2ー5 黒龍退治?
俺の上がったステータスを確認しながら、黄さんに訊いてみた。
「黄さん、これってモンスターを討伐したから上がったということ?」
「おう、多分そうじゃろうて。
これまでの長い間でモンスターを直接倒した者の守護霊をしたことは無いでな。
正確にはわからぬ。
じゃが、儂の見ておった限り、あの地竜が生気を失った時、その身体から湧き上がる淡く光る粒子の一部がおぬしの身体に取り込まれたように見えたでな。
地竜の強さの一部がおぬしに取り込まれたものとみておるよ。」
「なるほど、ラノベにもそんな表現があるものがあったな。
モンスターに含まれる魔素か魔力を吸い込むことによって強くなるというパターンだけどね。
じゃぁ、ほかの人もモンスターを倒すことができればステータスが上がるのかな?」
「断言はできんが、可能性はあるな。
但し、古の昔から物の怪を退治する者は、概ね英雄か勇者であったな。
人の中でも秀でた能力を持つ者でなければ、そもそも物の怪を倒すことはできなんだよ。
まして、倒しても復活するような奴は、普通の者では絶対に手に負えないじゃろう。」
「で、俺の場合はどうなのかな?
あの地竜、復活もしなかったようだけれど・・・。」
「おぬしが、あ奴の心臓に金属の塊を同化したからじゃろう。
いくら復活したくとも、心臓があの状態では復活できぬわ。
放置しておけばあのまま朽ちるのじゃろうな。
朽ちてしまえば、流石に復活はせん。」
「今日の夜、もう一度大陸でモンスター狩りの訓練をしてくるよ。
その上で、黒龍に挑んでみる。
ちょうど明後日は土曜日だしね。
昼間に出かける理由にはなる。」
「ふむ、あの例の女子は良いのか?
ここのところ学校も休みだから会えてはおらんのじゃろう?」
「あぁ、そうだね。
何も無ければ、日曜日にデートにでも誘ってみるよ。
学校の方も西の方が片付けば、普通に再開するんじゃないかな。
今は、万が一にでも竜がこっちへ飛来でもして来たら、学校の職員では登校してきた生徒の面倒を見切れないからね。
学校側も二の足を踏んでいるんだろう。
但し、それも精々あとひと月ぐらいかな?
4月には、新入生を迎えにゃならんからね。」
2034年3月31日(金曜日)午前9時、俺は家から最寄りの神社にランニング、そこから上空へ連続で転移して一気に千m上空に達し、そこから魔法のじゅうたんと結界で移動開始、再度北の大国の〇林省方面に向かう。
昼飯は外で食べると家人には伝えているので、コンビニで握り飯とお茶を購入し、インベントリ擬きに入れている。
飛行時間は約一時間弱だね。
空間把握の範囲は約500mにまで広がっていた。
その高度からでも下界に操作が可能になっているとは思うんだが、あまり高い高度だとモンスターを見逃しかねないので敢えて300m上空に位置しているんだ。
それから4時間、俺は移動しながらモンスターを駆除しまくったぜ。
流石に球は12発ほどしか用意していなかったから、途中の大地で素材分離を行って、鉄やら銅の塊を造っていたんだ。
心臓の位置も鑑定で見分けられるようになったからな。
一発若しくは二発でモンスターは倒れることになる。
全部で50匹ぐらいは倒したかな。
予定していた午後二時になったので、俺は我が家の自分の部屋に戻ったぜ。
今回はブラックアウトも無しだ。
因みにレベルは10になっていたし、ほかの数値も爆上がりだった。
これなら黒龍だってやっつけられるかもしれない。
だが、慢心は怪我のもとだよな。
黒龍は、阿蘇山の外輪山付近に居を構えて、周辺の家畜なんぞを襲っているらしい。
当初の飛来時には、ヒトの被害も少なからずあったと聞いている。
航空自衛隊の戦闘機が四機も撃墜されているし、熊本沖では護衛艦一隻がブレスで轟沈させられたようだ。
まだ、九州全域での避難は済んでいないから、明日の夜にでもやっつけに行くか?
◇◇◇◇
4月1日(土曜日)午後11時頃、俺は出撃したよ。
例によって魔法の絨毯な。
阿蘇山までは400キロ前後だろう。
30分で到着、阿蘇山の外輪山で寝ている黒龍を発見した。
俺の視覚は、暗闇では見えないという弱点(抵抗)を少なくすることによって暗視スコープの様に暗い中でも明瞭な視界を保てるんだ。
但し、赤外線ではないから温度に反応する訳じゃない。
どっちかいうと白黒映画を見ている感じかな。
今時、白黒映画なんぞはネットの中を探し回るか、DVDでもなければ出て来ないだろうな。
黒龍は、寝ていたのかと思ったが違っていたようで、高速で接近する俺に気づいたんだろうな。
羽ばたこうとしているところで連続三発を喰らわした。
実は、この黒龍、三つも心臓を持っていやがった。
直径6mの鉄の塊をくらわしたら、その場で一瞬固まったが、次いでものすごい勢いでブレスを周囲に吐き始めやがった。
俺は、その前に現場から転移を行い、なおかつ高速で魔法のじゅうたんを加速して離れていたぜ。
今現在は、長崎の南方海上ぐらいなんだろう。
俺の左手には長崎半島、前方には特徴的な雲仙普賢岳が見えるから、右手は多分天草下島だろうと思う。
いずれにしろ危ないんで黒龍の近くに寄らずに様子を見るしかない。
20分後、またも急激なレベルアップで気持ちが悪くなったが、今回は何とか耐えた。
ステータスを見るのは後にして、今は帰って寝るだけだな。
今はもう日が変わって4月2日(日曜日)に回っているな。
今日の午後は梓ちゃんとデートの予定だぜ。
◇◇◇◇
総理官邸に、阿蘇山の黒龍が周囲にブレスを吐きまくっているという緊急情報が入り、次いで不審な飛行物体の情報も入って来た。
観測したのは周防灘と燧灘に派遣中の最新型護衛艦二隻である。
至近の海上約千mを東から西に高速で飛翔する小さな物体を発見したのである。
この謎の飛翔物体は、地上レーダーの観測では黒龍が居た外輪山上空を通過、一旦長崎の南方海上の上空に達して、25分から30分ほども空中で停止していたものの、30分後には再度西から東に戻って行ったようである。
飛翔物体が長崎南方海上で停滞している頃には、不審な飛行物体に関する警戒注意報が発令されて、この謎の物体の追跡が各所で始まっていた。
但し、非常に微細な反応で有って、とらえにくい物体ではあったために最新のレーダー装置が無ければ追跡は非常に困難であった。
対象は非常に薄く小さな物体の可能性があると分析されたのは、事後の事であったのだ。
それでも自衛隊のレーダーシステムは何とかF市上空までは追跡できた。
然しながら、そこで痕跡が途絶え、レーダー映像が消滅したのである。
音速に迫る飛行速度(判然としないが、およそ毎時千㎞超と推測される。)があって、空中に30分以上も停止できる機体など今のところ日本には無いはずである。
自衛隊配備の最新鋭VTOL機のF35Bでも難しいとの報告が有った。
F35Bで有ってもF市付近から往復千キロ余りを飛んで、30分近くも同じ空域で留まっていることは、空中給油機の支援がなければ難しいようだ。
しかも当日のレーダー画像消滅地域を秘密裏に調査したが、近隣住民でジェット機の騒音を聞いたものは一人としていなかったし、不審な飛行物体の目撃情報も無かったのである。
ある意味で、時ならぬUFO騒ぎなのだが、問題はこの長崎南方海上の上空で停止していた時間に黒龍が死んだらしいということだ。
因みにその上空を謎の物体が通過直後、突如として黒龍が周囲に向かってブレスを連続して吐いたので、この物体の通過となにがしかの因果関係があると見られるのである。
少なくとも黒龍がそのような行動をとったのは、防衛の為に攻撃をなして護衛艦を沈めた時と戦闘機四機を撃墜した時だけで有り、その際は、ブレスはそれぞれの目標に対して一度きりなのである。
つまりは百パーセントの命中率のブレスを周囲にまき散らしたというのは敵の正体がわからなかったという事ではあるまいかと防衛省の幹部は推測した。
然しながら、何の確証もない推測で有り、その件を総理官邸に報告することは控えられたのである。
そうしてその後、黒龍がブレスを吐かなくなった時点で、遠距離から監視していているチームからどうも動いていないようだとの報告があった。
これまで、毎日のように阿蘇周辺の牧場で牛等の家畜を襲っていた黒龍が動きを止めたこと自体が異常であった。
その後、三日間、黒龍に全く動きが無いことから調査団を派遣し、黒龍近傍の周囲に監視カメラを設置したのである。
超常生物であるからよくわからない点は多いが、更に十日立っても全く動いていないことから冬眠若しくは死んだものと判断されたが、なおも用心のために一カ月を置いた。
最終的に黒龍の死亡が確認されたのはブレス吐きまくり事件が有ってから45日後のことであった。
いずれにせよ謎の飛翔物体が何らかの関係性があるとみて、防衛省及び政府関係筋が一斉にF市周辺に監視の目を置いたのである。
そうしてこの謎の飛翔物体の存在が、政府筋の関心を寄せていることが某週刊誌にすっぱ抜かれたのは5月初めのことだった。
この件は、テレビ番組にも報道されて、官房長官の記者会見でも質問されることになってしまったのである。
質問を受けた官房長官は、終始ノーコメントで強引に押し通したことから、政府は何か秘密兵器を隠し持っているのではないかとの陰謀論まで出て来た。
特に、この関連で関心を寄せて来たのが東南アジア各国、それに中東政府とEU政府であったし、ロシアや米国も関心を寄せ始めていたために、政府は対応に苦慮することになった。
確かに黒龍と呼ばれる在来兵器では手に負えない化け物が日本に飛来し、対馬に大規模な損害を与え、さらに九州北部から中部にかけて甚大な被害をもたらしたのは確かであるし、その黒龍が阿蘇の外輪山で謎の死を遂げたのも事実である。
然しながら死亡原因については判然としていない。
黒龍が死んで二か月も経つと腐敗が進み、死体周辺に新種のバクテリアなどが発生したために調査チームが死体にたどり着けないという事態に陥っていたのである。
しかも場所が、山頂付近とあって自衛隊の防疫車両も近づけない場所であるため、調査団の健康を守るためにまずは周辺バクテリアの殲滅消毒から始めなければならなかったために、調査自体が遅々として進まないのである。




