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死神の世界  作者: surpertank
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能力覚醒

 目の前でゆっくりとこちらに向かってくる死獣の爪。死が直前に近付き、生き残ろうとする本能で脳が高速回転、それにより周りの出来事が遅々に進む。俗に言う、ゾーンに入った状態。

 しかし、遅く見えてはいても自分の体が高速で動くわけではない。緩遅に進む爪は、徐々に、しかし着実に死が近づいていることを示している。必死に左手を動かそうとするも、手の速度は微々たるもの。爪を防ぐには、圧倒的に速さが足りない。

 鼻を刺すのは濃厚な死の(かおり)。死にかけるのは、シーラに助けてもらった時と合わせて2回目。もうあの時のように、シーラによる救済はない。ここにいるのは己のみ、なんとかできるのも己のみ。


(死にたくない……!)


 引き伸ばされた時間の中で、脳が(とな)える(おも)いはただ一つ。その念いは身体の、心の奥底に眠るナニカを呼び覚ます。

 死獣が身に宿す魔力、それがまるで紫紺の濃霧のように見える。そして、自分の身に宿る魔力も、純白の霧として視認できる。しかし、その霧は薄く、軽い風で吹き飛んでしまいそうなほどに鮮少で、今にも死獣の魔力に飲み込まれてしまいそうだ。

 その時、紺と白の鬩ぎ合いに変化が現れる。紺と白がぶつかり合うその境界線、そこで双方の色が()い交ぜたかと思えば、白の霧が増幅。先程までの、風に吹かれ霧散してしまうかのような霧ではなく、死獣と同等程度の濃さを得る。


(っ!?)


 自身の変化に戸惑うのも瞬刻、視覚情報から推測し、何が起こったのかを理解する。火事場の馬鹿力か、それとも僕の秘めたる能力か。なんにせよ、今可視化されているこの霧が戦闘力に比例するものと考えると、僕はすごく強くなったことになる。

 再び脳から左腕に信号を送る。視界の際で遅々と動くその速度は、極限状態にある思考の中では遅いまま。ただ、死獣の攻撃を防ぐには十分だ。


ガギンッ!!


 爪と左腕の交錯を境に、思考の加速も途切れる。時間にして一瞬、だがこの一瞬は僕に途轍もない変化をもたらした。防御不能かのように思われた一撃、それを防いだ事実は、この一瞬で僕がどうにかして新たな力を手に入れたことを裏付けている。

 高速思考の解除によって、可視化されていた霧も見えなくなり、死獣の顔がよく見える。死獣はこちらを憎々しそうに睨んで威嚇している。とどめを確信して放った一撃を、易々と止められた死獣はご立腹のようだ。すぐに背を向け、森の中に消える。さっきまでと同じ攻撃パターン、けれど僕はさっきまでとは違う、敏捷性、膂力だけでなく、聴力、視力も上昇。聞こえていなかった死獣の樹を蹴る音を捉える。


「聞こえてるよっ!」


 音を頼りに次の攻撃箇所を特定、敏捷性の上昇により、余裕を持って防御を成功させる。身を翻し、後退する死獣にさらに追撃を浴びせようと追跡。籠手という神器の性質上、素の身体能力で劣るライでは追いつけなかったはずの死獣の速度。そのスピードと同等以上の速さでライは死獣を追う。

 自分から仕掛けることを教わっていない肉弾戦。死獣に肉薄したライは大振りの右腕を叩きつけようとするも、死獣はこれを回避。激しい爆音と共に、運悪くそこにあった木が爆散。木片が吹き荒れる。ライの初めての反撃、異様な攻撃性に死獣は一時の間硬直する。その隙にライは己の()()を叩き込む。攻撃的な異能を持たない左手、死獣の強靭な身体には傷どころか、痒く思わせることすらできなかったはずのその攻撃は、死獣を蹌踉めかせる。


「はあぁっ!」


 左手の攻撃を起点とし、右手、左手時には脚も使って乱撃を繰りだす。荒削りで、武の欠片もないラッシュ。攻撃を受けていないため、籠手に衝撃が溜まらず決定打を出すに至らない。

 死獣も体制を立て直し、防戦一方の状態から抜け出す。戦闘を行いながら、少しずつ、時には相手の攻撃すらも利用して、ライを誘導するは森の中、己の領域(テリトリー)へと敵を招待する。

 森の中に入ったことにより、死獣は地の利を生かし樹の幹を蹴り、枝を蹴り、三次元戦闘を行う。右、左、背後、足元、頭上と絶え間なく繰り出される飽和攻撃は、左手一本でカバーできる範囲を超えている。だからこそ、真っ向から殴り合う。背後の攻撃を左手で防御、転瞬、目前に跳んできた死獣目掛けて右腕を振るう。これにたまらず死獣は回避行動。この死獣も、熊型と同様、右手を避けるようになってしまった。

 目まぐるしく動く戦場でミスは付き物。背後からの攻撃に対応できず、爪が皮膚を切り裂く。


「いった! ……てほどじゃない?」


 爪は皮膚を薄く裂くにとどまる。防御力も異常なほどに上昇している。今まで、攻撃を受けたら終わり、どう防ぐかの勝負ばかりだったが、もしミスしても大丈夫と思うと気が楽だ。

 しかし、少ないながらもダメージは入っている。この程度の傷でも、何十回と受ければ大きな致命傷となりえる。それに比べて、こちらの攻撃は死獣を怯ませる程度だ。やはり、右手の攻撃による、早期決着をつけたいところだ。


「まだまだぁ!」


 なんにせよ、接戦に持ち込めた。ここからはこれまでの死獣と同じように倒すだけだ。

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