3―2 地下での訓練
地下基地の訓練では、まずは『光』属性についてやってみることにした。
『重力』も何とか出来たから『光』もとは思っていたんだけれど、これがなかなか難しいんだ。
実は、光って波動なのかそれとも電磁波なのか今でもよくわかっていないんだよな。
どちらの性状も示すから特定出来ていないはず。
いずれにしろ、空間を直進という形で伝搬して行くわけなので、その昔には『エーテル』なる媒体が考えられていた時期がある。
現在では特殊相対性理論によって否定され、エーテルの存在を信じている人はいないんだ。
俺の場合、そのよくわからない媒体らしきものに何とか干渉できないかと思ってはいるんだが、この特定が難しい。
既にエーテルの存在が否定されている以上、いわゆる媒体ではなく高次空間そのものを利用して伝搬して行くのかもしれないと考えているところなんだ。
俺の空間属性は、Maxか、若しくはそれに近いはずだから、空間把握を用いながら空間そのものの存在を薄めたり濃くしたりしてみたよ。
尤も、飽くまで俺の感覚的なものなんで、実際に定量的に空間が希薄になったり、濃密になったりしているわけじゃないと思うんだが、・・・・。
それでも光の到達に差異が生じたんだ。
20m離れた照度計に向かって。2000ルーメンのLED懐中電灯を照らしながら、その空間を弄ったら、照度計の数値が変化したんだよ。
最小値と最大値で取り敢えず5割ほどの変化はある。
空間を希薄にすると照度が約5割下がり、逆に濃密にすると照度が約5割上がる数値になったんだ。
別に、光の集中とか拡散ではなくって、実際に照度が上下するわけなので、光の伝搬自体に抵抗の増減という形で影響を与えていると思うんだ。
この実験を三日続けたら光属性のLVが4から5になった。
LV5になることで、当然のことながら照度計の数値変化も5割程度から6割近くにまで変化したよ。
但し、照度計の照度の数値変化の減少だけな。
照度の増加は、5割以上には増えなかったんだ。
因みにこいつは、照度計と懐中電灯の距離には無関係のようだ。
無論、距離が離れれば、それだけ照度計の数値は減るんだぜ。
俺が言っているのは、距離が遠くなっても近くなっても、その照度計が示す数値の増減割合に変化はないということだ。
いずれにせよ、もしも十割まで減少させることができれば暗闇の空間を形成できるかもしれないな。
そんな必要性があるかどうかは別だけれど、照度の増加の方も空間?到達距離?時間?に関連してくるかもしれない。
但し、距離が遠くなればなるほど俺の負担が増加するような気もするな。
そうして、こいつも一旦空間設定をしてやると特段に何かをする必要が無いから維持するのは簡単なんだけどね。
◇◇◇◇
次いで風についてもやってみた。
風ってのは、気圧差によって生じるわけなんだが、その差を設けるにはどうしたらよいかだよな。
こいつは若干分子運動にも関係してくるかもしれない。
分子運動が激しくなればおのずと拡散をする。
この拡散と言うのが運動エネルギーの大きなところから小さなところへ向かって流れるエネルギーのはずなんだ。
これが空気であれば風になるし、液体であれば流体の流れになるだろう。
但し、中心から拡散する方向になるから必ずしも一定方向に吹くような風にはならないかもしれないな。
単なるそよ風レベルならそんなものでも良いかもしれないが、もっと強い風、例えば帆船に力を与えるような風ならばどんな形であれ、かなり広範囲に気体を動かさねばならなくなる。
気体の分子運動を交えてしまうと熱エネルギーが加わるだろうからドライヤーとか冷房とかの特別の場合を除いては使えないよな。
ここは空間を利用して仮想のダクトを造ってみようか。
光でもやったのは光の道筋の空間を意図的に変えたわけなので、今回も変えたい空間を特定し、そこにダクトのような場所を俺の気持ちの中で設定する。
で、そのダクトの一方の先端からダクトの内部形状にピッタリ合わせた板を押してやればダクトの反対側先端部から空気が押し出されるはず。
端的に言うと結構面倒だったな。
毎日、午後10時から二時間の訓練時間を取って、半月ほどかかって何とか仮想空間による空気砲擬きが出来上がった。
空気砲と言ってもそんなに威力はないんだぜ。
最初の段階では、長さが15mほどの仮想ダクト先端部に置いたろうそくの炎を揺らすぐらいかな。
更に半月ほど経つと、ろうそくの炎は吹き消せるぐらいにはなったぜ。
ダクト自体をより縮小させると、風圧で積まれている紙片を数m飛ばせるぐらいになったし、さらに縮小させると、重さが2キロの物が入った段ボールを移動させるほどの風力を得られたよ。
この段階で風属性のLVは4から5に上がった。
ふむ、これを上げて行けば風圧で人ぐらいは吹き飛ばせるようになるかもしれんな。
この方法は、気体だけでなく液体でも利用できそうだと思ったのは数日経った頃だった。
俺って、のめり込んでいる時は意外と頭が固いよね。
◇◇◇◇
次いで『熱』に移ってみた。
熱は分子運動なので、この分子運動を抑制している原因を減少させれば熱量は増えると思うんだよね。
その逆に、分子運動を抑制すれば熱量を失い究極的には絶対零度に陥ることになるんじゃないだろうか?
俺の場合、初期の頃はころは燃焼速度を上げることで可燃物を爆発物に変えることができていたけれど、純粋に熱を加えて温めるようなことはしていないんだ。
仮に熱を加えることができたなら、いつでも冷水から温水を造れることになるし、その逆も可だよな。
こいつも結構苦労はしたけれど、三日後には過熱と冷却が何とか可能になっていたよ。
但し、初期段階で加熱の方は金属製のマグカップ(300cc)に入った常温(25度C)の水を45度前後に温める程度、同じく冷却の方は常温の水を5度程度にまで下げることが可能になった。
これを連続で出来るようになれば、風呂が沸かせるかもしれないな。
熱属性もLVが4から5に上がったよ。
これからも鋭意訓練を重ねて少なくとも氷を造れるぐらいにはなりたいもんだな。
まあ、例の空気砲擬きを使って、断熱圧縮と断熱膨張を生み出すことができれば、簡単に高熱と冷却はできそうだけどね。
但し、その場合はもう少し精度を上げねばできんだろうな。
ピストンと枠の精度が甘いのでどうしても漏れが有って風圧が低いんだ。
この漏れをゼロにできたなら、密閉空間での断熱圧縮と断熱膨張ができると思うんだよね。
とにかく、余り空間的に余裕が無いような場所で加熱したり冷却したりするのは、この熱属性を使えると便利だね。
◇◇◇◇
さて属性―2の中で手を付けられそうな最後の項目は『音』だな。
音は音波の空気伝搬だから、空気砲擬きで音波砲的なものは実現可能だよね。
今のレベルではちょっと不足なんだけれど、レベルを上げれば爆発的な空気の流れを引き起こして音を発生することは十分可能だ。
でも既に発生している音を使って増幅したり、減少させたりできれば色々と役立ちそう。
アンプなしで拡声器代わりに使えるし、防音空間もできそうだ。
実家の倉庫にあった中古の小型スピーカーを俺のマンションに運び込み、そのコーン部分を外して、外部からの音がコーンに与える影響をつぶさに観察したよ。
当然のことながらスピーカーのマグネット部分が動いているわけじゃないから、音は出ないんだが、スピーカーでもコーンが受けた音を微小電流には変化させているんだ。
単純に言ってスピーカーのコーンは受話器の代わりを果たしているということだ。
であれば、そのコーンの振動を増幅し、若しくは制限してやれば、拡声器にもなるし、スピーカーの放出音を制限することも可能ということだ。
もう一つ、空気砲擬きの代わりに、球形の空間を二重に造ってやれば、密閉空間では、防音にもなるだろう。
この場合、密閉しすぎて音だけじゃなくって空気の流動まで抑えてしまうんだが・・・。
そこで空気は通すけれど音は通さないものができるかどうか考えてみたけれど、こいつが中々に難しい。
やるとすれば電子的にノイズを消すシステムのように、音波の反対波形を生み出して、音をネグレクトするしかないんだよな。
で、特定の空間を設定し、そこに入って来た音波と反対波形の音を生み出すようにしてみたよ。
機械的なシステムじゃないぜ。
飽くまで俺のスキルでの動きだからな。
コーンの代わりに空気膜を生み出して、スピーカー代わりに使うわけだ。
十日近くかかったけれど、音の増幅に関しては70%、音の減少に関しては60%まで可能になったよ。
つまりは地下鉄内の騒音と呼ばれる60dbギリギリ程度のものが、36db程度に抑えられるし、人の呼吸やささやき声程度のものが、50db程度にまで拡大できるんで、途中に空間ダクトを使えば耳元までその音が届けられるから、盗聴には便利だよな。
この結果、音属性についてもLVが4から5に上がった。




