第4章:【ユーザー獲得】Fランク騎士を「魔改造」してみた
「……主様、結論から申し上げます。今の我々の生存戦略において、決定的に足りないものがあります。全部で3つ!このあと紹介するから注目してみて!」
ギルドの片隅、不採用通知が山積みになったゴミ捨て場の前で、アイリスが人差し指を立ててホログラムとして現れた。
「1つ、前衛の不在。2つ、物理的ヘイト管理の欠如。3つ――主様の運動神経が平均以下であることです」
「最後のは余計だ。だが、確かに『盾』になる人材は必要だな。俺がプロンプトを打ち込む時間を稼ぐ奴が」
俺がゴミ山から拾い上げたのは、ボロボロに汚れた一枚の履歴書だった。
名前はラピス。実技試験で「剣筋が遅すぎる」という理由で、10連続不採用を食らっている少女騎士だ。
「アイリス、彼女の評価スコアを出せ」
「スキャン完了。いい点に注目したね!彼女が不採用な理由は、筋力不足ではなく『無駄な気合』だよ! 現在の戦闘効率はわずか15%。98%の凡人騎士がやってる、時間を大幅に損する間違った努力を完璧に体現しています」
「……伸び代しかない(アプサイドが大きい)ってことだな」
俺は路地裏で一人、涙を拭きながら錆びた剣を振るラピスに声をかけた。
「そんな剣の振り方だと、あと100年やってもスライム一匹倒せないぞ」
「……っ!? 誰ですか、いきなり。……私だって分かってます。才能がないことくらい……!」
ラピスが顔を上げると、アイリスが彼女の周囲に複雑な幾何学模様――拡張現実(AR)のガイドラインを投影した。もちろん、ラピスには見えない。
「アイリス、彼女に『最適な勝機』を見せてやれ」
「了解です。【保存版】3秒で強くなる裏技:異世界騎士DX編を開始します。……主様、私の演算結果を彼女の脳内へ、視覚補正として強制パッチします」
「……えっ? 何、この光……?」
ラピスの視界に、敵の動きを予測する「未来予知の残像」と、自分が通すべき「最短の剣筋」が青いレーザーサイトのように浮かび上がる。
「アイリス、解説しろ」
「ラピスさん、初めまして。主様の外部OS、アイリスです。結論から言うと、剣術は根性ではなく『重力と慣性の最適配置』です。 あなたの無駄な踏み込みを0.2秒削り、腕の角度を15度修正するだけで、威力は3.4倍になります」
「な、何なの……声が頭の中に……!」
「いいから、その『青い線』の通りに動け。それがこの世界の正解だ」
折よく、ギルドのならず者たちが「不採用通知のゴミ拾いか?」と絡んできた。典型的な、噛ませ犬という名のテスターだ。
「おいおい、そんなナマクラで何ができるってんだ?」
大剣を振りかぶる男。ラピスは怯えたが、アイリスの冷静な音声が彼女の意識を支配する。
「敵ユニットの攻撃パターンA-4を検知。右足の重心を3センチ後ろへ。……今です、手首の力を抜いて、重力に従って振り下ろして」
「やぁぁぁっ!」
ラピスが放った一撃は、力みが一切ない、文字通り「落ちる」ような鋭さだった。
男の重厚な大剣の『構造的弱点』をピンポイントで叩き切り、そのまま喉元でピタリと止まる。
「な……っ!? 今、何が……」
「……えっ? 私、今、力を入れてないのに……」
唖然とするラピス。アイリスは彼女の頭上で「ミッション完了!」とクラッカーを鳴らすエフェクトを出した。
「【祝】ユーザー登録完了! ラピスさん、あなたの『努力』という名の非効率なアナログ作業を、私がすべて自動化して差し上げました。これがDXです!」
「デ、デラックス……?」
「DXだ。ようこそ、俺のチームへ。君は今日から、世界で唯一『AIに最適化された騎士』だ」
その夜、ラピスを加えての初ミーティング。
彼女はアイリスが出力した「明日からのトレーニングメニュー(秒刻みのスケジュール表)」を見て、目を白黒させていた。
「主様、彼女の導入は成功です。これで主様の生存確率は前日比450%増加しました。……ところで、ラピスさん。この記事が気に入ったら、ギルドの友達にも紹介してね!」
「……紹介しても、誰も信じてくれないと思うけど……」
「だろうな。だが、これで『最強の駒』は手に入った」
俺はアイリスが空中に浮かべた、次なるターゲット――大規模な魔物の発生予測データを見つめた。
「アイリス、次は『市場の独占』だ。ギルドが予測できないスタンピード(大暴走)を、俺たちだけで処理する」
「承知いたしました。【結論から言うと、次の戦いで私たちは億万長者になります。理由は3つ】……」
アイリスのドヤ顔を見ながら、俺は確信した。
才能というブラックボックスをロジックで解体した時、この異世界の「常識」という名のレガシーシステムは、音を立てて崩壊する。




