2ー6 黒龍退治の後の動き
日本政府による黒龍の死因調査が進まないため、再三にわたって東南アジア各国、EU政府中央アジア及び中近東の親日国家から情報提供を求められているが、日本政府は『調査中』というだけで満足な回答ができないでいる。
特に東南アジア各国と中央アジアは、モンスターの侵攻を受けて深刻な被害を受けており、その支援に当たっているEU政府や中近東各国もかなり困窮していた。
既にモンスターの集団は、気温が上がるに従って北方にも侵攻を始め、黒〇江省全域とロシア沿海州に入っており、このまま行くと樺太にまで押し寄せそうな雰囲気である。
樺太までモンスター集団が来ると北海道は目と鼻の先であるから、場合によっては、日本政府は北方にも警戒体制から一段引き上げた防衛ラインを敷かねばならなくなる。
一方、内モンゴル自治区とモンゴルは連絡が途絶えて久しい。
モンスターが寒さに弱い所為なのか、暖かくなるまでは北に進出するモンスターは意外と少なかったのである。
これまで観測された魔物は爬虫類系が多いので、やはり寒さが厳しい環境では彼らも生きにくいのかもしれない。
西方向については、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタンの一部が大きな被害を受けており、一部はイランにも侵入しているようだが定かではない。
インドは東と西から脅威を受けているようだが、ヒマラヤを超えて来るモンスターは今のところ居ないようだ。
東南アジアは、フィリピンと台湾が、ワイバーンの襲撃を受けたが、大きな被害を出しながらも何とか殲滅している。
但し、雲南省とベトナムは、地竜の侵攻により大きな被害を生じており、ミャンマーとタイにも一部被害が拡大している様子だ。
モンスターは増殖するのか?
そんな疑問に答えるように、どこにも探検家と言うか冒険家が居るもので、ワイバーンの巣に卵があるのをドローンで撮影した奴がいる。
撮影してすぐにドローンは破壊され、何とか命からがら逃げ帰ってその映像をインターネットに流したようだ。
放置すれば、モンスターが繁殖することが非公式に確認されたわけだが、この繁殖を止めるには生息地を攻撃しなければならないがこれが非常に難しい。
偵察衛星で巣でも見つけられれば良いのだが、岩陰などに隠れられると追跡もできない。
まして、森の中や、洞穴の中に隠れられると巣を破壊することも難しい。
ワイバーンの場合、ミサイル等がうまく当たれば翼を破壊して落とすことができるが、レーダーに映りにくく赤外線でも追尾が難しいらしい。
しかも落としたことで安心して放置すると、瀕死の重傷を負ったはずなのに生き返ってくるのだ。
ワイバーンの場合、落としたうえで更に頭をふっ飛ばさないと死なないことが既に分かっている。
これが実に難しく、各国の軍隊が手を焼いているところなのだ。
◇◇◇◇
2034年4月半ば、F市東斗高校も無事に再開された。
アフリカ、アメリカ大陸それに豪州などを除いては、未だ世界のあちらこちらに危機が迫っているものの、日本に当面の危険は無いと判断されたので学校も再始動を行ったのだ。
俺達も無事に二年生になった。
因みに梓ちゃんとは、また同じクラスになれたぜ。
勿論、梓ちゃんとのデートも再開している。
ところで、隣国発のモンスターなんだが、温かくなるにつれてユーラシア大陸を北上し、4月下旬の時点ではその一部は黒竜江(アムール河)を超えてロシアの沿海州に流入しており、サハリンに侵入するのは時間の問題と言われている。
その一方でロシアの極寒地域で冬が越せるのかどうかという疑問も生じているのだが、少なくとも4月下旬の時点では北緯43度線から44度線を突破していることから、本格的な夏場には北緯50度線を超えることも予想されているんだ。
日本で懸念されているのは、万が一翼竜などがサハリンに到達すれば北海道に南下するおそれがあるということである。
俺もその際には再度出撃しなければならんだろうなと思っている。
翼竜も相当に高く飛び上がれば視界が開けて遠距離に陸地があることを理解するかもしれないが、動物の本能としてやみくもに海を飛ばないだろうという余りあてにならない評論家の言があるんだ。
高い山に登って見える範囲は非常に良い条件下で100キロ前後、それよりも遠くなると余程視程が良くないと見えないからね。
従って、そうした翼竜が進出するにしても北緯48度線を超えないと樺太には到達しないのじゃないかという見方が大勢を占めているが、それでも夏場にはシベリア地域でも30度を超える地域が続出するからモンスターが北上して樺太に侵攻する可能性は否定しきれないようだ。
現実に欧州方面と言うかユーラシア大陸西部域ではかなりのモンスターが北上を始めているらしい。
衛星その他で監視されている範囲では、少なくとも数万匹の大型モンスターが生息域を広げているらしく、中には繁殖しているものも少なからずあるようだ。
今のところEUは、某大国の様に核兵器を打ち込むような真似はしていないが、いよいよになれば核兵器を使うことも視野に入れているらしい。
核兵器は下手をすると核の冬を招きかねないからね。
今のところ様子見なのはアフリカ、豪州、南北アメリカ大陸や太平洋と大西洋の島嶼域だが、状況によってはこれらの地域も島伝いに侵略される可能性はあるんだけれどね。
そうして、日本で黒龍が討伐された件に関しては、かなりの問い合わせがEUやインド・中東諸国から来ているようだ。
今のところ騒がれたくない俺は、じっと身を潜めている。
最終的には出ざるを得ない場合もあるかなとは考えているけれど、できるだけ表には立ちたくないんだよな。
俺に超絶チート能力が有ると知られれば、絶対に国家にこき使われる未来しか見えないもんな。
人のことなんか知らんと言う訳ではないが、正直なところ遠い外国のことにまで首を突っ込みたくはない。
仮に、手を出すにしても優先順位が問題になるだろうな。
俺は一人だからどんなに頑張っても、一度に一か所ずつにしか対応はできんぞ。
仮にそれが数万カ所あれば、一日に数十件を片付けても三年以上はかかる話だ。
それに、それが終わった後は、絶対に危険人物として体の良い賓客扱いで国家権力に拘束されるんだろうな。
軍隊でも手に負えないモンスターを単独で殲滅できる戦力を、国家が放置するわけがないんだ。
その関連で、黄さんから注意喚起が有ったのは、黒龍退治をした際に俺の空飛ぶ絨毯が、最新護衛艦に探知されたらしく、H県付近で見失ったことからH県を中心に大規模なレーダー監視と調査が始まっているようだ。
仮に今後空飛ぶ絨毯を使う場合、最寄り神社からは使えないという事になる。
そのため最寄りの人がいない山地等にいくつかのアジト(出現ポイント)を設ける必要が出て来たヨ。
候補地としては、最寄りでN県、S1県、T県の山中、少し離れてS2県、O県、K県、G1県の山中、かなり離れた場所でG2県、A県、H道の山中を選定している。
ここまでの進出は連続転移を行うつもりで目下夜間に距離を伸ばしているところだけれど、今のところ一度の転移で2キロ強まで転移できるようになった。
能力の上りかたから見て、一月かそこら程度で転移距離が倍程度になるような気がするから、半年もすれば、N県やT県までは一気に飛べるような気がする。
転移じゃなくても、身一つで空を飛べば1時間に100キロぐらいは遠出できるから、それで順次アジトを増やして行くつもりなんだ。
人知れず北海道まで進出するには、どうしても転移とその拠点が必要だと思うからね。
可能な限り、進出距離を増やしておこうと思っているわけだ。
当然人目につく都市部は避けることになるし、この作業は三日おきに夜間に行うことにしている。
俺って高校生だかんね。
寝不足じゃ健康を保てないし、学業にも差し控えるかも知れない。
ただまぁ、学校の授業に関しては多分左団扇で過ごせると思うぜ。
知能が上がった所為なのか、知識の吸収能力が上がった所為なのかわからないが、テストで余程のことが無い限りは、学年で10番以内の成績を取れるようになったからね。
尤も、音楽は何とかなっても、どうも美術系統は余り良くないみたいだな。
きっと、そういうセンスが無いのかもしれん。
そっちの方は梓ちゃんに任せておこう。




