猫耳少年は魔王を攻略できるか 下
「に、兄・・・ちゃん」
コールも小さな魔物も、突如現れたジークに目を丸くしていた。ふとテイルを見たジークは、少し不機嫌そうながらもフッと微笑む。「何だお前!」と踏みつけた男が声を上げたため、また光の無い目になった。
「言いたいことは山ほどあるが、まずはお前らの処理だ」
ジークが先程より強く頭を踏みつけ、再び気絶した男。彼は剣先を、テイルの近くにいる魔法使いに向けた。
「随分荒らしてくれたな、ここに着くまでにどれだけ爆破魔法を使った」
「うるせぇ!」と不意打ちで、残っていた男たちが襲いかかる。が、ジークはいとも容易く避けた上、カウンターを綺麗に決めた。剣の持ち手を腹に深く突き刺し、次々に倒していく。
だが彼らを対処した後、再びの地響き。マズい、これは・・・とテイルが声を出そうとしたが、直前に蔦で口を塞がれてしまう。
やはりそれは、ジークの体を一気に拘束した。剣で切られぬよう、蔦は彼の手から剣を奪い去る。
「へっ、流石にコレだと対処できないだろう?」
完全に勝った気でいる魔法使いだが・・・ジークは慌てもせず、フッと笑った。
「剣士には、魔力耐性がねぇからな!こっちが解除しない限り、お前はその鉄のような蔦に一生・・・」
と、言葉を言いかけた時。ジークを縛っていた蔦が少しずつ、生気を失っていることに気付いた。鉄のような頑丈さが失われていき、植物本来の柔らかさへと戻っていく。
それはテイルを縛っていた蔦も同じようで、全く身動きできない彼の体は、徐々に自由を取り戻していた。30秒もしない内に、蔦は力を無くし、バサバサと地面に落ちていく。ジークはいとも簡単に、剣を取り戻した。
「はぁ!?何故だ、何故魔法が・・・!?」
「確かに俺は剣士、冒険者としての魔力耐性はほぼ無い。相手の魔法において、源となる魔力を吸収することが出来るだけだ」
「はぁ!?魔力吸収・・・ソイツはおかしい!それは、上級魔物だけが持つスキルのはずだ!!」
そう叫んだ瞬間、コールはハッとした。
「魔力吸収は、魔王様の・・・1番の能力」
刹那、ジークの体から湧き上がった力。魔力が具現化した赤黒い光が、徐々にジークの右手に宿っていく。
「ば、馬鹿な・・・剣士が魔力を扱うのか!?しかもその色だと、かなり高濃度じゃねぇか!!」
やられ側の犯罪集団が慌てるのは当然なのだが、何故かその後ろで、コールや小さな魔物も大慌てだ。
ーーー◎◎!!△▲!!
「あ、あぁ、間違いない。あの色の魔力は、魔王様と変わりない。それにお前の言うとおり、匂いも同じ。波動も遜色ない。ま、まさか・・・!?」
そんな様子などお構いなしに、ジークは魔力を放ち、邪魔になった蔦を燃やし尽くす。その衝撃で、魔法使いを壁に追いやった。首真横に剣を突き刺し、完全に動けなくさせて、再び赤黒い光を右手に宿す。
「さっきから好き勝手言ってくれたな。俺も親父譲りの魔力を使うのは久しいが、テメェらを叩きのめすくらいなら楽勝だな」
「う、うるせぇ・・・オメェの悪口なんぞ、言ってな」
「違う、テイルのことだ」
えっ?と一瞬呆気にとられた。もしかしてジークは、先程の話を聞いていたのだろうか。
「売り物でしかないクセに、剣士を目指していたのが嗤えた、だと?
ふざけんなよ。コイツはな、俺の大切な奴だ。勿論最初は俺自身が半分魔物だったから、同情の意もあって保護はした。
だがコイツと過ごす内に、いつしか守りたいと思ったんだ。可愛いのは当然として、不器用な俺にも気にかけてくれて。気付けば自分の手で幸せにしたいと思うほど。
それを侮辱するってことは、俺の大事なもんを貶してるのと同じだ」
ガッ!!と今度は拳で岩壁に亀裂を入れたジーク。その衝撃に、轟音に、魔法使いはフラフラと座り込む。もはや抵抗する気力も失ったようだ。
「俺の大切なモノを傷つけて・・・これ以上の生き地獄、味わいたいか?」
これが・・・ジークの言葉?本当に、そう思ってくれている?
コレは驚きだろうか、喜びだろうか。テイルの瞳から1粒、涙がこぼれ落ちたのだった。
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その後、犯罪集団は無事に確保。彼らはそのまま警察に連れられ、生気なく犯罪集団についても白状した。党首など偉い立場の悪人を捕らえることにかなり近付いたと、ギルドは喜んでいたという。
今回の事件で色々あったテイルとジークは、しばらく休むよう言われた。そのため今日は、タイミング良く(狙って?)休みだった受付嬢と共に、街のカフェに来ていた。
「・・・にしても、驚きましたよ!!まさかジークさん、魔物の血が入っていたとは。剣士にしてはやたらと魔力高いなー、とは思ってましたが」
「まぁ話だけな、実際の親父の顔は覚えてない。3つになる頃には母に連れられて、この街に来たって聞くし。そもそも、魔物と人間のハーフは珍しいから隠せって言われてたからな。
でも元・魔王城に足を踏み入れたらさ、何故か懐かしかったんだよな。見たことあるような魔物が大勢だった。コールは親父の知り合いで、赤子の俺は知ってたみたいだな。今や“坊ちゃん”呼びでキツい」
笑いながらお茶を飲み干すジークに、テイルはおそるおそる尋ねた。
「ね、ねぇ・・・あの時の、話」
「ん?」
「僕が犯罪集団に狙われていたの、知ってたの?」
コクン、とジークは頷く。奴らの話通り、テイルは犯罪集団にいたところを助けられたのだ。冒険者になるのを反対していたのも、彼らとの接触を少しでも減らすため。厳しく言ってたのも、剣士になるならせめて強くなって欲しかったため。
気付けなくて申し訳なく思う一方、嫌われているのではないと知ったテイルはホッとした。
「あ、じゃあ、僕のこと可愛いとか、守りたい、とか・・・」
「・・・・・・出任せだ、安心しろ」
ジークの言葉に、受付嬢はブッとお茶を吹き出す。どうし(まし)た!?と慌て出す2人に、彼女はビシッと指を突き出した。
「なーにが“安心しろ”ですか!あのねぇジークさん、そうやって格好付けるのやめません!?」
別にカッコつけてなんか、と振る舞うジークに彼女は続ける。
「嘘です!今のジークさんの態度、私から見ても明らかに照れ隠しですよ!
その証拠に・・・顔、赤いです!」
え?とテイルがジークの顔を見れば・・・確かに、赤い。いつもの落ち着きある彼ではないようだ。
「そもそも貴方のテイル君の滴愛は、ギルド中が知ってます。逆に何故それを本人に言わない、いい加減素直になれと、ギルド中で話題になってるんですよ!」
「初耳なんだが!?」
「ジークさんがテイル君に過保護なのも有名です。彼の憧れであるのも大切ですが、本当の自分でも触れ合ってあげてくださいな!
テイル君もねぇ、ちゃんと自分の言葉も伝えないと!!「こうだったらな」じゃなくて「こうしよう」みたいに、ちゃんと自分からアピールしてかないと!!
そんなんだからずっとずっと、すれ違ってばかりなんですよ!!私が数年間、どれだけもどかしい思いをしたと思ってるんですかぁあああ!!」
はぁーはぁーと、彼女は今までの抑えを爆発させるように叫びきった。やりきった彼女はふっ・・・と息をつき、魂が抜けたように席に着いた。
怒涛の勢いに押されて、しばらくは呆気にとられていた2人だが、ふと目が合った。そして、思わず笑ってしまう。
「ま、まぁ・・・お互い、やりやすいようにやれば良い、よな?」
照れ顔になったジークに、同じく照れ顔なテイルはコクコク頷くばかり。
「じゃ、じゃあ、最初は・・・今度の鍛錬、付き合って欲しいな」
「あ、あぁ。勿論」
端から見れば異様な光景だが、彼らにとっては大きな前進だった。お互いに色々なモノを明かしたら、理解も思いも深まった・・・そんな気がする。
貴方に近付きたい、お前の傍にいたい。利害一致でも良いから、ちゃんと思いも気持ちも繋がりたい。そうして一緒に冒険して・・・これからも、隣にいて欲しい。
そんなことを、互いに思いながら。
fin.
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
次回は和風シンデレラっぽい話です。久しぶりに3部作になります。