3ー6 抗体?
病原体X-1の調査研究を始めてから半年ほど経ったかな?
いろいろ試行錯誤しているうちに、抗体らしきものを見つけたよ。
ヘンダーソン島の小型動物をモルモット代わりにして、X-1の感染状況を観察しているんだが、どの小型動物でも死に至るのは同じでも、単位重量当たりで云うとものすごく長命な奴が居るんだ。
陸貝或いは腹足類と呼ばれるカタツムリの種なんだが、どうやらヘンダーソン島特有の固有種のようだ。
因みにネズミは800年ほど前にポリネシアの人々が持ち込んだと言われる太平洋ネズミ(パシフィック・ポケット・マウスとは違い、体長は20センチを超え、重さも300グラムを超えて、最大30センチのギガント種もいるようだ。)が繁殖しており、ずいぶん前に固有種の小動物を保護するためにこのネズミの捕殺を計画したようだが、一時的には減っても生き残った奴がいて、今では元の木阿弥のようだ。
だから、ネズミについては遠慮会釈なしにモルモットに使えたんだが、他の固有種で絶滅危惧種に近いようなものは流石に使えなかったな。
ところでヘンダーソン島は無人島ではあるんだが、一年に一度最寄りの島から住人がやってきて島の木材などを取って行くようだ。
ネット情報では、観光土産用の木彫り製品を造るための素材なんだとか。
その時期を除くと人がまず来ない島でもある。
人の住んでいる最寄りの島では、略南西方向にあるアダムスタウン島までは約192キロ、西北西方向にある仏領ガンビエまでは680キロほども離れているし、最寄りの島に空港は無いので、船でしか行き来できない島なんだ。
俺が検体に使ったカタツムリ(正式名称不明)も、もしかすると保護指定がなされているのかも知れないが、一応国連や英国等のネットを調べても保護動物にはなっていなかったので、5匹限定で使っているんだ。
重さは精々10グラム程度なんだが、重さが250グラムのネズミが約100分で死亡したのに比べ、5体のカタツムリでは、8~24時間もかかって死亡している。
重量比から言うと120~360倍ほど長生きしていることになり、耐性が強いということになるのじゃないだろうか。
それもあって、あちらこちらの陸貝類を集めて色々実験してみたが、やはりカタツムリの病原体X-1に対する耐性は非常に大きいみたいだ。
その中でも一番大きかったのが沖縄等で有害指定されているアフリカマイマイだった。
こいつの耐性は、重量比から言うとネズミの1000倍ほどもあったよ。
アフリカマイマイは、元々体長が15センチを超える巨大なカタツムリであるんだが、広東住血吸虫の中間宿主でもあり,アフリカマイマイに接触した際に口経感染すると脳障害を引き起こすことで知られている。
アフリカマイマイは、元々日本には居なかった外来種であって、検疫有害動物に指定されているんだが、現状では、小笠原諸島,沖縄島,奄美諸島,宮古島,八重山諸島,鹿児島県に分布している。
従って。こいつを捕殺しても何ら差し支えない種なのだが、ある意味で危険な病原体の感染宿主なので取り扱いは十分に注意しなければならない。
重量で600グラムを超える巨大なものも居るらしいが、俺が使ったのは300グラムから400グラム程度のもの5体だ。
こいつに病原体X-1を感染させたんだが、重量でネズミの約1.5倍ほどなのに、何と4か月ほども生きていたんだよ。
検体5体は最終的には死んだんだが、こいつには何らかの抗体があるとみて間違いないだろう。
それから集中的にアフリカマイマイの研究に集中した。
色々調べた結果ではどうも粘液に関連性があるようなんだ。
カタツムリの粘液には主として高分子のムチンが含まれており、最近ではスキンケアの化粧品にも使われているようだが、同時に抗菌性や抗真菌性があることもわかっているんだ。
で、病原体のX-1にアフリカマイマイの粘液をかけると、その活動が停止若しくは非常に遅くなることが分かったんだ。
この粘液の成分は、複合糖タンパク質のムチン、アラントイン(C4H6N4O3)、グリコール酸(CH2OHCOOH)、ヒアルロン酸(C14H21NO11)n、コラーゲン、エラスチン、銅、鉄、亜鉛、ベタイン(C5H11NO2 )、グリセリン(C3H6O3 )、乳酸(C3H6O3 )などであり、各成分ごとに分離して使ってみたら、どうやら多数のアミノ酸と糖鎖が結合した巨大分子からなる粘液主成分のムチンがその影響を与えているようなんだ。
多分、この巨大なアミノ酸と糖鎖からなる高分子のいずれかが、病原体耐性の効果を与えているものと推定できるに至った。
従って、アミノ酸や糖鎖を個別に切り離して、どれが効果のあるものなのかを調べる必要があるんだが、こいつが非常に時間がかかるんだ。
で、ここから先は、正直なところ、ちょっと俺一人では難しいんだよな。
時間をかければ何とか抗体を特定できるかもしれんが、何せ手間がかかり過ぎるんだ。
だから本来は、国の研究機関等にぶん投げるのが一番適切なんだろうけれど・・・。
俺の正体を隠したままで何事かしようとするのは、かなり難しいよな。
病原体のX-1だって、どこから持ってきたと追及されるのはわかりきっている。
また、それまでの研究成果を出した施設はどこにあると言われても答えようが無いよな。
更に言えば、権威ある大学の研究機関とか病理学者とかの発信情報であればともかく、どこの馬の骨ともわからない怪しい人物から送られてきた研究成果をそのまま鵜呑みにする者も少ない筈だし、生体資料なんかは危険物として門前払いさえあるかもしれないよな。
特に、日本に未だ及んではいない潜在的な危険であれば、おのずと取り組み方も違うだろう。
で、もう少し状況を見て、今一度梓ちゃんにアタックしようかと思っているところだ。
その場合は、梓ちゃんの持っている情報を聞くんじゃなくって、俺の調査研究のお手伝いをしてもらえるかどうかっていう話になる。
一馬力と二馬力じゃやれることは当然違うからね。
特にこれから冬季休業に入るから、その時間で梓ちゃんと共同研究ができれば一番いい。
まぁ、梓ちゃんにゼミ等の予定が無いというのが条件となるけれどね。
そうして、実のところ、この半年余りで、例のカザフ出血熱の感染症が、カスピ海を超えてアゼルバイジャン、アルメニアなどを経てトルコ東北部にまで拡大しているんだ。
おそらくは中央アジアに隣接するロシアの南部域も相応にカザフ出血熱の感染症が広がっている筈なんだけれど、ロシアが表に出していないんだ。
カザフスタンの東側地域については、人口希薄のために様子が分からない。
C国はモンスターで壊滅状態だから、無視するとしても・・・・。
いや、ズーノシスは動物にも人にも感染するから、万が一、C国の動物に感染して広がると極東も危ないよね。
それと、東南アジアで増殖している比較的小型のモンスターはどうなのかな?
仮に死体の核を残したままだと、病原体の活性化が進む恐れもあるんだが・・・・。
幸いにして、今のところ東南アジアでの奇病発生は認められてはいないんだけどね。
うーん、どこかの時点で俺の知っている情報を吐き出さねばならないのかな?
その場合でも、前回「半ば終息宣言」で使ったPemburuからの情報として、マレーシアから流すぐらいしか方法が無いよな。
現段階では、俺も梓ちゃんの名前も絶対に表には出したくは無いんだ。
梓ちゃんの協力を取り付けるにしても、梓ちゃん限定で俺の秘密を打ち明けるかどうかだよな。
俺の家族については、おそらく何と無く俺の秘密がわかってはいると思うんだが、しっかりと俺の秘密を守ってくれている。
◇◇◇◇
2037年10月11日(日)、ほぼ一月振りの梓ちゃんとのデートだよ。
今日は、俺の車に乗って大阪にあるU*Jに行き、今回はハリ*ウッドエリア、ニュー*ークエリア、サンフ*ンシスコエリアを回る予定なんだ。
次回U*Jに行く際は、別のエリアを回る予定にしているよ。
ランチはU*Jで済まし、そこから天*山にある海*館を訪ねる予定だ。
帰りがけに*屋か西*辺りで夕食を食べる予定なので、ほぼ一日がかりのデートになるね。
ややこしい話は、車の中でするつもりでいる。
多分、追尾してくる奴らが居るから、車内には少し大きめの音楽をかけることになるんだろうな。
ただの痴話話なら聞かれても構わないけれど、俺が打ち明ける話は、人には聞かれたくない話だからね。
当然のことながら出発前には、俺の車の点検を念入りにやる。
一月も駐車場(マンションの敷地だから私有地)に置いていたら、てんこ盛りに怪しげな装置がついているので、それを見つけるのにも大分慣れて来たな。
一つ一つ外して、装置を手持ちのペンチで壊し、その残骸を段ボールや袋に入れて、取り敢えずは車のトランクに入れておくけれど、燃えないゴミ回収日には捨てる仕事が待っているんだよね。
勿論、俺の車に巧妙に隠して設置してある盗聴装置やらCPSやらを壊したからと言って、誰も文句を言う奴はいない。
きっと自分たちが違法行為を働いているという自覚があるからこそ、クレームも付けられないんだろうね。
だから、毎度のことながら、車を動かす度に最低10分から最大30分ほどの準備時間が居るんだよ。
本当に面倒だよね。
何時になったら諦めるんだろうと思うんだけれど、黄さん曰く、彼らのルーチンワークに入っているらしい。
俺が車を使って概ね三日ほども経ったら、俺が大学に行っている間に各種装置を取り付けるらしい。
生憎と駐車場には監視カメラは無いんだよね。
ただまぁ、黄さんのお仲間が常時監視してくれているんで、いざ装置を外す際にはどこにそうした装置があるかを黄さんが教えてくれるから助かっている。
それでも車体の底になんか取り付けられると、外すのにも骨が折れるんだよね。
一応、車のトランクにはローラー付きの板やら毛布やらも用意してあって、簡単に車の下に潜れるようにはしているんだけどさ。
お出かけスタイルで汚れ仕事はしたくないよねぇ。
あっちもルーチン・ワークのようだけど、こっちもすっかりルーチン・ワークになってしまったね。
いずれにしろ準備作業が終えたら出発だ。
梓ちゃんに電話をかけて、これから出ると連絡し、梓ちゃんのアパートまでお出迎えに行く。




