第5章:【データ分析】魔物の大スタンピードを「完全予測」
「主様、異世界の天気がなぜ予測しにくいか、3つのポイントで解説するよ!」
冒険者ギルドのテラス席。アイリスは、俺にしか見えない「解説動画風のワイプ窓」の中で、意気揚々と語っていた。
「……いや、天気の話は聞いてない。魔力濃度の微細な揺らぎについて報告しろと言ったんだ」
「結論から言うと、詰み(チェックメイト)です。主様、98%の冒険者が損してる『手遅れになる前の避難術』、今すぐ教えちゃいますね!」
アイリスがふざけたバナーを消すと、俺の視界に赤いアラートが点滅した。ギルド周辺の地図データに、不気味な赤黒い等高線が描かれていく。
「解析完了。過去300年の気象データ、魔力密度の推移、および周辺個体群の移動パターンをクロス集計した結果……。今後72時間以内に、この街を対象とした大規模スタンピード(大暴走)が発生する確率は99.8%です」
「……確定だな」
俺は隣で、アイリス特製の「効率的筋力トレーニング」に励むラピスを見た。
「ラピス、練習は終わりだ。荷物をまとめろ。稼ぎ時が来るぞ」
俺たちはギルドマスターの執務室へと乗り込んだ。
「マスター。今すぐ全住人の避難と、防衛陣布の再構築を。3日後、北の渓谷から一万を超える魔物の群れが来る」
「……なんだと?」
強面のギルドマスターは、鼻で笑った。
「カイト、お前は優秀な『解析者』だと聞いていたんだがな。伝承によれば、スタンピードの予兆は『空が赤く染まる』ことだ。今は快晴だぞ。占い師にでもなったのか?」
「それはいい質問だね!」
アイリスが横から口を挟む(声は俺の口を通じてスピーカー出力される)。
「空が赤くなるのは、魔力粒子が飽和してレイリー散乱が起きる『手遅れ』のサインです。【保存版】一流の経営者がやっているリスクマネジメントによれば、予兆を数値化できない組織は滅びます」
「誰だ!?今の声は」
「俺の相棒だ。結論から言うと、あんたの『勘』は300年前のデータに基づいた古いパッチ(修正プログラム)に過ぎない。俺たちは、より解像度の高い『未来』を見ている」
結局、マスターは動かなかった。エビデンスよりも前例を重視する。典型的な大企業の不作為だ。
「主様、ギルドが動かないことは想定内です」
ギルドを出た後、アイリスが冷徹に告げる。
「むしろ好都合です。彼らが動かない間に、私たちは市場にある『対集団用スクロール』と『広域ポーション』をすべて買い占めます。【爆速で資産を増やす方法】供給が絶たれる前に在庫を抑える、これ常識ですよ!」
「ああ。救助はするが、ボランティアじゃない。これは『災害救助事業』だ」
俺たちは金貨をすべて使い、市場の物流をハックした。
カイトが「解析者」の能力で鑑定し、アイリスが「市場在庫」をリアルタイムで追跡する。
そして、ラピスを「唯一の即戦力」として配置し、避難経路上の重要拠点(関所)の防衛権を勝手に買い取った。
「カイトさん……本当に魔物が来るんですか?」
不安げなラピスに、アイリスがフォローを入れる。
「ラピスさん、結論から言うと、来ます。理由は3つ。 1つ、気圧配置が魔物の好む『低魔圧』であること。2つ、森の主のバイタルデータが低下していること。3つ――私がそう計算したからです。この記事が気に入ったら、会員登録をお願いします」
「……え?あ、はい。登録……?」
72時間後。
ギルドマスターが言っていた「快晴」は、突如として血のような夕闇に染まった。
空が赤い。
「き、来たぞ! スタンピードだ! 北の渓谷から数万の群れだ!」
街中に鳴り響く鐘の音。パニックになる住民。慌てふためくギルド員たち。
だが、俺たちの前には、完璧な「防衛コード」が敷かれていた。
「アイリス、演算を開始しろ。敵の進軍ルートは?」
「既に予測済みです。【最新版】魔王軍も逃げ出す最強防衛陣の作り方をAR(拡張現実)でラピスさんに投影します。主様は、後方から座標の修正をお願いしますね」
ラピスの瞳に、青いグリッド線が走る。
押し寄せる魔物の群れに対し、彼女は一歩も引かずに剣を構えた。
どこを斬ればいいか、どこに立てば最小の労力で群れをせき止められるか、すべてはアイリスの計算通り。
「……見える。魔物の動きが、全部『数字』に見える!」
ラピスの無双が始まる。
一方、ギルドマスターは呆然と立ち尽くしていた。
カイトが言った通り、いや、カイトが言った以上の精度で事態が進行している。
「主様、見てください。ギルドの評価が急落し、我々の『信頼スコア』がストップ高です! この感動を、みんなにシェアしたいですね!」
「シェアはいいから、報酬の請求書を作っておけ。命の値段は、高いぞ」
混乱する戦場の中で、俺とアイリスだけが、まるで完成されたパズルを埋めるように、淡々と「世界のデバッグ」をこなしていた。




