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デブ専令嬢とおデブな王子様

 シャルル様にデブ専であることを告げてから早2年――漫画通りなら、もうすぐ主人公が現れるはずの年を迎えてしまいました。

 本来ならばわたくしは、シャルル様とは名ばかりの婚約者。ろくに会話もなく、互いのことも知らずに、恋に恋して盲目的になるわたくしをシャルル様は毛嫌いしている――はずだったのに。

 どうしてこうなったのでしょう?



「――ヴァネッサ、待たせたな! 今日は何処へ行きたい? 何を食べようか?」

「シャ、シャルル様っ、いけませんわ……! 腕を組むなんてそんなっ、お、おっぱいが当たっていましてよ……♡」

「当ててるんだよ。君、こういうの好きだろ?」

「すっ、好き……ですけれどぉ……っ♡」

 お屋敷を抜け出した先、下町エリアの待ち合わせ場所に立っていたのは、体重推定100kg越えのムチムチふわふわマシュマロボディの魅惑のデブ男子――と化した、シャルル様。


 最初は普通に、お友達として仲良くなったはずでしたの。

 シャルル様がわたくしのために太ってくださるという申し出も、無理はしなくていいと――いずれまだ見ぬ主人公(カリン)さんに奪われるのならばいらないと、お断りしていましたし。


 きっかけはたしか、お友達として、シャルル様の秘密のお出かけに同行しはじめた頃ですわ。

 二人で入った食堂で、大食いチャレンジをなさっている殿方に、わたくしがつい見惚れてしまって。けっこう負けず嫌いなところのあるシャルル様も大食いに挑戦なされて――そのままフードファイトにハマってしまい。

 気付けば理想のムチふわマシュマロボディになっていらっしゃいましたわ……。


 しかもシャルル様ったら、ご自分のワガママボディがわたくしに効果バツグンなのをご存知のうえで、激しいボディタッチでアピールしていらっしゃいますの……。

 こんなのガチ恋不可避ですわ〜!?


「ほら。そろそろ僕に惚れてくれる気になった? いい加減に覚悟決めろよ、君は僕のモノになるしかないんだからさ」

「はぅ……♡ い、いけませんわ、人前でこんなっ、ラブラブカップルみたいなこと……!」

「あれ? 僕たちってラブラブカップルでしょう? なら何も問題ないよね?」

「ひぇええ……!?」


 まったく、シャルル様もお戯れがすぎましてよ!? わたくしとはあくまで政略結婚。いつか運命のお相手が、ヒロインのカリンさんが現れるのだから、わたくしなんて放っておいてくださればよろしいのに……こんな、わたくし好みのお姿でグイグイアピールしてくるなんてぇ……!


「な、何度も申し上げますけれど! 無理にわたくしの性癖に寄り添ってくださらなくてもいいのよ? ……わたくしは、のびのびとお食事なさる今のシャルル様がとても素敵だと思いますけれど。他の方々はそうとも限りませんし……」

「あ、もしかして、この体型で僕がなんか言われるのを心配してる? ……あのなぁ、僕は王子だぜ? 社交界のトレンドを作るくらいわけないさ。今の流行りはぽっちゃり系男子だよ」

「なにをどうしたら、このヒョロ長イケメン至上主義の世界にぽっちゃりブームを巻き起こせますの……!?」

「あははっ、僕の婚約者は今日もかわいいなぁ〜」

「ごまかさないでくださいまし!?」


 フードファイトを趣味にしてから、シャルル様はなんだか変わられましたわ。以前よりもご自分の意見を表に出すことが増えましたし……完璧な王子様の演技をすることも少なくなって、本来のご自分を隠さなくなりましたの。

 元々、わたくしがデブ専性癖をお伝えして以降は、わたくしの前では自分らしく過ごしてくださっていましたけれど……。


 以前の完璧王子を演じていらっしゃるシャルル様よりも、ご自分らしく過ごす今のムチムチマシュマロボディなシャルル様のほうが、わたくしにはずっと魅力的に思えます。体型によるブーストを抜きにしても。

 けれど……わたくしには魅力的に映るマシュマロボディも、市井に降りてのフードファイト趣味も、どちらも漫画の中の『完璧王子』なシャルル様とは程遠くて。きっと、世間一般でいう『完璧イケメン』からは遠ざかっていて。

 わたくしが、シャルル様の運命を変えてしまったのではないかと思うと、罪悪感で胸が張り裂けそうになるのです。


 もっとも、とうのシャルル様は以前よりも遥かにしたたかに立ち振る舞って、我が国に空前のぽっちゃり体型ブームを引き起こして、ご自分の体型が疵にならないようにと動いてらっしゃいますけども……。


「まあでも、いくら社交界に君好みのデブが増えたとしても、一番の座は譲らないよ? ……君が逃げたいって思っても、逃してあげないからね」

「ひゃっ……♡ そ、そんな、ムチムチボディで抱きしめたって誤魔化されませんことよ……!?」


 あの……今気づいたのだけど、このままではヒロインのカリンさんが異世界転移してきても、きっと、シャルル様と恋愛関係にならないのではないかしら……。

 カリンさんがわたくしと同じデブ専か、もしくはお相手の容姿に頓着しない感じの方ならワンチャンありますけども。少女漫画世界の住人が、ぽっちゃりを通り越してむっちむち♡ なグラマラスおデブさんを前にして、ホの字になるとは考えづらいですわね?


 そうなると……わたくし、もしかして、婚約破棄されない可能性、ありますの?

 今世のわたくしの初恋のお方で、前世のわたくしから見てもド好みなムッチリおデブさんで、そして、誰よりも優しくてカッコいい、わたくしの心から信頼する婚約者様と。けっ……、けけ、結婚、しちゃってもいい、ってことですの〜!?!?



「……シャルル様!! わたくし、人生の最期にはシャルル様のデカケツで窒息死したいと思っておりますので、生涯健康にムチムチでいてくださいましね!!」

「うん? ……うん!? え、ヴァネッサ、いま生涯って言った!?」

「はい!! ……だってわたくし、あなた様のお嫁さんになるんですもの!!」


 思い切ってシャルル様に抱きつき返せば、彼は、うっとりと微笑んで。


「ッ……、ここまで、長かった……!!」

「シャルル様?」

「よし、ヴァネッサの気持ちが決まったからには速攻で輿入れの準備をしよう! 挙式はいつがいい? 明日? 明後日?」

「ふえっ♡♡ あ、あの、シャルル様! おちつきてくださいまし!! わたくし、幸せ死してしまいますわ〜〜!!」


 ぎゅう〜〜っ♡ とムチムチボディに抱きしめられて、アワワと混乱しているうちに、気付けば言質をとられてしまい。

 なんかよくわからないうちに、明日には籍入れて来週には結婚式、みたいな話になっていましたわ……。


「……あの、もしかしてですけどわたくし……シャルル様に、結構愛されちゃってますの?」

「ああ、やっと気づいてくれたの? ……こんだけ露骨にアピールしても気付かないなんて、ヴァネッサは呑気でかわいいよね」

「え!? アピール!? い、いたずらとか、からかっていたのではなくて!?」

「あのなぁ……、そもそも君がデブ専とか言い出さなけりゃ、僕はこんな体型になってないんだぜ?」

「えぇーッ!? マジでわたくしのためでしたの!? そんな、わたくし肥満化の強要は地雷ですのに……!」

「い、いやまあ、フードファイトが楽しかったのは事実だけど……。でも一番の理由は、ほかのフードファイターに君の視線が奪われるのがムカついたから、かな」

「ま、まさかの嫉妬!?」


 これ、やぶ蛇ってヤツですわねー!? 聞けば聞くほど申し訳なくなるエピソードが出てきますわ!!

 ま、まさか、シャルル様もわたくしを思ってくださっていたなんて……。嬉しすぎて昇天しそうですけれど、少女漫画のストーリーを破壊し尽くしたのが申し訳なくなってきますわね……。


 ああ……ごめんなさい、ヒロインのカリンさん。いつか貴女が転移してきたときには、せめて、とっておきのイケメンとの合コンをセッティングしておきますわ……。





 ……こうして、わたくしはまさかの原作ストーリーが始まる前にシャルル様のお嫁さんになってしまいましたわ。


 どこからともなくわたくしのデブ専趣味が漏れて、人妻だってのに社交界のムチムチおデブさんたちからモテモテになったり、異世界転移してきたのが美少女(ヒロイン)じゃなくてその兄だという黒髪三白眼無愛想なオタクのおデブさんだったり、シャルル様と異世界から来た彼と、そして原作で私を娶ったムチふわ体型の公爵様とでわたくしを取り合ったりと、その後もなかなか波乱万なエピソードがあるのですけれど……それはまた、別の物語、ってことにしておきますわ〜〜!!

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