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終焉の十三階段  作者: 速水静香


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第六話:警報

 私は、ユイと一緒にリビングにいた。

 私とユイは、リビングにある大きなテーブルに隣り合って座っていた。

 テーブルの上には、私たちが作ったチャーハンと野菜炒め、お味噌汁が並んでいる。


 ユイの家のリビングは私の家と同じようなダイニングキッチンで、リビングの向こう側にはキッチンの様子が見えた。

 キッチンのカウンターには、さっき調理で使った調味料の瓶がまだ並んでいる。


 ついさっきまで、ユイと一緒にチャーハンや野菜炒めを作っていた。そこの冷蔵庫にあった野菜や卵を使って、なんとなく料理をしたのだ。

 ただ、その名残が残っているような空間を眺めると、少しだけ心が休まるような気がした。


 私たちがキッチンで夕食を作るとき、ユイは少しだけ元気を取り戻してくれた。

 卵を割ったり、野菜を切ったり、いつもの日常に近い時間を過ごせたからかもしれない。

 もちろん、その間、ユイは片時も私から離れることはなかったけれど。


 正直、私も今の状況を完全に理解できていない。

 ただ、何もかもが完全に変わってしまったという直感だけが、強く心に残っている。


 ユイの家。

 リビングにある大きなガラス扉からは、徐々に暗くなり始めた住宅地が見えていた。


 寂しい、と思った。


 けれども、このユイと一緒に居る間だけは、そのどこか色褪せたような感じを忘れることができる。


 …いや、忘れることができると、私は信じたかった。

 そう、だから、私は…。

 そうやって本当にそうかどうなのか、分からないそれを、本気でそう思い込むことにした。


 ふと、気が付く。

 すると私の隣に座っているユイが、じっとこちらを見ていた。


「アイリ、冷蔵庫の残りモノのチャーハン。美味しいね。」

「そうね。卵を入れたから、ふんわりしているし…。」


 まるで普段の夕食のように振る舞おうとする。

 けれども、何か世界が終わってしまった後かのような、雰囲気は完全に消えることはない。


 私は、テレビを見た。

 そこでは、笑顔のタレントたちが談笑していた。お笑い芸人やコメンテーターたちが、どこにでもある話題でやり取りを繰り広げていく。

 チャーハンを口に運びながら、私も画面に目を向けた。


 出演者たちは、とあるアイドルグループのメンバーと、その近況について話し合っているようだった。

 私はあまりこの番組を知らないけれど、多分、よくある感じの番組なのだろう。


「あはは。」


 ユイはニコニコと笑っている。軽い話題に表情を和らげていた。


 突然、画面が切り替わった。


 どこかのスタジオが映し出された。ニュース番組のような雰囲気。

 そして、緊急放送であることを告げるかのような電子音が瞬間的に鳴った。


 その青っぽい背景の中で、歳を重ねたアナウンサーが映し出された。


「緊急のお知らせを申し上げます。」


 男性アナウンサーは、特別なニュースを伝えるはずなのに、異様に落ち着いた調子で話し始めた。


「近日の失踪事件に関する注意喚起です。」


 まるで天気予報を伝えるような、あまりにも淡々とした口調。


「各地で報告が相次いでおります。失踪者が急激に増加している模様です。」


 ニュースが続いていった。

 その臨時番組の様子は、どこか感情が欠落したかのような感じで、朝のニュースを澱みなく読み上げているのとは、何かが決定的に違う気がした。

 まるで機械が放送しているかのような、とても異質な感じがするのだった。


 共通することがあるとすれば、世界が終わってしまっているかのような雰囲気。

 

 その時、ユイが私の腕を掴んできた。その手に力が込められている。

 それで私はふと意識をニュースへと戻した。


「一人でいることは避けてください。できる限り、近くの人と一緒に過ごしていただけますようお願いいたします。」


 アナウンサーの言葉は、まるでマニュアルを読み上げているかのよう。


「繰り返します。屋内で待機してください。決して一人で外出しないでください。繰り返します。屋内で待機し、一人でいないようにしてください。」


 その淡々とした語り口は、これから起こる、何か…。その全てを諦めさせてしまうかのように感じてしまう。

 見ると、隣にいるユイの表情が恐怖に染まっていた。


「なお、各都道府県で報告された失踪者の数は、以下の通りです。」


 アナウンサーは、まるでデータを読み上げる。淡々とした様子で、地域ごとの数字を列挙していった。


「数値は定期的に更新されます。このたび、最新の情報をお知らせいたします。」


 そう言って、同じ内容を、もう一度読み上げ始めた。まるで時報のように、延々と同じ内容を繰り返していく。


 その番組をぼんやりと、私は見ていた。

 と、そのとき、その放送が途切れた。


 静まり返ったリビングに我に返った。

 ユイの手には、テレビのリモコンがあった。


 どうやら、テレビの電源をユイが切ったらしい。


「もう、怖くて見てられない。」


 ユイは、テレビのリモコンをテーブルの上に置いた。

 私は黙って頷いた。


「アイリ、この放送って、なんなの?私、もう意味わかんない。」


 泣きべそを浮かべて、ユイは弱音を私にぶつけてきた。


 私は返事に詰まった。あの異様な放送内容は、まさに私たちが体験していることと符合している。

 失踪事件。

 そして、完全に世界が終わってしまったかのような雰囲気。

 

 私の腕にしがみついてきたユイの力が、さらに強くなっていた。


「それに、あの数…。」


 ユイは、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。


「どうして、こんなことになっているの? お母さんも、お父さんも、アイリのお母さん、お父さんも…。」


 私は、泣きじゃくり始めたユイの肩に手を置いた。涙をこらえながら、彼女は続ける。


「嫌だよ…。私たちも消えちゃうの?」


 ユイが、私の腕にしがみついた。肩が小刻みに震えている。


「もう、私たちしか残っていないんじゃないかって…。」

「そんなことないわ。だって、テレビの中には、アナウンサーの人がいたでしょう?それに番組が流れているということは、カメラを動かしている人なんかもいるはずだわ。」


 私は強がった声で言った。


「アイリ、もうテレビは見たくない。あんな放送、もう見たくないよ。」


 私は、黒い画面を見つめながら、頷くことしかできなかった。


「私、もう一人になるのはイヤ。消えたくない。アイリまで消えちゃったら…。」


 私は黙ってユイを抱きしめた。私も同じ不安を抱えていた。この状況がどうなっていくのか、私にも分からない。


「大丈夫よ。ずっと私は一緒にいるから。」


 私は、ユイを宥める。

 正直、私も泣きたい気分だったけれど。

 私が崩れてしまえば、全てが決定的に終わってしまう気もして。


 ユイから視線を外した。


 テーブルの上の料理が見えた。それら料理は、すっかり冷めていた。

 冷めたチャーハンと、半分も食べられていない野菜炒め。


「ユイ、少しは食べましょう。」


 私は、ユイを着席させる。ゆっくりと動かすと、ユイもそれに従ってくれた。

 そして、再び、私は箸を手に取った。ユイも私に釣られるように、箸を持つ。


 冷めた料理を、二人で無言のまま口に運んだ。

 無言。リビングは静まり返っている。


 何か話しかけようとした、その時だった。

 音が聞こえた。

 スマホ、そして、聞きなれない電子音。

 いや、それらは電話の音だった。


「えっ?」


 ユイが戸惑っている。

 というのも、着信しているのは、ユイと私のスマホ。

 そして、リビングの電話への着信。


 静まり返った家の中に、三つの音が重なり合った。


 私とユイのスマホとユイの家にある電話へ同時着信。

 とても、まともな状況だとは思えない。


「アイリ…。」


 隣に座っているユイが、再び、私の腕を掴む。

 その間も、リビングにある電話、そして私たちの二つのスマホ。全てが同時に鳴り続けていた。


 確認しなきゃ。

 私は、とっさに、自分のスマホの画面を見る。

 しかし、そこには見慣れない番号が表示されていた。


「知らない番号よ。」


 私は画面を見つめていた。


「出ない方がいいよ。」


 ユイは震える声を上げた。


「怖い…。全部同じタイミングで…。」


 私も迷った。三つの通信機器が同時に鳴るというのは、明らかに異常だった。

 けれど、もしかしたら両親からかもしれない。


「でも、確認しないと。」


 私がスマホを操作しようとすると、ユイが腕にしがみついてきた。


「アイリ、怖いよ。」


 けれど、私は通話ボタンを押した。

 耳元から、緊急放送と同じような機械的な音声が流れてきた。


「ただ今より、緊急のお知らせを申し上げます。」

「アイリ、もうやめて!」


 ユイが叫んだ。


「ユイ!」


 私の声も届かないかのように、ユイは勢いよく立ち上がると、真っ先に壁のコンセントから電話の電源を引き抜いた。リビングの電話が一瞬で沈黙した。


「もう、聞きたくない!」


 ユイはそのまま、自分のスマホの着信を切った。

 すると、私のスマホから流れて続けている『緊急のお知らせ』が、やけにはっきりと聞こえた。


「アイリ!」


 ユイは叫ぶかのようにそう言って、私のスマホを奪い取るように手に取ると、その通話を切った。


 リビングは再び、静まり返った。

 じっと、私はユイを見た。


 私のスマホを手にしたユイが、私のそばで立っていた。彼女は肩で呼吸をしていて、粗い呼吸が聞こえた。

 ちょっとしたパニック状態なのかもしれない。

 私はユイの心を落ち着かせよう、と思った。 


「ユイ。座って?」

「あっ、うん。」


 ユイは、私の隣に再び座った。

 私の指示に催眠術でも掛けられたかのように従った。

 その座礁したような、疲れた様子。

 元気な彼女には似合わないように思えたけれど…。

 どこか、この今の終わってしまったかのような世界には、それがふさわしいように感じてしまった。


「あっ…。ごめん。アイリ。はい。これ…。」


 我に返った様子のユイは、私のスマホを渡してきた。


「いいのよ。ユイ。ありがとう。」


 反射的に私は、そう言ったけれど。

 これからどうやって、ユイを宥めようかと思案したときだった。


 その瞬間、私たちのスマホに一斉に通知が届き始めた。


 私は、スマホを見た。


『緊急速報 各地域別失踪者数』


 メッセージが届いていた。


「こんなの、おかしいよ。」


 ユイは、泣きそうな表情で、手にしたスマホの電源を切り始めた。

 そんなユイに合わせて、私もスマホの電源を切った。


 電源コードが繋がっていない電話機と、真っ暗になりつつあるスマホ。真っ暗なテレビ。まるで全てを拒絶するかのように見えた。

 そう世界のすべてを。

 そうでなければ、一瞬の油断で、そこから世界の終焉が一気に流れ込んでしまう気がして。

 色褪せたような、終わりが私たちの間に満ちてしまうかのような。


「どうして私たちが、こんな目に遭わなきゃいけないの?」


 ユイの声が、静寂に包まれたリビングで小さく震えていた。私は黙って、隣にいるユイを見つめることしかできなかった。


「私、もうこんなの、見たくない。」


 ユイの声は、悲しみに満ちている。


「だって、それじゃないと…。次々と、人がいなくなっていくの。見たくないよ。」


 ユイの声が途切れた。


「見てないことにすれば、何もないことにできるんじゃないかって。アイリは…アイリは怒ってる?」


 ユイの目には涙が滲んでいた。私は首を横に振った。


「怒ってないわ。私も、もう見たくなかったから。」


 私の言葉に、ユイの肩の力が少し抜けたようだった。


「ごめんね。アイリのスマホまで…。」

「いいの。今は、そうする方がいいと思う。」


 静寂が部屋を満たしていく。まるで外の世界と完全に切り離されたかのような感覚。

 けれど今は、それが私たちにとって必要な選択だと強く思った。


 それから、私たちはぎこちない夕食を終えて…。


 身支度を整えることになった。

 それは、日常を過ごすための行動だった。

 でも、よくよく考えれば、明日、学校に行けばいいのかすら分からない。

 少なくとも、ユイの家の電気は通じているし、水も流れている。お風呂を沸かすこともできた。


 当面の問題はなかった。


 ただ、間違いなく、この世界の何かが完全に終わってしまったのだと、感じていた。

 それを私もユイも口に出すことはしなかったけれど。

 そう感じていた。


 だから、私たちは常に一緒に行動した。

 この狭い家の中であっても、それは小さな子供じみたものだったけれど。

 もしかしたら、目を離した一瞬でいなくなってしまうかもしれない。


 そんな状況では、やむを得なかったのもしれない。


 そして、時間もいい時間となり、私とユイは、ユイの部屋へと移動していた。

 ユイと会話こそするものの、やっぱりユイは本調子じゃない。

 私もそれは知っていて、適当な会話を続けるのだけれど。


 やっぱりどこか、人がいなくなった後のような雰囲気があって。

 それが拭いきれなかった。


 ベッド。勉強机。そして小さな背の低いテーブル。クローゼット。化粧台。


「ユイ、借りるね。」

「うん。」


 私はそう言って、化粧台の前にある椅子に座った。


 鏡に映る自分の姿を見た。そこには疲れがあるように思えた。

 もっと元気な表情を作るべきなのかもしれない。

 けれども、この状況ではしょうがない。


 ふと、振り返ると、窓の外が見えた。

 夜空。でも、そこには月や星々が見えなかった。

 どんよりとした、曇り空なのだろう。


 その暗闇の向こうに何があるのか、私には分からなかった。


「アイリ…。」


 ユイがベッドの上に腰を掛けて、私を見ていた。


「なに?」

「今からさ、一人で眠るのが怖いの。」


 弱々しい声だった。


「眠っちゃったら、そのまま、一人になっちゃう気がしてさ。」


 私は何も言えなかった。


「アイリ。私、怖いの。」

「分かったわ。ユイのベッドで、一緒に寝ましょう?」


 私の答えにユイは頷いた。

 その様子はまるで小さな子どものような感じだった。


「うんそれじゃあ、もう寝る?」


 ユイはベッドの中に潜り込み、私のためにスペースを空けてくれた。

 私も机を離れ、ベッドの中へと入る。ユイの体温が近くで感じられた。


「ねえ、アイリ。」

「何?」

「私たち、今までみたいに、また普通に戻れると思う?」


 その問いに、即座には答えられなかった。私たちの見てきたものが、本当は何なのか。これから何が起きるのか。それらの答えが、どこにもないことが分かっていた。


「きっと…大丈夫よ。」


 私の声は、自分でも空虚に響いた。


「私も、そう信じたいな。」


 ユイの声には、深い疲れが滲んでいた。

 私たちはそのまま、部屋の照明を落として寝ることにした。


 真っ暗になった部屋。


 私は、黙って天井を見上げていた。

 窓の外からは、かすかに街灯の明かりが差し込んでいた。


 脳裏には、これまでのことが浮かぶ。

 あの廊下で見た幽霊のこと。クラスメイトの失踪のこと。そして、両親の不在。

 それらすべての意味は、なんなのだろうか?


 真実は、私たちが知りたくないものなのかもしれない。

 けれども、それを知る必要はあるのだろう。

 そんなことを考えているうちに、隣でユイの呼吸が規則正しくなってきた。

 疲れ果てていたのだろう、彼女は眠りに落ちていた。


 私も目を閉じる。

 けれど、この夜が明けた時、世界は一体どうなっているのだろう。その不安を抱えたまま、私も意識が遠のいていくのを感じた。



 目が覚めた時、外はうっすらと明るくなり始めていた。


 ふと、違和感を覚えた。部屋の隅に、何かがいる。

 それに気が付いたとき、自然と部屋の隅に視線が引き寄せられた。


 何か、ではなかった。誰かがいる。


 ユイは、私の隣で寝ている。


 誰だ?


 私は目を凝らした。

 そして、その瞬間、息が止まった。


 セーラー服を着た人。長い黒髪が背中まで伸びている。図書室で見た、あの女子生徒だった。

 思わず目を閉じる。恐怖で動けない。


 しばらくして、私は勇気を振り絞って目を開けた。

 すると、その女子生徒は消えていた。


 けれど、部屋全体が赤褐色の色に染まっているように見える。まるで記憶にある過去の風景のような、生気のない色調が染み出してくるかのようだった。


「アイリ?」


 ユイの声が、不安げに響く。


「どうしたの?」

「いいえ、何でもないわ。」


 私は嘘をついた。でも、ユイにもこの異変は伝わっているはずだった。部屋の空気が、確実に変化していた。

 いや、もしかしてこの雰囲気を感じているのは…。

 あの女子生徒を見てしまった、この私だけなのだろうか?


 私は静かに起き上がった。体を動かすたびに、異様な重さを感じた。

 まるで水中で動いているような、緩慢な感覚。


「ユイ、着替えましょう。」


 私は立ち上がろうとしたとき、不意に化粧台の鏡に目が留まった。角度によって、私の姿が見える。

 昨日までと同じユイの部屋と、そこにいるいつもの私。


 けれど、その鏡の世界を通して、何か見てはいけないものを見てしまう気がする。

 いや、すでに私は見てしまったのかもしれない。

 先ほど見た、セーラー服の女子生徒が脳裏に浮かぶ。


 私は鏡から目を逸らした。

 今の映り込みは見なかったことにしよう。

 単なる錯覚だと。そう思い込もうとしても、不安は消えなかった。


 無言のまま、私たちは着替え始めた。


「ねえ、アイリ。」


 ユイが制服のボタンを留めながら、声をかけてきた。


「学校には行かない方がいいかな。」


 私は動作を止めて考えた。北校舎のあの階段、部室での出来事。


「そうね。今日は学校を休んだほうがいいかもしれない。」


 話をしながらも、この選択が正しいのか確信が持てなかった。

 けれど、今の状況で学校に行くことは、さらなる恐怖と向き合うことになるような気がした。


 制服に着替え終わった私たちは、再び部屋を見回した。


 朝日が差し込んでいるはずなのに、どこか薄暗く感じる。

 ただ、今のこの瞬間にも、どこか世界の変調が、徐々に強くなっているように思えた。


「でも、アイリ。このまま家にいても…。」


 ユイの言葉が途切れる。

 確かに、このままユイの部屋にいたところで、状況は良くならないかもしれない。

 むしろ、先ほどの女子生徒の幻を見てから、徐々に悪化して言っている気がした。


「どこかへ行きましょう。人がたくさんいる場所なら…。」


 私の提案にユイは頷いた。人のいる場所なら、少しは安心できるかもしれない。けれど、本当にそうなのだろうか。昨日のテレビの放送を思い出す。失踪者の数は刻一刻と増えていた。


「駅前の商店街とか…?」


 ユイの声は弱々しかった。


「そうね。着替えが終わったら行きましょう。」


 私は鞄を手に取りながら言った。

 そしてその時、思わず、窓の外を見た。

 住宅地の風景が広がっている。整然と並ぶ家々。

 けれど、ここには世界の終焉を迎えてしまったかのように、人の気配が全くしなかった。


「アイリ?」


 ユイの声に我に返る。


「ごめんなさい。ちょっと考え事を…。」


 私は言葉を濁した。この不吉な予感を口にすることが怖かった。

 まるで、それを言葉にした瞬間に、何か取り返しのつかないことが起きてしまうような。

 そんな気がした。


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