私の朝
今日も世界は滅びていない。目覚めると今日もあの私がいる。まだ薄ぼんやりした意識が、堪らない絶望の中に溶けてゆく。今日も私はあの私だった――。
何も変わらない惨めで悲しい私・・の朝――。
昨日と変わらないあの現実は、今日も続いている――。
起きてすぐに、死という甘美な誘惑が、慢性的に私をたゆたえ、魅了する。
例えば、世界が真っ白かったとして、でも、私はみんなと同じように白くはなれなくて、でも、だからといって、きれいな色で輝くこともできないし、いつも何か変な色の混り合ったうんこ色みたいな存在で、私は理由もなく嫌われ疎外される。
世界は真っ白だから、否応なく私の色は浮き上がり、そして、孤立し、それはいつしか私という確かな存在になっていく・・。
それが私だ。
私は重たい体と心を引きずり、今日という世界に目を覚ます。それは鬱色の広がる絶望の世界――。
もう昼過ぎ。太陽は一番世界を明るく照らし出す位置にすでに昇っている。世界のすべての健全に生きる人々のがんばりの中にあって、私はいつも一人きり堕落している。いつものことだが、強烈にダメな自分がそこにいて、何だか反射的に理由もなく私は落ち込む。
しばらく、無気力にボーっとしていると、少しずつ絶望から現実に頭が切り替わって来る。
それはいつもの儀式。
とりあえず牛乳を飲む私。
それもいつもの儀式。
仕事――。
「はああ・・」
大きなため息。
そして、私はまた絶望する。
とりあえず死にたかった。
これもいつもの儀式。
もし今のこの瞬間、ラピュタの空中都市の最後のように、世界がボロボロと崩れ落ちてゆくのなら、私はそれを喜んで歓迎するだろう。例えそれと共に私が死ぬとしても・・。
足の踏み場もなく散らかり放題の部屋。安全地帯はベッドの上だけ。私の部屋は、私の心をいつも映し出す。
汚れきった自分の部屋を見ていると、奈落の底へと落ちていくような堪らない落ち込みが襲ってくる。起きてすぐ、一日の始まりに私はすでに、その気力を失っていた。
何もかもが最低だった。
もう、通いなれたいつもの道を私は一人歩く。一歩一歩が、どろどろの生のコンクリートに足を突っ込んでいるように重く粘つく。歩けば歩くほどにそれは足にまとわりつき、私の絶望を重くする。
「・・・」
街を歩く人たちはなぜみんな、あんなに楽しそうなのだろう。そんな人生を夢想すらできない人間がここにいる。
立ち並ぶ巨塔から砕け落ちるガラスの一片一片に輝く光の鋭さ一つ一つが、私の心に降り注ぐ。それは鋭利な殺戮。
都会の雑踏の中の孤独。人が多ければ多いほど孤独は募った。人といる時の方がよほど孤独を感じ、寂しさに打ちひしがれる。宇宙の果てを一人漂流するよりもここは孤独だった。
(誰か助けて)
いったい、これは痛みなのか苦しみなのか――
なぜ、そこまでして私は生きねばならぬのか。
慢性化した希死念慮が、森羅万象なんか吹っ飛ばし、私の頭上をゆっくりと回り始める。
「死にたい――」