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1-22 夏休みの自由研究の行方

 ところで、夏休みの宿題なんだが、当然休み明けには学校に提出することになる。

 9月1日(木)が夏休み明けの登校日なので、その日に例の古墳調査の自由研究結果も提出するわけなんだが、レポートは8月18日には何とか書き上げていたので、8月19日(金)には、F市役所の文化財課にも参考までにレポートの写しを提出しておいたんだ。


 後で思うと、高校の自由研究のために古墳の調査申請を行ったからと、安易な考えで、市役所へも参考までにレポートの写しを提供したのが良くなかったな。

 頼んでもいないのに、文化財課でレポートの内容を点検・精査して、高評価をした上に、F市内の考古学研究家のネットワークを通じて、大学や研究機関にまでコピーが出回ってしまったんだ。


 どういうわけかは知らないけれど、一連の動きが何故か異様に速いような気がするんだが、俺の気の所為だろうか?

 だって、たかが高校生一人の自由研究のレポートに過ぎないんだぞ。


 普通ならば、市役所の書庫の中に納まって忘れられてしまうのがオチだろう。

 何で、専門家の手で回し読みされるんだ?


 まぁ、元から俺は知らなかったんだが、D古墳自体は考古学の専門家の間では全く重要視されていなかったもののようだ。

 F市内にいくつかある古墳群の中でも群を抜いて大きなものというわけでもない上に、周囲に堀割(ほりわり)が見当たらないことから、重要人物の墓ではないと臆断されていたようだ。


 だが俺のレポートでは、比較的わかりやすい3D画像がPCの「Print Screen」によって色付きで可視化されていたために、掘割の遺構のみならず、石室の在り処までが明確にわかるモノであったと同時に、副葬品の存在がかなり問題視されたようだ。

 副葬品の存在は、高貴な人物の古墳である証拠であるから、副葬品の発掘を先に行い、次いで石室の発掘をできるだけ早く実施したいという機運が生まれたようだ。


 そんなわけで、俺の知らぬ間に周囲が盛り上がっちゃって、9月1日には、ウチの学校へ学者さんとかマスコミとかが大勢押しかけて来る騒ぎになっちゃった。

 どうも未発掘のモノが地表から可視化できるってことは、ある意味で大変な成果であるらしい。


 古墳の外形調査はともかく、発掘を目的とした調査というものは、結構色々と事前準備の手続きが要るようだ。

 俺がやったように表面をなぞる程度の調査だけなら割合簡単にできるんだが、実際の発掘ともなると故人の墓を暴くことになるし、場合により、天皇家につながる貴人の可能性も否定できないわけなので、文化庁を含めた各種機関とも事前協議しなければならないことが沢山あるようなんだ。


 そのために宮内庁が所管している古墳などは、立入りすらも許されない場所が多数あるようだ。

 D古墳については、宮内庁が関わっているわけではなさそうだが、それでも発掘調査を実行しようとすれば結構な手間暇がかかるので、中々に進まないようだな。


 俺がしでかしたことは、ものすごく簡易な装置で地中内部の3D画像をかなりの精度で作り出してしまったわけで、そのことで専門家連中が騒ぎだしたわけだ。

 実のところ、これまでにも地中レーダーというのはそれなりにあったんだが、装置そのものが非常に高価だし、その割に精度が余り高くはなかったらしい。


 地中に何か空洞があるというようなことはわかっても、その外形を表示するにはそのデータ分析の為にかなりの日数と経費を費やすものだったらしい。

 ところが、俺は手作りの機器で観測装置を造り、なおかつ普通のノートパソコンで画像を解析できる代物を使って、わずかに半日程度の調査で大まかにわかる立体画像を作り出してしまったわけだ。


 それを造ったのが一介の高校生だったなどと、普通はそんなことはあり得ない話なわけで、某大学の考古学の権威という教授を筆頭に、わざわざ数名の学者連中が詳しい話を聞きたいと俺の学校に押し掛けてきたわけだ。

 実は、市役所に提出したレポートには、俺の家の住所は記載していないんだ。


 名前のほかには、所属先としての俺の高校と学年、それにクラスを書いておいただけなんだ。

 だから、俺の家ではなく、学者さんたちは学校に押し掛けて来たわけなんだが、自宅の住所を書いておかなくて良かったよ。


 さもなければ、俺の家が大変なことになっていた恐れもあったわけだ。

 学校側は、取り敢えず、大学の先生方との話し合いの場を設けてくれたし、押しかけて来たマスコミ対応のために記者会見も止むを得ず開催することにしたようだ。


 前面に押し出される主役はもちろん俺なんで、正直言って物凄く迷惑な話ではあるんだが、俺のレポートが発端である以上、避けては通れないんだろうな。

 やむを得ないから始業式の後に、教授連中との懇談会、そうしてマスコミの連中との会見の二つに立ち会い、できる範囲での説明を行ったよ。


 懇談会と記者会見には、学校側から校長先生ともう一人担任の先生がついてくれた。

 ついでに記者会見には、大野さんという某大学の教授が一緒についてくれて、考古学における地中観測装置の有用性を力説してくれたよ。


 この後も余波が続いたな。

 高校では盛んに同級生から冷やかされるし、校長先生だのPTA会長に同窓会会長まで出て来て俺をあげつらうことになる。


 別に悪いことで叱られているわけじゃないから良いんだけどさぁ。

 これだけ注目されると後が何となく怖いよね。


 それと、国内の各電子機器メーカーから、地中観測装置の引き合いが来たんだ。

 この件では事前に大野教授の助言もあって、慣れないことながら、俺の簡易地中測定装置の特許申請をすることになった。


 俺のレポートの場合、学術論文じみたものではないので、特許の中でも少々毛色の変わった申請にはなるんだが、それでも図面やら何やら色々と提出資料を造らねばならなくて、結構な手間暇がかかったな。

 こういう時に便利なのが特許代理士なんだろうね。


 特許代理士は、特許申請手続きを代行してくれる人だ。

 とはいいながら、書類の大半はヤッパリ俺が造らないとできないんだけれどね。


 おまけに結構な金(トータルでは最大数十万円?)がかかるんだ。

 モノになるかどうかは別として、こっちの方は、親父が出してくれることになった。


 但し、俺の場合、学校があるからどうしても放課後や土日の作業になる。

 この作業だけで二週間ほどもかかってしまったな。


 それでも何とか特許の申請手続きは終了し、関係する役所の査定を待つだけになった。

 この種の特許は、取得までに時間がかかるらしいんだ。


 特に似たようなアイデアの申請が有ったりして、それとの区別をしなければ特許はもらえない。

 まず半年ぐらいは待たなければその成否が分からないそうだ。


 いずれにしろ、そっちの方は俺の手を離れて、代理士さん任せだな。

 降って湧いたようなこの騒ぎで色々と余波はあったものの、高校生活は当然のように続く。


 今回感じたのは、学籍にある間は、ちゃんと生徒は守ってもらえるということだ。

 ありがたいことに、先生とか大人たちが俺のために精いっぱい頑張ってくれているぜ。


 そうでなければ、きっと俺はマスコミの餌食になっていたんだろうなという気がして、改めてぞっとしたぜ。

 俺自身はアイドル的なモノを目指していないし、有名税を払うのも御免だからな。


 できるだけモブとして平穏無事に生きたいと思っているんだ。


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