勉強
「当面の仕事内容を発表するね!」
「……」
昨日は全く寝れなかった……。あの後結局シーラが僕を離すことはなく、朝までずっと抱きつかれたままだった。一睡もできなかったから、瞼が重い。なのにシーラは、昨日は良く眠れたね、と目を輝かせて言ってくるし。とてもではないが、朝からこんなハイテンションについていける状態じゃないのだ。
「今日から一週間くらい、ライには勉強してもらう!」
「勉強……」
寝不足で辛いのにこの状態で勉強しろというのか。案外シーラは鬼なのかもしれない。
「先生は、レオナ!」
「おはようございます、シーラ。して、下着泥棒。昨日の夜、シーラに何かしましたか。正直に話してくだされば、命だけで許してあげましょう」
「何もしてませんよ!?」
正直に話しても命を取るというのは、いささか酷すぎるのではないだろうか。それにしても、先生がレオナ……、間違った情報を教えられないだろうか……。
「やっと終わった〜!」
「この一週間良く頑張ったね、ライ!」
「チッ、耐えましたか、かなり厳しくしたはずですが。次の機会があれば必ず」
何やら不安な言葉が聞こえた気がするけど、今の僕は達成感に満ち満ちているので、特に気にしない。この一週間、都市長でシーラが仕事をこなしているのを片目に、レオナにみっちりと言語学や数学から始まり地理や歴史、果ては経済学まで教えられた。
いろいろ教わったのだが、一週間で習ったとは思えないほど莫大な内容なので、ここでは割愛し、要所要所で説明していくとしよう。
「じゃあ、明日からはライの強化特訓だね!」
「はいっ!」
返事をする声に力が入る。それもそのはず、なぜなら長年の悩みだった無能力を解決できるかもしれないからだ。
順を追って説明しよう、それは勉強週間が始まって数日経った時のことだった。
「そういえば、なんでシーラやレオナさんはそんなに強いんですか?」
僕はふとした疑問を口にする。幾ら能力があると言っても、身体強化系の能力でないと流石に素の身体能力では男の僕ならいい勝負ができてもおかしくないと思ったからだ。何かトリックがあるのだろうか。
「どうします? シーラ」
「ライになら言っていいよ」
レオナは何やらシーラに指示を仰ぐ。重要な機密事項なのかもしれないが、シーラは軽く了承する。
「ライさん、今から話すことは、絶対に口外してはなりません。シーラがお許しになったから、話すのですよ。シーラの顔に泥を塗りたくなかったら、死んでも口を割らないでください」
ちなみに、レオナは仕事モードの時は僕のことを下着泥棒とは呼ばない。そこら辺の切り替えはキッチリしているようだ。その仕事モードの時に、死んでもなどの言葉が出てくるということは、本当に重要なことなのだろう。
「私たちの力がこんなにも強いのは、死獣を倒した時に起こる身体能力強化の恩恵です」
「死獣……」
「詳しく説明します。ライさんには馴染みがないかもしれませんが、私たちは能力を使う時に魔力を消費しているのです。まあ、一部例外はいますが。そして、生命とはこの魔力の塊なのです。それが著しく表れているのが死獣です。死獣は我々とは比べ物にならないほどの魔力をその身に宿している。生命を動かすほど大きな力が過剰なまでに込められたその身には、あり得ないほどの力が宿る。だから、死獣は私たちより遥かに強力なわけです。そしてその生命の活動が終わる時、余った魔力が一気に放出されるのです。その放出された魔力に当ると、その魔力の一部が体に馴染む、つまり魔力を取り込めるわけです。そうやって、沢山の死獣を倒し、魔力を取り込むことで、私たちは強くなっているわけです」
少し整理しよう。魔力=力という考え方でいいだろう。死獣はたくさんの力を持っていて、その死獣を倒すとその力の一部を貰える。沢山倒して、沢山力を貰ったら強くなれる、といった感じか。
「でも、なんでこれを秘密にすてるの? みんなが強くなるのはいいことだと思うけど」
「この方法で力を得るのは、最初の一歩が難しいのです。戦闘に不向きな能力の人では、死獣を倒すのは不可能と言ってもいいですから。不用意にこの話をすると、勘違いした者たちが、沢山死ぬことになります」
「なるほど」
ごもっともだ、変に噂が広がって、楽に強くなれると思った人たちが、無闇に死獣に挑んでしまっては大変だ。生身では死獣に勝てないというのは、ライは身に染みて理解している。
「そう! ライも他の人に言っちゃダメだよ!」
さっきまで、机で書類と向き合っていた、シーラがいつの間にか横にいた。
「それで、ここからが大事なんだけど」
「まだ何かあるの?」
「勉強週間が終わったら、この身体能力強化の法則を使って、ライの強化週間に入ります!」
そう、つまり明日からどうやってかは知らないが、死獣を倒して、無能力でも戦えるように身体能力を底上げするようだ。
無能力と謗られる日々も、終わりが近づいているのかもしれない。もっとも、最近はそうやって謗られることも無くなり、代わりに下着泥棒と言われるようになったのだが。
ちなみに魔力の恩恵は年齢にも働くようで、シーラは僕と同じくらいの年齢の幼い見た目をして、僕の何十倍もの年齢らしい。レオナはかなり大人びて見えるが、シーラより年下らしい。どちらも僕から見たら、遥かに年上なのに変わりはない。