観戦組
時間はライが熊型と戦い始めた頃まで遡る。シーラとレオナは、戦いの邪魔にならない、直ぐに助けに入れる絶妙な距離を保って観戦していた。
「この試練、シーラはどうなると思いますか?」
「私としては勝つって断言したいし、信じてるんだけど、熊型から上の死獣は知能が発達してるからね。ライは遠距離攻撃を持ってないし、自分から仕掛けにも行けないから、そこを突かれたら厳しいかなぁ」
死獣の知能は、それほど発達している訳ではない。相手に効いた攻撃を続け、防がれたら違う方法で攻撃するという戦法を好んでいる。戦術を組み立てることは出来ず、同じことを繰り返すからこそ、逆に利用されることもある。
しかし、ライにとっては効果覿面。ライも戦い方を一つしか知らないため、それを潰されるような攻め方をされ、更に続けられたらたまったものではない。防戦一方の消耗戦で力尽きてしまうだろう。
「始まりそうですね」
「どうなるでしょうか?」
ライの戦闘も終幕に近づく、死獣の投擲による攻撃が激化してくる。シーラの予想通り、遠距離戦になるとライは手も足も出ず、消耗を強いられている。もしもの時、助けに入れるよう、戦闘状況を注視するその視線を遮るように、黒い影が2つ落ちてくる。
「っ!」
「死獣……しかも、獅子型!?」
獅子型は熊型より何段階も上のランクに属する強い死獣だ。本来、ここよりもっと標高の高い地に棲息する死獣で、こんな麓まで降りてくるのはおかしい。
熟練の冒険者がようやく勝てるような死獣が都市にまで進出したら、都市が崩壊する。そんな死獣が二匹。闇色に畝る鬣を見せびらかすように立ち塞がる。
「なんでこんなところに?」
「分かりません。が、ここに現れてくれたのは幸いですね。瞬殺してあげましょう」
二人は武器を構える。レオナは碧い宝石を先端に嵌め、薄らと青みがかった金属でできた杖を、シーラはどこからともなく取り出したガラスのような透明感を持った一対の双剣を。
交戦の意を表する二人は、都市長、副都市長だ。ライのことが心配ではあるが、一人のために都市を危険に晒すことは出来ない。幸い、二人とも実力者、それも世界でも上位のトップランカーだ。この程度、倒すことなどわけはない。
「行くよっ! レオナ!」
「はい! フロストダウン」
死獣の身体に、白い霜が張り付き固まる。レオナの能力、氷雪系魔法の一つ、相手の動きを抑えるものだ。ギシギシと関節を鳴らす死獣に、双剣を携えたシーラが接近。背景が透過する双剣を振り上げる。
これに対し、死獣は身体から火を噴き上げることで応戦。こべりつく霜を根こそぎ溶かし、自由になった身体で斬撃を回避。
「っ、やはり相性が悪い」
死獣は強い型のものだと、能力を持っている型もいる。獅子型のように、魔法のようなものを使う型もいれば、ピンチになれば身体能力が上がる型などもいる。炎の能力を持った死獣は、レオナにとっては天敵なのだ。
ドガァァン!
その時、死獣の奥の方、ライが熊型と戦っている方向から、耳を劈く破砕音が聞こえてくる。もしかしなくても、ライと熊型の戦闘で生じた音。状況が動いたことが分かる。
「っ! 心配です。早く行かなければ!」
「分かってるよ、さっさと倒すよ!」
魔法を唱え、剣を振るい、目の前に立ち塞がる死獣を屠ろうとするも、どの攻撃も躱されてしまう。なぜか、死獣から攻勢に出ることはなく、守りを固めている。しかし、ライの方に行こうと、死獣達を通り抜けようとすると、二匹同時に襲いかかり、確実に止めにくる。
「面倒臭い! レオナだけで行っちゃって! サポートはする」
「まぁ、私の能力あんまり役に立っていませんのでね」
愚痴を漏らしながら前に出る。そのまま、死獣の横を走り抜け、その途中で一匹を杖で殴打する。怯んだ死獣は、通行を阻止するのが一歩遅れる。
しかし、もう一匹はレオナを追跡、案の定止めにきた。
これには、シーラが対応。ロングレンジにいる死獣目掛けて双剣のうち、片方を投擲、死獣の背後に猛スピードで迫る。
死獣は背後に目でもあるかのようにこれを回避、レオナに追いつき、爪を立てようとする。その横っ腹をシーラの双剣が切り裂く。
「ガッ……ァ」
死獣が、なんで、とでも言いたげな目をシーラに向ける。さっきまで、剣を投擲でもしない限り、攻撃を届けることができない位置にいたはずなのに、と。
種は簡単。シーラの持っている双剣が、能力によって生み出された神器だからだ。双剣の持つ異能は、対となる片割れの場所に瞬時に移動するというもの。投擲された片方の剣の場所に転移したシーラが、死獣を掻っ切ったわけだ。
「レオナ! 行って!」
「いつ見ても反則、世界は不平等ですね」
またも愚痴を漏らしながら、背を向けライの方へと駆け出していく。ライの安否は気になるところだが、まずは目の前の死獣に集中する。一対一では、負けない!
シーラは、双剣の片方を地面に突き刺し、一本の剣で死獣に肉薄、鬣が発する熱を感じながら剣戟を交わす。
死獣は灼熱を纏って応戦。皮膚に触れれば、瞬時に焼け爛れるほどの高音での攻撃を繰り出す。
シーラは器用にも剣一本で全てを受けきる。死獣は次なる手を打つために、息を大きく吸い、体の中で温度を上げていく。焔の吐息の構え。死獣の様子を、気にも介さずシーラはまたどこかからナイフを取り出す。次の瞬間、シーラのいた位置も含め、ナイフを中心に大爆発が起きた。
自爆攻撃を予想していなかった死獣はこれに対抗する手段を持たず、爆散。シーラはというと、地面に突き刺して置いた双剣の異能で爆発範囲外に逃れていた。そして、この大爆発も神器の異能。ナイフを回収したシーラは、レオナの後を追う。
「ライ、大丈夫かな」