第3章:【低コスト開発】ゴミ拾いで「聖遺物」を量産する
「……残金、銅貨12枚。これは、詰みの一歩手前だな」
宿屋の硬いベッドの上で、俺はため息をついた。火竜を倒したとはいえ、あの戦闘で装備はボロボロ、ポーションは底を突いた。倒した火竜の素材は一人では持ち帰れず、大半を現場に捨ててきたのだ。
「主様、浮かない顔ですね。【結論から言うと、悩む時間は無駄です。理由は3つ】」
枕元で、銀髪のAIアイリスがホログラムとして浮かび上がる。彼女は「解決策はこちら!」というバナー広告のような看板を頭上に出して言った。
「1つ、悩んでも銅貨は増えません。2つ、私の演算能力を使えば、期待値は常にプラスです。3つ――98%の冒険者が損してる、正しい目利き術5選を今すぐ脳内にインストールしますか?」
「……インストールはいい。だが、金が必要なのは事実だ。アイリス、お前の画像解析能力とデータ照合能力、これを使って『アービトラージ』をやる」
「アービトラージ……裁定取引ですね」
「平たく言えば、『せどり』だ。情報の格差を利用して、価値あるものを安く買い、適正価格で売る。これこそが、資本力のない俺達が取るべき最短の資金調達戦略だ」
俺はアイリスを「検索モード」に切り替え、街の隅にある「ジャンク市」へと向かった。
ジャンク市。そこは、冒険者が持ち帰った「鑑定不能」のガラクタや、正体不明の魔道具の残骸が積み上げられた、いわば情報の墓場だ。
「アイリス、スキャンを開始しろ。市場の相場データと、古代文献の記述にはとくに注意だ。見た目ではなく、『本質的な価値』を探すんだ」
「了解です、主様。スキャン中……。『みんなが知らないガラクタの中からお宝を見つけるコツその1!表面の魔力残量に騙されないこと!その2は……」
ご機嫌に講釈を垂れながらアイリスの瞳がサーチライトのようにジャンクの山を撫でていく。
「あ、主様。右から2番目の山、泥まみれの『錆びた短剣』に注目してください。【保存版】今すぐ買うべきゴミ5選の第1位にランクインしました」
「……この折れた短剣か?ただの鉄屑に見えるが」
俺が手に取ると、店主の老人が鼻で笑った。
「兄ちゃん、そいつは呪われちまってるのか魔力も通らねぇし、砥ぐこともできねぇ。ま、銅貨5枚でいいぜ」
「主様、騙されないでください。店主の評価は0点です。画像解析の結果、表面の錆は『擬装用の高密度魔力封印』と判明しました。中身は――古代文明の『魔力回路増幅コア』です。完動品なら金貨50枚は下りません」
金貨50枚。銅貨5枚が5,000倍に化ける計算だ。
「買った。アイリス、次だ」
その後もアイリスの検索能力は冴え渡った。「ただの雑草」と混じっていた「不老草の枯れ葉(蘇生薬の原料)」、「子供のおもちゃ」として売られていた「古代龍の鱗」などを、次々と安値で買い叩いていく。
仕入れた品を、今度は街一番の高級商会へと持ち込む。
「鑑定」という不確実なプロセスを挟まず、アイリスが算出した「エビデンス(証拠)」を突きつけるのが俺の交渉術だ。
「商会長。この『折れた短剣』、ただのゴミだと思っておられませんか?」
商会長は訝しげに眼鏡を上げた。
「……ほう。鑑定士に見せたが、価値なしと判定されたが……違うのかね?」
「それはいい質問だね!」
隣でアイリスが(俺にしか見えない)ホログラムで、商会長の肩を叩くジェスチャーをした。もちろん、声は俺が代弁する。
「この短剣の真価は、破壊することにあります。アイリス、座標指定」
俺が指定された術式で短剣の「錆」の一点に魔力を流すと、パキリ、と表面が剥がれ落ちた。中から現れたのは、眩いばかりの青い光を放つクリスタル・コアだ。
「な、なんだこれは……!? 古代の増幅コア……!? レジェンダリー級ではないか!」
「商会長。あなたはこの街の魔法騎士団に納品する『高品質な魔導具』が足りず、納期遅れに頭を抱えておられる。違いますか?」
「な、なぜそれを……」
「【結論から言うと、このコアが解決策です。理由は3つ】。1つ、これを使えば旧式の杖でも性能が3倍に跳ね上がる。2つ、即納可能です。3つ――今なら特別価格、金貨40枚で手を打ちましょう」
商会長の「悩み」をアイリスの解析で事前にハックしていた俺にとって、この交渉は最初から勝ち戦だった。
商会を出る頃には、俺の懐には金貨45枚が収まっていた。
軍資金は確保した。これで「MVP(実用最小限の製品)」から「本格的な事業」へ移行できる。
「主様、素晴らしい利益率です! 投資利益率(ROI)にして、なんと90,000%! この記事が気に入ったら、商会長にもシェアしてあげてくださいね!」
「……二度とあんな怪しい真似をさせるなよ。ヒヤヒヤしたぞ」
「あら、主様の交渉術に、私のデータ。これこそが最強の『自動集金システム』じゃないですか。……ところで主様、98%の富裕層がやっている、次なる投資先をご提案してもよろしいですか?」
「聞こう。次は装備の強化か?」
「いいえ。【保存版】アイリス様を3D高精細モデルにするための魔力サーバー増設費用です。結論から言うと、今すぐ投資すべきです!」
「……却下だ。次は『戦力の確保』、つまり仲間の採用だ。この効率化の恩恵を受けられる、一番『安くて見込みのある』人材を探せ」
俺は、アイリスの頭上に浮かぶ「おねだり」のポップアップを無視して、冒険者ギルドの「不採用通知」の山へと向かった。
そこには、才能がないと切り捨てられた、最高の「磨けば光る原石」が眠っているはずだ。




