狼型
「ライ! は大丈夫そう……って、狼型!?」
獅子型死獣を切断、爆散させた後、ライのもとへ走って向かうシーラが目にしたものは、死獣と戦うライ。安否確認ができ安心するものの、その死獣は熊型ではなく、狼型。ランクとしては、熊型より一つ上。何型かによって強さが大きく変わる死獣にとって、その違いは大きなもの。熊型を倒せるかどうかというライには、明らかに荷が重い相手。
そのライを見つめている、レオナを木の陰に発見し、駆け寄る。
「何してるのレオナ! 狼型だよ! 早く助けにいくよ! 確かに、レオナはライが嫌いかもしれないけど……」
「分かってますよ。それにその誤解は解けたはず……。まあいいです。それよりシーラ。ちゃんとライの戦いっぷりを見てあげてください」
「レオナ、今はそんなこと言ってる場合じゃ……」
レオナに言われ、頭だけ回転させてライの方を向くシーラ。その目には、ライと狼型の戦闘が映る。蹂躙ではなく、戦闘。双方の攻防は、一方的なものではなく、先頭の体裁を保っていた。
心が動転していたのも落ち着き、状況が頭に入り始める。しかし、理解はできない。先ほど述べたように、狼型という死獣を一人で相手に取るのは、ライには荷が重い。籠手だけを使って戦うならまだ分かるが、ライはまだ拙いものの、両手両脚を使って死獣と接近戦を行なっている。
狼型死獣と殴り合えるほどのスピードとパワー。熊型死獣を倒し、魔力により少しの身体強化が施されたはずだが、それを鑑みても明らかにおかしな成長率。シーラは頭を抱える。
「まあ、ライが頑張ってるならそれでいいや。頑張れー!」
熟考の結果、シーラは考えることをやめた。
縦横無尽に駆け回る死獣を必死に目で追い、そのスピードについていく。もう何度目になるか分からない交錯。数をこなせば嫌でも慣れる。今やライは、死獣の突撃を防御反撃するだけにとどまらず、自分から死獣を追跡、追撃していた。
初めは、あくまでも迎え撃つ、という教わった戦闘方法を崩さずにいたが、それも今では、対等な身体能力を持つ死獣と戦うのに適した戦闘方法へと変化してきている。それでも、所詮は自己流のもの、自分でもまだまだ下手だと理解している。現に未だ右手を当てられない。死獣は執拗に右手を警戒し、衝撃を溜めていない時でさえ、優先的に回避してくる。
「ほんっとに、よく避ける!」
右手を振り抜いた先にある大木が爆散。絶え間なく攻防が繰り広げられるなか、籠手には常に溜めてある衝撃は常に新しい衝撃に更新されていく。その結果、倍率も高倍率に保たれ、高い破壊力を生んでいる。当てさえすれば、即死の攻撃、それを当てるために試行錯誤を繰り返す。
(あるとすればこの三つ)
①当たるまで攻撃し続ける。一番シンプルかつ脳筋的な、解決策とも言えぬ解決策。相手のミスを待つ、という点で相手任せなので、成功率は高いとは言えない。こちらの体力が先に尽きる可能性だってある。
②相手の意識外から、必中の攻撃を行う。理想的な解決策だが、これが出来たらとっくにやっている。死獣の目を掻い潜って攻撃を仕掛けるのは、かなり難しい。スピードでは五分五分か、三次元機動のできる死獣の方が有利だ。奇襲なんて、出来ないと高を括った方がいいかもしれない。
③相手を捕まえて攻撃する。これも、難しいだろう。死獣は常に移動し続けており、その動きは予測不能。攻撃を当てるだけならまだしも、捕らえるとなると成功確率はグンと下がる。
「この中なら……」
右拳を構え、放つ。軽く放った、必中の一手でもなければ、なんの奇襲にもならないただの殴打。これを軽やかに横に躱す死獣、その動きに危なっかしい箇所はなく、幾ら打っても当たりそうにない。
しかし、この攻撃の真意は攻撃を当てるところにない。死獣が横、ライから見て左に避ける先に待ち構えるは、ライの左手。縦横無尽な死獣の行動も回避の時は、読むことができる。
(そこを狙って、脚を掴むっ!)
左手に脚が触れたと思った瞬間、思いっきり力を入れて掴む。突然の減速に、死獣は一瞬の硬直。直ぐに死獣が離れようと必死にもがくが、決して左手は離さない。右手を構え、左手で捕まえている死獣に向けると、死獣は逃げようと掴んでいる左手を脚で叩く。それが死獣の敗因。捕まえるために使った籠手の衝撃を再充填、そのまま右手を叩きつける。
爆音に合わせて、目の前で破裂する死獣。生死の判別は一目瞭然、ライは気が抜けてその場に座り込む。
「疲れた〜」
「おつかれ〜、ライ! 凄かったよ!」
「なぜこのような力を、私たちが目を離した隙に何が」
背後から、この数週間で聞き慣れた声と、軽い衝撃。シーラが抱きついてきて、頬擦りされる。相変わらずのスキンシップにどぎまぎしながら、体勢を正す。レオナさんは何やらぶつぶつ呟いている。見ていたのなら、助けてくれたらよかったのに、と思ってしまうライ。後で、シーラから話を聞いて、自分が本当に死にそうだったことを悟ることになる。
ただ、今はそんなことを考えずに、死獣を倒し達成感に入り浸るのだった。