2ー7 サハリンでの狩り
秋口に入って遂に魔物たちがサハリンの対岸沿海州に到着した。
既に飛行生物がサハリンには侵入し始めたので、海を渡って北海道へ侵入するのも時間の問題だろう。
黄さんの教唆(こっそりと活動せにゃいかんから、まるで犯罪者?)により、やむなく俺はサハリンへと向かうことにしたよ。
半島D国からの避難者の対応がようやく収拾し始めたと思ったら、今度は沿海州とサハリンからの避難者対応で日本政府は頭を抱えている状況だ。
どうやら、極東ロシアの精鋭軍も再生するモンスターには歯が立たないようだ。
で、そんな報道が続く中、俺はと言えば、黄さんからの情報で日本政府が、黒龍退治の際のレーダーエコーの正体を追いかけているとの情報を得たんだ。
もう一つ情報が有って、腐敗した黒龍の遺骸から、俺が放り込んだ三つの鉄球を調査チームが発見したらしい。
明らかに、黒龍の臓器ではないかと思われる箇所に合体している金属球に、学者たちは違和感を覚え、黒龍の代謝系を調査(あちらこちらが腐敗しているから物凄く大変だったようだ)し、おおまかな推理として人為的なモノを感じ取っている学者さんもいるようだ。
うん、中々鋭いよね。
俺の方はと言えば、梓ちゃんとデート中に山で出会った熊さんの場合と違って、黒龍が再生能力を持っていると知っているから、一旦死んだとしてもまた生き返るのが心配でそのまま放置した金属球なんだ。
腐敗し始めてからは、自衛隊が24時間体制で周囲を見張っていたから、再度出かけるのは、流石に俺の安全が保証されないから行けなかったしな。
まぁ、いずれにしろ、生きていた巨大生物の枢要な臓器に何らかの事情で金属球が融合、それで黒龍が死んだとの結論を得る可能性が大だ。
誰がやったのかという問題は残るかもしれないが、学者さんたちにそれを求めるのは気の毒だろう。
とどのつまり、不審なレーダーエコーを政府及び自衛隊が監視している状況だから前と同じ方法では、おいそれとは動けないんだよね。
やむを得ないからF市内から転移で移動を開始することにしたよ。
レベルが上がった所為もあって、今では100キロ前後まで転移距離が伸びているからね。
だから、山の頂上なんかに登れば、凡そ視界の範囲内ならば転移が可能になっているんだよ。
高空に飛翔すれば、より高い視点で広範囲を見渡せるけれど、結界を張らにゃならないし、そもそも高速で飛翔するには例の魔法の絨毯が要るよな。
こいつがレーダーに映ると云うことを聞いて、現在改良を進めているところなんだ。
今までのようにレジャーシートと金属の融合では拙いから、レーダー透過率の高い物質で絨毯を作れないかどうかを試しているところだ。
但し、簡易な方法では、俺をそのまま飛翔させるって方法はあるんだよ。
人体ってのはレーダー波を透過しやすいから、その意味ではステルスになるはず?
但し、この方法だと俺が全然休めないんだよな。
魔法の絨毯はある意味で寝そべったままで目的地まで飛んで行けるけど、俺自身を飛翔させて、なおかつ結界を張って地上の人から見えないような高空を飛ぶってのは結構大変なんだぜ。
おまけに、近傍で緊急事態が起きているから東北以北の航空自衛隊の飛行機が至るところを飛んでいるから空は危ないよな。
空中でぶつかられでもしたら絶対に俺も航空機も悲惨なことになる。
そんなわけで、目的地まで飛んで行くのは新しい魔法の絨毯が開発できるまで放棄することにしたよ。
夜間、最寄りの山へ転移、そこから人気のない山地や地上の低空を目指して転移を連続し、北海道に向かうのがベストと判断したんだ。
F市内から、山を伝って宗谷岬に至るまで右往左往しながらも順次北上し、S県、N県、T県、Y県、A県などの山地を主として経由して、北海道に至るルートを採用、宗谷岬迄およそ1600キロ弱だったから、都合20回前後は転移を使ったかな。
F市を午後10時に発って、宗谷岬灯台近辺までは1時間とかからなかったな。
夜目が効いているんで、転移先に降り立ったら、まずコンパスを使いながら次の方向を見定め、また転移を繰り返すだけだからね。
転移から転移迄2分とかからないぐらいなんだ。
秋口の北海道の夜は流石に冷えるみたいだな。
上に着る厚手のパーカーを持ってきて良かったよ。
で宗谷岬から先は魔物が居るわけなので流石に危ないから、闇雲に進むわけには行かない。
もしかすると残留しているロシア人の人目に付く恐れもあるし、モンスターと鉢合わせの可能性もある。
だから、守護霊の黄さん主導で、安全な場所に案内されながら転移地点を決めて行く。
ヤッパリ、人気のない山頂付近がメインだな。
サハリンは手つかずの自然も多いから、モンスターはともかく野獣にも要注意で、熊や狼なんかにも注意しなけりゃいけないんだ。
流石にアムール虎は居ないはずだけどな。
◇◇◇◇
結局ユジノサハリンスク(戦前は豊原と呼ばれていた場所)の南西50キロほどの地点に到達できたよ。
黄さんの話では、ユジノサハリンスクに三匹のワイバーン、サハリン北部にはガーゴイル二匹に、グリフォンが居るらしいぞ。
おまけに、対岸の沿海州の海岸部から600キロほどのところまでドラゴンが来ているようだ。
しかも紅龍の番だっていうから、かなりめんどいぜ。
黒龍のブレスはビーム状だったけれど、紅龍は炎のブレスらしい。
熱いのも嫌だよな。
多分ビームのように収束していないブレスなんじゃないかなと思っているが、詳細は不明だ。
ブレスの着地点じゃなくっても、熱くなりそうな予感がするよ。
絶対に東に来ないでくれよな。
これからシベリアは寒くなるんだぞ。
お前ら越冬できるのか?
あれ、もしかして寒くなったら、そのまま空を飛んで南下する?
そいつもチョットやばいんだよな。
仮に飛翔航続距離が長い場合、そのまま沿海州の奥地から南下して来たら、九州か中国地方辺りや関西圏も危ないかもしれない。
尤も、その途中で半島が右手に見えるだろうからそっちに向えば一安心はできるけどな。
但し、魔物の氾濫と核爆発の影響もあって、おそらく半島には奴らの餌が無いだろうから、餌を求めて居場所を変えているんなら、余りそこに留まるとも思えないんだけどな。
ヤッパリ、人口過密な日本がちょいと危ないかもしれん。
まぁ、俺の当座の役目は、取り敢えず、サハリンに上陸した魔物を狩るだけ。
こいつらを南下させて北海道に到達させては駄目だからな。
ワイバーンは、何とか行けるんじゃないかと思うが、ガーゴイル?
ラノベでは、石像じゃなかったけ?
こいつにそもそも心臓があるのか?
黄さん曰く、空中を飛んでいる奴なら重力で逆落としにしてやれば破壊できるそうだが、こいつも再生能力を持っていたらそれだけじゃ駄目だよな。
うん、続きがありましたよ。
ガーゴイルも龍の心臓と同様に核を持っているから、そいつを破壊すればよいそうだ。
つまりは鎧のような岩石を砕いて核を露出させ、それを壊せばよいという事らしい。
因みに他の生き物みたいな魔物も、心臓の極々近傍に核が存在し、心臓と一緒に金属と融合させることで再生を封じられるようだ。
但し、ガーゴイルの場合、核の在り場所が見つけにくいという事らしい。
黒龍の心臓三つの在り場所を鑑定で見つけたように、あるいは、ガーゴイルの核の在り場所が鑑定で分かるかもしれない。
そうであれば、核を俺の能力で抜き出すこともできるんじゃないかと思うんだ。
今度はそいつで試してみよう。
もしかしたら魔物相手に金属融合じゃない手法が役立つかもしれない。
心臓と一緒に核も抜き取られれば再生は難しいんじゃないのかな?
取り敢えずは、ワイバーンが相手だな。
慎重に動いて、ユジノサハリンスク付近にいる三匹のワイバーンを発見したよ。
その内二体は、番のようで塒には卵一個もあった。
ここでふ化されて数が増えては堪らんから、こいつも破壊せねばならんのだろうな。
で、早速ワイバー狩りな。
巣で待っていたら、親が揃って帰って来たぜ。
そいつが俺の能力の範囲に入ってきた時点で鑑定をかけ、心臓と核の場所を特定してそいつを手元にアポートさせ、俺の亜空間に収納した。
亜空間では時間経過があるんで、当然に心臓は腐敗する。
もう一つ大事なことは、この処置でワイバーンが死滅するかどうかなんだが・・・・。
うん、核が無ければ再生能力はないみたいだな。
ワイバーンが墜落し、復活しないかどうかを見定めてから、北上したよ。
コルサコフ(旧大泊)近郊では、グリフォンと遭遇したぜ。
ギリシャ神話では、グリフォンはライオンの胴体に鷲の頭部と羽をもっているんだっけ?
でも実際には、ラノベと違って、四本足の鷲だね。
胴体部分も羽毛で覆われていて、足の部分が後ろ足が太いダチョウの脚みたいで二本指、前足は四本指のようだな。
目測で体長は約7m、体高は約4mぐらいかと思うんで、ライオンよりは遥かにでかいぞ。
因みに象で体長6~7m前後、体高3m前後だから、まぁ、象ほどの大きさの魔物だと思えばよいだろう。
こいつが意外と俊敏なんだ。
ワイバーンはどちらかと言うと滑空タイプのグライダーのようなもんだが、グリフォンは戦闘機タイプになるかもしれんな。
時速500キロ超で、餌を狙って逆落としに襲っているのを見つけたよ。
餌は熊だったが、前足で一掴みされて、空中に引き上げられ、くちばしで引き裂かれて呆気なく熊は死んでいたな。
その後、地上に降りて、クマを貪り食っていたが、30分もしないうちにクマ一頭が奴の腹の中に納まっていたな。
あんなのに襲われていたら人間はひとたまりもないだろうな。
で、そいつが食事後の休憩をとっている間に背後(100mぐらいは離れている)に転移、そこから一気に二個の核と心臓をアポートさせた。
ラノベだと、この死体から有益なものが切り出せることになっているんだが、俺は放置することにする。
ダンジョンみたいに無限に近いほど湧くのであれば資源として確保しておく意味合いもあるけどな。
多分、大々的に繁殖しない限りは、希少な資源にしかなり得ないし、黄さんの言うことが正しければ、異界から流れ込む瘴気が止まったから、いずれ再生能力は失われるんで不死の存在ではなくなるしな。
だからいずれは、絶滅危惧種になるはずだ。
こいつからエネルギー源が採れるとすれば、魔核の可能性がある。
だから魔核だけは保管して、心臓のほうは本体の死滅を確認してから離れた場所で地下に埋めることにした。
もしかすると、学者が欲しがるかもしれんが、そんなのは知らん。




