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傷跡

 私は歩き出した。結局そうするしかなく、私は未知の世界に生まれた子猫のように世界のすべてに怯えながら、緊張で筋肉を固くし、私は歩き始める。あの時のあの世界はもう目の前から消え去ったはずなのに、私は恐くて怖くて仕方なかった。


 幼い頃、どうしても地球が丸いって信じられなくて、私は世界の果てに向かって歩き出した。そこには、世界の終わりがあって、そこから飛び降りれば、そこには別の世界がある。この現実じゃない別の世界。

 ――私はそう信じていた。

でも、そんなものはなかった。どこまで行っても地球は丸くて、どうがんばっても、どう逃げ出しても、私は、あの現実に帰って来てしまう。

 立ち尽くす幼い私――。私はあの時、世界は真っ暗な絶望の世界なのだと知ってしまった。


 変わり果てた町を歩いていると、面影すら消えるほどに破壊されているのに、不思議とこの町に居た時の感覚が自然と蘇ってくる。何年も空けたその間を、私の中にある感覚は一瞬で埋めてしまう。


 一歩一歩、歩けば歩くほど私は昔の私に戻っていくようだった。


 泣き虫だった小さい頃の私。


 学校が死ぬほど大っ嫌いだった私。


 傷ついてばかりだった私。


 将来になんの希望も見出せず暗い顔で町を歩く私。


 絶望しか感じることのできなかった私。


 同級生を死ぬほど恨んだ私。


 自分を呪っていた私。


 真っ暗な未来しか見えなかった私。

 

 連想ゲームのように次々と昔の記憶が湧き上がっては消え、そしてまた湧き上がる。


 ここには何もかもがあり過ぎる。私にとっての何もかも・・。 


 あの時の心の傷跡は、しっかりと今も残っていた。悲しく傷ついた思い出ばかりが残っている――。

 でも、そんな傷ついた最低の思い出でも、確かな私という感覚が懐かしかった。

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