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Cafe Serendipityへようこそ

作者: アイリス

やっと短編を書くことができました。


爬虫類が苦手な方は注意が必要です。



「あああーーまただわ、マスター。お酒、お酒ください。」


「アリスちゃん、まだBarの時間じゃないし、

て言うかまだ準備中なんだけど」


「後、1時間でBarの時間でしょ、この可哀想な私に早くお酒とご飯を」


「なんか要求が増えてるけど、まだ準備中だからこれ飲んでちょっと待ってね」


マスターはささっとココアを入れて、中にちょっぴりシナモンのリキュールを入れてくれた。


飲むとすぐに体がポカポカと温まる。


強いお酒が欲しいとか言ってみたが、私はお酒にとことん弱いのでこれぐらいでもすぐに顔が赤くなってしまう。


「お前、また振られたのか?」と言いながら、マスターの代わりにトーストを持って現れたのは、私より1歳下でマスターの弟のカイだ。


「お客様に向かってなんて事を」と私がカウンターに突っ伏しながら言うと。


「準備中に来て、幼馴染に酒と飯を要求する客がどこにいる」とニヤニヤしながら、私の顔の横に、まだ湯気が出ている出来立てのトーストに皿を置いてくれた。


「だって、営業時間中に来たら、あなた達忙しくて私の相手してくれないじゃん」


マスターとカイのお店は私の家の裏にある。小さい頃に母を亡くし、父子家庭で一人っ子の私。父は騎士で遠征が多かった為、その度にマスターとカイの家族に預けられた。


本当の兄弟のように育ったので、お互いに全く遠慮がない。


残念ながらマスターとカイのご両親は2年前にお店の買い出し中に、馬車の事故で亡くなってしまった。2人のお店であった、お食事何処熊野亭は、マスターが引き継いで、今は「Cafe Serendipity」と言うおしゃれな名前になったが、地元民の間ではいまだに「熊野亭」と呼ばれてる。


「やっぱり、熊野亭トーストは最高に美味しいな、なんでこれメニューに入れてないの?」と私ががっついて食べていると。


「アリスちゃん、それはSerendipityトーストだから、特別な時にしか出さないんだよ」とマスターがスープを持って来てくれた。


「だから、熊野亭でよかったんだよ。近所のオッさん達でこの名前を言えるやつなていないぞ?注文とる時に恥ずかしいんだから」とカイが文句を言うと。


マスターはニヤリとしながら、「いいんだよ、その意味がわかる人にはわかるから」と言って、夜の仕込みをすると厨房に引っ込んでしまった。


すると、カイは私の方を向いて。


「で、今回はどうしたんだ?」


「聞いてよ、お店にいつも来てくれるダンさん、王都から派遣で来ている騎士の。いつも来る度に、お花とかお菓子とか持って来てくれるし、気があると思うじゃない。だからお茶に誘われて、今日一緒に行って来たのよ。」


「は?あいつと?おっさんじゃねえか」


「いいのよ、私はイケオジがタイプなんだから。で。。エスコートもスマートで、ドキドキしてたら。手を握られて、前からずっと気になっていたんだって言われたの」


「で、どうして、そこから振られる羽目になるんだよ」


「そこから、2人で手を繋いで外に出たら、道の真ん中に大きなヘビがいたの。馬車に轢かれたら可哀想だし、ほら動物に優しくするってポイント高いじゃん?だからヘビを掴んで道の脇に戻してあげたら、どうやらダンさんは大のヘビ嫌いだったみたいで。ヘビを掴んだ手で俺に触るなって逃げちゃったの、酷くない?あんなに可愛いのに」


「アリス、俺もそれはドン引きレベルだ」とカイは笑いを堪えながら言った。


「なんであそこでヘビが出てくるのよ。それじゃ無かったら、今頃ダンさんとデートの続きをしていたのに」と私はまたカウンターに突っ伏す。


「大体、あの歳で独身の騎士が若い子を狙うとか絶対本気じゃないだろう。あいつ本当に独身なのか?」


そう言われると自信はない。これからダンさんの事を知って行こうと思ってたから。


「大体、普段は職場の武器屋で、試し打ちとか言って騎士と互角に戦うような女が、無理矢理お淑やかなフリをしてるから、ボロが出るんだ」


「ダンさんの前ではしてなかったもん」


「で。。。ヘビでボロが出たんだな」


。。。。しょうがないじゃない。お父さんがいなくて寂しいから、ペットを飼いたいと言っても許してくれなかったから。裏庭にいるヘビやトカゲを捕まえてペットにしてて、今でも大好きだし。


お父さんはお人形とかより、剣とかをお誕生日にプレゼントしてくれるから、マスターとカイと打ち合いして遊んで大きくなったんだし。


「て言うかさ、お前は俺の兄貴のことが好きだったんじゃないの?」


急にそんな事を言われて、飲んでいたスープを吹き出した。


「何言ってるのよ」ってカイの方を見ると。


すごく真剣な顔でこっちをみていた。


「そんなの昔の話よ。もう告白して、思いっきり玉砕したんだから」


そう、あれは2年前。カイ達のご両親が亡くなって、マスターがお店の名前を変えて、リニューアルオープンした頃。


両親の死でまだ落ち込んでいるカイを励ましつつも、お店をオープンさせる為に頑張って、10歳年上と言うのもあるけど、すごく大人っぽくて、カッコよくて告白せずにはいられなかった。


でもマスターは、心に決めた人がいるから、彼女以外とは誰とも付き合うつもりはないんだって言うから。


いつも通りの妹分の役に戻ったんだ。あまりショックも受けなかったので、きっと私もそこまで本気では無かったんだと思う。


でもその時から、マスターの本当の名前を呼ばずにマスターと呼んでいる。


カイはなんか黙ったままだ。


「そろそろ開店時間だよね。私は帰るわ。話聞いてくれてありがとう」


なんだか急に恥ずかしくなり、私はとっとと逃げ出すことにした。


「おい、アリス待てよ」とカイが言った瞬間。


急にどどーんと言う音がして、厨房から煙が。


「兄貴、大丈夫か!!!」とカイが厨房に走っていく。


そこには黒焦げになった鍋と前髪がちりちりになったマスターがいた。


「いやーびっくりした。揚げ物の油が急に燃え上がって、慌ててバケツの水かけたら大変なことに」


それ。。一番やっちゃいけないやつだな。


「今夜は大雨でお客さん少ないだろうし、キッチン使えないし、休業にするわ。俺は片付けするから、カイはアリスを家に送ってあげて。材料無駄になるから、今日の仕込んだやつを夕ご飯用に持って帰りな」


そう言って、マスターは掃除道具を取りに行った。


片付けを手伝うと言っても、いいからってお店から出された。


カイが荷物を持ってくれて、家の方に歩いていくと。家の前で何かが動いてる。


なんだか見覚えがある。


あ、さっきダンさんといる時にいたヘビ。

背中に黄色の模様が入ってて、珍しいなと思ってたので同じやつだ。


雨が降っているせいで、気温が下がっているからか、動きが鈍い。


慌てて拾い上げて、家に連れていく。


「またヘビかよ、てかでっかいなこいつ。こんなの掴む女がいるのか?そりゃ逃げられるわけだ」


失礼な、このヘビちゃんのつぶらな瞳を見ろ!


カイもそのまま家に着いて来て、私がタオルでヘビを拭いてケージに入れている間に、夕ご飯を温めてくれている。


お店から家まではそんな距離がないけど、2人ともすっかり濡れてしまった。


「カイー、ご飯食べていくでしょ。お父さんの部屋でシャワー浴びて、服乾かさないと風邪ひくよ」と私はお父さんの服とタオルをカイに渡す。


家に帰ると言うが、きっとキッチンの修理で水やガスが止められてるからと説得する。


あとでマスターにもうちに来てもらって、お風呂入って貰えばいいなと思いつつ、私も自分の部屋でシャワーを浴びにいく。


今日は色々あったなーと思いつつシャワーを浴びていたら、結構な時間が経っていた。


キッチンにカイはいないが、リビングからボソボソ声が聞こえる。


「本当にあいつ、危機感がないよな。俺だって一応男なのにな。俺だってアリスより歳上に生まれたかったな」

って。。ヘビ相手に語ってる。


は?今なんか言った?


私は動揺して、頭に巻いていたタオルが落ちた。


その音でカイが振り向いて私の顔を見ると、ボッとカイの顔が真っ赤になった。


「。。。。カイ?」


しばらく、カイは俯いていたが。


私の顔を見上げて。


「ずっと俺はお前が兄貴の事を好きだと思ってたんだ。兄貴には敵わないと思って諦めてたのに、お前はいつも歳上の男ばっかり追っかけてるし。俺は弟ぐらいにしか思われてないのは知ってる。だけど。俺はお前がずっと好きだったんだ」っと言った。


私は突然の事で動けずに固まっていたら。カイはスッと立ち上がり、ごめん忘れてって呟いて家に帰ってしまった。


私はしばらくそこから動けなかった。


あの日から数日が過ぎたが、なんとなく気まずくて。カフェには行けないでいる。


そんな時、迷子のペットの張り紙を見かけた。


あ、これうちで保護してるヘビちゃんじゃん。

特徴的な背中の模様が全く同じだった。

今日は遅いから、明日にでも連れて行こうと住所をメモして家に帰った。


次の日、ヘビちゃんには袋に入ってもらって、飼い主さんの家に行く。


ドアをノックして見たが、返事はない。どうしようかと思い、自分の連絡先を紙に書いてドアに挟んでおこうと思ったら、隣の家にドアがバーンと開いて、女の人が飛び出て来た。


「あんた、王都に妻も子供もいるの!信じられない騙された」と一緒に出て来た男の人を引っ叩いて去っていった。


突然の事にびっくりして固まってると、


「アリスちゃん?」


よくみたら、引っ叩かれた男はダンさんだった。上半身裸で、下はズボンを履いているだけ。


なんだか息も荒い。


なんだか物凄く嫌な予感がしたので、逃げようとしたが、その前に腕を掴まれてしまった。


「アリスちゃん、俺の事追いかけて来たの?ちょうどよかった。」と私を家に引き込もうとグイグイ引っ張る。


やばいやばい、これは絶対に良くない。


叫ぼうと思っても。ここは街の中心地からやや外れているので、通行人すらいない。


は!!ヘビちゃん。

この人はヘビが嫌いだった!袋の中のヘビを見せればと思ったが。袋の中身は空っぽだ。


どうしよう、どうしよう。


「嫌ーーーー、カイ助けてー」


何故か出てきた名前はカイだった。


「俺のアリスに何してるだよ、このエロジジイ」と言う声が聞こえたと思ったら、目の前ににゅっとヘビちゃんの顔が。


「ぎゃーーーー、ヘビ!!」てダンさんが叫んで、私の腕を離した瞬間、後ろから抱きしめられた。


反対方向から、

「大丈夫かー」とマスターが駆け寄ってくる。


「で、これはどう言う状況??」とマスターが言う。


泡を拭いて倒れてる半裸の男

ヘビと私を抱きしめているカイ


どうやら、この前の爆発騒ぎでオーブンも調子が悪くなり、この近くのお店に修理に持って来た所、カイが袋から逃げ出したヘビを見つけて、私が近くにいるのかもと探してくれていたそうだ。


その時自分の名前を呼ぶ声がして、声のする方へ駆けつけたとの事。


マスターがダンさんの所属する騎士団の団長さんに経緯を説明していると、ヘビちゃんのオーナーさんも戻って来て。無事にお返しできた。涙を流しながら感謝され、同じ爬虫類好き女子と言う事でお友達になった。


その間、カイはずっと私の側にいてくれた。


その間にオーブンの修理が終わり、みんなで一緒にお店に帰ったが、マスターはオーブンの試運転をしたいと厨房に籠ってしまった。


2人になると、カイは私をまたぎゅっと抱きしめて。


「本当に無事でよかった」と呟いた。


私もカイを抱きしめて


「きてくれてありがとう。ヒーローみたいでカッコよかったよ」と言って、ほおにキスをした。


カイは顔を真っ赤にしてこっちをみた。


「そう言うのは、男を勘違いさせるからしない方がいい」


「勘違いしてもいいよ」と言うと。


カイはちょっと泣きそうな顔をして、顔を近づけてきた。


「もう、他の男が勘違いしないように、俺の側にずっといろよ」と言って、唇にキスをしてきた。


これはあのヘビちゃん様様だな。今度遊びに行くときに、もこもこ毛布でも持っていってあげよう。


…………………………………………………………


厨房から2人の様子を見ていた俺は

「やっとくっついたか」と溜息をついた。


俺はCafe Serendipityのマスター、ナオ。

両親が事故で亡くなった時、自分の前世を思い出した。

大好きな彼女とNYCに旅行に行って、彼女が大好きだった映画のモデルになったカフェに行った帰りに、ギャングの抗争に巻き込まれて、俺は流れ弾に当たって死んだ。彼女はどうなったのか俺にはわからない。無事でいてくれるといいが。


この世界では前世を思い出す人はかなりの数いる。


て言うか、ナオとカイ、熊野亭って絶対うちの両親も前世は日本人だな。


俺の彼女もこの世界のどこかにいるかもしれないと思い、両親のお店をこのお店に改装した。


Serendipity=幸せなアクシデント


俺が作るSerendipityトーストは俺の彼女が大好きだった食べ物だ。週末の朝に作ってあげるとニコニコしてすごく可愛かった。


カフェやBarをしていると、本当は好き合っているのにすれ違っている男女をよく見かける。


そんな2人だけに特別に出すこのトースト。両親が喧嘩した時も作ってあげた事がある。そのあと思いっきり店のメニューに入れられたが。

俺の店になってからは特別な時しか出さない。


いつか、俺の彼女がこの世界に来た時に、俺をすぐ見つけてくれるように。


さあ開店の時間だ。


女性の二人連れがやってきた。

「面白い名前だよねこのお店」


もう1人がちょっと得意そうに言った。

「このお店の名前の意味知っている?幸せなアクシデントっていうんだよ、大好きなお話に出てきたんだ」


俺は思わず、厨房から飛び出した。


私の大好きな映画、こんな出会いをしてみたいと何度思った事か。映画にはヘビは出てきません。

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