3―5 X-1病原体
俺の周囲には、相も変わらず監視がついているなぁ。
黄さん曰く、流石に二年近くも俺が普通の大学生活を続けているものだから、監視の目も少し気が抜けてきたようでかなり大雑把になっているそうだ。
監視者が替わってきたことも変化の一つなんだろうな。
俺の鑑定能力の前では、彼らが如何に身分を隠そうとバレバレなんだが、そこはあえて指摘もしないし、道で出会っても知らんぷりをしているよ。
何しろ俺の住んでいるマンションにまで、転居してきた連中がいるんだ。
日本の各組織の人はともかく、外人さんは目立つから、東洋系の顔立ちをした奴が二人ほど今年の4月初めに別々の部屋に転居してきたな。
住んでいる階が違うから滅多に会うことも無いんだが、偶に階段等で会うこともあるので、その時には会釈など挨拶ぐらいはしているが、彼らと特に親しくなる気はない。
まぁ、俺のマンション以外のご近所にもご同業の奴らが色々潜んでいるわけだから、一々気にしていたらきりがないんだ。
いずれにせよ、家の出入りについては、完璧に監視されているということだ。
何処やらの女課長さんが言っていたように、俺が転移能力を持っている可能性も疑われているわけだから、マンションの出入りを監視しても意味は無いかもしれないということは彼らも重々承知している筈だけどな。
それでも、黄さんからの情報では、俺の部屋の灯りが何時点いて、何時消えたというようなことまでを、まめに記録しているようだぜ。
まぁ、各組織同士が互いにけん制しあってくれているおかげで、俺の方に危害が降りかかって来ていないのは僥倖と言えるだろう。
ヘンダーソン島での研究・試行は、毎日午後12時から午前1時頃にマンションの部屋の灯りを消してから、島へ跳んでの作業になる。
勿論、俺の部屋には監視カメラも盗聴装置もないことを確認しているぜ。
そんなもんが見つかれば、さっさと壊して機能しないようにしている。
どうも合鍵を造られた様で、俺のマンションに入り込んだ奴がいたようなんだ。
不審な物があるかないかは、鑑定をかけるとよくわかるんだ。
そのため、家主に了解を貰って玄関のカギを替え、なおかつ二重のカギにしてもらったし、俺の方も室内外に監視装置を四つほど設置しているよ。
ベランダ側のサッシには、鍵のかかる補助錠をつけてあるので、ガラスを壊さない限りは侵入できないはずだ。
それでも侵入してくる奴は、証拠写真や録画と一緒に警察に通報することにしている。
そんなこんなで丸々一年も過ぎると流石に俺のマンションへ無断で侵入する奴はいなくなったし、俺のじゃない設置型の盗撮装置や盗聴装置の類は無くなったな。
無論、距離を置いた場所から高性能の収音器を使った盗聴は未だにやっているみたいだけれどね。
音声については、俺の方でぼろを出さなけりゃバレる心配は無いよな。
ヘンダーソン島での研究・試行は、夜12時過ぎから概ね二時間、長くても三時間に留めている。
ヘンダーソン島で長時間過ごしていたんでは、普通の生活に支障をきたすし、万が一にでも近所で騒ぎが起きた時に、俺だけ知らないという状況は避けておかねば拙いことにもなりかねない。
従って、俺が秘匿を要する行動でマンションに不在の際は、黄さんのお仲間が俺のマンション周辺での動向を見ていてくれているんだ。
流石に、俺のマンションに航空機でも突っ込まれた日にはその後の対応が難しくなるんだが、隣家又は近所での火事等の場合は、すぐにもマンションに戻ることにしている。
幸いにもそんな事態は今まで起きてはいないけれどね。
ところで肝心の病原体の方なんだが、やっぱり異界からやって来たモンスターには未知の病原体やら細菌が居ついているらしい。
少なくとも日本の各研究機関で発見した未知の病原体やウィルスは、60種類を超えているようだ。
俺の方は、C国北部で退治したモンスターの遺骸からサンプルを取ってきて、独自に研究調査をしているわけなんだが、どうも異界の病原体やウィルスが地球のものと混ざり合うことで多少の突然変異を起こしているらしいことが分かって来た。
日本の研究機関で確認されているのが67種類もあるんだが、これに加えて俺が採取してきたサンプル(二年近くも経っているから、ほぼ白骨化しているか若しくはミイラ化した状態)には、さらに11種類のものが見つかったよ。
俺の視力の抵抗値を下げることで顕微鏡まがいのことができる上に、より微細な部分も拡大して見ることもできるようになったんだ。
尤も、本当に微細な物を見るには、対象物にかなり強い光を当てる必要があったのだけれどね。
このための光源として、レーザー装置を米国東海岸で入手したよ。
俺が見つけた病原体は、ほぼ乾燥状態の微細な埃と見間違うような中に存在していた奴なんだが、こいつが生体細胞に触れると活動をし始めるんだ。
もしかすると乾燥状態では冬眠状態ということかもしれない。
こんな活動待機状態の奴が三種類もあったんだ。
その中で最も危険と推測される奴が、多分『溶血性レンサ球菌』の類だろうな。
別名『人食いバクテリア』とも呼ばれる代物だが、本当に人肉を食らうバクテリアというわけじゃない。
細菌が出す毒素により急速に筋肉や組織が壊死し、多臓器不全を引き起こす恐ろしい病気なんだ。
ヘンダーソン島にいる野鼠等の野生の小型動物を使った実験では、感染からわずかに一時間から二時間で死に至っていたから、人間でも数時間単位で死亡する可能性があるな。
但し、こいつは生き物の体液に触れないと活性化しないようだ。
擦り傷などの怪我をしていれば、そこから体内に侵入する恐れがある細菌のようだな。
飽くまで俺の堪にしか過ぎないが、カザフスタンのバイコヌール基地で発生した奇病は、この細菌の亜種ではないかと考えられる。
異界の病原体が地球の病原体と出会ったときに突然変異を起こし、現地で奇病と呼ばれる感染症を引き起こしたのではないかと思われるんだ。
C国北部と中央アジアのカザフスタンでは気候風土が異なるから、当然に土着の病原体の種類も違うことになる。
従って、突然変異も混ざり合った病原体の種によって若干異なることになるだろう。
少なくとも俺が見つけた病原体『X-1』(俺が勝手に名付けた)は、増殖しつつ毒素を吐き出すことで生体組織を壊死させて、最終的には死に至らせるんだが、一方でカザフスタンで発症した奇病(『カザフ出血熱』と呼ばれ始めている)は、出血熱の症状に似ていて、全身が内出血のために黒ずみ、発症から三日ほどで組織細胞が腐食を始めるようだから似て非なるものではあるんだが、毛細血管の内壁を壊死させて出血熱の症状を呈しているように思えるんだ。
どちらかというと、カザフ出血熱は血管細胞に働きかけ、X-1は生体細胞ならなんでも壊死させるものではないかと思っている。
多分、混ざり合った地球の病原体が違ったのだろう。
特に人以外の動物の病気は、人に感染する病気と感染しない病気(非ズーノシス)に分かれるんだが、今回は俺の鑑定で見る限り、X-1病原体もズーノシスらしい。
飽くまで可能性の問題ではあるんだが、X-1病原体の感染症に対抗薬ができれば、あるいはカザフ出血熱にも効くかも知れないな。
俺がカザフスタンまで出向いてカザフ出血熱の病原体サンプルを入手できるかも知れないが、今の段階でそんな危険は犯したくはないから、取り敢えずはX-1対策を種々試みてみようと思う。
色々、薬学に関する専門書(監視者に疑いをもたれないようにするためには、入手先が限られるので、主として洋書)も読んではいるが、飽くまで素人の横好きの範疇だからな、あまり期待はできないんだ。
それでも何某かの手助けになればと思っているんで、動く価値はあると思いたい。
ついでに言うと、このX-1病原体とは別に、面白い微生物も発見している。
魔力と言うか魔素というか、目に見えないものを糧に生きている奴なんだ。
俺が見つけた際は、ほぼ仮死状態だったんだが、モンスター討伐の際に入手していたコアを近づけると当該微生物が活性化したんだ。
黄さんが以前言っていたように、古の物の怪や妖怪は、異界とのパイプがなくなると再生能力を徐々に失い、やがて不死性を失うようなんだが、異界の空気と言うか『魔素』が有ればその能力は保持できるらしい。
同じように異界で生きていた病原体も魔素があると復活するようだね。
その意味では、突然変異したであろうX-1やカザフ出血熱の病原体もいずれ魔素が薄まるにつれて活動停止するのかな?
それとも完全にこっちの世界に適合して、ますます繁殖するのだろうか?
いずれにせよ、異界が発生源と思われる微生物にはモンスターのコアは近づけないことが肝要のような気がするよ。
怖いのは、地球の病原体と混ざり合って突然変異を起こした病原体が魔素(コアの発する魔力?)と出会うことにより、より強化されてしまうことだからね。
そうなれば多少の対抗薬が有っても、病原体が勢いづいてしまうことになりかねない。
その意味ではモンスターの体内にあるコアを病原体に近づけてはいけないのじゃないかと思っている。
幸いにして俺が討伐したモンスターのコアは、金属で覆われているか、若しくはコアそのものが取り除かれているから大丈夫なんじゃないかと安易に考えているが、各国軍隊が討伐したモンスターはおそらく体内にコアを持っている筈なので、病原体とはできるだけ分離しておく必要があるのじゃなかろうか?
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チート能力を持って逆行転生をするお話です。
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By サクラ近衛将監




