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ドキッ☆隻眼の彼はあぶない教師


 朝出会った謎の転校生ヒヨは、一回職員室に行くと言って別れた。

 「二年三組」の教室に足早に行くと、まだ教師は来ていないようだ。クラスは騒がしい。

 そそくさと俺は教室に入り、席に着く。

 すると、短く切りそろえた黒髪のクラスメート、キリが近寄ってきた。

「よ! また同じクラスだなんて運命的だな」

 キリは俺とは違い、クラスでも目立つ明るい人物だ。そんな彼が何故か俺の友人となった。理由ははっきり分からないが思い当たるのは体育の時間、ペアが組めず余った俺に声を掛けたキリが一言「俺以外に、ストレッチでこんなに体硬い奴見たの初めてだよ! なんか運命感じる」という言葉が引っ掛かるが。だとしたら何だか複雑だ。


「そう言えば、お前の弟は一年生だったな」

「そうだよそう! 今年から新入生……お兄ちゃんは心配で心配で休み時間に毎回アヤメのクラスに行っちゃうよ」

 どうやらキリは重症なようだ。昨年より弟愛が増している。

「そういや、担任誰になるんだろうな」

「さあな」

 今年一年も、昨年同様静かに過ごそう。静かにして目立たなければ担任が誰だろうと関係ない。目を付けられさえしなければ何てことないのだ。

 ガラガラとドアが開き、騒いでいた生徒の声が消える。

 青みがかったスーツ姿の男が歩く度、男の艶やかな黒髪が尾のように左右に揺れる。男は教卓の前に立った。クラス内がざわめく。何故ならその男は異様に長い前髪で片目を隠しているからだ。男は残された右目でぐるりと教室内を見渡す。

 目があってしまった。

「今日からこのクラスの担任になった、ギルドラだ宜しくな」

「先生ー、ギルドラって本名ですか?」

「そんな訳ないだろう、コードネームさ」

 何故教師がコードネームを使うんだと思わずには居られない。なるべく関わらないように俺は視線を下げ机を見つめた。

 なかなか綺麗だな、この机。

 現実逃避を始めた俺とは違い、三十五人近く居るクラスメート達はギルドラに質問を投げつけて盛り上がっていた。

「と、忘れてた。今日からこのクラスに新しい仲間が増えるぞ。……ほら、入ってこい」

 嫌な予感がした。開いているドアから入ってきた栗色の髪にあどけない青い瞳の少年ヒヨが、ばっちり此方を見ていて俺は思わず目を臥せる。あれは間違いなく今朝の謎の転校生ヒヨだ。

 ヒヨが自己紹介をしているが俺の耳には全く入らない。奴はにこにこ笑っているが実は恐ろしい奴で、現在進行形で俺は脅されている。

 ずっと気付かないフリをしていたが後ろの席が不自然に空いているこの現状を、俺はもう無視しきれなかった。受け入れるしかないのだろうと、うなだれた時、

「じゃあ、そうだなシランに学校内を案内してもらえ」

「はーい」

 何が「案内してもらえ」だ、内心焦りながら顔を上げるとギルドラもヒヨも何故かニヤニヤしている。奴等はいつの間にか手を組んでいたようだ。

 俺は溜め息をつかずには居られない。そんな俺に構わずヒヨは軽い足取りで、俺の後ろの席に座り、背中をちょんと突っついてきた。

「宜しくね」

「あ、ああ」

 これは一年間、静かには過ごせないだろう。

 俺はもう一度溜め息をついた。



◇◆◇◆


「何故アンタまで付いてくるんだ」

「シランだけだと心配だからさ、まあお前がさぼったり適当な事するとは思ってないが、前みたいな事もあるだろうしな」

 そう言ってギルドラが笑った。

 時刻は昼休み、学校内は休み時間という事で騒がしい。俺は言われた通りヒヨを案内するため学校内をうろうろしていた。途中何故かギルドラに捕まり、今は三人で歩き回る羽目になった。

 ギルドラに言いたいことは色々あるが、言い返せない。

 俺はギルドラに秘密を握られている。だが、俺もまた奴の秘密を知っている。滅多に脅すような事は言わないがこうしてギルドラは俺をからかってくる。

 全く、厄介な奴に秘密を握られてしまったものだ。そして俺も、好奇心から奴の秘密を握り、自ら妙な関係を作ってしまった。




 入学式が終わった後、担任の教師の計らいで、俺達新入生は学校内を案内されていた。体育館、図書室、そして屋上。

 屋上は昼休みにしか開放されないそうだ。

 そんな屋上に行けると知ったクラスメート達は盛り上がっていたし、俺も少し楽しみにしていた。

 屋上は高いフェンスに囲まれているが、そこから見える景色は普段見慣れた景色とはまた違い、何故だか美しく見える。俺は妙に感動してフェンスに張り付き街を眺めていた。

 そして気付くと誰も居なかった。

「……」

 俺は確かに目立つ方ではなかったが、あんまりではないかと思いながら、屋上を出ようとドアノブに手をかける。だが、重たい音がするだけで開く気配がない。

 俺は途方に暮れた。もう一度ドアノブをひねり、途方に暮れ直した。

 仕方なく再び街を眺めてみる。午前中で授業が終わったのか生徒達が足早に下校しているのが見えて、ちょっと泣きそうになった。


 どの位時間が経ったのか空が茜色に染まり始めた頃、ドアの開く音がして俺は思わず振り返る。

 そこには、長い黒髪を後ろで結い、前髪で目を隠した隻眼の男が立っていた。

「もう下校時間過ぎてるぞ」

 そう言うと男は何食わぬ顔で胸ポケットから煙草を取り出すと火を付けた。

「おい、教師が煙草なんていいのか」

「もう放課後だから良いんだよ」

 そういうものなのだろうか、その男は煙草をくわえたまま此方を見て笑う。

「お前、閉じ込められてたんだろ」

「……」

「見てたんだ、下でさ」

「ならもっと早く開けに来たらどうだ」

 男は悪戯っぽく笑って、煙草を携帯灰皿に押し付ける。

「それじゃあ面白くないだろ? お前、名前は?」

「面白がるな、それに人に名前を聞くときは先に名乗るのが道理だろ」

「意外に我が儘だな、シラン。でもまあ、誰も居ない二人っきりの屋上で秘密を分かち合うっていうのもなんか良いな」

 完全に男のペースに呑まれている。俺は少し腹立たしく感じていた。

「お前が泣いてた事、秘密にしてやるからお前も、誰にも言うなよ?」

 男が近寄り、耳元で囁く。その声が、吐息が俺を擽った。




「ここが屋上! 高~い」

 ヒヨがはしゃいでいるのを見ながら、俺は無事役目を終えた事に安堵する。

「なあ、ギル……なんでアンタは名を嫌うんだ」

「ん? 女みたいで嫌いなんだよこの名前」

「俺は綺麗だと思うんだがな」

 ギルドラは少し驚いたような顔をして、それから俺の頭を撫でた。

「ありがとな……、まさかアイツ以外にそんな事言われるとは思わなかった」

 「アイツ」とは誰なのだろうか、少し気になるが、俺はそのままはしゃぐヒヨをギルドラと共に見ていた。

 あの時とは違う、街の景色が目に映る。



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