猫耳少年は魔王を攻略できるか 中-1
「・・・はっ!」
当日早朝、テイルはガバッと飛び起きた。時計を見れば、約束の時間までもう30分しかない!簡単に身支度を済ませ、誰もいない部屋を飛び出したテイル。モノや絵本が床に散らばっているが・・・帰った後に片付けよう。ジークはまだ帰らないのだから。
渡されたフードを被り、全速力でクエスト出発口に走って向かう。「おっ、来た来た!」と笑顔で挨拶してくれたのは、あの時の魔法使い。周囲には、彼の仲間である他の冒険者もいた。
「ほぉ、お前が今回の同伴。見習い剣士の猫人か、なるほど」
「良いじゃん良いじゃん、小さくて可愛いね」
小さくて可愛い、と言われてムッとした。確かに背は低いが、自分はれっきとした(見習い)剣士だ。遊びで付いてきてるわけじゃない!幸いその男も仲間に軽く小突かれたので、周囲も悪いと思ってくれているようだ。
「じゃ、早い内に出発するか」
魔法使いの言葉で、一行は魔王城へ向けて出発する。テイルは興奮を胸に、しっかり実績を積もうと、彼らの後をついていくのだった。
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魔王城は完全に廃墟だった。城はとても巨大で、街のどの建物も、高さや広さは敵わないだろう。既に様々な冒険者が足を運んでいるとはいえ、時が止まっている感覚がある。ぼうぼうと生えた植物、苔むした岩壁に朽ちた柱・・・どれもが、城のおどろおどろしさを醸す。
「まずは向こうへ行くか・・・っと」
道中、冒険者を追い払うように魔物が現れた。思ったよりも小さいので「狩れそうだな、君がやってみな」と、前に出るように勧められる。初めてのダンジョン内での戦闘・・・!テイルは今までの鍛錬をブツブツと繰り返す。
覚悟を決めて、トコトコ前に進んだ。そして剣を構えるが・・・何故か魔物は襲ってこない。それどころかテイルの顔を、ジロジロと覗いてくるではないか。
猫人は確かに、魔物と似た系列ではある。もしかしたら、仲間だと思っているのだろうか?
ーーー××@@、××@@!
魔物が何か声を発したと思えば、すぐに奥へと行ってしまう。テイルをはじめ、一行全員、何が起きたか分からない。
「何だ、ビビったのか?」
「まだ幼い魔物だったかもな」
「なんだ、それなら都合が良い。こっちの手間も省ける」
いや、冒険だから多少は戦わないと、経験にはならないんじゃ。テイルは心の中でツッコミを入れつつ、再度進み出す。
が、どういうわけかその後も似たような展開だった。魔物が出てきて、テイルが一歩前に進むと、何故か魔物達は逃げてしまう。小さい魔物だけでなく、中型のデーモンも、大型のウルフも。これなら攻略は楽だと彼らは言っているが、なんとなく違和感があった。
と、最初に会った魔物と再会した。再び剣を構えるテイルだが、魔物は何か訴えるように鳴き出す。ペチペチと、石の床を叩いているようだが。
「ここ?一体何が・・・」
何の変哲もない石の床、とりあえず1つ押してみると・・・ガコン、と何かスイッチの入る音がした。
刹那、テイルのいた部分だけが底抜けたのだ!
「えっ、あっ、うわぁあああああ!!?」
同時に小さな魔物も飛び込み、底抜けはあっという間に塞がってしまう。何だ何だ!?と一行は慌てて、塞がった場所を見るしかなかった。
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「お、お帰りなさいジークさん。まさか1週間の予定を、1日で切り上げるなんて」
「テイルを数日も放っておけるか、それにそろそろ試験日だからな。鍛錬にも付き合ってやりたい」
「貴方、本当にテイル君のこと心配してますね。素っ気ない態度ばかりですけど」
1日夜通しで討伐を終え、昼にはギルドに戻ってきたジーク。砂や植物の葉などで汚れた全身が気になって、受付嬢は話に集中できない。
「だってアイツ、俺みたいな剣士目指してるんだろう?だったらちゃんと剣士として、厳しく当たらないとじゃないか。それに変にベタベタしているより、格好いい姿でいた方が憧れてくれるだろ」
いやいや、何が格好いい姿ですか。私、知ってますよ?本人に隠れて「テイルが可愛くて辛い」と同僚に惚気るし、彼が風邪を引いたら全快するまでクエスト無断で放り投げるし、誕生日やら出会った日やらも全部メモしてどうしようか考えますよね!?
「まぁ今日はアイツの好きなフライ鶏、大量に獲ってきたし。急に1晩留守にさせて寂しい思いさせたから、上手いもん食わせてやらないとな」
この心配を通り越して、テイルを溺愛しているこの態度!何故、本人の前で見せない!!テイルは貴方に冷たくされていると、誤解しているのにっ!そして貴方はテイルに対して、直接好きとも言えないのかっ!!
と、ここまで全て受付嬢の心の叫び。いわゆる両片想い状態に、彼女はモヤモヤしていた。何か上手くいくよう仕掛ければ良いのだが、生憎そこまで器用ではない。今日も今日とて頭を抱えている。
「・・・で、テイルは?」
「今朝から出てます、おそらく鍛錬ですね」
あぁ、こんなことなら1週間は戻れないなんて言わなければ・・・。何が何でもすぐ帰るといって、テイルとの予定を合わせられれば・・・。
気分が落ち込むジークは、いつもより騒がしいギルドがやたらと気に障る。
「おい、何かあったのか?やけに騒々しいが」
「それがですね。昨日、非公認クエストが周辺ギルドに出回ったという連絡を受けたんです。それでギルド管理者一同で、全クエストの確認をしておりまして」
元来、クエストはギルドなど決められた組織でやり取りされる。だが中には犯罪集団による、表向きは普通でも実際は犯罪行為に当たるクエストが、故意に混入されるケースがある。窃盗や殺人を強要される、身売りされる、最悪の場合は殺される・・・。このギルドも必死で未然の防止に努め、諸悪の根源である犯罪集団を追っているが、未だに被害が出ているのが現状だ。
「まだ確定はしていないのですが、【見習い冒険者でも歓迎】みたいな謳い文句をしているモノが、最近見られてるんですよね。正当なクエストではないので、決して受けないようギルド内で注意喚起を今日から始めたんです」
「見習い冒険者・・・」
その言葉を聞けば、ふと脳裏に浮かんだテイルの姿。いや、まさか・・・と思いつつ、最悪なパターンばかりが思い浮かんでしまう。
「・・・その文言が入ったクエスト、全部見せてもらえるか?」
え?と一瞬戸惑ったが、真剣な彼の目に受付嬢は慌てた。既に受けないよう周知されているので、公表しても問題はないのだ。
「龍の洞窟、夜明けの谷間・・・どこもギルドからそれなりに離れていて、財宝の噂があるダンジョンばかりですね」
「そういった場所に見習い冒険者を連れて行くのは、危険すぎるはず」
と、言いかけたジークが見つけたクエスト。
【魔王城への冒険同伴者、ランク無しに限って募集中!】
【見習い冒険者の君、冒険へ出られるチャンスだ!!】
「魔王城!?まさかこんな場所にまで。まだここは攻略途中だというのに、見習い冒険者なんか募集して・・・って、ジークさん!?」
受付嬢が目をやったとき、ジークは既に自室へと駆け出していた。
バン!!と扉を開ければ、テイルが数日1人で過ごしていたままの様子が残っている。急いで出掛けたのか、グチャグチャのベッドシーツに散らかった床が目に入る。綺麗好きのテイルがこんなことになるなんて、あり得ない。
ふと、開かれたままの絵本が目に付いた。昔、何度も呼んでやったモノ。勇敢な猫が主人のために冒険して、最後は魔王を倒して幸せになる話。
「まさか、アイツ・・・」
こうなったら、あのクエストに行ってしまった可能性が高い。どうして、どうして・・・。
「どうしてこうも・・・色々、重なるんだろうな」
ジータはすぐさま着替え、武器を持ち、再びダンジョンへと足を向けるのだった。
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「中-2」は明日夜に投稿する予定です。