表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の十三階段  作者: 速水静香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/9

第二話:幻視

 その夜。

 私は、電気を消した自分の部屋にいた。

 そして、ベッドに横たわり、スマホの画面を開いていた。

 ぼんやりと今日のことを思い出す。

 あの動画を見た後、ユイに連れられて、北校舎の例の階段へ私たちはいった。

 特に何の変哲もない。普通の階段だった。


 ユイは興奮した様子で階段を登ったり下りたりしていたけれど。

 もちろん、なにも起こらなかった。

 私はユイを見ているだけだったけれど。あの行動力はどこからくるのだろうか?

 不思議だった。


 ああ、そうだ。

 あの動画の投稿を、もう一度確認してみよう。


 私は、手にしたスマホに意識を戻す。

 アプリを操作して、動画を映した。


 動画内は、白い校舎とそこにある静かな様子。なじみのある階段が粗い画質を通してはっきりと見えていた。

 やっぱり、私の知っている北校舎だった。


 セーラー服姿の女子生徒を遠目から見ている。その女子生徒が階段を上っていく様子。古いビデオカメラのような粗い画質。

 それに動画には、どこか違和感があるように思った。


 違和感の正体を探るように、私は画面を見つめる。

 その原因は、何度見ても分からない。 


 北校舎の階段は、私も毎日のように通っている場所だ。確かに人通りはほとんどないけれど、少なくとも、この動画のような不気味な雰囲気はない。


 何度も同じ動画を見てもしょうがないな、と思った。

 私は、コメント欄を見た。


「まるでホラー映画みたい。」

「セーラー服の女の子、消えるところ怖い。」

「モキュメンタリー?」

「これ、マジでヤバくない?」

「うちの学校でも似たような話あるよ。」


 確かに、動画には説明のつかない要素がある。でも、それは編集の技術が上手いだけかもしれない。

 気になって、北高に関するサイトを検索してみる。キーワードを変えながら探していくと、あるまとめサイトが目に留まった。


『第一北高校の七不思議』


 タイトルに思わず目を奪われた。

 記事を開くと、確かに私の通っている北高にまつわる不思議な話が並んでいた。


 ただ、その内容については子供だましなもの。

 深夜に聞こえる足音、移動する机、誰もいない女子トイレから声が聞こえてくる。けれど、どれも誰もが一度は聞いたことのある、ありふれた学校の怪談だ。


 ああ、こんな話は北高じゃなくてもあるな、なんて適当な感じで記事を読み進めていった。


 それらを読み進めていったとき。


 とある記事が目に入った。

 それは、1999年に起きた集団失踪事件というタイトル。

 サイト内の他の怪談とは、どこか違う雰囲気がした。

 私は、その内容を読む。


『1999年 集団失踪事件


 第一北高校には、誰も触れたがらない事件が存在する。それは1999年に起きた集団失踪事件だ。その年、十三人の女子生徒が忽然と姿を消した。

 ただ、奇妙なことに失踪した生徒たちは、同じクラスでもなく、同じ部活動でもなく、特に親しい友人関係にもなかった。学年すら散らばっていたという。


 当初、彼女たちの間に共通点は見いだせなかった。

 しかし、後に一つの重要な事実が判明する。

 それは、事件発生の数日前から、十三人全員が同じ夢を見ていたということだった。彼女たちは友人たちに、その不思議な夢について語っていたという。


 夢の内容は、決まって同じだった。

 学校の階段を、一人でひたすらに登っていく夢だ。

 その夢の中で、彼女たちは階段の先に何かが待っているという確信に導かれるように、ただ黙々と上っていったという。


 そして失踪当日、生徒たちは一様に『天国へ行く』という言葉を最後に、姿を消した。

 これはすぐに大きな騒動となり、警察も捜査に乗り出した。学校側も警備の強化や生徒への聞き取りなど、考えられる限りの対策を講じた。

 しかし、十三人の行方を示す手がかりは、結局何一つ発見されることはなかった。』


 そこで記事は終わっていた。読み終えた私には、疑問しか残らなかった。

 まず、この記事には、肝心な情報が抜け落ちていた。

 1999年ということはわかるけども、事件の起きた月日も、失踪についても具体に記されていない。


 再度、記事を読んでみても、サイトを見ても、それらの情報は見当たらない。


 そもそも、十三人もの生徒が失踪するような重大事件なら、もっと大々的に報道されているはずだ。

 もしかしたら、当時のニュースでも大きく取り上げられ、詳しい記録が残されているはずだろう。

 下手すると、私たちの世代にも語り継がれていてもおかしくはない規模の事件。


 検索してみるかな。

 私は、検索をしてみた。


『北高 失踪』『第一北高校 失踪』などで調べてみた。


 しかし、そんな事件はない。

 1999年というインターネットが流行る前の時代ということが、障壁になっているのだろうか?


 …いや、そんなはずはない。

 ということは、やはりこの記事はまるっきりのデマなのだろうか?

 しかし、ありふれた怪談話がほとんどのサイトで、この話だけが妙に具体性があり、奇妙に思えた。


 そこで私は閃いた。


 …まさか、この記事と動画には関連があるのだろうか。


 アップロードされていた動画の画質からは、昔のビデオカメラらしいもので撮影されている。そして、99年当時に録画しようとすれば、そういったものしか撮影機材はないはず。

 そして、次に動画に映っていた制服だ。あれは確かに、昔の北高のセーラー服。99年当時はきっと、その制服のはずだ。

 寝室の静けさの中で、その考えが不気味な重みを持ち始めてきた。


 でも、真相は不明だ。

 ただ、このオカルトな感じの話をユイが知ったら、きっと大はしゃぎするだろうな。彼女の興奮した表情が目に浮かぶ。

 

 それにしてもどうして、今になってこんな動画が投稿されたのだろう。投稿者の意図が気になって仕方がない。


 私はスマートフォンの画面を消して、天井を見上げた。真っ暗になった部屋の中で、色々な可能性を考える。単なる作り話なのか、それとも実際に何かがあったのか。

 記事の内容と動画の関係性について、様々な推測が頭の中を巡る。


 考えを巡らせているうちに、目蓋が重くなってきた。明日、ユイに会ったら、どんな反応をするだろう。

 きっと、この話で持ちきりになるに違いない。そんなことを考えながら、私は静かに目を閉じた。



 翌朝。

 スマホのアラーム音で、私は目を開けた。

 早朝の明るさが窓から差し込んでいる。


 アラームを止めようと画面のロックを解除した。

 そこには、昨晩見ていた動画のサムネイルが画面に表示されていた。セーラー服の少女が階段を上る、あの不気味な一場面。


 私は慌てて動画アプリを閉じ、アラームアプリを止めた。


 ああ、ドキッとした。

 それにしても、何か不思議な夢を見ていたような気がした。


 けれども、いったいどんな夢だったんだろう?

 少しだけ思い出そうとしてみたが、全くどんな夢だったのか思い出せない。

 ただ、何か恐怖のような孤独じみた雰囲気を覚えていた。

 しばらく、残っていたその私の感情から記憶を手繰り寄せるように考えてみた。

 しかし、不確かな記憶は、朝の新鮮な雰囲気の中で消えていってしまった。


 スマホをテーブルに置き、ベッドから身を起こす。でも、あの動画の映像が、私の頭の中でぼんやりと残っていた。



 朝の教室は、いつもと変わらぬ空気に満ちていた。

 自分の席に座っていた私は、昨夜見た動画やまとめサイトのことを考えていた。


「おはよう、アイリ!」


 ユイが弾むような声で近づいてきた。


「おはよう。」


 私は静かに答える。ユイは即座に、私の表情を覗き込んだ。


「どうしたの?なんだか元気ないみたいだよ。」

「昨日の動画のことなんだけれど。私もちょっと気になって調べてみたのよ。」


 私の言葉に、ユイの目がキラキラと輝いている。


「へえ!流石はアイリ!で、何か分かったの?」

「ええ。北高の怪談をまとめているサイトを見つけたんだけど、1999年に集団失踪事件があったみたいなのよ。」


 朝のホームルームまでまだ時間があった。私は昨夜見つけた記事について話し始めた。


「十三人の女子生徒が、行方不明になったっていう話よ。記事によると、生徒たちは『天国へ行く』って言い残していたんだって。でも、その後、生徒たちは誰一人として見つからなかったの。」

「え?それって本当?」


 ユイの声が上ずる。


「そう、でも、真偽のほどは分からないのよ。記事には具体的な日付とか情報源とかが書かれてなくて。私も他のニュースを探してみたんだけど、それらしい情報は何も見つからなかったわ。」

「でもでも、アイリ。それって、昨日の動画と何か関係ありそうだよね?」

「そう。動画の粗い画質も、映っていた制服も、年代的には近いものだと思われる。」


 私が自らの推理を述べる。

 嬉しそうにユイは頷いた。


「アイリ、放課後、一緒に調べよう! 図書室とか、資料室とか、きっと何か手がかりがあるはずだよ!」


 溌剌としたユイの声。


「分かったわ。でも、かなり昔の事件だし、記録が残っているかしら?」

「大丈夫だよ! 学校には古い資料がいっぱいあるはずだし。それにオカルト部の部室にも、前から気になってた古い資料があるんだよね。」


 むむむ、とユイが考え込むような表情を見せた。


「そうだ。アイリ!」


 ユイが突然、声を上げた。


「そのサイトのアドレス、教えてよ。」


 ユイの声が弾んでいる。


「そうね。メッセージで送っておくわ。」


 私は素直に頷いた。


「やった! 授業中に見ちゃおっと。」

「もう。授業に集中しなさい。」


 軽い調子で注意をする。けれど、ユイは気にした様子もない。


「大丈夫だよ。先生が居眠りしてるときに見るから。」

「先生が居眠りなんてするわけないでしょう。」


 思わず声を荒げてしまう。


「えへへ。アイリ、怒ると可愛いんだから。」


 ユイは私の反応を楽しんでいるようだった。


「はぁ。」


 私はため息をつきながら、メッセージを送信する。

 とその時、予鈴のチャイムが鳴り始めた。教室の空気が、朝のホームルームへと向かい出していた。


「じゃあ、アイリ、またねぇ~。」


 ユイは、そう言い残して自分の席へと戻っていった。

 私は、その後姿を見ながら、思った。


 昨日の動画で見た階段は、あの北校舎のもの。そして、その階段で何かが起きたのかもしれない、と。



 部室に向かう途中、私は今日一日のことを思い返していた。


 朝から、ユイは落ち着かない様子だった。

 授業中も机の中に入れて先生からスマホを見えないように操作して、メッセージを送ってきては、放課後の調査について送ってくる。

 私が休み時間に、授業に集中するように注意しても、結局、無視された。


 昼休みになると、ユイは早々に私の机にやってきた。

 いつもの調子で弁当を食べながら、放課後の計画を立てようとしていた。

 ユイが言うには、あの空き教室は、今でこそオカルト部の部室であるけれど、昔は一時期、新聞部の部室だったらしい。

 当時の資料なんかがある、といっていた。

 それも、棚にある資料は90年代らしい。

 

 どうして、ユイがそんなことを知っているのか、と私が聞いてみたら、暇なときに棚の中を漁ったらしい。

 そう言われれば、確かにユイが棚の中にあるものを勝手に動かしたりしていたことを思い出した。

 まあ、それはともかくも、これから棚の中にある資料が役に立つだろうか?


 …新聞部。学校新聞。


 今は、先生の言われたように書くだけの部だと私は思っている。

 そして、昔は、オカルト部の教室に新聞部があった。

 しかし、彼らは、そこで何を書いていたのだろう?


 今と同じだろうか?

 それとも、取材や執筆活動を熱心にしていたのだろうか?


 そんなことを考えていると、前を歩くユイが立ち止まった。


「ねえ、アイリ。もう一回、階段でも見る?」


 好奇心を隠しきれていない、ユイ。

 そんな私たちの前には、北校舎の階段が広がっていた。

 白い壁、ワックスの掛かった廊下。

 誰もいない階段が見える。あの動画と同じ場所だ。

 ただ、もうこの場所は散々、昨日調べた。

 だから、ここにいてもしょうがない。


「ユイ、まずは部室に行きましょう。」


 私は、階段から目を逸らすように言った。


「うん。そうだね。そうだね。そうだね…。」


 そのユイの声からは、もはや色々とあっちこっちに興味が行き過ぎているように感じた。

 立ち止まってあれこれと考えているユイを横目に、私は先を進みだした。


「あ、アイリ!待って。」


 ユイが私の後ろについてきた。

 私は、そのまま階段を通り過ぎ、部室のある廊下へと向かう。


「ねえ、アイリ。」


 私の少し後ろを歩いているユイが、話しかけてきた。いつもの明るい調子だった。


「なに?」

「えっとさ、この調査で私たち、とんでもなくすごいことを知っちゃうかもね!」

「そうかもね。もし、そうなったら、警察へ通報しないとね。」


 私は淡々と答える。


「もう!夢がないなぁ!」


 ユイは、そう言っていたけれど、嬉しそうだった。

 今、彼女は多幸感に満ちているだろう。

 とっても、楽しそうだ。何か一つのことでこれほど集中できることは、本当に幸せなことだな、と他人事のように思った。


 私は、そんなユイについて、大して気にもしないで、廊下を進んでいった。

 ただ、廊下を進みながらも思った。妙に静かだと。

 この人気のない北校舎とはいえ、普段なら吹奏楽部の音が遠くに聞こえるはずなのに。


「なんか、今日は静かだよね。」


 ユイも気づいたのか、廊下を見回している。


「そうね。吹奏楽部が休みなのかしら。」


 私が返すと、ユイが首を傾げた。


「吹奏楽部って、今日練習あるはずなのに。私の友達が言ってたんだよ。」


 確かにそうだった。


「まあ、きっと何か理由があるんでしょう。」

「そうだよね。」


 ユイの話題が唐突に変わる。


「新聞部の資料、きっと真実があるはずだよ。だってさ、学校の怪談なんて、私なら、一面の記事にするもんね。」

「それは、ユイ。あなただけよ。」

「そんなことないよ!」


 さらに廊下を進む。ユイが自分の定位置のように、オカルト部の部室のドアの前に立った。


「この部室の棚にある資料、きっと役に立つと思うんだ。私、前に見たことあるの。」


 ユイが嬉しそうに言う。


「部室、開けるよ。」


 そう言って、制服のポケットから、学校非公認の合い鍵を取り出した。


 がたがたと音を立てて、古びたドアが開いていく。


「相変わらず、ね。」


 私は半ば呆れたように言った。


「でもさ、雰囲気あるでしょ?」


 ユイは得意げに言いながら、部室の中へと入っていく。


 中は、いつも通りの風景だった。

 中央に据えられた大きな机と、それを取り囲むパイプ椅子。壁際には、所狭しと棚が並んでいる。

 そして、今回はこの棚こそが主役だった。


「さあ、探しましょ!」


 元気いっぱいのユイ。


「はいはい。」

「そんなことを言っていると、おばちゃんみたいだよ、アイリ。」

「はいはい。」


 私はユイと一緒に資料を確認することになった。


「この辺りに、1999年の資料があるはずなんだけど…。」


 ユイは早速、棚に向かっていった。私も机に鞄を置いて、ユイの後に続く。

 私はユイと一緒に棚を開けていく。


「アイリ、これ見て。」


 ユイが手にしていたのは、塵に覆われた学校新聞のファイル。1995年とある。


「あら、面白いわね。」


 私も、別の学校新聞のファイルを引っ張り出す。


「ねえねえ、これ見て。特集だよ。」


 ユイは次々と、資料を開いていく。その姿は、まるで宝探しに夢中な子供のようだった。


「この頃の新聞部って、結構しっかりしてたのね。」


 私が言うと、ユイは嬉しそうに頷いた。


「でしょ?だから、取材ノートもあるのを見たんだよ。」


 そして、私たちは棚という棚を開けていった。埃まみれの資料の山。昔の新聞部が残した様々な記録。

 部活動の取材ノートにインタビューの記録。


「ないね。」

「98年まではあるんだけれどね。」


 私たちは取材ノートを見ていった。

 けれども、99年のものはなかった。

 あと、ここにあるとすれば、棚の上に置かれている段ボールしかない。私たちの背丈より高い位置だ。


「ねえ、アイリ。上の段ボール、手伝って。」


 ユイが指差した。

 やっぱり、ユイも私と同じことを考えていたようだ。


「危ないから気を付けましょう。椅子を踏み台にしましょう。」


 私は、近くのパイプ椅子を動かした。


「えっと、私が上に乗って取るから、アイリは椅子を支えていてね。」


 ユイがバランスを取りながら椅子に乗る。埃まみれの段ボールへ手を伸ばしていく。


「ああ、重い!重いよ!アイリ、受け取って!」


 高い位置から、ユイが苦しそうな声を上げた。予想以上に段ボールが重たかったようだ。


「気を付けて!」


 私は咄嗟に両手を伸ばした。椅子の上でバランスを崩しかけたユイから、なんとか二人がかりで段ボールを受け止める。


「はぁ、危なかった…。」


 机の上に段ボールを下ろす。


「もうこれは、棚の上に戻せないわね。」

「まあ、いいでしょ!」


 ユイは相変わらずの調子だった。机の上の段ボールを、私たちは取り囲むように立った。


「さて、調べよ!」


 ユイは段ボールの蓋を開けた。

 中には年季の入ったプリントの束やノートなどが、無秩序に詰め込まれていた。


「うわぁ…。この中、いろいろな資料が混ざってそう。探してみよう。」


 ユイは早速、資料らしきプリントやノートを手当たり次第に取り出していく。

 私も隣で確認していった。


 様々な時代や内容の資料が、時系列も整理もされないまま詰め込まれていた。


 ただ、取材、新聞、特集、インタビューという単語があるプリントなどがあるから、この資料は新聞部のもので間違いはないだろう。

 次々と資料を取り出していく。


「はぁ、こんなプリントやノートの山、箱の中ですら分けられていないんじゃ、ごみと一緒よ。」


 私が呆れていると、ユイが声を上げた。


「アイリ! 99年の資料が出てきた!」


 ユイが手にした一冊のノート。

 表紙には手書きで『取材ノート 99年』と書かれている。


「見せて。」


 私はユイの横に寄って、埃まみれのノートを覗き込んだ。


「なになに…。」


 ユイがページをめくっていく。部活動の取材記録、文化祭の企画書、生徒会インタビュー。どれも普通の学校新聞の取材メモだった。


「あ、ここ!」


 ユイの指が一つの見出しの上で止まる。『北高校の七不思議』という文字。


「まさか、この中に…。」


 私たちは息を詰めて、その先のページを開いていく。

 大したことは書いてない。


 けれども、ペラペラと慎重に捲っていく。


『失踪事件』


 あっ…。


「アイリ!」


 隣でノートをのぞき込んでいる、ユイが叫んだ。

 間違いない。

 

 私は、そこから読み始める。

 書かれている内容は、あのサイトで見た内容と同じだった。


 十三人の女子生徒が天国へ行くと言って姿を消した事件。全員が同じ夢を見ていたという証言。階段の夢。


 私が読み進めていると、突然、激しい頭痛が走った。


「アイリ? どうしたの?」


 ユイの声が遠くなっていく。


 視界が一瞬で暗転する。現実が遠ざかっていくような感覚。

 不思議な浮遊感。

 気がつくと、あの動画と同じ視点に立っていた。しかし、そこは動画とは違う現実感のあふれたもの。

 セーラー服姿の少女たちが、異様な静けさの中を歩いていく。誰一人として声を発することなく、黙々と階段を上っていく。


 その中の一人、長い黒髪を背中まで伸ばした少女。彼女がゆっくりとこちらを振り返る。

 その瞬間、私と彼女の視線が交差した。


 目が合う。


 その瞬間、強烈な孤独感が全身を包み込んだ。虚無感。

 まるで世界から自分だけが取り残されたような感覚がして、周囲の色が徐々に褪せていく。


「アイリ!アイリ!大丈夫?」


 ユイの必死な声が、私を現実へと引き戻した。

 意識が戻ると、私は机の端にしがみつくようにして立っていた。


「ごめん…ちょっと、めまいが…。」


 声を絞り出すように言うのが精一杯だった。まだ視界が定まらない。


「ごめんね。今日はアイリに無理させちゃった。」


 ユイが心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「もう今日は帰ろう?」


 ユイは優しく話しかけてきた。


「ええ、ええ。」


 私はそう頷くことしかできなかった。

 というのも、まだ、あの異様な感覚が完全には消え去っていなかった。

 


 それから、ユイは私が冷や汗をかいているのを見て、少し部室で休むことを提案してきた。

 私とユイは休憩した後、片付けをして帰ることにした。

 散らかった資料をユイが元に戻していくのを見ていると、徐々に気持ちが落ち着いていく気がした。


 何度か私も手伝おうとしたが、その度にユイが大袈裟に騒いで、私を椅子に座らせた。

 結局、ユイの手によって部室は綺麗に片付いていった。

 ただ、机の上の重い段ボールだけは机の上にそのままとなったけれど、それ以外は元通りになった。


 いつもより早い時間だったのだけれど、今日のオカルト部の活動を終えることにした。

 私たちは部室を出て、北校舎の廊下を歩き始めた。


 廊下を進みながら、さっきの出来事を思い返す。あの瞬間に見た光景は、単なる幻覚だったのだろうか。

 あまりにも鮮明すぎて、そうとも思えない。

 私たちは廊下を歩いていた。


 そして、あの動画に映っていた階段に近づいたときだった。あの階段に人が見えた気がした。


 制服姿。それもセーラー服だ。


 私とユイは同時に目を凝らす。

 

「アイリ!」


 隣にいた、ユイが叫んだ。

 しかし、次の瞬間、そこには誰もいなかった。


「気のせいよ。」


 私は自分に言い聞かせるように答えた。


「でもでも、私…。アイリも見たでしょ?」


 ユイの声には、恐怖が見えている。


「今日は疲れたのよ。」


 私は冷静を装ったが、自分の声も不安定なのが分かった。

 私もユイも、先を急ぐように足早に歩き出していた。

 

 渡り廊下を通り、南校舎へと到着すると、部活動を終えた生徒たちの声が聞こえてきた。


 いつもの放課後の喧噪。

 それは普段なら気にもとめない音だったけれども、今は妙に心強く感じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ