2ー1 半島某国からの災い
2034年3月某日、半島にある隣国D国において、内外に対して秘密裏に設置されている時空研究所で異変が生じた。
同研究所は、これまた周辺国に対してその存在を秘しているのだが、とある原子力発電所が産む100万キロワット超の膨大な電力を使って、世界に先駆けて、空間転移を実現する装置の研究・開発を模索していた。
しかしながら、偶然にも試験的な実験装置が作動中に、研究者たちが全く予期していなかった異空間へとつながる大きな空間亀裂を開けてしまったのである。
その空間亀裂が生じたことにより、異界からドラゴンを含む空想の産物としか思えないようなモンスターが次から次へと溢れ出したのである。
それを知ったD国の軍隊が、緊急出動して対応したものの、ミサイルを含む現代兵器は溢れ出たモンスターに対して一時的には大きな損傷を与えるも、当該モンスターが驚くほど短期間に損傷個所の自己再生をしてしまうため、ほとんど効果が無かったのである。
かくしてD国は、あれよあれよという間にモンスターの群れにより侵攻され始め、概ね三日間で国家自体が崩壊した。
五千万を超えるD国国民の半数以上が死に絶え、首都を含め主だった都市のほとんどが崩壊に瀕した時、某国政府の屋台骨を支えた多くの政治家ともども国会議事堂が消滅していたのである。
首都の中枢を失ったことから、有効な対策を立てらないまま、空間亀裂から溢れ出るモンスターの大群が徐々にその生息域を半島の北へ南へと広げて行ったので、半島住民のほとんどが組織立っての避難をする暇がないうちに襲われ、更に多数の人命が失われたのである。
D国南部海岸で船を動かすことのできた者は、難民となって日本へ押し寄せ、日本政府も時ならぬ難民対応で大いに焦燥していた。
少なくとも百万にも達するD国国民の難民は、日本だけでは手に余るものだったのである。
一方で、D国の原子力発電所からの給電は、人がいなくなっても自動運転が継続されたために、時空間亀裂は修復されず、亀裂が開いたままになっていた。
そのために、その後も大量のモンスターが半島に沸いていたのである。
半島D国の北の独裁国家T国は、モンスターの出現を知るや自らの精鋭軍(?)を出して北上して来るモンスターの群れに対抗するも、同じく3日ほどしか保たず、その国家主席ともども壊滅した。
さらにT国の北方の大国であるC国は、異変の起きた第二日目には、偵察衛星によりある程度D国の惨状を把握しており、更にT国からの軍事支援要請を受けて軍を派遣していた。
然しながら、地上兵力はもとより、C国空軍の最新戦闘機や爆撃機でさえも、モンスターに対してほとんど効果が無かったことから、異変発生から六日目には、周辺国にも一切事前通知を為さないままに保有する核ミサイルを撃って、モンスターの一掃を図ったのだった。
然しながら、生憎と核兵器による爆発は、湧き出たモンスターのわずかに2%程度を殲滅したにとどまり、残り98%のモンスターは、放射能による突然変異で更に強化されて大国へとなだれ込んだのだった。
核ミサイル攻撃から20日後、C国で組織だって抵抗可能な軍事勢力は、その8割以上が壊滅していた。
後に欧州等のキリスト教社会では、この異変で湧いたモンスター群を『666の獣』として恐れ、終末思想が蔓延った。
因みに、日本政府は、詳細な情報を掴めないまま、D国を含む半島に何らかの異変が生じたことを察知したものの、押し寄せるD国難民の対応に追われていた。
難民が口々に喚きたてるモンスターの出現は承知しても、その原因及びその数については依然として把握できないままであったが、米国との情報交換により、D国の山中に於いて何らかの異変が生じ、そこからモンスターが湧いていることが初めて知らされたのだった。
但し、今のところモンスターによる直接の被害は、日本国内のいずれの地域でも生じていない。
海がモンスターの侵攻を阻んでくれていたのだった。
D国から海を泳いで渡り、或いは、空を飛んで襲来するモンスターが非常に稀な存在であったことから、取り敢えずは大規模な侵略は受けていないのであった。
一方で、C国が放った数発の核ミサイルについての情報も、一つは特徴的な大気振動から地上において核爆発があったことを察知していたし、後に米軍からの追加情報でC国から発射された四発の核ミサイルが半島中央部で爆発を起こしたことが知らされていた。
その上で、米軍からの情報として、D国及びT国の壊滅と、C国自体もその半分以上の領域がモンスターの襲撃で壊滅状態にあることを知った。
D国はともかく、日本はC国との貿易量がかなり大きかったことから、C国がこのまま滅亡すると、経済的な影響は極めて大きいと予測されている。
また、現実的な脅威として、C国が周辺国に一切の了解を取ることなく無謀にも半島で核兵器を使ったことにより、放射能が日本列島に大量に降ってくる恐れがあった。
但し、この核攻撃の12時間後、台風並みの低気圧が某半島を直撃、そのまま北上してくれたおかげで、幸いにして、C国北部地方に放射能をまき散らして放射能の拡散を抑えてくれた。
日本列島に核兵器による放射線の被害が全く無かったと言えば嘘になるが、放射線量計で危険なレベルには至っていなかったことが、その後の科学者及び政府機関の調査で判明している。
但し、核兵器の爆発は、熱、衝撃波、そして放射線を大量に放出するが、そのエネルギーは爆発地点を中心に多くの人々を殺傷し、家屋や建物、そしてインフラを破壊し、環境に深刻な影響を及ぼす。
また、爆発と同時に強大な電磁パルスを発生し、多くの電子機器に一時的な故障や永久的な損傷を与えることが良く知られているが、複数の核兵器が使用された結果、D国の爆心地を中心とする広範囲な領域に大規模な電磁波障害が発生した。
当初は状況把握が困難であったが、事後の調査により、半島で発生した核爆発に寄り、半島および半島周辺地域のおよそ1500キロ圏内に於いて、重大な電磁気障害が発生したのだった。
このため日本国内の艦船、航空機、電車、自動車などの交通機関は、軒並み重大な故障が発生し、飛行中の数十機以上の航空機が墜落し、また、交通事故が多発した。
更には、通信インフラが一時使用不能になり、その回復には十日程度かかったのである。
従って、日本国民の大部分は、しばらくの間、国内および半島で何が起きたのかを詳細には知らなかった。
そもそもテレビ放送が見られず、ラジオも沈黙していたのである。
インターネットもスマホも機能しない状況では、現代人は情報をほとんど仕入れることができないのだ。
おまけに交通機関も安全のためにストップしている状況では、不安が募るだけなのである。
交通インフラも含めて色々な機能が徐々に回復し、情報が伝わりだしたのは、異変の発生から数えて19日目、核爆発から二週間後のことだった。
◇◇◇◇
英一郎です。
EPM爆弾ってのは怖いよなぁ。
現代人の生活を根こそぎ奪ってしまう可能性があるんだ。
ついでに発電所まで機能しなくなれば、少なくとも数世紀は文明が後退するかもしれないな。
俺も、流石にコンクリートジャングルの中でサバイバルはしたくないぜ。
半島での謎の大事件が有って、概ね二十日後には何がお隣の半島で起きたのかがある程度わかりつつあったが、残念ながらD国の国家機密であったために、原因となった空間亀裂のことは正体不明のまま、突然D国の中央部山中に異形のモンスターが大量に出現したらしいという事ぐらいの情報しかなかった。
但し、今以って、出現した大量のモンスターがD国から周辺地域に溢れ出しているらしく、半島のD国とその隣国T国は既に壊滅、北の大国であるC国も、首都を含めその領域の七割以上を侵食されているようだとの情報がようやく国民にも知らされた。
また、C国が核兵器数発をモンスター発生源と思われるD国に打ち込み、核爆発が半島で起きたことと、そのために電磁パルス障害が広範囲に発生したがために、日本も大きな影響を受けたことが政府発表によって知らされたのである。
現実に、飛行中の航空機がF市の沖合に墜落したからな。
だが、当該航空機の墜落を知っても有効な捜索救助手段は無かったんだ。
電子機器を満載した船が、全て漂流状態にある中で、動けるのは海洋少年団が保有するカッターや所謂ヨットだけだったのだ。
但し、事故当日はほとんど無風だったので、本当に動けるのは櫓櫂船だけだったのは笑うに笑えない事実なのだ。
日本国政府は、一切の事前通知無しに核兵器を使用したC国政府に対して、その行動を非難するとともに、その責任の所在を明らかにするとともに賠償に応ずるよう無線通信にて要請したが、実はこの時点でC国政府はほぼ瓦解しており、外交的連絡が取れない状況にあったのだった。
当然のことながら、C国にあった日本国大使館や領事館もほぼ機能を喪失していた。
そうして、核兵器の使用から約三週間後、ついに恐れていた空飛ぶモンスターが対馬に出現したのだった。
既にテレビ放送も復旧していたから、俺もその画像を見たけれど、その姿形からみるに、ラノベに出て来るような亜竜のワイバーンだろうな。
或いは亜竜ではない真正の翼竜も居るのかもしれないが、今のところ東には来ていないようだ。
半島の北にあった大国C国の西方域及び南方域では、地竜と翼竜の二種類が目撃されているらしいが、現状ではそれらに関する詳細な情報は入って来ていないと聞いている。
欧州では、EU軍が動き出しているらしいのだが、少なくとも核兵器にも生き残るモンスターなので、軍隊が出ても、余り戦果は期待できないようだ。
一方で、対馬にワイバーンらしき亜竜が出現したことは、国内でも大いに恐怖を煽っている。
何せ、対馬と九州は、ほんの目と鼻の先である。
半島から対馬に空を飛んで渡れたのなら、当然に対馬を中継地点として九州にも辿り着けるはずなのだ。
自衛隊がワイバーン殲滅に動き、自衛隊側にかなりの被害を出しながらも、市ワイバーン出現から二日後にはなんとか討伐ができたようだ。
但し、その後に更なる災厄がやって来た。
禍々しい姿で翼の生えた黒龍である。
正式名は知らんが、報道では「黒龍」と呼ばれている。
推定体長は約50m、翼を広げた状態で翼長は約100m、推定体重は約500トン程度にもなるらしい。
そんな重たい奴が空を飛ぶこと自体が驚きなんだが、実際に高速で空を飛んで対馬に渡り、ブレスを吐いて対馬周辺で監視警戒に当たっていた護衛艦数隻を沈めたんだ。
自衛隊も対空ミサイルを発射させるなどできるだけの抗戦は行ったんだが、ワイバーンに効いた攻撃も奴には全く通じなかったようだ。
とどのつまり、自衛隊は対馬を放棄して、撤退を始めた。
そんな臨時ニュースを見て呆然としている俺だった。
お知らせです。
以下の新作の投稿を始めました。
「転生したら幽閉王子でした~これどうすんの」
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宜しければ、どうぞご一読ください。
By サクラ近衛将監




