背け、娘は薄暗い王宮の一室で人知れず涙を流した。