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06 災来




 昼時の慌ただしさから解放された店内には、のんびりとした空気が漂っている。

 麗らかな午後の陽ざしに眠気を覚えながら、近くに住むという御隠居の世間話に気のない相槌を打つ。シュレンの対面の席に座る御隠居も又、うつらうつらと同じ話を繰り返していた。のどかな空気があちらこちらに広がる店内に身を置き、そろそろ根城への帰還を考えはじめた矢先の事だった。

「シュレンって奴がいるはずだ! 呼んで来い!」

 客とは到底思えぬ5人の男たちが《赤髭亭》の古びた扉を蹴り開けて怒鳴りこんだ。どことなく見覚えのある男達の風体にシュレンは眉を潜める。のどかな店内に一瞬にして冷たい緊張が走った。

「なんだ、テメエら!」

 大柄なブランが、捌いていた枝肉の血と脂でギラギラ光る包丁を片手に調理場から飛び出した。その姿に怒鳴りこんできた男たちが一瞬、気圧される。店に雇われた二人の用心棒がブランの後に続き、男たちと睨み合う。立ちあがろうとしたシュレンを視線で押しとどめ、ブランは男達に向かって怒鳴りつけた。

「ここは食い物を出す店だ! 食事の注文ならいくらでも聞いてやろう! それ以外は知らねえな」

 包丁を片手に立ちはだかるブランに、男達も又、殺気立つ。

「俺達にそんな真似して、只で済むと思ってんのか?」

 これ見よがしに左腕の白い腕章を指し示す。その仕草にブランの顔に小さな緊張が走り、周囲の者達に広がった。シュレンは昨日の出来事をようやく思い出した。どうやら市場のはずれで小競り合いをした男達の仲間のようだ。

『あいつら、《白獅子党》だ』

 店内にいた一人の客が小さく呟いた。その呟きがさざ波となって、周囲に動揺が広がる。

《白獅子党》――聞きなれぬその言葉を胸に留め、シュレンは傍らにおかれたフォークを左手で弄びながら状況を見守る。

 ――任せとけ!

 かつて共に修羅場を潜ったブランの視線に了解の意思を示す。騒ぎを大きくして旧友の生活の場を破壊する事は避けねばならなかった。店内に高まる緊張感に気分を良くしたらしく、リーダー格らしき男は居丈高に叫んだ。

「俺達《白獅子党》はシュレンって名のケチな傭兵を探している。ここにいるはずだ! 出せ!」

「知らねえな! 誰だ、そいつは? カマでも掘られたのか?」

「黙れ、奴は俺達の仲間に手を出した。その礼をさせてもらう」

「大方、やんちゃが過ぎて、キツイ反撃を喰らったってとこだろう。これに懲りたら喧嘩は相手を見て売るんだな。世の中にはテメエらのチンケな常識の通用しねえ化け物ってのが、うじゃうじゃいるもんだ。昼間からチンタラ遊んであぶく銭せびるのも程々にしておかないと、自棄になったり思いつめた堅気ってのが、何をやらかすか分かんねえぞ」

 包丁を片手に仁王立ちするブランにひるむ様子は全くない。曲がった事の大嫌いな性格は昔から変わっていない。メンツをつぶされた男達は憤った。

「テメエ、庇い立てするんだったら容赦しねえぞ!」

「ほう、どうするんだい」

「俺達が本気になったらこんな店、一日で……」

「面白そうだな。こちとら三年前の兵役で暴れ回って以来、ずいぶんと退屈しててな! 遊び相手になってくれるってんなら大歓迎だ!」

 手にした包丁を軽く振り抜きブルンと空気を切り裂いた。腰の入ったその一振りは、かつてシュレンが兵学校で多くの仲間達に手ほどきしたものだった。

 全くひるむ様子のないブランの様子に男達の中に僅かな戸惑いが生まれた。一旦出直すか、あるいは一暴れするか。損得を頭の中で計算するその抜け目ない姿に、やはりただならぬものが感じられる。と、一人の男が店内の客の一人に目をとめ、慌てて叫んだ。

「あ、あの野郎だ」

 指さしたのは座っていたシュレンだった。シュレンにとっても又、見覚えのある顔だった。昨日のいざこざで唯一無傷だった男である。

 立ち塞がろうとするブランを無視した男達は、ばらばらと駆けよりシュレンの周囲を取り囲む。

 近くに座っていた者達は慌ててその場を離れた。対面に座っていたはずの近所の御隠居も、いつの間にか遥か離れたテーブルに移り、うつらうつらと舟を漕いでいる。これぞ長生きの秘訣なのだろう。

 無関係の人間が巻き込まれぬ事を確認したシュレンは、左手のフォークを弄びながら、座ったままで取り囲んだ男達を見上げた。

「み、見つけたぜ、昨日はよくも……」

「誰かと思えば、昨日傷ついた仲間を見捨てて逃げ出した奴じゃねえか……」

 シュレンの言葉に男達の間に僅かな動揺が走る。傭兵であれ、ならず者であれ、暴力上等の世界では臆病者であること以上に裏切り者は軽んじられる。仲間達の冷たい視線に慌てて男は弁解した。

「ち、違う、俺は逃げてなんか……」

「助けてくれって、俺に命乞いしたから、一人だけぴんぴんしてるんだろ。嘘だと思うなら街の奴らに聞いてみろよ」

「う、嘘だ。テメエ、よくもそんな出鱈目を……」

 だが男に対する仲間達の視線は冷たい。彼の日常の姿を知るが故というところだろう。どんな世界でも日頃の行いが物を言うことに変わりはない。

 侮蔑の視線の中、必死に弁解する男を尻目にシュレンは男達の顔を見回す。リーダー格らしき男が一歩前に踏み出した。

「まあいい、テメエへの追及は後回しだ、それよりも……」

 弁解する男を黙らせ、シュレンに向かう。

「お前がシュレンか?」

「人違いだな、俺はカルネイっていう名のケチな女たらしだ」

 シュレンの言葉に男の顔が引きつる。

「どこまでも、ふざけた野郎だな。まあいい、昨日ウチのやつらをやってくれた落とし前、しっかりとつけさせてもらおう」

「昨日? なんの事だ? 俺なら一日中、ここで旨い物を食ってただけだが……」

 シュレンの返答に男の表情が一変する。気の長い方ではないらしい。やおらひんのない柄の鞘に収まった短剣を引き抜き、シュレンの眼前に突き出した。 瞬間、シュレンの左腕が動いた。ドスンという音と共に男の身体が床に転がった。

 ――何が起きたか分からない。

 そんな視線で取り囲んだ男達はシュレンを見つめる。

 己に向かって突き出されたはずの短剣を手で弄ぶシュレンの傍らには先端部の欠けたフォークが転がっている。その足元にはひっくり返ったままでうなり声をあげる男の姿があった。どうにか起き上がろうとする男の腹を思い切り踏みつけ、シュレンは短剣を片手に立ちあがる。シュレンの足の下で男は気絶した。

「……で、この落とし前、どう付けるつもりだ、お前ら?」

 冷たい視線で周囲を見回す。

「昨日といい、今日といい、俺の楽しい気分を邪魔してくれたからには、それなりの物を支払ってくれるんだろうな」

 男達はシュレンに気圧され、押し黙る。

 やられたら倍以上にして返すのが彼らの流儀だが、フォークで短剣を受け止めるや否や、腕を大きく巻き込んであっさりと男を床に転がしたシュレンの技の冴えに、誰もが言葉を失った。目の前の相手にはかなわない、暴力の世界に生きる者の本能が、その事実を敏感にかぎ取り、男達を立ち尽くさせた。

「《シロネコ党》だか、なんだか知らねえが、あまり粋がるんじゃねえ。とっととこいつを連れて消えろ! 今度俺の前に現れたら問答無用で叩っ斬る! 分かったな!」

 言葉と共にビリビリと攻撃的な殺気を男達へ向ける。足元に転がった男の身体を軽く蹴り飛ばしたシュレンを中心に、修羅場特有の重苦しい空気が広がった。耐えきれなくなった男達の表情に小さな怯えが混じる。

 膠着した空気はどうにか収まりを示す方向へと動いていた。どうにか事が収まりそうだ――そんな空気が店内に広がりかけた時だった。

「チ、チクショウ、俺は卑怯者なんかじゃねえ……」

 声を上げたのは、シュレンにさんざんからかわれ、仲間達に蔑まれた男だった。


 震える手つきで腰の短剣を引き抜くや否や、男はそれを手にしてシュレンに襲いかかった。小さく舌打ちすると、短剣を手に力任せに突進する男の右側に一歩踏み込む。持っていた短剣を逆手に持ちかえその柄を顔面に叩き込んだ。カウンターで入った一撃をまともに受けて男の身体はゴロゴロと転がりテーブルを撥ね飛ばす。そこからは成行きまかせだった。

 傍らの椅子を手に取り、近くにあった手ごろな男の頭に叩きつける。顔に腹に急所に、頭と肘と膝をたたき込む。ブランと用心棒の二人が加勢し、反撃も空しく男たちが全員床に伸びるまで、ほんの僅かな時間しかかからなかった。店の裏手から持ってきたロープで、男達の身体をぐるぐる巻きに縛り上げたところで、ようやく一息つく。

「やり過ぎだぜ、シュレン」

 乱闘を楽しんでいた己を棚に上げ、呆れたようにブランが声をかける。

「全くだ。むしゃくしゃしてやった。反省はしていない。ところでこいつら何なんだ? 確か《シロネコ党》とかなんとか」

「《白獅子党》っていうタチの悪い小悪党共だ」

「タチの悪い?」

 シュレンの疑問にブランは一つ頷いて続けた。

「ああ、ここ最近徒党を組んで、ゆすりやたかりなんて悪さを働いてな、あちこちの商会や組合でもずいぶんと問題になってな……」

「法務院や騎士団は何やってんだよ。こんな時こそ奴らの出番だろ」

 国王陛下のおひざ元である王都の治安を脅かす者には、その御名を持って容赦のない処罰が加えられる。正義と権力の名の元に、犯した罪に割に合わぬ代償を支払わせることこそが治安維持の大原則である――などという少々歪んだ信念の元、法務院に権限を与えられた執行官がここぞとばかりにのり出し、悪人も真っ青の乱暴狼藉を加えるものである。

「それがな……」

 僅かに躊躇うとブランは続けた。

「構成員の中には下級貴族や騎士階級、あるいは落ちぶれかけた豪商の二男、三男なんて奴もいるらしくてな、上級貴族共の醜聞やら、富裕層の不正の情報を握っているお陰で、お偉いさん達が手を出せないってのが、もっぱらの噂だ。取り締まりをしようとする度にあちこちから横やりが入って、結局うやむやにされちまうらしい。娘を連れ去られた、何十人もの人間に店を囲まれ潰された、なんてのは可愛いもんだ。近頃は殺しにまで手を出し始めたって噂だ。被害に遭った奴らのほとんどが泣き寝入りらしい。上が手をこまねいている間にあれよあれよと数が増え、今じゃ百人近くになってるって噂だ」

 家を継ぐことのできぬ者達が冷飯を食うのは貴族であれ、商家であれ同じようだ。己の才覚や家の縁をもって新たな道を切り開く事ができる者は少ない。不平不満を抱えた者たちが、身分をこえて集まり、徒党を組んで悪さをしているというのが実情なのだろう。

 とはいえ、法務院や騎士団が手を出せぬほどに旨く立ち回っているところをみると、只のならず者の集団ではないようだ。おそらく相当に頭の切れる奴が仕切っているか、彼らの存在を旨く利用している者達がいると考えるべきだろう。

 世情の混乱を望むのは反乱分子、不満分子だけではない。統治する側でも常に絶対とはいえぬ己の権力基盤を堅実なものとする為にわざと問題を放置するのは良くあることだ。とにもかくにも、このような者達が大きな顔をしているという事実は、そこになんらかの思惑がある。

「仕方ねえな」

 縛られたままうめき声を上げる男達を見下ろし、シュレンはニヤリと不敵に笑う。

「おい、シュレン、お前、何、考えてる」

 少し慌てた様子でブランが尋ねる。古い付き合いである。こんな時シュレンがどうするかなどという事は兵学校時代を通して十分に理解していた。

「街を離れるついでだ。ちょっとばかり、掃除していこうかと思ってな……」

 倒れた男達を見回しながら答えるシュレンにブランは溜息をつく。

「お前、一人で百人近くを相手にするつもりか?」

「まあ、そうなるかな」

 その言葉に周囲がざわめいた。ブランの顔色が変わる。

「バカ野郎、何考えてやがる。ここは、速やかにこいつらを騎士団に引き渡して……」

「それで、丸く収まると思うか?」

「それは……」

 ブランが口ごもる。仮にこの場は収まったとしても必ず報復は行われるだろう。シュレンに対して、あるいはこの《赤髭亭》に対して。舐められてはメシの食いあげとばかりに、このならず者たちの一団は、己のメンツを回復する為の生贄を必要とするはずである。

「気にするな、お前のせいじゃねえよ、ブラン。昨日、こいつらに手を出した時から、これは俺の喧嘩になっちまってるんだ」

 もともとサガロとのいざこざから始まった事である。結局はシュレン自身の問題である事に変わりない。

「だったら、俺も加勢する。俺だってこいつらには頭に来てるんだ!」

「ダメだ、これは俺一人でやる」

 ここぞと腹を決めた時のブランの暴れぶりは十分に知っている。決して頼れない訳ではないが、それでもシュレンは彼の申し出を断った。

「お前はこれからもこの街で生きて行くんだろう? だったら厄介事はよそ者の俺に任せとけ」

 その言葉にブランの顔に小さな陰りが生まれた。暫しうつむいていたブランは、やがてぽつりと呟いた。

「よそ者、なんていうんじゃねえよ……。お前だってこの街で生まれ育ったんじゃねえか。三年前、俺はこの街を追放同然に去ってゆくお前の背中を、物陰に隠れて見送るしかできなかった。俺はもうあの時みたいにダチを見捨てるような真似したくないんだ」

 苦しげなブランの言葉に、その事実を初めて知るシュレンの顔に僅かな驚きが浮かんだ。苦々しげに語るブランはなぜか小さく見えた。シュレンはブランの肩を軽く叩いた。

「気にするな、あれから三年たって、俺の居場所はここにはないんだ。それに……」

 ニヤリと悪戯っぽく笑い、シュレンは続ける。

「これから料理をしようって食材に、俺が横から手を出したらお前は怒るだろう? それと同じさ。これは俺の蒔いた種だ。狩りとりの楽しみを奪わないでくれ」

「シュレン、お前……」

「それよりも、ブラン、親父さんの伝手を頼って、大至急、お前に手伝ってほしい事がある。」

「親父に……か?」

 裏の自室でまだ仮眠をとっているであろうブランの父親の顔を思い浮かべつつ、不審げな表情を浮かべるブランにシュレンは続けた。

「街の商工組合には顔がきくんだろう?」

「まあな、伊達に年をくってる訳じゃねえからな。でも何をさせたいんだ?」

「戦の準備にいろいろと用立てたいことがあってな。こいつらに恨みの一つや二つ持ってる者もいるようだからきっと協力してくれるはずだ」

 しっかりした下準備があれば、何事も上手くいくもの。所詮、世の中、根回しである。縛り上げられた男達を見下ろしながら、シュレンはまだ見ぬならず者たちを一掃する為の策略に、知恵を巡らせ始めた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ロズウェル橋――。

 王都の中央を南北に流れるリシュリー川の上にかかる石作りの頑強な橋の一つである。長さはともかく、その橋幅は他の橋など比べ物にならぬほどに広く、橋というよりは広場と表現した方が正しいだろう。高台にある宮殿から見下ろす位置にあるこの場所は、退屈な王宮生活に飽き飽きしたとある王妃のおねだりによって作られたと言われる。

 夕方には多くの屋台が立ち並び、松明の光に照らされて大いに賑わっていた。

 年に一度行われる祭りでは、この広場を中心にして多くの者達が、大騒ぎを繰り広げる。近隣領の領主達も参加してのこの祭りのにぎわいは実に楽しげなものである。

 だが、ここしばらくはそんなにぎわいも徐々に薄れ始めてきたらしい。《白獅子党》の急速な台頭で、事あるごとにならず者同士のいざこざが起き、巻き込まれて店の閉鎖に追い込まれた者達も少なくない。


 ――ずいぶん集まったみたいだな

 川の両岸から広場の様子を覗き込む黒山の人だかりを眺めながら、シュレンは溜息をつく。白獅子党に恨みがあるからなのか。あるいは退屈な日常に飽き飽きして野蛮な娯楽を求めているからなのか。偉大なる国王陛下は、もう少し領民の趣向に関心をもつべきだろう。

 シュレンがブランの父親を通して街の商工組合に依頼したのは、今日、この広場を封鎖することと、街中に噂を流してもらう事だった。

 シュレンの依頼に初めは難色を示していたブランの父親によると、シュレンの要求は商工組合の幹部たちにあっさりと受け入れられたらしい。一人の傭兵の無謀な挑戦など普通なら突っぱねられるところだが、三年前に轟いたシュレンの悪評が決断の助けになったのは皮肉だった。さらに、表立ってという訳にはいかないものの、一部の幹部が積極的な協力を申し出てきたという。いかに街衆がやりたい放題の《白獅子党》に不満をため込んでいたかを理解する。


 夕刻前の広場に、シュレンは縛り上げたままの男達を放り出した。街衆の協力によって封鎖された広場の中、もくもくと戦場の準備を始める。シュレンの指示の元、組合に雇われた十人近くの男達の協力によって、屋台のいくつかを適度な間隔を開け、二重の円形に配置して、障害物とする。損害についての補てんを約束した商工会幹部のお陰で、シュレンはこの場で、やりたい放題を許されていた。

 屋台の影にいくつもの油壺を置き、広場の中心と橋げたにかがり火をたくと準備は完了した。手伝いの者達に礼を言って、足早に立ち去る姿を見送ると、橋の両端で通行止めをしている商工組合に雇われた数人の傭兵達に合図を送る。

 一人の男の縄をほどくと、男の衣服を脱がせて放り出した。脱がせた衣類をかがり火に放りこみ、盛大に燃やす。屈辱にふるえながら、男はよろめいて広場を後にした。見物人たちのヤジが去ってゆく男に向けられ、石を投げつける者も現れた。

「これで準備完了だな」

 すでに組合の協力によってシュレンが《白獅子党》に喧嘩を売った事は街中で噂になっている。今頃、メンツをつぶされた彼らは、報復すべく仲間を集め、準備をしているはずである。そこへダメ押しとばかりに、全裸で放り出された男が、人質として残った四人を川にほうりこむぞと伝えることで、もはや《白獅子党》は引く事は出来ぬに違いない。

 ――問題はあそこか。

 屋台からとってきた椅子を中央のかがり火の前に置いて座る。傍らにボウガンを置くとブランの用意してくれた弁当で軽く腹ごしらえしつつ、高台にある王宮を見上げる。

 街中に放たれた王宮の手の者達により、すでにこの騒ぎは確実に伝わっている。

 端的に言えばこれは通りすがりの傭兵とならず者たちの果たし合いである。治安上の理由を建て前に、妨害する気配を見せぬところから、この騒ぎを傍観し、程良い所で何かに利用するつもりなのだろう。

 ――まあいいさ。後はなるようになれ、だな。

 老師に譲られた剣を背に、ガントレットを籠手に嵌めた。かがり火で身体を暖めながら、シュレンは《白獅子党》の面々が現れるのを静かに待っていた。




2013/04/01 初稿




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