逆追放 ~魔竜を倒した俺は追放スキルを完全に理解し無双する~
ポ帝都は騒然としている。諦めたように立ち尽くす男。逃げ惑う女、どこかで子供の泣く声がして、それは建物が崩れる重たい轟音と共に消えた。
壊れた城壁。視線を上げると、魔竜の青く輝く雄姿があった。百年に一度現れる災厄。翼を一つ羽ばたかせれば空を支配し、魔法を二度放てば街を壊す。どんな馬鹿だって、ポ帝都の終わりを理解した。人間同士の戦争なんていうものがどれだけちっぽけなものか理解させられる。
冒険者ギルドが緊急依頼を張る。B級以上の冒険者は強制だが、そいつらが何人居たって意味はない。それでもタツコメ=タセッキは依頼を受けた。
「適当に前線で隠れているだけで、法外な報酬が貰える。参加しないやつってほんと馬鹿よねぇ」
バスノーラが隣で言った。こいつはエロいだけの女だ。魔法を使うのは遅いし、その上威力もない。タツコメがバスノーラと二人でパーティを組んでいるのは体と、悪縁以外に理由はなかった。バスノーラだって似たような理由だろう。だがアホみたいに精進して、死ぬリスクと引き換えに冒険者のランクを上げるよりかは安全にその日暮らしをしているほうが楽しいに決まってる。
「静かにしろ。他のやつらに聞かれたらどうすんだ」
「他のやつ? もう居ないじゃない。どいつもこいつもそこらへんに転がってるわよ。ちゃんと財布持ってればいいんだけど」
二人は身隠しの魔法を使って、城壁が崩れてできた楽園にいた。他者からは犬に見えるようになる、擬態の魔法道具も使っている。
ずずん。
「きゃあ」
「うお」
魔竜が近くに着地した。信じられない存在感。タツコメはバスノーラの胸元へ垂れていく汗を見ながら、気分を落ち着かせた。
二重で擬態してんだ。バレるわけがねぇ。
魔竜は口の先から魔法を放ち、ポ帝都を破壊していく。次は街の中心に向かって放とうとした時だ。
【追放スキル 光煌斬】
静かな声がした。
魔竜の放ったビームごと、横に一閃して断ち切る。タツコメとバスノーラの目には一瞬だけ光ったようにしか見えない。次の瞬間には魔竜が崩れ落ち、その傍らに青年が立っていた。見たことない冒険者だ。よく見ると、魔法をくらいながら斬ったのか血だらけで、ふらふらと立っているのがやっとの様子だった。
「……よかった、を守れた」
意味有りげに呟いた。遠くて聞き取れない。突風が吹く。なにかの移動スキルか、青年は消え、魔竜の亡骸だけが横たわった。
不安な顔で広場に避難する人々の目に、死地から帰還する二人が見えた。他に冒険者はいない。
どっと歓声が湧く。ポ帝都に喜びと賞賛の声が満ちていく。音楽隊が高らかにメロディを吹き伸ばす。
辛そうな顔をするタツコメをバスノーラが支えている。二人とも顔に黒い汚れを付け、疲労困憊の様子だ。タツコメの肩の血が激闘を物語る。彼らを迎えようと沿道に人々が集まる。騒ぎに慌てて飛び出してきた冒険者ギルドのマスターが信じられない表情をした。歴戦の冒険者だった彼からすれば、そうなるのも無理はない。だが疑念の表情はタツコメが握り締める魔竜の角の先端を見て、敬意に変わる。英雄を称え、抱擁しようと迎えにいった。
宮殿のような一室にタツコメとバスノーラが居る。別の部屋には豪華な食事が山となって盛られていた。
「うぐ。まだ痛いぜ。魔竜の角を折った時の傷がよ」
「馬鹿よねぇ。こけて自分の肩を切っちゃうなんて」
「うるせぇ。でもまあ、これで」
「私たちは一生安泰よ」
「「わはははははは」」
上等なワインを水のように飲む。笑いが止まらなかった。
「まさか俺たちが英雄なんてよ」
「でも大丈夫かしら。あの男が戻ってきたら」
魔竜を一撃で葬った男。絶対に普通じゃない。
「大丈夫だろ。あの傷じゃどこかでおっ死んでるよ」
「そっか。そうよね。凄い血の量だったし」
バスノーラは不安が消えたように、開けっ広げに笑う。その性格は好きだぜ。
「それより、お前も聞いただろ?」
「【追放スキル】って言ってたわね。そんなの聞いたことないわ」
「俺もだ。だがすぐに分かる。俺たちも習得すりゃいい」
「え? どうやってよ?」
「だから名前の通り、追放すりゃいいんだよ」
「追放って、でも私たちのパーティ二人だけじゃない」
まさか私を追放するつもりじゃないわよね? と上目遣いになる。色っぽいその体を抱き寄せた。
「これから俺たちの名声に引かれた冒険者が群がる。使えるのはそのままこき使って、使えないのを追放すりゃいいのさ」
「あんた。……天才だね」
二人の高笑いは、魔竜の魔法で荒廃し、静かになったポ帝都の夜にこだまする。
「使えねぇ使えねぇ。どいつもこいつも使えねぇなぁ。アウズンプラ(巨大な牛の魔物)くらいでこんなに時間掛けてんじゃねぇよ。俺なんてあの魔竜を一瞬でぶっ殺したんだぜ。そんな奴らは俺たち黒い漆黒のブラックノワールに相応しくねぇ」
あの日に酒を飲みながら考えたパーティ名だ。とにかく黒い。黒過ぎるくらいに黒い。
「「すいませんでした」」
男たちが頭を下げている。偉そうにするタツコメの後ろ。バスノーラは豪華なソファで自分の爪の具合を確かめていた。もうその手は杖を握るよりシャンパングラスを持つことの方が多い。
「あ? お前まだ居たのか」
タツコメがいびるのは、真っ直ぐな目をした少年のエイユだ。少し前にタツコメのパーティに入ってきたはいいが、大した活躍はしていない。
「ごめんなさい」
「お前さ、冒険者向いてねぇよ、田舎に帰れよ」
タツコメが笑えば、その場にいる誰もが同調して笑う。
「可哀想よ。ここでは掃除で大活躍してるんだから。あ、もう冒険者やめたら?」
バスノーラも笑う。
「お前、魔物を二百匹狩ってくるまで帰ってくんな」
「え?」
冗談にしたくて、エイユは卑屈な笑いを浮かべる。
「え? じゃねぇよクソが。いいか、飯も終わるまでだめだ。サボるからな。死ぬ気でやれよ。ほらいけ」
「タツコメさんこいつ死んじゃうんじゃないすかぁ」
「ひゃべぇぜタツコメさん」
男たちが囃し立てる。
「こんな雑魚はパーティにいらねぇよ。おいエイユ、出来なかったらお前は追放な」
バスノーラが笑みを浮かべる。これまで何人も追放してきた。そろそろ、タツコメが追放スキルを習得したっていい頃だ。どれだけ酷い扱いをしようが、パーティに入りたい人間は後を絶たない。そいつらをこき使えば金には困らなかった。
「分かり、ました」
悲壮感でいっぱいの表情でエイユは外へ向かう。魔物二百匹なんて、見つけることすら無理だっつうの。
――二日後。
血と泥にまみれたエイユがパーティハウスに戻ってきた。なんでも二百匹倒したらしい。そう報告して、疲れ果てたエイユは自分の宿へ帰る。
パーティメンバーの一人が現地へ行くと、そこには異常な数の魔物の亡骸があった。
エイユが宿に帰ると、冒険者ギルドで働いている幼馴染が待っている。依頼を受けてもいないのに二日も帰らないから心配していたのだ。
「大型の魔物が出たそうですよタツコメさん、行かないんですか?」
「見せて下さいよ光煌斬を」
「やめろ。この勲章が止めるんだよ。俺に見合う強者はもういねぇってな」
「ヒャッハー。さすがタツコメさんだぜ!」
パーティハウスの扉が開く。エイユだ。
「はは。お前死んでなかったみたいだな」
「あの、これでいいんですよね」
「出ていけ」
追放は予定調和。そもそもこのガキが嫌いだ。追放用でパーティに入れたが、雑事で使えたからここまで置いておいた。魔物の素材を売って金にすれば、使用人をもう一人雇える。
「そんな、二百匹以上狩ってきましたよ」
「ちゃんと数えたのか?」
「……はい」
「ふん。あいつらが数えたら百九十九匹だったぞ。馬鹿が」
そうなるようにタツコメが指示しただけだ。
エイユも、死体を整理しながら数を数えたわけじゃない。魔物を殺す度に数えていたので、途中で間違えてもおかしくはなかった。
「エイユ、お前をパーティから追放する!」
タツコメは最早そう告げることに快感すら覚えている。朝露で街が洗われたように爽快な気分だった。
「悪いところは直します。どうかやり直させてください」
エイユの荷物が外へ投げられる。バック一つで収まる量だった。
嗤い越えに追い出された。
「……」
ふらふらとエイユはパーティハウスを出る。落ちた荷物を拾い、名残惜しむように振り返った。それもそうだ。宿も借りれず、今日の食事にすら困っていたエイユを拾ったのはタツコメだ。これから始まる人生を想像できなかった。明るい未来が待っているとは思えない。絶望だった。
これから、どうしよう。
謝れば、戻してくれないだろうか。嘆くエイユの脳内に、静かな声が告げる。
『追放スキルを獲得しました』
なんだろう。力が湧いてくる。体の動かし方を理解する。意味が分からなかったが、追放スキルとあるからには追放されたからだろう。
それからエイユの快進撃は止まらない。
故郷が魔族に襲撃されたと聞いて、幼馴染と故郷に帰りそれを倒す。そのまま旅へ出ることになった。
帝国を一周してポ帝都へ戻ってくる頃には勇者顔負けの強さになった。
追放スキルをくれたタツコメに礼を言おうとパーティハウスへ向かう。振り返れば魔物を二百匹殺すことで追放スキルを覚えるのに必要な経験値が溜まったのかもしれない。そう考えれば今までの非道も解釈が変わる。全部自分を鍛える為だったのだ。
「使えねぇなおい。さっさと行ってこい」
少年が木箱を持っている。なにかを納品するお使いをしているようだ。タツコメは既に次の育成を始めているようだ。頭が下がる。
お土産の焼き菓子を右手で持ち、左手でノックしようとした時だ。
「そういえばあのポンコツはどうしてるのかねぇ」
バスノーラさんの声だ。
「エイユのことか? どこかで野垂れ死んでなきゃいいけどよぉ」
「――!」
ぎゃはははは。下卑た笑いをエイユは聞かなかった。お土産を置いて、静かに去る。まさか時間が経ってもタツコメが心配してくれるとは思わなかった。育てて貰った恩は、結果で返す。
そんな時に帝都はまたしても危機を迎える。
魔竜が現れたのだ。百年に一度だから生きている内にもう来ることはないと高を括っていたタツコメとスノーラはもう胃が飛び出るほど驚いた。
冒険者ギルドからは名指しで依頼が飛ぶ。しかも貴族の署名付きだ。
「タツコメさんどうぞ。剣を忘れてますよ!」
追放用にパーティに入れたヒーロが、群衆に紛れて逃げようとするタツコメを見つけて叫ぶ。誰もがその名前を思い出した。ぽかんとする人間に、訳知り顔のジジイが言う。
「お前さん知らないのかい。あの男は数年前に魔竜をぶっ倒した男だよ」
「助かったああああ」
「タツコメが来てくれた!」
「タツコメ様お願いします」
そして前線へ送られる。
「どうすんのよタツコメ。なんとか言いなさいよ」
巻き添えでバスノーラも前線へ立たされた。裏切って避難する市民と一緒に逃げたかった。でもタツコメに捕まり道連れにされた。
「大丈夫だ。いいか。前と同じだ」
手に持っているのは動物に誤認させる魔法道具だ。
「そおか。身隠しの魔法ね」
魔竜の元へ向かう振りをして、壊れた家の中へ隠れる。
「ヒーロめ。あの糞野郎余計なことしやがって。帰ったら絶対に追放してやる」
しかし久し振りにバスノーラは杖を持ったのだ。攻撃魔法さえしばらく使っていないのにただでさえ普段は使わない身隠しの魔法だった。なかなか詠唱が終わらない。
「くそ、早くしろ。なにやってんだ」
失敗した。もう一度詠唱する。
「急かさないでよもう」
魔竜が咆哮する。近い。
隠れていた瓦礫が吹き飛ぶ。ただ羽を動かしただけで、タツコメの持つ魔法道具ごと吹き飛んだ。
「あ」
魔竜の赤い瞳と目が合う。終わった。
「ひいい」
バスノーラは恐怖に漏らしてる。
「くそ。こんなところで死ねるかよ」
破れかぶれに剣を構える。大枚はたいて買った魔剣だ。切れ味はそんじゃそこらの剣とは比べ物にならない。
【追放スキル 星光斬】
魔竜を確認してから、空中で加速を続けたエイユが光速の剣を振るう。
まばたきした一瞬で魔竜は絶命した。首が、両断されていた。
「「え?」」
あんたがやったの?
ぷるぷると首を振ったタツコメだが、持ち前の精神ですぐに調子に乗る。
「ち、誰かがやりがった。俺がやろうとしたのによ」
今度こそ挨拶しようとしたエイユの足が止まる。
「……え?」
魔竜を斬る瞬間。視界の端で、剣を構えていたタツコメを認めていたからだ。自分はなんてことをしたのだろう。恩返しどころか邪魔をしてしまった。こうなったら、せめて魔竜の素材と功績は譲ろう。
「タツコメさん。今まで有難う御座いました」
建物の影で深く頭を下げたエイユは自分の冒険へ戻る。
魔竜の角を握り締め、タツコメは二度目の帰還を果たした。『竜角』の称号を携えて。後にタツコメはパーティハウスで語る。
「首の骨を避けていれば、もう少し楽に斬れた。ま、俺が居るところに来た時点であいつは悲劇と踊っちまったんだよ。あとヒーロ、お前追放な」
追放。追放だ。お前も追放。あいつも追放。やっべ、くっそ気持ちいいぜ。
『追放スキルを獲得しました』
※タツコメの追放は続、いたとしてもまた来年の誕生日に!
もし今日誕生日の人が居たら、誕生日おめでとうございます。




