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猫耳少年は魔王を攻略できるか 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


猫耳少年は「人間姿の少年に猫耳が生えている」という設定です。あまり獣な感じではありません。

昔読んでくれた絵本に、その猫はいた。


周囲に自分と同じ種族がおらず、寂しい思いをしていた猫耳少年。そんな彼を心配し、主人がくれた絵本。


勇敢で知恵があって、主人を幸せにしようと懸命で。最後は魔王を倒して、主人を素敵なお姫様と結ばせた。


その猫が輝いて見えた、格好良かった、憧れた。


この絵本みたく、主人を幸せにする猫になる。それが、猫耳少年の夢だった。



クエストをこなす冒険者が集まる、小さなギルド「ウィルゲート」。そこで剣士見習いの猫耳少年は、今日も受付嬢を困らせていた。


「もぅ、やる気があるのは素敵だけどね。見習いだとクエストには参加できないのよ、ちゃんとランク付きの冒険者にならないと」


「そ、そんなことありません!僕はもう10回以上、ランク参戦試験を受けてるんです。前回なんて、あと10点で合格だったんですよ!」


「そうなの、成長したね!・・・でも、ダメなモノはダーメ」


からかうような女性の言葉に、少年は頬を膨らませるばかり。周囲はその様子を微笑ましく、或いはクスクス笑いながら見つめていた。


猫耳少年、名前はテイル。猫と人間の特徴を持つ「猫人」の1人だ。元々は捨て猫だった彼だが、このギルドに所属しているとある剣士に拾われ、ギルドの下働きとして生活するようになった。次第に拾ってくれた剣士に憧れを持ち「いつか一緒にクエストに行くんだ!」という目標を持った。現在はギルドで下働きをする傍ら、剣士を目指している。


といっても、先程の女性が言ったとおり、見習いではクエストには参加できない。月に2~3回行われるランク参戦試験を突破して、ランク付きの冒険者になる必要があるのだ。現在、テイルは数ヶ月間欠かさず参加しているが、いつもあと一歩のところで落ちている。そのため、荷物持ちでも良いからクエストに出して!と言い寄っているのだ。


「テイル、またお前は・・・。人を困らせるなって言ってるだろ」


そんなテイルに声をかけたのは、彼を助けた剣士のジーク・ラズ。既に中位ランクにまで達しており、それなりの熟練だ。同じ髪色のため、よく兄弟とも間違えられる。


最初はテイルが冒険者になることも反対していた。だが「そんなに子供じゃない」「自分で出来ることを増やしたい」など猛烈に言い寄られ、最近は渋々受け入れている。


「ジークさん、お疲れ様です。もうクエストこなしたのですか」


「近場の探し物だったから。時間もあるし、今日はもう一仕事やろうかと」


「あ、じゃあ僕も行く!」と言い出したテイルに、ジークはデコピンを放つ。結構大きい音がしたが、大丈夫だろうか?受付嬢は冷や汗をかいた。


「ダメだって。認められた奴以外がクエストをすると、法律違反で捕まるって教えただろ」


「クエストの受注はダメでも、参加は良いでしょ?兄ちゃんの連れってことにすれば、大丈夫だもん!」


「そもそも、クエスト先は魔物がいるダンジョンが多いんだよ。どんなに近くの依頼でも、危険な目に遭ったり、命を落としたりする冒険者はいる。自分の身を自分で守れない奴が行ったら、そうなるのが目に見えているだろうが」


テイルは何も言い返せなかった。自分の身を自分で守れない・・・それは彼自身、よく分かっていたのだから。暗い空気が、一瞬彼らを包む。


やがてジークは受付嬢にクエストをもらい、「夕飯までには帰る」と言い残し、そそくさと行ってしまった。心配になった彼女がチラリとテイルを見ると、不満そうに頬を膨らませている。


「うぅ、ジーク兄ちゃん・・・そうやって子供扱いして」


確かにキツい言い方だったかもしれない、でもジークが言ったことは本当だ。認められた冒険者は、そのリスクを承知した上でランクを与えられるのだから。彼女は互いを擁護しつつ、声をかける。


「うーん、ちょっと強い言い方だったね。でも本当は、君のことを心配しているのよ」


「分かってるもん、だからだよ!このまま甘えてお世話になってばかりじゃ、兄ちゃんに置いてかれちゃう。僕だって剣士になって、一人前になりたいの!


そうじゃなきゃ、兄ちゃんの隣にいられなくなっちゃうから・・・」


女性がその時見たのは、すっかりふてくされると同時に、悲しそうなテイルの顔。赤らんだ涙目が、少年の本気さを物語っている。


「本当に、ジークさんが好きなのね」


受付嬢の核心を突いた言葉に、ボンッ!とテイルは顔を真っ赤にした。


「なっ!?べ、別にそういうんじゃなくて・・・!ただ僕は、あの人の役に立ちたいだけ!!」


「あら、そうなの?」


慌てて否定するテイルだったが、余計に顔が赤くなっていく一方。その様子に、さらに周囲は微笑ましく見つめているのだった。


一部、良からぬ目で見ている輩もいたようだが。



昼間のギルドはとても賑わう。様々な冒険者が行き交う中、テイルはせっせと掃除をしていた。次のランク参戦試験はいつだっけ、次はもっと実技に力を入れないと。ジーク兄ちゃんはどうしているだろう、お腹減らしてないかな。今日の夕飯はどうしよう、なんて考えている。


ギルドからお使いを頼まれ、テイルは外に出た。いつも通りの人混みに押されつつ、彼は必死に街中を歩く。と、クエスト掲示板に貼られた真新しい紙に目をやった。



【魔王城への冒険同伴者、ランク無しに限って募集中!】


【見習い冒険者の君、冒険へ出られるチャンスだ!!】



魔王城、その言葉にテイルは心を躍らせる。


噂は聞いたことがある、魔王城。とある森のダンジョン最奥地にあり、魔物の中でもとりわけ強大な魔王が棲み着いている噂だ。以来何人もの冒険者が攻略を目指したが、誰1人として魔王らしき魔物は見つけられていない。ただただ廃墟のようなダンジョンだが、探せば探すほど発見がある。


「おっ、君も気になるかい?」


テイルに声をかけたのは、1人の魔法使い。どうやら彼が、この貼り紙を作ったらしい。


「ロマンがあるよね、魔王城!冒険ごとにフロアマップが更新されていくし、何より完全攻略できた冒険者は1人もいなくてさ。やっぱ最初の攻略者になるのは、冒険者の誰もが憧れるじゃないか!」


熱く語る彼に、興味を惹かれたテイルは尋ねた。


「み、見習い冒険者でも大丈夫なの?」


「あぁ、勿論。既に主戦力はいるからね。むしろ、まだクエストを受けられない見習い冒険者に、こうして冒険の経験を教えることを目的としてるんだ。まぁあわよくば、完全攻略したいなって話。


君みたいな見習い剣士も、大歓迎さ」


そうなんだ!とすっかり魔法使いと打ち解けたテイル。ランク参戦試験にも役立つ、憧れの剣士に近付く・・・。数々の謳い文句を並べられれば、テイルが二つ返事で引き受けるのは、当然の流れだった。


「いやぁ、嬉しいね。それじゃあ明日の朝に、クエスト出発口に集合だ。君だと分かるように、コレを付けるんだよ」


そう言って渡された、綺麗なフード。テイルはワクワクが止まらなかった。ようやく剣士として、冒険に出られるんだ!早速ジークに話そうとギルドに戻ると、何やら受付嬢が慌てている。


「えっ、急遽遠出ですか?ジークさん、お疲れ様です・・・」


聞けば日帰りで終わるはずだったジークのクエストが、ならず者集団の出現により妨害されたという。奴らを追っていくので、少なくとも1週間は戻れない、との報告を受けたらしい。やっぱり冒険者は大変だと思い、ジークの長期不在にしゅんと肩をすぼめたテイルだったが、すぐに気持ちを切り替えた。


ようやく、冒険に出られるんだ!ジークが帰ってきた頃には、一回り成長した自分を見てもらおう!そう思うと、いても立ってもいられない。テイルは1人で静かな部屋の中、冒険の準備を始める。


ふと目に入った、あの絵本。ペラリとめくれば、勇敢な猫の話が目に入る。


「こんな風に、格好良くなれたら。兄ちゃんとやっと、肩を並べられる。そうすれば、僕は・・・隣にいても、良いんだよね?」


エヘヘッ、と笑みがこぼれる。ずっと物語や夢として見ていたモノが現実になると、明るい気持ちで満たされていた。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中-1」は明日夜に投稿する予定です。

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